鳴るピアノ
3,鳴るピアノ
キーンコーンカーンコーン・・・・
学校のチャイムの音に、しずくは目をさます。ハッとして起き上がると、そこは保健室のベッドの上だった。
「あれ・・・、あたし・・・」
きょろきょろとあたりを見回し、呆然とする。
「あら、起きたの?」
「・・・あ・・・せんせぇ・・・?」
「あなた、トイレで倒れてたのよ?真っ青な顔して、貧血だろうとは思うけど・・・。ちゃんと、食事はとってるの?夜はちゃんと眠れてる?」
保健室の先生に問われて、おずおずとうなずく。
「そう。ならいいんだけど。・・・ほら、お友達も待ってくれてるから、一緒に帰りなさい」
お友達?と考えながら、しずくは先生の指し示す方を見て、ギョッとする。
「か・・・かず・・・」
「しずくちゃん、心配したよ・・・。トイレで倒れてるんだもん」
ニコリと笑う顔は、普段と変わらない顔。先ほどのことがうそのようだ。
「・・・かずが・・・保健室に?」
「そうだよ~。・・・さあ、早く帰ろ?」
手をとられ、しずくは保健室を出る。
「・・・かず」
「・・・言ったでしょ?・・・逃げられないんだよ?あの赤い手から逃げられなかったみたいに」
「・・・ッ!?」
保健室を出て、誰もいない廊下を進みながら声をかけたしずくに、にっこりとかずは笑ってみせる。
「・・・しずくちゃん?」
後ずさりして、かずから距離をとる。そんなしずくに気づいたかずがしずくの手をつかむ。
「だめだよ・・・僕から、離れたりしたら・・・」
くすくすと笑い声がエコーのように響く。
「さあ、行こうか?」
「・・・どこ・・・へ?」
かずはくすくすと笑い続け、しずくを見る。
「音楽室だよ?」
― 決まってるじゃない。
と言って、かずはぎゅっとつかんだ手をぐいぐいとひっぱって、特別教室棟に続く階段を上がっていく。
「や・・・やだ・・・か、かず!どうしちゃったの!?・・・ね、ねえ!!」
「・・・しずくちゃん。僕は、どうもしてないよ?」
ふりかえったかずの表情にしずくはぞくりと体をふるわせる。笑顔なのに、目が冷たい。
「・・・かず・・・」
「行こう?」
しずくはだまってうなずいた。もう、さからう気力がわかなかったのだ。
ポーン・・・
特別教室棟に入ると、高いピアノの音が聞こえる。
「・・・これ・・・」
「放課後にひとりでに鳴るピアノ。・・・七不思議の一つだよ」
しずくのつぶやきに、かずが答える。
「・・・それ・・・だけ?」
「・・・しずくちゃん」
問いには答えず、かずはしずくを音楽室に放り込むように入れる。
「最後まで聞いてなきゃ、出られないよ?ず~っとね」
今度はかずも一緒に音楽室に入ってくる。
「・・・」
しずくは恐怖にひきつった顔でかずを見つめる。
「ほら・・・始まる」
ポーン・・・ポーン・・・
音を確かめるように音が鳴って、曲が始まる。
「コレって・・・レクイエム・・・?」
「そう・・・死者を送る曲だよ」
かずは楽しそうにそう言うと、ピアノの側に立つ。
「このピアノはね、悲しみ続けてるんだ。ピアノの天板に挟まれて死んでしまった、少女のことを思ってね」
「・・・っ!」
目を瞠るしずくに、かずは柔らかく微笑む。
「しずくちゃんが、彼女の代わりにこのピアノの曲を聴いてくれれば、ピアノもきっと満足してくれると思うんだ。だから・・・」
― おとなしくしててね。
笑みを消して無表情のまま、かずはしずくに視線を向けた。そのとたん、しずくの体はかなしばりにあったように動かなくなる。
「・・・かず・・・」
「こんなことしなくても、動かずに聴いてくれるとは思うけど、念のために、ネ?」
にこり、と笑う。
その間もレクイエムの演奏が続き、しずくはおびえながらも、その演奏に聴き入っていた。曲も終わりに近づいたとき、ぼぅっと人影のようなものがピアノの前に浮かび上がる。
「・・・ひっ!」
ひきつった悲鳴をあげるしずくに対し、かずはその人影に微笑む。
「よかったね・・・」
人影はふぅっと消えて、音楽室は静けさをとりもどす。
「さあ、次に行こうか?」
いつの間にか動くようになった体をかずに向けて、しずくはおずおずとうなずく。もう、疑問にも思わなくなっている自分におどろきながらも、かずにしたがって、音楽室を出る。
「つぎは・・この奥の階段の下にある・・・あかずの扉だよ」