七不思議の協力
10,七不思議の協力
和弥が言った瞬間、屋上にバラの香りが充満する。
「これって・・・!」
しずくは昨夜のことを思い出す。彼女と会ったとき、一面に広がっていた黒いバラ。
「・・・応えた」
ホッとして、和弥が微笑む。
「・・・かず!」
しずくが和弥のうしろを指さす。
「!・・・魔の・・・13階段」
「・・・かず・・・しずく。・・・呼んでくれてありがとう。・・・これで、存分に力がふるえる」
和弥が名を呼ぶと、魔の13階段の“怪談”は、ニッと笑う。
どん!
ひときわ大きくゆれて、学校のゆれがおさまる。
「うあ~・・・すごっ!」
しずくが素直にそう言うと、彼女はうれしそうに微笑む。
「私は、人の信じる力を糧にする。・・・かずやしずくの信じる気持ちは、とても、ここちが良いの」
「ねえ、あの子たちは何なの?」
「・・・元からこの学校にはいたんだけど、まだ怪談にはなっていなかったの。・・・一貴もあの子たちをかわいがっていたんだけど・・・ダメね。・・・怪談になった瞬間に、別ものになってしまった」
しずくの問いに答え、彼女はかなしそうに目をふせる。
「・・・だから、同じ、怪談として・・・私が止めなければならないわ」
そう言うやいなや、彼女はすう、と手を空にむける。
「・・・降りていらっしゃい。・・・悪い子にはおしおきよ」
― バラのお姉さま・・・なんでじゃまをするの!
― そいつらがいなくなれば、ほかの人間なんて、七不思議にかんたんに取り込めるのに。
「・・・ダメよ。・・・七不思議に気づいてしまったものが引き込まれるのは、仕方のないこと。・・・でも、こちらから気づかせるのは、タブー・・・」
彼女がにらみつけると、少女たちは、ビクリとおびえたようにふるえた。
― どうして!
― なんで、だめなの!
「・・・あの方が望んでないからよ。」
― あの方が・・・
― 望んでない。
あの方、と彼女が言うと、少女たちはピクリ、と反応した後、シュンとうなだれる。
「・・・あの方って・・・?」
おずおずとしずくが問うと、彼女はやんわりと微笑む。
「あなたたちの呼び方にすれば・・・ざしきぼっこ、とか、ざしきわらしっていうところね。・・・この学校をずっと守ってきた、神の末席につらなる方のことよ」
「か、神様だったの!ざしきわらしって!!・・・っていうか、学校にもいるんだ」
しずくが大げさにおどろくと、彼女はますます笑みをふかめる。
「ふふ・・・そうね。・・・学校にいるざしきわらしっていうのも、なかなかいないものよ。・・・この地は特別なの。・・・とくに、この学校のある付近は、神降地と言ってね、霊が存在しやすい土地なのよ」
「そうか、それで、この学校はとくに、七不思議とか、怪談というのが多いのか・・・」
和弥が納得したようにつぶやくと、彼女はこくりとうなずく。
― あの方、おこってるかな?
― バラのお姉さま、どうしよう!?
おろおろとする少女たちに、厳しい表情をむけ、彼女は言う。
「全て、片付けた後に、ゆっくりとあの方に怒られていらっしゃい。・・・まずは、学校中の人たちから、あなたたちのやったことを忘れさせてくるのよ」
彼女の言葉に、コクコクとうなずき、少女たちは消える。
「・・・あたしたちも、忘れるの?」
不安そうな表情で、しずくが彼女を見やる。
「・・・いいえ。あなたたちは、七不思議を見つけ、体験し、生還した。だから、忘れる必要はないわ」
「・・・そっか」
安心したのか、しずくの顔がゆるむ。
「・・・ねえ、あなたの名前ってあるの?・・・あの子たちはバラのお姉さまって呼んでたけど。・・・その、なんか、呼びづらいじゃない。魔の13階段の怪談って・・・」
「・・・そうね・・・黒バラ、と呼んでくれればいいわ」
「黒バラさん・・・」
しずくが呼ぶと、にこり、と黒バラは微笑む。
「・・・本当に、迷惑をかけて、ごめんなさいね。・・・あの子たちには、きつく言っておくわ」
「行っちゃうの?」
和弥が問う。
「・・・ええ。また、機会があったら、会いましょう?・・・あなたたちさえ望めば、いつでも会えるわ」
そう言い、黒バラは微笑みを残したまま、すうっと消えていった。
 




