七不思議のゆくえ
8,七不思議のゆくえ
帰り着いた二人をまっていたのは、警察と鬼のような顔をした両親たちだった。
さんざん両親におこられて、ふとんの中にもぐりこんだのは、次の日の朝も近い時間だった。しずくは、完全に寝入ることはできず、けたたましいめざまし時計の音にむくりと起きあがった。
「・・・ねむい」
不機嫌なまま、リビングに行くと、不思議な光景がそこにあった。
「・・・かず?・・・なんでいんの?」
「おはよう、しずくちゃん。・・・なんでって、おむかえだよ」
「おはよ、しずく。・・・朝ごはん食べて、さっさと学校に行きなさい。・・・和弥くんだって、こうやってむかえに来てくれてるんだから」
母親にまでそう言われて、しずくは、混乱する。
「え・・・え?」
「やだな、そんなにおどろかないでよ。・・・あんなコトあった後だし、心配だからむかえに行けって親に言われたんだよ」
くすり、と笑って、和弥が言うと、ようやく、しずくにもこの状況の意味がわかる。
「あ、そーゆーコトね。・・・朝っぱらから出やしないわよ。・・・というか、お母さんたちは信じてなかったんじゃないの?」
「実際に見てないんだもの。信じられるわけないでしょ?・・・でも、あんたたちは、そういうのでウソをついたコトがないから、どんなことがあったにせよ、怖い思いをしたのは間違いないんでしょうしね」
冷静に答える母親に、しずくは感心してしまう。
「へぇ・・・あたしだったら、信じないな。・・・まあ、体験しちゃったわけだし、これからはそういうのも真剣に聞いてあげよ」
しずくは朝食のトーストをかじり、牛乳をのんで、ハムエッグを口の中に放りこむ。
「ゆっくり食べなよ、しずくちゃん」
「ほうわひはないはよ。はふははっへふんはほん。(そうはいかないわよ。かずがまってるんだもん)」
ほおばったままで話すので、何を話しているのかがわからないが、和弥には通じたようで、苦笑いをうかべて、肩をすくめる。
「・・・食べるか、話すか、どっちかにしなよ」
「(ごくん)・・・話しかけたのは、そっちでしょぉ?」
しずくはそう言いかえすと、また、口の中に朝食をつめこんでいく。
「(ぐっ!)」
「しずくちゃん!?・・・お、おばさん!水!水!!」
のどをつまらせて、バンバンとテーブルをたたくしずくに、和弥は水の入ったコップを渡す。
「っぷは!・・・あー、死ぬかと思った」
「・・・だから、ゆっくり食べなって言ったのに」
あきれた様子で和弥が言う。しずくはむっとしたようにしているが、正論なので何も言えないらしい。今度はゆっくりと朝食を口に運びながら、しずくはちらり、と和弥を見る。
昨日一晩で、ずいぶんと大人びて見えるようになったと思う。いっしょに恐怖体験をすると、そのドキドキを恋とかんちがいしてしまうというが、まさに、それかもしれないとしずくは考える。
「(つり橋効果ってヤツ?・・・でも、ま、あの時のかずは、かっこよかったもんね)」
一人で納得していると、ん?と和弥がこちらをふりむく。
「なんか言った?」
「ううん?なーんにも!(あ、あぶない、あぶない)」
朝食を終え、学校にむかう。なんとなく話しかけ辛くて、黙ったまま並んで歩く。
「・・・」
「・・・」
じっと下を見つめながら歩くしずくに、和弥はちらり、と視線をむける。
「・・・ねえ、しずくちゃん」
「・・・なに?」
「・・・七不思議を全部体験してみて、思ったんだけど」
「うん」
「・・・僕が知ってるものと、少しずれがあったんだよね」
「・・・うん。あたしも」
二人はおもわず視線をあわせ、息をのむ。
「・・・まあ、七不思議の元凶は消えたんだし、もう大丈夫だよね?ははは・・・」
「そうよ!・・・もう、かずったら、心配性なんだから。あはは」
二人は笑いあうが、その笑いは乾いたものとなる。
「・・・大丈夫。なにがあっても、僕がしずくちゃんを守るからね」
「~っ・・・な、なに言ってんのよ!はずかしいヤツ!」
真っ赤になった顔を押さえて、しずくは走り出す。
「あ、まってよ!しずくちゃん!!」
追いかける先には、学校の校門。勉強という日常と七不思議という非日常がまじりあった空間。
「(大丈夫よ!七不思議なんてものがそうホイホイと出てくるわけないんだから!)」
自分に言い聞かせ、しずくは校門をくぐる。追いついた和弥がしずくの手をつかむ。
「!・・・な、なに?」
「・・・一人で、行かないで。・・・心配なんだ。だから・・・」
「・・・うん」
真剣な顔でいう和弥に気圧されて、こくり、とうなずく。
「・・・教室に行こ?」
「うん」
二人はつかず、はなれず、並んで歩く。これが、今の二人のベストな距離。
― みぃつけた。
― みつけちゃった。
― クスクスクスクス・・・
七不思議が、動きだす。