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誰そ彼  作者: 冬華白輝
7/11

鏡にうつる亡霊


7,鏡にうつる亡霊(ぼうれい)


『ねえ、しずくちゃん』


『何よ?』


『あのね、黄昏(たそがれ)ってね、昔は、誰そ彼って書いてたんだって。それはね、街灯(がいとう)がなかった時代は、となりにいる人でさえ顔がよく見えなくなる時間であることを指しているからなんだけど、今じゃ、使われてないのはどうしてなのかな?』


 ことり、と首をかしげて、かずが真剣(しんけん)に聞いてくるので、しずくは小さく溜息(ためいき)をついた。


『さっき、あんた自身が言ってたじゃない。街灯がなかった時代って。今は、夜だって明るいくらいに街灯がついてるでしょ?だからよ、きっと』


『あ~・・・そっか』


 苦笑いをうかべて、かずはうなずいた。



―――――――――――――――――――――――



「となりにいる人でさえも誰だかわからない。・・・まるで、さっきまでのかずのコトを言ってるみたいね」


 一人つぶやいて、しずくは赤い手に追われていた、あの廊下に来ていた。


「あんなにかずは怖がってたのに・・・あたしが忘れ物をとりに行くのにつきあってくれた・・・。連れてこなければ、こんなことにはならなかったのかな?・・・それとも、最初から、ずっとずっと最初から、あんたはここにいたの?・・・ねえ、かず?」


 向き合ったのは、自分たちが逃げ切れなかった時、背にしていた鏡。ゆらり、とそれにうつる景色がゆれて、しずくがもっとも会いたかった者の姿がうつる。


『・・・しずくちゃん』


 かずは悲しげな顔で、鏡の中からしずくを見つめる。


「どうやったら、かずを助けられるの?・・・あたしは・・・どうしたら・・・」


 鏡にすがりつき、しずくはつぶやく。


『僕は、教えられない。・・・しずくちゃんが気づいてくれないかぎり・・・』


「・・・かず・・・」


 しずくはがっくりと肩を落とす。どうやって気づけというのだろう。そのとき、また、鏡の中の景色がゆれる。


「えっ、まって!かず!?」


『・・・ダメだ、これ以上、七不思議の邪魔はできない。もう、七不思議はしずくちゃんに・・・協力しないッ・・・気をつけて、最後の七不思議は、キケ・・・ン!』


 ぶつっとテレビの電源が切れるかのように、鏡にはなにもうつらなくなる。そう、しずくさえも。


「かず!」


 しずくは鏡にむかって、叫ぶが、反応は無い。




ガガガガ・・・ガガガ・・・ジジジジジジ・・・


 ラジオのチューナーがあってないような音が学校中にひびきわたる。


「な、なに!?」


ジジジジジジ・・・ギギギ・・・・


 しずくがあたりをみまわすと、窓の外に見えていた月が真っ赤に染まる。


「や・・・やだ・・・」


― かーごめ、かごめ、かーごのなーかのとーりーはー・・・いーついーつでーやぁるー・・・


 とつぜん流れだした歌に、しずくはギクリと体をかためる。


― クスクスクスクス・・・うしろのしょうめん、だぁれ?


「・・・っ!」


 しずくはふりかえり、そして、それを目にする。


「・・・か・・・ず?」


― くすくす・・・


「・・・あんた、誰?」


― ・・・くすくす


「誰って聞いてんのよ!・・・もう、怖がったりしないわよ!あんたたちの好きなようにはさせないんだから!・・・絶対、かずを連れ戻す!」


 しずくはありったけの勇気をふりしぼって、それにむかって叫ぶ。


― じゃあ、聞くけどさ・・・かずって誰?


 それはニィっと口の端をつりあげる。


「かずは、かずよ!・・・泣き虫で、怖がりで、でも、やさしくて・・・あんたはかずの姿をしてるけど、かずじゃない!」


― ・・・ひどいよ、しずくちゃん・・・ボクは、かずだよ?


「~っ!・・・卑怯よ!かずのまねなんかしないで!」


― しずくちゃん、たすけて、ここはくらいよ?ここはこわいよ?・・・だぁれもいないよ?・・・ねえ、しずくちゃん。・・・いっしょに行こう?


 それはすう、と手をのばしてくる。かずがキケンと言うくらいだ。この手を取れば、たちまち七不思議にとらわれてしまうのだろう。しずくはきつく手をにぎり、それをにらみつける。


― ・・・クククク、あははっははははははははははは!!


 それはくるったように笑い出す。


― どこまで、あいつはボクの邪魔をしてくれるんだろう!・・・余計な知恵をつけてくれたようだね!


「かずはあたしを守るために、七不思議に介入してくれてた。・・・つまり、そういうことね」


― キミは・・・最高のイケニエだったのにねぇ。七不思議を信じず、ボクらへの怖れを知らない。絶対にほしかったのにな・・・あいつがよけいなことを教えるから・・・。


 くつくつと笑いながら、ギョロっと目をしずくにむける。


― こうなったら、無理矢理にでも、きてもらおうか?・・・しずくちゃん?


「~っ!」


 しずくはそれに背を向け、わきにある階段をかけ上がる。


― ムダだよ?・・・七不思議からは逃げられない。


 音もなく追ってくるそれに恐怖で足がすくみそうになるが、止まることなく、階段を上がる。


「ついてこないでよ!あたしは、七不思議のイケニエになんかならないわよ!!」


 口調を強くして、それに向かって叫ぶ。


 いつの間にか、最上階まで上がってきていて、目の前には屋上への扉がある。


「・・・はぁ、はあ・・・」


 息をきらして、しずくはその扉の前に立つ。


― しずくちゃん・・・?もう、逃げるのは、終わりかな?


「うるさいわね!」


 ぴしゃり、と言うと、しずくはそれに向かい合う。


― ・・・?


「ねえ、知ってるのよ?・・・七不思議に勝つ方法」


― ・・・へえ?


 しずくはにやり、と笑ってみせる。それも余裕の笑みをうかべ、しずくがどうするのかをうかがっていた。


「・・・七不思議の名前を言えば良いんでしょ?」


― ・・・それも、あいつから聞いたのかな?


「・・・いいえ?クラスのうわさ話もなかなかに役に立つものなのよ。・・・やっと思い出したの。七不思議としての話じゃなかったから、忘れてたわ。・・・ねえ?“鏡にうつる亡霊”の怪談さん?」


― ~っ!!!?


 はじめて、それが動揺を見せる。どうやら、大当たりだったらしい。しずくは満足げに微笑む。


「この小学校で本当にあった話・・・。一人の病弱な男の子が5年生にいた。その子は入退院をくりかえしていて、なかなか学校にこられなかったために、クラスになじめないでいた。・・・何度目かの入院から開放されて、学校に登校した朝、教室に入った瞬間、男の子は体に異変を感じてしゃがみこんでしまった」


― ・・・やめろ!


「・・・心配したクラスメイトたちは、すぐさま病院へ行くように男の子にすすめた。・・・でも、男の子はせっかく退院をしたというのに、また、入院をしなければいけなくなると感じて、必死になって立ちあがり、心配するクラスメイトの手をふりほどいて、教室から逃げていった」


― ・・・やめろって言ってる!!!


 建物の中のはずなのに、ブワっと強い風がふいて、しずくにぶつかってくる。


「きゃっ・・・」


― ボクは、そんなのじゃない。・・・ボクは!


「・・・かずたか、くん」


― っ!


「・・・教室から逃げて、あまりにも必死になって走っていて・・・でも、クラスメイトに名前を叫ばれてふりかえった瞬間(しゅんかん)に、廊下(ろうか)のつきあたりの鏡に激突(げきとつ)して重体になってしまい、そのまま意識が戻らなくなってしまった。その男の子の名前は一貴(かずたか)くん」


― あ・・・あ、あ、ああ・・・うわああああああああああああ!!!!


「キミはかずじゃない。・・・かずの名前は・・・和弥(かずや)、だもの。和弥を返して。その姿は、キミのじゃない。和弥のものでしょ?」


― いやだ・・・キエタクナイ・・・ボクは、ボクハ、学校デ・・・みんなト、一緒ニ・・・


「・・・すなおにそう言っていればよかったのよ・・・。そうしたら、きっと・・・」


 ふ、とそれは息をはき、静かにしずくを見つめた。


― ソウ・・・だね。


 それは、つぶやくように言うと、糸が切れたように、ぱたり、と階段に座るように倒れる。しずくはあわててその側にかけよる。


「・・・し、ずく、ちゃん?」


 うっすらと目をあけて、ぼんやりと名前を呼ばれる。


「かず?・・・和弥?」


 こくん、と和弥はうなずく。しずくは体から一気に力が抜けて、へなへなと座りこんだ。


「よ・・・よかったぁ~・・・」


「・・・僕、助かったんだね?・・・ありがとう。しずくちゃんが、助けてくれたんだ・・・」


 ふにゃ、と笑って、和弥はしずくを見上げた。まだ、体に力が入らないしずくも和弥に微笑みかける。


「あたしだって、かずに助けられたわ。・・・怖がりのあんたが、七不思議に介入するなんて、よくやったわね」


「・・・あはは。うん。・・・そう、だね。自分でもびっくり。・・・でもね、僕、前から知ってたんだ。七不思議全部。・・・だから、七不思議につかまってたんだ」


「・・・いつ・・・から?」


 しずくが問うと、和弥は起き上がってしずくに向き合う。


「一ヶ月前。・・・誰そ彼の話をした日。・・・あの日って、鏡の怪談を聞いた日だったって、覚えてた?」


「うん。それで、一貴くんのこと思い出したんだもん」


「・・・あれが、七不思議の最後だって、気づいたときに僕、七不思議につかまったんだ」


 和弥はふ、とためいきをついた。


「僕が助かるには、誰かに七不思議を止めてもらわなくちゃいけなかったんだ。・・・だから、しずくちゃんを選んだ。・・・絶対に七不思議に負けないって思ってたし、それにね、あいつが、しずくちゃんをねらっているっていうの、偶然聞いちゃって。・・・それならって」


「そうだったの・・・。でも、助かってよかったわね!あたし、ホントに心配したんだから」


「・・・ごめんね、しずくちゃん。ありがと。・・・さあ、帰ろう」


 和弥の手にすがって立ち上がり、しずくはこくり、とうなずく。


 二人はゆっくりと階段を下りていく。窓から外を見て、月が金色に光っているのを見て、しずくはほっと息をはく。


「しずくちゃん?」


「・・・月。・・・七不思議があばれてるときは赤かったから」


 ほっとしたのだと告げると、和弥はニコリと微笑む。


「もう、七不思議の効力はきれたから。・・・あっ!」


「えっ、何!なんか出た!?」


 突然叫んだ和弥に、しずくはびくりと体をふるわせて、あたりを見まわす。


「もう、夜中の12時だよ!?・・・捜索願いなんか出されてたりして!!」


「うッそ!まずいじゃない!!・・・走るわよ!かず!」


「ま、待ってよ~!しずくちゃん!」


 バタバタと廊下を走る二人。だから、気づかない。屋上の扉が勝手に開いたことなんて。


 気づかない。そこから、新たな七不思議が生まれたなんて。





― くすくすくす・・・一貴、消えちゃった。


― 消えちゃったね。


― でも・・・


― 七不思議からは、逃げられない。


 重なった声は、少女たちのそれで。楽しげに笑いながら、そっとつぶやく。


― 今度は、もっとうまく。


― 七不思議に、引きずり込んであげる・・・。


― くくくく・・・くすくすくす・・・・。


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