トイレの花子
2,トイレの花子
学校の七不思議。ソレはどこの学校でも一度は語られるもので・・・。七つすべてを知ってしまうと、その人は呪われてしまう・・・そんな話もあるわけで。
「そんな話、あるわけないじゃない!!」
まったく信じるつもりもない、と言わんばかりに反論をする少女。
「で、でも~」
しっかりと信じてしまって、おびえる少年。
数日前までなら、こんな風景が見られるハズだったのだが、今現在、この二人は、どこか、この世のものとは思えないものを見たかのように、呆然と席に座っていた。
「しずく、最近元気ないよね。前までは、あんなに明るかったのに・・・」
「かず君もおどおどしなくなったけど、人が変わったみたいに無口になったよね」
そんなクラスメイトのひそひそ話が教室のあちこちで交わされる。
「ほら・・・例の事件」
「ああ、窓に赤い手形があったっていう?」
「しずくたち、ソレに遭遇しちゃったんだって」
「えぇ~!?」
クラスメイトが何を言おうと構わない。が、その話だけは、今は聞きたくない。そう思って、しずくは教室を出て行く。
「・・・しずくちゃん」
「かず・・・」
二人はいつの間にかならんで廊下を歩きながら、だまりこむ。
「・・・あの、先だよね?」
「やめてよ」
「・・・窓にさ・・・」
「やめてったら!!」
ギロッとにらまれて、かずは口を閉ざす。
「今は、聞きたくないの。・・・お願いだから、もう、言わないで」
「・・・むりだよ。しずくちゃん。・・・だって、僕らはもう・・・」
― 関わらずにはいられない。
そう言って、ニィ、とかずは笑う。
「・・・かず?」
背筋がぞおっとして、しずくは思わずかずから距離をとる。
「・・・しずくちゃん・・・ほら、そこのトイレ。・・・何が、いると思う?」
慌ててうしろをふりかえると、壁を塗りかえらればかりの女子トイレ。
「七不思議からは・・・逃げられないよ?・・・しずくちゃん」
どん!
かずに突き飛ばされ、しずくはトイレの中にしりもちをつく。
「かず!?」
クスクス・・・と笑いながら、かずはトイレの扉を閉める。
カラカラカラ・・・カタン。
しずくは扉にとびつくが、びくともしない。
「い・・・いや!・・・あけて!!誰か!」
ダンダン!と扉を叩いても、何の反応も無い。それでもしずくは懸命に扉を叩く。
「おねがい!!あけてぇっ!!!」
― クスクスクス・・・
「・・・!」
― クスクスクス・・・
「な・・・何・・・?」
のどがカラカラに渇いている。急に周りがひんやりとして、鳥肌が立ってくる。
― 何して、遊ぶ?
「~っっ!!?」
しずくはハッとして五つならんだ個室の中央。使用禁止と書かれている扉を見る。
「・・・ひっ・・・」
思い出した。ここは東棟3Fの女子トイレ。七不思議でトイレの花子さんがいるといわれているトイレ。
「・・・いやっ・・・いやああああ!!!・・・あけて!あけてぇ!!」
必死に扉を叩く。ガタガタと取っ手をつかみ、あけようとする。その間も、使用禁止のトイレから声は問いかけてくる。
― ねえ、何して、遊ぶ?・・・何して遊ぼうか?・・・ねえ、ねえ、ねえ、ねえ・・・。
「・・・いや・・・遊ばないわよ!・・・あんたなんかと遊ぶわけないでしょ!!」
声の限り叫んで、しずくは扉を背にして、虚空を睨みつける。
― 遊んでくれないの?・・・じゃあ・・・あたしとおんなじめにあえばいい!!
「きゃぁぁああああっ!!」
しずくの意識はぷつりとその場で切れてしまった。