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誰そ彼  作者: 冬華白輝
8/11

七不思議のゆくえ


8,七不思議のゆくえ


 帰り着いた二人をまっていたのは、警察と鬼のような顔をした両親たちだった。


 さんざん両親におこられて、ふとんの中にもぐりこんだのは、次の日の朝も近い時間だった。しずくは、完全に寝入(ねい)ることはできず、けたたましいめざまし時計の音にむくりと起きあがった。


「・・・ねむい」


 不機嫌(ふきげん)なまま、リビングに行くと、不思議な光景がそこにあった。


「・・・かず?・・・なんでいんの?」


「おはよう、しずくちゃん。・・・なんでって、おむかえだよ」


「おはよ、しずく。・・・朝ごはん食べて、さっさと学校に行きなさい。・・・和弥くんだって、こうやってむかえに来てくれてるんだから」


 母親にまでそう言われて、しずくは、混乱(こんらん)する。


「え・・・え?」


「やだな、そんなにおどろかないでよ。・・・あんなコトあった後だし、心配だからむかえに行けって親に言われたんだよ」


 くすり、と笑って、和弥が言うと、ようやく、しずくにもこの状況の意味がわかる。


「あ、そーゆーコトね。・・・朝っぱらから出やしないわよ。・・・というか、お母さんたちは信じてなかったんじゃないの?」


「実際に見てないんだもの。信じられるわけないでしょ?・・・でも、あんたたちは、そういうのでウソをついたコトがないから、どんなことがあったにせよ、怖い思いをしたのは間違いないんでしょうしね」


 冷静に答える母親に、しずくは感心してしまう。


「へぇ・・・あたしだったら、信じないな。・・・まあ、体験しちゃったわけだし、これからはそういうのも真剣に聞いてあげよ」


 しずくは朝食のトーストをかじり、牛乳をのんで、ハムエッグを口の中に放りこむ。


「ゆっくり食べなよ、しずくちゃん」


「ほうわひはないはよ。はふははっへふんはほん。(そうはいかないわよ。かずがまってるんだもん)」


 ほおばったままで話すので、何を話しているのかがわからないが、和弥には通じたようで、苦笑いをうかべて、肩をすくめる。


「・・・食べるか、話すか、どっちかにしなよ」


「(ごくん)・・・話しかけたのは、そっちでしょぉ?」


 しずくはそう言いかえすと、また、口の中に朝食をつめこんでいく。


「(ぐっ!)」


「しずくちゃん!?・・・お、おばさん!水!水!!」


 のどをつまらせて、バンバンとテーブルをたたくしずくに、和弥は水の入ったコップを渡す。


「っぷは!・・・あー、死ぬかと思った」


「・・・だから、ゆっくり食べなって言ったのに」


 あきれた様子で和弥が言う。しずくはむっとしたようにしているが、正論なので何も言えないらしい。今度はゆっくりと朝食を口に運びながら、しずくはちらり、と和弥を見る。


 昨日一晩で、ずいぶんと大人びて見えるようになったと思う。いっしょに恐怖体験をすると、そのドキドキを恋とかんちがいしてしまうというが、まさに、それかもしれないとしずくは考える。


「(つり橋効果ってヤツ?・・・でも、ま、あの時のかずは、かっこよかったもんね)」


 一人で納得(なっとく)していると、ん?と和弥がこちらをふりむく。


「なんか言った?」


「ううん?なーんにも!(あ、あぶない、あぶない)」




 朝食を終え、学校にむかう。なんとなく話しかけ辛くて、黙ったまま並んで歩く。


「・・・」


「・・・」


 じっと下を見つめながら歩くしずくに、和弥はちらり、と視線をむける。


「・・・ねえ、しずくちゃん」


「・・・なに?」


「・・・七不思議を全部体験してみて、思ったんだけど」


「うん」


「・・・僕が知ってるものと、少しずれがあったんだよね」


「・・・うん。あたしも」


 二人はおもわず視線をあわせ、息をのむ。


「・・・まあ、七不思議の元凶は消えたんだし、もう大丈夫だよね?ははは・・・」


「そうよ!・・・もう、かずったら、心配性なんだから。あはは」


 二人は笑いあうが、その笑いは乾いたものとなる。


「・・・大丈夫。なにがあっても、僕がしずくちゃんを守るからね」


「~っ・・・な、なに言ってんのよ!はずかしいヤツ!」


 真っ赤になった顔を押さえて、しずくは走り出す。


「あ、まってよ!しずくちゃん!!」


 追いかける先には、学校の校門。勉強という日常と七不思議という非日常がまじりあった空間。


「(大丈夫よ!七不思議なんてものがそうホイホイと出てくるわけないんだから!)」


 自分に言い聞かせ、しずくは校門をくぐる。追いついた和弥がしずくの手をつかむ。


「!・・・な、なに?」


「・・・一人で、行かないで。・・・心配なんだ。だから・・・」


「・・・うん」


 真剣な顔でいう和弥に気圧(けお)されて、こくり、とうなずく。


「・・・教室に行こ?」


「うん」


 二人はつかず、はなれず、並んで歩く。これが、今の二人のベストな距離(きょり)





― みぃつけた。


― みつけちゃった。


― クスクスクスクス・・・


 七不思議が、動きだす。


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