魔の13階段
6,魔の13階段
「・・・魔の13階段って、あの、屋上に続く階段よね」
しずくが唯一よく知る七不思議だ。よく、かずに話して聞かせて怯えさせていた。
「これが六つめ。・・・よし、屋上ね!」
しずくは理科室から飛び出す。ふと、廊下が暗いことに気づく。
「え?あれ・・・?」
窓の外を見て、目を丸くする。
「あんな高いところに月?・・・さっきまで夕方だったのに」
― 別世界に通じている。
ふいに、自分が言ったその言葉を思い出す。
「・・・そっか、七不思議は別世界への入り口なんだ」
月をながめて、しばらく呆然としていたしずくは、気をとりなおし、屋上へと向かい始める。
屋上までの階段。ふだんのぼれば12段なのに、数えてのぼると、13段になる。そして、13段目をのぼって屋上への扉を開くと、それは、この世界とは違う世界への扉になっている。
それが、七不思議の魔の13階段の話だ。しずくは、カタイ表情をうかべて、ゆっくりと数を数えながら、階段をのぼり始める。
「いち、にい、さん、よん・・・・」
だんだんと足どりが重くなる。まるで見えない手に押し返されているようだ。
「じゅーう、じゅーいち、じゅーに、じゅーさんっ!」
しずくはたん、と階段の一番上に立つ。魔の13階段の話自体を信じていたわけではなかったが、今までの体験を思えば、ふだん12段の階段が、13段になるくらいなんてことのないように思えた。
「・・・開けるわよ?」
誰にともなくつぶやいて、しずくは屋上への扉を開く。
「・・・・!」
扉の先には、見たこともない光景が広がっていた。学校の屋上であるはずがない景色、一面の花畑。それも、すべて、黒いバラの。
「黒いバラ・・・」
「きれいでしょう?」
うしろから声をかけられて、びくっとする。ゆっくりとふりかえると、そこには、
「・・・あたし?」
そう、しずくが立っていたのだ。
「ふふ・・・。そう。あたしは、あなた。・・・もう、七不思議の秘密にはたどり着いたかしら?」
「・・・七不思議は、別世界への入り口だってこと?」
「正解。・・・じゃあ、どうやったら、かずを助けられるかしら?」
彼女はそう問いかけてくるが、しずくにはどうしても思い当たらない。沈黙が続くと、彼女はしびれをきらしたように話し出す。
「そんなんじゃ、かずは助けられないわ。・・・よく考えて。入り口はなにも扉だけではないのよ?」
「・・・最後の一つは・・・扉があるところじゃないってことね?」
彼女が答えへと誘導しようしていることに気づいて、しずくは確認する。
「・・・思い出して・・・はじめて七不思議にあったとき、あなたの周りには何があった?」
しずくは必死になって、あのできごとを思い出そうとする。そこで、ふと気づく。かずは、しきりにあの話をしずくに思い出させようとしなかったか?
「赤い手・・・窓。・・・逃げてるときは夢中で・・・でも、赤い手が追ってきてて・・・。あれ、あたし、あの時、振り返る余裕なんてなかったのに・・・なんで、追ってきてることがわかったんだっけ・・・」
しずくは考え込む。彼女は、そんなしずくにクスクスと笑いながら、問いかける。
「右が左。左が右。全部が正反対って・・・なぁんだ」
「・・・あっ!」
「わかったみたいね?・・・お願い、かずを助けてあげて?」
しずくが気づいた瞬間、彼女の体が透けていく。
「待って!・・・どうやって助ければいいの!?」
彼女は首を振る。
「教えて!・・・ねえ!待って!!」
もう、うっすらとしか見えない彼女がささやく。
― 誰そ彼?
「誰そ彼・・・?」
― か、れ、は、だ、れ?
一音ずつ区切りながら、彼女は言葉をしずくに残し、姿を消した。
「 “誰そ彼”“彼は誰?”・・・それって」
しずくは、いつの間にか元に戻った屋上にたたずみながら、以前、かずが話していたことを思い出していた。