あかずの扉
4,あかずの扉
「あかずの扉・・・?」
しずくが思わずたずねる。学校の七不思議はいくつか知っているものの、あかずの扉があるなんて、聞いたこともなかったからだ。
「うん。あかずの扉。・・・知らないのも当たり前だよ。七不思議の中でも最後の一つとこのあかずの扉だけは、危険すぎるから語られることなく終わるんだ」
つまり、それだけ危険なものをこれから見ることになるのだ。そう理解したしずくはみぶるいする。
「僕からはなれなければ、平気だよ」
そんなしずくに気づいてか、かずは苦笑めいたものをうかべる。
「・・・」
すっかり無言になってしまったしずくの手を引き、かずは廊下のつきあたりにある階段のうしろに回りこむ。
「・・・これが?」
かすれた声で、しずくがたずねると、かずはこくり、とうなずく。
「あかずの扉だよ。・・・よく知られてるお話の中でも、別世界に行ってしまうものがあるでしょ?」
「えっと、うらしまたろうとか不思議の国のアリスとか・・・?」
「そう。いろいろあるよね?・・・人には違う世界に行きたいっていう願望があるんだよ。心の奥深くにね。だから、そういう話が作られる。・・・どう?しずくちゃんは、別世界に行ってみたいと思う?」
「・・・い、行きたくない」
「そう、残念だな・・・。僕は行きたいと思ってる。だって、楽しそうじゃないか」
クスクスとかずは笑う。
「・・・行っちゃったら、帰れないんでしょ?・・・そんなのいや。・・・かずが戻ってこないのもいや」
「・・・しずくちゃん」
おどろいた表情をうかべ、かずはしずくを見つめる。
「いやよ。・・・絶対に、いや」
しずくははっきりと言いきると、あかずの扉を見つめる。
「これが、もし、別世界に通じているなら、あたしは、こんな扉、壊してやる!」
「あはははっ!・・・しずくちゃんらしいね」
かずはひとしきり笑うと、そんなことを言う。
「もう、僕のこと、怖くないみたいだね?」
表情を消してたずねるかずを、しずくは静かな気持ちで見つめる。
「・・・怖く、ないよ?」
「そっか。・・・やっぱり、しずくちゃんを選んで良かった」
かずはそう言って、あかずの扉のノブに手をかける。
「かず!」
「僕を探して、しずくちゃん。・・・赤い手に捕まった僕は、七不思議の中にいる」
扉の向こうへ行こうとするかずの手を、しずくは夢中でつかむ。
「だめ!かず!!・・・いっちゃ、だめ!!」
「・・・残り、三つ。・・・最後の一つを探して・・・僕を・・・」
― 助けて。
するっとつかんでいた手がはなされて、かずの体は吸いこまれるように扉の向こうへと消えてしまった。
「かず!!!」
声の限り叫び、扉を開けようとするが、二度と扉は開くことがなかった。




