動きだした七不思議
9,動きだした七不思議
教室では、昨日の話でもちきりだった。話題の中心人物たちは、ややうんざりとそれらの話を聞き流す。
「ちょっと、しずく。・・・で、実際はどうなの?」
「どうって、なにが?」
「・・・夜中の12時まで、学校にいたんでしょ?」
「知らないうちにね」
「・・・七不思議にあった?」
「あったわよ?・・・それがなに?」
知らず知らずのうちに、つっけんどんな態度になってしまう。
「しずく、おこってる?」
「・・・もう、はんぱなく」
「・・・うあ、じゃあ、聞くのやめとくわ」
「そうしてくれるとうれしいな。・・・あたし、ねむいから、機嫌悪いの」
友人はコクコクとうなずいて、自分の席にもどる。
ふう、とため息をつき、しずくは窓の外を見る。そのときだった。上から下へと黒い物体が落ちていくのが見える。
「・・・え」
思わず声が出る。あわてて周りを見ると、同じように固まっているクラスメイトが数人いる。
「・・・ひ、人、だった?・・・今の」
「ちょ、ちょっと・・・!」
ガタガタと立ち上がり、何人かが窓を開け、下をのぞく。
「うわ!」
「きゃあああ!!」
クラスが騒然となる。見えたのが自分だけでないことに、しずくは現実だと確信して、教室の内線電話にとびつく。職員室にかけると、ちょうど担任がでる。
「せ、先生!!今!人が上から落ちてきて!!」
『落ち着きなさい!・・・せ、先生たちも見たから!・・・今、何人かの先生が見に行ったからっ!』
少しも落ち着いてない声で、そう返されて、しずくは、クラスメイトたちに伝える。そして、先生たちが来たかどうかを確認するために、もう一度下をのぞきこんで、絶句する。
「・・・ない」
ぼそり、とつぶやく。
「・・・ないって何がないの、しずくちゃん?」
和弥がしずくの横に来て、同じように下をのぞきこんで、深いため息をついた。
「ああ・・・死体が、なくなった、んだね」
ざわざわと教室に動揺が広がる。何人もがのぞきこんで、あるはずのものがなくなったコトを確認する。
「うそだろ?」
「これって、あれ?・・・集団幻覚ってやつ?」
「ばか言え!先生たちまで見たんだぞ!・・・隣のクラスだって騒いでたし、幻覚なわけねーだろ!」
女子が信じられない様子でつぶやくと、男子がそれに言い返す。
「かず・・・」
「うん。・・・もしかしたら、まだ、終わってないのかもしれない。・・・一貴くんが言ってたように・・・七不思議から逃げられない・・・。あの時、僕らが見たのは、たくさんある七不思議の中のほんの一部なのかもしれないね」
「・・・確か、七つって言うけど、たくさんあるっていう意味であって、七つしかないってわけじゃないんだって、誰かも言ってた気がするわ」
しずくのつぶやきに、和弥もうなずく。
「かず・・・こっちは、待ってるしかできないのかな?」
「しずくちゃん?」
「こっちから、しかけられないのかな?」
しずくに真剣な目をむけられて、和弥は考え込む。
「・・・とりあえず、屋上、行ってみる?・・・上から落ちてきたってことは、上になにかあるっていう意味なのかもしれないし」
「うん!」
クラスメイトがざわつく中で、しずくと和弥は、教室をぬけだす。向かう先は、屋上。
「あ、おい!どこにいくんだ!!」
途中、担任とすれちがうと、しずくは大声でさけぶ。
「屋上にいってきます!!」
「・・・おい!キケンだ!もどってきなさい!!」
担任の言葉をききながし、しずくと和弥は、ひたすら屋上へとむかう。
魔の13階段をかけあがり、屋上の扉を開く。
ばん!
「・・・何も・・・ない?」
しずくがつぶやく。
「いや・・・いるよ。・・・かくれてないで、出ておいでよ」
和弥が空をにらむ。
― ふふふ・・・
― くすくすくす・・・
「・・・女・・・の子?」
しずくがぼうぜんとつぶやく。
「・・・君らが、この怪奇現象の元凶か?」
― そう。・・・だって、あんなもので、七不思議が消えたなんて、思われたくないもの。
― ふふふ・・・今度こそ、七不思議の餌食になってもらうわ。
「・・・っ!ふっざけんじゃないわよ!・・・なんで、学校中をまきこんでこんなことするの!?」
しずくの怒りが頂点に達する。
― つまらないんだもの。
― 一貴も消えちゃったし。
「へぇ、そういうこと?・・・一貴くんをさそいこんだのは、君たちなんだね?」
冷静な和弥の言葉に、二人の少女は、楽しそうに笑う。
― ふふ・・・頭のいい人は、好きよ?
― でも、いただけないのは、あなたは、霊をあやつる力をもってること。
「・・・前回で証明済み、だものね。・・・でも、僕だって、昨日の一件で自信がついたんだ。・・・信じることは最大の力になる。・・・僕は、自分の力を信じる。・・・だから、君たちには負けないよ!」
少女たちを見すえて、和弥はきっぱりと言ってのける。
「・・・かず、すごい・・・」
しずくは状況を忘れて、和弥の勇姿に感動してしまう。
― ますます、いただけない。
― まずは、やっかいなあなたたちから、つぶしてあげる!!!
少女たちはニヤリ、と笑い、姿を消す。
「かず!」
「・・・大丈夫。・・・僕から、はなれないでね」
「・・・う、うん」
しずくは、和弥のそばにより、少女たちからの攻撃を待つ。
カタカタカタ・・・ガタガタガタ・・・ガタガタガタガタガタッ
とつぜん、学校自体がゆれはじめる。屋上から見るに、スイスイと車が走っているから、町のほうはゆれていないことがわかる。
「ポルターガイスト?」
しずくでさえわかる現象だ。
「うん。・・・そうみたいだ」
和弥はうなずき、しずくを引きよせる。
学校のゆれは止まらない。歩くのさえむずかしいこの場所からはなれるのは無理だと思い、おとなしく二人はそのゆれが止まるのをまつことにする。
「ずっと学校をゆらし続ける力なんて、あの二人にはないと思うし」
和弥はそういって、その場にすわりこむ。
「こうなったら、どっちが先にあきらめるかが勝負になりそうね」
「たしかに。・・・他の人たちは大丈夫かな・・・」
「・・・先生たちもついてるし、平気でしょ。・・・それに、この勝負は、あたしたちとあいつらの勝負って感じみたいだし」
しずくの言うとおり、少女たちはまず、自分たちをつぶしに来るはずだ。そう考えた和弥は、うん、とうなずき、あたりを注意深く見わたす。
「・・・魔の13階段・・・。僕の呼びかけに答えてくれればいいけど」
ポツリ、と言った和弥を、しずくはハッと見上げる。
「・・・彼女は、最初から最後まで、僕たちの味方だったから」
「・・・かずを助けてあげてって・・・一貴くんのことだけじゃなかったの?」
「・・・ちがうよ。・・・彼女は、僕に力があることを教えてくれた、七不思議だったんだ。・・・七不思議の中でも、僕たちに友好的なのもいるんだよ」
和弥はにこりと笑い、屋上の扉まではって進み、そっとふれる。
「・・・僕の呼びかけに応えて・・・」