29【サイド】クルデラ②
「俺が身の回りの世話をするが...」
そう話す俺と咳き込みながら最大限拒否するキャサリン
「はぁ?だれがこんな....こほっ、こぼっ...姿に...したお前に世話を...こほっ、こほっ」
目が見えない間の自分の身の回りの世話は、女にさせろ。
男?神官?あんた?論外!嫌に決まってるでしょ!
誰が私をこの姿にしたのよ!
喉が潰れているので、言葉は絶え絶えだが、キャサリンの言い分はこういうことらしい。
「今までの聖女様は...」
そう言って、責任を持って初代聖女にしたように、俺が世話をすることを伝えると、目の包帯を引きちぎらん勢いで怒りだす。
「一緒に......こほっ...しないで!だれが...男ばかりのハーレムなんて....こほっ...つくるもんですか!」
そういわれても......
初代聖女からずっと見続けて、結局みんな、召喚された聖女は寂しさから自分に甘えて、甘えさせてくれる男性を侍らせることを希望してきたんだが...
キャサリンと同じく召喚されたリリーが、この世界はそういう世界観で、今までの聖女たちのような行動をとっていたけど最近は、一人の男性だけとお付き合いをする形に変わってきているという。
それでも、男なんているもんか!
そう言い放つ彼女は、今まで男性からどんな酷い目にあったんだ?
俺は首を傾げてしまう。
その反面、今までの初代聖女と真逆の価値観に触れるたびに、俺の中の初代聖女がふーっと壊れていく様が爽快だった。
◆◆◆
「平民でこれか?化け物みたいな力だな」
「なんでも、神殿で聖女様から育てられた特別な存在らしいぞ」
俺は、聖女様が他の男性と戯れている時間は、魔術師団で魔術を磨いていた。
最近聖女様のお気に入りとなったラファエル魔術師団長が、直々に教えてくれるので、学びにも無駄がなかった。
貴族の魔術師たちからのやっかみは凄まじかったが、最初に習ったのが防御魔法だったので、すべて弾き飛ばしたし、聖女様のお気に入りという効果は高かった。
「お前、聖女様のお相手になりたいのか?」
ラファエル団長は、俺に魔術を教える中で何度か聞いてきた。神官にも同様の質問を聞かれることが多い。
体が大きくなり、成人になっても聖女様の世話を続けているので、聖女様の特別という目は変わらないのだ。
何度も神官たちに刺されそうになったが、これも防御魔法が弾いてくれたおかげでなんとか命は無事だった。
「そのような大それた願いは持っておりません。私は聖女様に命を救われ、ここまで育てていただき、更には魔術を学び自分を守る術も教えていただきました。
このご恩を力変えて、聖女様のために使いたいだけです」
そう誰に対しても話すようにしていた。
身分だけは越えられようもないし、ほかの者のように聖女様が喜ぶような閨の技術を自分は持っていない。
だから、その環境を整え聖女様が癒される場を守るのが自分の使命だと信じて疑わなかった。
「ふうん、嘘はついてないみたいだな。」
ラファエル団長はニヤニヤと笑う。
その顔を見て、本当は聖女様のものになりたいんだろうと言われているようで顔を顰めた。
ラファエルは他の神官たちとは違い、聖女様のお相手を務めながらも、その時その場限りの関係という割り切りに見えて不思議な存在だった。
「お前、自分を見失うなよ。お前の力は膨大だ。平民なのによく生きてくれていたと思うし、聖女様には感謝している。だが、お前の力は、聖女様を守るために使ってもいいが、国を守るためにも使える。」
「そんなことは望んでおりません」
「まあそういうなよ。お前、聖女様の身の回りの世話をする子供の時期は過ぎただろう。俺の養子になって、この国の宮廷魔術師を目指さないか?」
「宮廷魔術師になってどんな得が?」
俺には全く関心がないことだ。
俺の力は聖女様だけが自由に使うことを許し、聖女様を守るのためにある。
「聖女様は、かつて許されぬ恋に落ちたということを知っているか?」
ラファエル団長はニヤニヤと笑うが、それが余計腹立たしい。不便を強いられている聖女様が、どなたかを想いそれを成就できず悲しんでいる。
その原因となるべきものが今も存在するなら、断ち切ってやりたい
そういう思いが心の中を支配する。
「ああ、とっくに過去の話で相手はもう死んでいる。この国の王だからな。」
「王......さま?」
俺は拍子抜けしたように、つぶやいた。
聖女様ともなればこの国の王と交際をしていてもおかしくはない。だが、王妃になる姿は想像できなかった。
「残酷だよなあ。王は、全く聖女様に見向きもしなかったそうだ」
「なぜですか?あの方より素晴らしい方がいるとは思えません」
俺は、幼い頃から聖女様を争って死にゆくものは見ても、聖女様を拒否したものを見たことはない。
カッと体中に怒りが支配する。
「まあそう興奮するなって。聖女様は今もその子孫である王族の方々を大切に思っている」
ラファエル団長は、今ありげに微笑む。
「え?子孫って......まるで聖女様が歳を取らないようではありませんか?」
「事実とらないんだよ。聖女様が言うのには、この国にかつて召喚された彼女は愛する王だった男が病に倒れた時に、ずっとこの国の瘴気や病を、浄化、治癒し続けて、自分の愛する国を守ってほしいといわれたそうだ。」
「そうですか...」
よくある話のように感じた。
予後がよくない者が生きているものに希望や願いを託す。
聖女様は、心根が清らかな方だからおそらく願いを聞き届けただろう......聞き届けた?
いや、ずっとなんて無理だ。
人は死ぬ。
誰しも死ぬはずだ。
俺は、ラファエル団長を見上げた。
「永遠なんて......無理ですよね......」
「普通はな......だが、当時の魔術師団長と王は、一つの可能性にかけた。それは、賢者の石。成功すれば、この国は、永久に聖女の存在する国になる。召喚したからって必ずしも確実に聖女が現れるとは限らないんだからな」
「聖女様は...その賢者の石で命を繋いでいると言うことですか?」
「そうだ。その賢者の石の生成方法は、代々宮廷魔術師団長と聖女様だけが知っている。俺は、いずれこの立場を退かなければならない。その時誰にそれを伝えていくか?」
そこまで言うとラファエル魔術師団長は俺をみた。
「お前が適切だと聖女様は判断された。だが、お前は平民だからな。俺の養子になって貴族とならないと、この立場まではのぼれない。わかるな?」
俺は、とんでもないことを聞いてしまったと思っていた。
だが、俺は子供から大人になったのに、確かに聖女様は衰えない。
聖女様の永遠の命をお支えできるのは、宮廷魔術師だけ。
だが、どうしてラファエル魔術師団長は、賢者の石の作り方を知っているのに自分も永遠の命を持たないのだろう?
俺は不思議でたまらなかった。




