19 私たちは召喚された
国王は人払いをして、私たちを謁見室ではなく、応接の間に呼んだ。
クルトの父である宰相、それから先ほど謝罪に駆けつけた総司令官、そして、見たことのない男性が呼ばれており空気は緊迫している。
「マグナカルタ公爵、そしてキャサリン嬢、アーサーの父として多くの無礼という言葉では済まない息子の不始末の詫びをしたい。」
国王は目を閉じ、少しの間沈黙を守る。
そして、
「キャサリン嬢、そなたの怒りは当然のことだ。今後は、名誉の回復に努め、あなた方の求めることの意に沿うようにさせていただきたい」
アーサー、クルト、そして私に魅了を解除されて、今にもお父様から殺されそうな冷気を浴びているトーマスが、それぞれの親のそばでガタガタ震えている。
国王として頭は下げられないが、父として頭を下げたい。
ここまでが、国王の最大限の譲歩だろう。
私の意というよりは...
私はお父様とお母様を見つめた。
お父様とお母様の娘がどうなったかわからない怒りと悲しみは大きい。
彼らは、魅了に当てられ、怒りを抑えられず、キャサリンに詰め寄っただけだったとしてもだ。
キャサリンは、罪なくみんなの前で婚約破棄された上に、階段から落とされるように仕向けられた被害者だ。
二人は国王様にどう答えるのかしら?
その私の不安そうな視線を見て、二人は大丈夫だと微笑んだ。
「謝罪を受け入れるかどうかは娘と相談する。まず、確認したい。神殿、そして宮廷魔術師は、聖女召喚の儀を行った。間違いないか?」
お父様のその言葉に、私は目を丸くする。
聖女......召喚の儀......
こんなところまで、知っているパターンが。
たしか、勝手な都合で聖女として召喚された異世界人が、召喚された世界で無双する...アレか!
ここは私が知っている物語のパターンばかり続く歪んだ世界だ。
自分は聖女が持っている力を使える。
そのパターンでここにやってきた可能性しか浮かばない。
お父様から睨まれた見知らぬ男性一人が、ゆっくり顔を上げる。
男性は色で表すなら全身白だった。服も、髪も、肌も。うっすら色がついているのは唇のみ。
影すら存在しないような、ふわふわ浮き世離れした存在。
「マグナカルタ。君の怒りは当然だろう。だが、せめてキャサリン嬢に挨拶をさせてくれ」
そう男性は、私の元に跪いた。
「私はこの国の宮廷魔術師団長をしているクルデラ=アドバインだ。キャサリン嬢、いや本当の名前を伺ってもいいだろうか」
クルデラは、彫刻のような美しい顔で、うっとりと私を眺める。その姿に、ぞっと身の毛がよだち、半身を後ろにそらした。
「名前?あなたに伝える名前なんてないわ。自己紹介も不要よ。お父様の質問に答えて。あなたは、聖者召喚の儀をしたのかしら?」
私は、ぞわった理由が少しづつわかってきた気がした。
まだ、魔力のコントロールすら全くできない私にもわかる。
この部屋の中で圧倒的な支配力を持っているのは、国王ではない。
この男だ──
何かをしたわけではないのに、空気が変わる。
宰相も、総司令官も、お父様も、お母様もクルデラの言葉を遮らない。国王ですら。
それが、この男の立場を物語っていた。
心の奥のキャサリンが警鐘を鳴らしている。
この男には、逆らってはダメ
そんな感覚がまとわりつく。
「そうだね。召喚の儀は、王宮魔術師である私と国王と相談の上行った。理由が聞きたいかい?」
私は静かに、クルデラを睨みつけながら頷いた。
「理由が聞きたいということは、君がいた国には、魔物が出たり、瘴気はきっとないんだね。この国は、魔法が使える国でね。魔力が使われるたびに瘴気が生まれる。それを浄化する存在が必要な国だ」
瘴気.....
魔物が出る沼から、瘴気が排出される映像が頭に浮かぶ。
テレビ...漫画...どうやら、これもパターンでしてよ。
ちゃんと記憶にあるわ。
そして、浄化...これも聖女とセットで記憶にあるわ
額から汗を流しながらクルデラの続く言葉を待つ。
「それができる聖女が、一年前に崩御した。崩御後は、瘴気はたまる一方で、それが貯まりすぎれば魔物が現れる。
だから、聖女を召喚する事にしたんだが......滅多にやる術じゃないからね。前回の記録をもとに私は召喚の儀を行った。それが大体今から半年ほど前のことだ」
「半年?」
そばにいて下を向いていたアーサーが、クルデラの言葉を反芻する。
そう聞きたくなる理由はわかるわ。
私が階段から落ちて、記憶がなくなったのは、ついこの間だ。まだ、召喚されず、元のキャサリンがいたはずよ。
「ええ、半年前に私は、1回目の召喚の儀を実施したのです。ですが、召喚は難しい術でしてね。召喚落下地点から新たな魔力を感じる人物は現れませんでした」
「召喚落下地点は、何処だったのですか?」
「あなた方が通う学園の祈祷場ですよ。でも、学生人数や職員の数に変化もない。魔力が変わったものもいない。完全に失敗でした」
クルデラは眉間を揉みながら苦しそうに答える。
だが、私はその言葉に一つの可能性が浮かんだのだった。
「アーサー、リリーの存在をあなたが認識した時期はいつ頃なの?」
残念ながら半年前のキャサリンの記憶も、半年前の私の記憶もない。一度行った召喚で、誰もが召喚されなかったのは本当なのだろうか?
アーサーは私の言いたいことがわかったように、頷いた。
「キャサリンが疑っている通りだ。リリーが私の周辺に現れ、転んだり、物を落としたり、色々相談をかけてくるようになったのは今から半年前の事になる」
なるほどね...
アーサーの言葉を聞きながら、私は思案していた。
リリーは転生者。
それは、召喚の儀で連れてこられた人物に間違いないと思われた。




