24 賢者の石というテンプレ
「命を代わりに......引き受けた?」
荒唐無稽な話を聞かされて、私は眉間に皺を寄せた。
そんな、「代わりに行ってきて!」「いいよ!」みたいなノリではないことはわかる。
「聖女が元々永遠の命を持っていた......ということですの?」
「ええ、そうです。初代聖女は長くこの国、いや、世界を守ってきました。その命と役割を引き受けることで、私は初代聖女への愛を示し続けているのですよ」
なんてこともないように軽くクルデラは話す。
だが、言っていることも胡散臭いし、ずーっと心のこもらないハリボテのセリフをきいているみたい。
ただ、荒唐無稽といいながら、同時に話を聞いて納得できる部分もある。
クルデラを一目見た時に「色を感じない」と思ったのよね。
それを聞いた今なら納得できる気がしますわ。
この人には、人としての命の煌めきや生命力というか、泥臭さを感じないんですもの。
「それは......初代聖女とあなたは恋仲だったということかしら?」
恐る恐る聞いてみると、
ふふっ── クルデラから笑い声が漏れる。
「初代聖女様に対してそんな俗世である恋情の感覚というものでは動きませんよ。見返りは求めません。少しでも初代聖女様の目に触れるところにいたい。お世話をしたい。気に入っていただきたい。そんな感じでしょうか?」
クルデラは、楽しそうにうっとりと、まるで神を崇め祀っているかのような顔を隠さない。
私を見る目や聖女に対して異常な執着を感じるのは、聖女を通して、その初代聖女を見ているから?
うわぁ......きもち悪い
「でも、目をかけてもらっても、人の時間なんてすぐ過ぎるし、彼女のお世話をする私の代わりなんてどれだけでもいるんです。
一方で、それらを受け入れる初代聖女も同じです。どんなに可愛がるものを見つけても、みんなすぐに歳をとって見栄えも変わりますし、寿命もありますからね。私は、そんな初代聖女から頼まれて、憂いを代わりに請け負うことにしたのですよ」
わたしは、ゾッとする会話のように、嫌な予感がしていた。
「もらってくれる?」
「どうぞ」
そんな甘い話ではなく、人の命の話なのだ。
そして、永遠の命を持っていた初代聖女はどこに行ったの?
クルデラはふふっと笑った。
「賢者の石。聞いたことないですか?」
「賢者の石......聞いたことだけよ。リアルの世界でみたことはないわ」
それを聞き、クルデラは満足そうに頷いた。
「ここでも一緒ですよ。そんなもの.....見たことある者ばかりだと困ります。」
そうでしょうね。
でも、永遠の命に「賢者の石」
……嫌な予感しかしないワードだわ。
そんな話をリアルに聞くなんて...
というより──
その賢者の石を誰がどう作って、どう扱ったの?
わたしは、クルデラの話から、考えただけで胃が痛くなり、頭を抱えたくなる。
「まあ......またこの話はのんびりやりましょう。それよりも、私はあなたからゾクゾクする魔力を感じているのですよ」
クルデラの目線は、一直線に胸元を見ていた。
一挙一動ね......
服が透けたような気分になり、肌が粟立つ。
「年頃の女性の胸をジロジロ見ないでもらえるかしら。思わず、その初代聖女様ではなく、私に魅力を感じているのかと誤解してしまいそうだわ」
ふんっ、とわざとクルデラの愛なんて、俗世の恋愛と一緒だと鼻で笑ってやる。
だが、クルデラは、ご期待に応えられないのが残念とばかりに肩をすくめた。
「おや、失礼しました。ですが、わたしは老害と言われるお爺さんのようですから、キャサリン様が魅力的でもそちらに関しては全く。
私が今も愛を注ぐのは初代聖女だけで、それはあなた方、ただの聖女と一緒ではないのですよ。そうですねえ、関心があるのはその、あなたの胸元から発する聖女がまとう魔力だけです」
クルデラは、小娘には関心はないと言わんばかりに、淡々と述べていく。
ほーっ、「ただの聖女」に言ってくれるじゃないの。
「聖紋が服を着ていても見えるわけね。あーやだやだ、スケベじじいね。でも、ただの聖女が、力をあなたたちのために使うかどうかは別問題じゃないかしらね。」
私は腕を組み、イライラとクルデラを睨みつける。
クルデラは肩をすくめて、意味ありげに微笑む。
「おや?いいんですか?あなたの魔力は、腕輪を嵌めても吸収しきれないほど魔力が体から迸るようだ。」
そう言われて、一年前にクルデラから嵌められた腕輪をみると、ぼんやり光っている。
最近は、アーサーやクルト、そしてクルデラと氷魔法を扱う訓練をしていたから光るようなことはなかったのに......
再び自分の魔力をコントロールできないことにたじろぐ。
それを見て意味ありげに、クルデラはわたしの腕輪のはまった左腕を持ち上げた。
「なんでも......先日、リリー様から聞いたのですが、この世界はリリー様の知っているゲエムの世界らしいのです。」
「ええ、そうらしいわね。私はやったことがないからわからないけど、この世界は誰かがありがちに作ったパターンばかりで出来た世界みたいよ。」
シナリオ通りに動けば良かったのだろうけど、私がテンプレをぶち壊しているから、もはや世界観だけ残った別物だろうけどね。
自分たちがそんなストーリーの中で生きているってどんな感覚なのかしら?
もっとも、私たちが前にいた世界だって神かだれかが作った世界かもしれないけどね。
「でも、そのゲームをわたしがしなくても、ありがちなパターンだってわかるんだから、この世界を自分で変えてやろうっていう気概のあるやつはいないものなのかしらね?」
わたしが世界を変えてしまうかもよ──
そのまま言いなりになってたまるものですか。
それを暗に伝えてみる。
だが、クルデラからすればそれがどうしたと言う感じらしい。
「そのありがちパターンによると、体の中の魔力は、溜まったままだと己の体を焼き尽くしてしまう話が多いそうですね。キャサリン様はどうですか?」
「はい?あなたの頭をかち割りたい衝動しかなくてよ。」
私はにっこり微笑む。
「確かに腕輪は光っているけど、あなたも知っての通り、だいぶキャサリンの魔法も使いこなすようになって適当に魔力は使っているわ。
仮に、ほとばしるほど魔力がたまるなら、パターン通り、魔物を沢山屠らないといけないとか、山を一つ壊してみたとかしてもいいしね。」
そう、にっこり答えるとクルデラは「おやぁ?」と片眉を上げる。
「リリー様に聞くと、ゲエムの世界では、ヒロインが魔力を使いすぎたり、昂りすぎた後は、男性と関係を持つのは定石とか?
ああ、前の聖女のダリア聖女も、この神殿をハーレムにしておられましたからね。お好みの男性を準備させていただきますし、あなたが支配下に置いた男たちもこの国ではなかなかよい男性ですよ」
そのクルデラのセリフに、
「はあああああああっ?」
思わず叫んで聞き返す。
リリー!あんた、死ぬ前に、なんでそんな18禁ゲームみたいな世界にハマってるのよ?
真面目に闘病しなさいよ!!
わたしは唖然として、わなわなと震えるのだった。




