26 胸の聖印
「やることえげつない暴力行為なのに、何こんなところで純情ぶってるのよ。あんたたちの世界なんて、魔力が昂ったら、やることやっちゃう世界だってリリーが話してるのに」
鼻血がとまらないトーマスの反応に、わたしは思わず呆れてしまう。
だが、更にリリーとトーマスの叫び声を聞いたアーサーとクルトも
「なにがあった!」
そういって駆けつけて、わたしの胸の一部を直視。
火炎放射器のように鼻血をぶっ放す。
「突然胸出したら、みんなびっくりするに決まってるじゃないの」
リリーが慌ててわたしに向かって叫んだ。
「そんなベロンと出したわけじゃあるまいし。桃の膨らみの切れ端じゃないの?」
味見にもならないわ。
私はしぶしぶブラウスのボタンを止める。
「き、君たちの貞操観念はどうなってるんだ?」
アーサーが、鼻血を必死で抑えながら私に猛抗議する。
そのくせ、しっかり目を離さなかったくせに、このむっつりスケベめ!
「この世界ほどがんじからめじゃないですわ。大体、この間まで階段から突き落としたり、突き飛ばした女にそこまで興奮するあなたたちの純情さに恐れ入りましてよ。」
「.........」
やらかしたことは忘れてないんだからね。
そうアピールするが、なぜか男性陣一同は、鼻血が止まっても真っ赤になり、見てはいけないものを強制的に見せられた被害者のように下を一斉に向く。
キャサリンには申し訳ないが、もう元の世界に戻れないのだと知った今、この体は私のものだが、同時に思い入れもたいしてない私のものではない感覚も強い。
大体、胸に聖印なんて、よくあるパターンもいいところなんだから、見せたぐらいでそこまで男性陣がここまでノックアウトされるなんて......
キャサリン美人だからねぇ。
これが前の世界の10代なら、鼻の下を伸ばしてこれ幸いと見るところなのに、この世界の10代は純情すぎるわ。
だから、あっさり、リリーみたいな素人にも洗脳されるのよね。
「それで、このマークはどう?リリーの知ってる世界にあるわけ?」
わたしからの問いかけに、リリーは「うーん、こんな感じだったかなぁ?」と呟きながら、私の胸にあった聖印をノートに書き写した。
ハートに少し矢が突き刺さったような棒がある。
「これは?」
私は眉を顰める。
私に浮き上がったアザにとてもよく似ているが少し違う。
「キャサリンのハートのあざとは少し違うけど、私が知ってある模様は、こっちのハートに新たな矢が加わった感じなの。これは、元々ヒロインにつくあざなのよ」
「ヒロイン......って、この世界のヒロインはリリーじゃないの?」
「あなたが言う?散々、キャサリンがテンプレを壊してくれたおかげでもう、ストーリーの大半は破綻してる。恋愛はともかく、私につくはずの加護はキャサリンについたみたいだし、私のやっていたゲームだけじゃなくて、この世界もいろんな話の複合になってるのよ」
「へえ、まあ、この系統って、良くある似たようなパターンばかりだとおもって、ストーリーに沿って動かなかったからね」
私はリリーが書いてくれたあざのマークの紙を、手に取った。
「こんな、いかにもハートの心臓貫かれてますみたいなあざ、自然発生じゃ出来ないわよね。」
「ヒロインは、ある日このあざが胸に浮かび、激しい光を放つと同時に、体から湧き上がる力を感じる。そして、ヒーローと共に魔物を倒し瘴気に苦しむ人々のために祈りを捧げると......ふふっ」
そこまでいって、リリーは目をキラキラさせて私を見つめにっこり笑う。
「祈りを捧げると.......瘴気は消えてめでたしめでたしってこと?」
私は呆れるように、続きを言いながらリリーを見ると、バカにするなといわんばかりに私を睨みつける。
憧れの世界だからね、からかっちゃダメよね。
「違うわよ。そんなチープなエンディングでみんな納得するわけないじゃん。世界は平和になり、その時共に戦うことを選んだ男性の一人と恋に落ち、ハッピーエンドよ」
そういえばこの間もそんなこと言ってたわね。
リリーは、頬を膨らませ、不満げにハッピーエンドとは何かを必死で説明する。
当たり前だが、疑似恋愛ゲームなんだから、恋愛しなきゃ終わるわけないという理由も納得できるけど...
「バカにする気はないけど、言葉にしちゃったらチープだわ。ヒロインが強く一人で自立して生きていくパターンはないの?」
「ゲームも話もそんなエンディング成立しないじゃん。だって、リアルに動いて、聞いたことがない甘い声で誰もが囁いてくれるんだよ。
しかも、みんな顔もいいし、やってる仕事もよりどりみどり。なんで、それを捨てて一人で生きていくのよ?」
リリーは不服そうな声を出す。
なんでって、好みじゃないからよ。
みんなうさんくさいホストみたいじゃないの?
そんなことは言えず
「うーん、女性が自立するってのも悪くないものよ」
なんて、それっぽいことを言ってみる。
「バッドエンドでもヤンデレなヒーローと引っ付くのよ。
そしてバッドエンドなヒーローですら、お顔も良ければ声も良くて、ちょっと殺し屋とか監禁とかするだけなのにっ!」
そう熱弁をするリリーの横で、男性陣は再び肩身が狭そうに沈黙をしている。
この中で、ちょっと殺し屋とか監禁をするそんなヤンデレはいるのか?
でも、私は思い当たる奴が一人いる。
「今、私のそばにどんな男がいるのか忘れたのかしら?クルデラよ。」
そういって、額に手を当てる私を気の毒そうにリリーはみる。
「クルデラね......でも、あの人はゲームにも、知ってる本や漫画でも見たことがないんだよね。バグなのかな?」
リリーは首を傾げて不思議がるので、クルデラから聞かされた話を伝えてみる。
「ほぇー、完全にバッドエンドのヤンデレヒーローじゃないの。でも、初代聖女ってなんだろう?」
リリーは、そんな存在は知らないという。
「だって、ヒロインが突然聖女になってチートな能力で、問題解決、荒ぶる魔力はヒーローが抑えてハッピーエンドよ。ヒロインの前に、聖女なんて......いないはず...」
そう言いながらも、りりーは段々元気がなくなっていく。
「ただ、ヒーローには婚約者がいて、それを略奪してもヒロインは問題視されなかったように、それまでの魔物や瘴気はどうしてたのよ?って言われたらおかしいんだよね。本当は、代々いたけどゲームでは都合よく隠されてただけなのかも...」
リリーの言い分は一理ある。
この世界が、ヒロインが現れてから突然魔法の世界になったらなら、瘴気や魔物もいるかもしれない。
でも、魔法を使うことによって瘴気が発生するなら、誰かがそれをそれまでも浄化していたことになる。
それが代々召喚された聖女だったということだが、物語ではカットだ。
「初代聖女のことをみんなどのくらい知ってるの?」
私は、初めからこの世界にいた男性陣に聞いてみる。
すると、アーサーから驚くべき言葉が出てきた。
「初代聖女は君と同じ名前のキャサリン聖女。その身体は、心臓を無くした状態で、今も神殿に保管されているよ」
私は思わず、言葉を失う。
「私と同じ名前?」
「ああ、それは初代聖女にあやかろうと同じ名前をつける人が多いからね。」
クルトは特別問題と思っていないようだ。
「ねえ、みんな?普通心臓を無くしたら人は、聖女だろうとなんだろうと生きられないのよ。保管ってどうやって保管するの?骨になってるものを棺か何かに入れているの?」
そう私が聞くと、みんな顔を見合わせる。
「えっ?」
そういうと、みんなその場にいたリリーと私以外は頭を抱えてうめき始める。
「......も、もしかして、みんなそれを疑問に思ってなかったんじゃ......トーマス、大丈夫?しっかり」
リリーが、そういいながらそばにいたトーマスの体をさする。
「認識阻害?魅了?」
私は、急いで手を組みその場の浄化を試してみるのだった。




