27 操り人形となった男
「ちょっと!!クルデラ!いるの!」
私は、神官たちのお辞儀よりも早く、廊下を猛スピードで走って部屋の前で立ち止まり、はあはあと肩で息をする。
みんなに認識阻害か、魅了がかかっている。
誰がかけた?
クルデラ?それとも──
「あなたは、歴代聖女たちの中で、なかなか個性的な聖女ですね。この神殿確かに広いですが、廊下を走るようなお子様を聖女にしたつもりはなかったのですが...」
クルデラは、穏やかな微笑みを見せつつ、少し言葉に棘があった。
「そうね、こんなにバタバタしたらあなたは嫌よね。だって、ここには愛する初代聖女様の遺体があるそうじゃないの」
わたしがそう言い放つと、クルデラに初めて嫌悪が表情に現れる。
「遺体......ですって?」
「あら?違うのかしら?心臓がないと聞いたけど?それは、私が元いた世界、いえ、この世界でも常識的に考えて、ただの遺体よ」
ぐっと部屋に冷気が漂う。
クルデラが動いた!
今殺されてもおかしくないかもという恐怖と、初めて感情を揺り動かしてやったという愉悦が心を支配する。
「心臓がないだけです。あの方は生きている」
「おあいにく様、私はそんな言葉に動かない。
そういうの死んでるっていうのよ。心臓がないだけ、あなたが永遠の命を肩代わりしただけ、私が聖女の仕事をやってるだけ。じゃあ、その初代聖女は?何してるだけ?」
そういうと、クルデラの目がカッと見開かれ、気づけば首を締め上げられていた。
「こ.....まる...のは、だ..れ?」
完全にクルデラの目がいってる。
クルデラの指が、私の首に力を入れる。
息が......
やっぱり、初代聖女の命を引き受けているだけで、初代聖女は死んでない、もしくはすぐ生き返ると信じてるんだわ。
信じてるのか?
認識阻害か?
はたまた魅了か?
もしくは───
いちかばちかよ
神殿も聖女のための建物といっているけど違う。
何百年もこいつと初代聖女のもの──
明らかに感覚がおかしいとは思っていたけど、それぐらいその初代聖女の遺体を今でも生きていると思って大事に扱う感覚は、正気ではない。
そして、みんなそれが朽ちることなく保管されることを疑問に思わない。
それが、クルデラの意志なのか?
それとも、初代聖女の意志なのか?
それとも......クルデラを初代聖女が操っているのか?
それなら、初代聖女と対決してみようじゃないの。
私は、全ての力を注ぎ込み、クルデラの目に最大魔力を当ててみる。
クルデラが私を締め上げる腕をガシッと掴み離すもんかと
握りしめた瞬間、クルデラがハッとする。
気づくのが──遅い!
普通なら、首を絞められるのだ
両手で彼の手首を引きはがすだろう。
それをあえて逃がさないようにがしっと掴む段階で、おかしいと悟ったらしい。
その色のない整った顔で──
初代聖女しか思い出がないお前の花畑な頭に......首を締め上げられて生きる苦しみに歪む私の顔の記憶を焼き付け直せ!
私は胸から、体から溢れ出す力を感じ、振り絞る。
やっぱりだ!
クルデラの体の中から共鳴するものがある。
歴代聖女は、クルデラを.......この男を体の中で操っている。
そんなもの、誰が認めるか!
締め上げられてもう感覚がない。
その瞬間、力を注ぎ込んだ私の目から、胸の聖印から自分では理解できない、自分ではもうコントロールできない凄まじい力と爆風が渦を撒き始める。
「キャサリン!離せ!」
クルデラの初めて焦った声が聞こえる。
わたしはその力を注ぐ先はただ一点......
クルデラの目だ。
「死んでる...くせに!見ろ....生きるってのは.....こういう...ことだ...!」
そう言った瞬間、わたしの魔力をコントロールしていた腕輪は粉砕し、激しい光が発生する。
もう、光はどこからどこに向かって光っているのかはわからない。
息が苦しい感覚すらない。
全身の血が逆流したみたいにくらくらするような......
どちらが地面でどちらが空か?
体中が焼けつけるような
ただ、私の目の最後の記憶は、私が真っ直ぐに焼き付けて射抜くクルデラの目だ。
クルデラの瞳孔だ。その瞳孔にむけて、私の光は最後にクルデラを焼き付けた記憶が残る。
ぐあわあぁぁぁぁ!!
もう何も見えない!耳に残る声だけが遠く頭の中にこだまして、私はそのまま意識を失った。
◇◇◇
気づけば、布団の上に眠っている。
といっても何も見えない。
目を覆われている?
「目が覚めましたか?」
クルデラの一見優しさに溢れていそうなあの声が聞こえる。
目が覚めましたか?じゃないわよ。
はぁーっ!
ここは、一旦は負けか。
「覚めた...わよ...あなたのこと...こほっ...なんて...呼べば?クルデラ?それとも.....初代キャサリンに操られ...ているクルデラ?」
喉が痛い。思うように声が出ない。潰されてる。
「.......」
しかも返事なしなの?
くそ、初代聖女め!
初代聖女に、クルデラが賢者の石で命を長らえながら同時に、禁術の魅了を受けているのではないかと疑ったのだ。
心臓がなくても朽ちることなく生き続ける初代聖女の遺体
初代聖女のためだったら、永遠の命を引き受けて、他人の命や人生なんて構わないと思う狂信的なクルデラ
初代聖女のために建て、初代聖女を祀り、初代聖女のための役割を果たす聖女を閉じ込める神殿
そして、初代聖女は心臓がなく、すでに遺体だと告げた時のクルデラの激昂──
「目は...」
私は自分の声にドキッとする。
喉が痛い。
喉が損傷を受け、声がしゃがれてしまい、首を締め上げられた力が凄まじかったことがわかる。
思わず手を首に当てた。
「魔力が暴発しました。元々あった大量のキャサリン様の魔力に聖女の力が目覚めたことで、魔力を体が扱いきれなくなったのでしょう」
そう、クルデラが語る言葉に納得する。
私は、アーサーからこの神殿と初代聖女の遺体の話を聞いて、クルデラの中に初代聖女が存在して、自分の意のままに操っている、と踏んだのだ。
だから、初めて自分の意志で、全ての魔力を集めて、怒りに溺れ感情が見えたクルデラ?いや、初代聖女に向けて、浄化の魔力をぶっ放した。
やり方なんてわからないもの。
クルデラに、あなたの中にいるかもしれない初代聖女をぶっ殺すから浄化の仕方を教えてなんていった日には、教えてもらえないだけじゃなく、あのうっとりした顔で、
「初代聖女様が私の中に......」
そう恍惚とするのが目に見えている。
だから、浄化の力を目に集めて、ぶっ放したのだ。
私はため息をつき、目に巻いてある包帯らしき布を取ろうとするところで、その手を掴まれる。
「しばらくは目は使えません。喉も同様に魔力を使って治せません。魔力が暴発したので、数日は魔力を使わない生活を送りましょう」
それは納得。
死んだかと思った。
体の中から爆発したと思ったけど、クルデラの手を掴んでいたから、うまいこと助けてくれたのかしら?
だけど、目を使えませんって不便じゃなくて?
「とい...れは?ふ.....ろは?」
「お世話をするものを準備します」
げっ!あのホスト大集合みたいな神官たちか!
「おん.....な!じ....じょ」
わたしは必死でしゃがれた声で、世話係は女にしろと告げた。




