28 【サイド】クルデラ①
生きるってのはこういうことよ!
そう苦しそうな顔をしたキャサリンが俺の頭にガンガン呼びかけてくる。
「参りましたね。どうやら、初代聖女はあなたがお気に召さなきゃらしい。」
それと同時に、頭の中に
「あの女を、キャサリンを始末しろ」
そう、ガンガン呼びかけてくる声がする。
「今までなら迷いもなく、始末したでしょうね」
クルデラの髪の毛は、いつぶりだろう?という真っ黒に長い髪と今までの虚無な年月を伝える真っ白な髪に分かれ、片眼はかつてクルデラが持っていた黒目に、片眼は長く見慣れた透明な薄いグレーとなっている。
「確かに生きている目じゃないな。これは......確かに生きていない」
躍動感あふれる先ほどのキャサリンの顔が頭に焼き付いている。苦しくても、生きるというのはこういう目だと頭の中でリピートされる。
透明な目の方には眼帯をつけた。
しばらくは体の中で初代聖女が、いや初代聖女に傾倒してしまったクルデラがあばれていたが、目を塞ぐことでピタッと「キャサリンを殺せ!」という声が消失する。
本来のクルデラと初代聖女に操られているクルデラが二人が頭の中にいる状況になった。
初代聖女に操られた俺は、俺の目を通してさまざまな情報をキャッチしていたらしい。
ため息が漏れた。
「いつから初代聖女に操られていたのでしょうか?」
初代聖女の心臓から作った賢者の石を取り込んでから?
いや、それよりもっと前から?
「どちらにしても、今のキャサリンの力一人では、初代聖女には勝てません。」
魔力暴発は彼女が持つ最大限を通り越して命の危機が起こるレベルの魔力である。
これをしても、初代聖女に押し切られた。
その理由は明快──
クルデラの胸には、初代聖女の力の一部である矢のあざがあった。
キャサリンを含め代々の聖女の胸にはハートの聖印が......
この二つを合わせた力が、初代聖女の力だ。
完全に初代聖女のものだったクルデラは、意表をつかれ、攻撃を受けたものの、その後、自分の中にいる初代聖女を壊す行為に抗ってしまった。
協力すれば、初代聖女と五分五分になったんだろうが......
結果──まだクルデラの一部を初代聖女が握っている。
◆◆◆
子供の頃のクルデラは、小さな建物に閉じ込められ、身体中に魔力抑制の鎖や装置を身につけていた。
バリーン!
「またなの?もう無理よこれ以上!いくらかかるのよ!」
「そんなこと言ったって、魔力が暴走してみろ。」
私が宮廷魔術師となり、トップに君臨することになった今では起こらないことである。
今では、身分関らず、魔力が高すぎて困るものは魔力抑制の道具を無償で渡して、国のために役立ててもらえるよう高い魔力から正しい魔術が使える訓練を施す場所も提供している。
だが、当時は子供であっても、平民が高い魔力を持つものはすべて危険人物扱いだった。
強い魔力を無造作に放つと、魔物を引き寄せてしまう。
魔物を討伐するとそこを中心に瘴気が発生してしまう。
住んでいる周辺や村は、魔物に襲われるか、瘴気にやられ食べるものを失うかのどちらである。
だから魔力の高い持ち主の魔力を塞ぐのだが、魔力抑制の魔道具はとても高価で、家が一軒建つレベル。
自分の場合、それを買うために集落で協力して出してくれた金銭も尽きつつあった。
強い魔力は、この世の貴族だけが持てばいい。
平民が強い魔力を持つのは悪だ。
そう思われていた。
刺激を与えないように閉じ込め、早く死ぬのを待つか、魔力を使えないほど衰弱をさせるしかなかった。
俺の魔力が溢れて、村周辺に魔物が出現し、瘴気浄化に来た初代聖女が戯れに助けたのは本当に偶然だった。
「あら?汚れているけど、まだ子供?」
「5歳だそうです。集落のものから殺して欲しいと依頼を受けております。この子が魔物を呼び寄せた元凶ですし......」
遠くでそんな声がする。
ただ鈴のなる音のような心地がいい。
もっと聞いていたい。そんな気持ち
そして、死ぬんだ。ここで......という現実的な考えが支配する。
「あら、磨けば光るかもよ?連れて帰って。私がかわいがるから」
そう声がして、気づいたときには自分は神殿に連れてこられていた。
「聖女様の慈悲だ。しっかりお支えしろ」
俺は、大量の魔力を閉じ込めることができる魔石に毎日、最大限魔力を注ぐ。
その魔石は、魔道具を作るのに使うらしい。
鎖に繋がれ真っ暗闇の中で死ぬのを待つよりはよっぽどい い。
それを、毎日、毎日......どのくらいの月日が経ったのか?魔力を言われるまま注ぎ続けていくと、気づけば魔道具を身に纏わなくても、魔力が暴れ回ることもなくなっていった。
衣食住も満たされ、鎖に繋がれることもない。
まだ幼い自分には、それだけで満足だったが、更に自分の自尊心を高めることがそこにはあった。
めったに姿を出すことはない初代聖女キャサリンは、自分を特別に可愛がったのだ。
神官たちは、聖女の影が伸びればその影に口づけをして敬愛を示す。
初代聖女に微笑まれれば、心に雷が落ちて気を失うものもいる。
聖女の世話をする神官は、すべての神官の憧れであった。
その中で初代聖女は、気に入った神官たち10人ほどで、自身の閨の世話をさせるハーレムを作っていた。
お気に入りになった神官は、更にその中で聖女の特別になりたいと、あらゆる男娼としての技術を磨き、聖職者として自分が如何に清き心かをアピールする。
自身は幼くその対象ではなかったが、聖女がそれらの男に飽きた後に、世話係として俺に身の回りの世話をさせたのである
初代聖女の御髪に櫛を通し、毎日、神官と戯れた後の聖女の体を洗い、準備された食事を運び、衣服を整えて、新たな寝具を整えるのが役割だった。
子供にさせる理由もわかっていた。
無垢な子供だから仕方ないとみんなが聖女の世話をすることに納得するのだ。
これを神官たちにさせたら血をみる争いになる。
実際、自分が下げた後の洗濯物や片付ける食器を、神官たちに任せるが、その後の初代聖女の肌や口を触れたものをめぐって血を見る争いは日常だった。
神官たちは、初代聖女に気に入られるために日々争いが絶えないのである。
その様子を、彼女は俺を膝に抱きながら眺めていた。
「ほら、見てごらん。クレデラ、あなたはいい子ね。みんな、あなたが座っているこの場所が羨ましくて争っているのよ」
そう言って楽しそうに、あの鈴の音のように笑う。
神官の一人が床に叩きつけられる。
血を吐きながらそれでも聖女に見られている喜びを感じている。
「聖女様......」
そう恍惚とした顔で見つめる。
先週は、彼女の下着を誰が洗うかで血を見たが、今週は聖女が口をつけた食器だった。
その奪い合いでお互いが刺しあい、食器から手を離さないまま絶命している。
それを楽しそうに俺を撫でながら初代聖女が見つめる姿を他の神官たちは見て、恐るどころか、聖女様に喜んで頂けたとみんな満足をする。
そして、俺も.....歳なんてとりたくない。
そう思うようになっていった。
このまま子供でいれば、みんなが欲しがるこのポジションにいられるのに──
それだけ神官たちが命を捧げてでも欲しがる聖女の膝の上を自分が得ている優越感を感じるようになっていった。
そんな年月がひたすら過ぎる。
初代聖女の世話をする神官は頻繁に変わっていった。
聖女に飽きられた神官は、みんな気づけばいなくなっていた。
争いあって共に絶命した男たちもいた。
神官の数はどんどん減っていき、あらたに宮廷魔術師が神殿には出入りするようになっていく。
宮廷魔術師も、お気に入り神官たちと役割は変わらないようだった。
ただ、変わっていったのは俺の神殿での役割だった。
俺の体はだんだん大きくなり、聖女様の膝の上では収まらなくなっていた。
だんだん、ただの世話係として、聖女様の話し相手を務め、身の回りの世話のみするようになる。
聖女の閨の相手の神官や魔術師たちはみんな貴族で自分のような平民はいない。
体が成長していくからといって、聖女様に男として目をかけてもらえる立場が自分にはなかった。
そんな中で出入りする宮廷魔術師団長から、高い魔力量に目をつけられ、
「お前、聖女様を守る盾となり、剣とならないか?」
そう誘いを受けた。
「聖女様のおそばで少しでも役立ちたいのです」
俺は、神殿にいながらも、神官を目指すよりは魔術師としての才能を開花させ始めていた。




