14 あなたは誰のもの?
「ひどいわ。キャサリン様は、私がこの学園でお友達を作ったり、お勉強することを気に入らないんだわ。でも、だからってこんな酷いことをします?」
リリーは涙をこれでもかと流しながら、まるで下手な女優が演技するかのごとく、両手を広げて私が酷いことをするとアピールしてきた。
その声に、周囲の人たちも何事かと集まってきているし、ガタイのいい男が、目力で殺せるものなら殺してやると言う勢いで私を睨みつけている。
このガタイのいい男がトーマス...ね。
私の階段転落に追いやった男。
許すまじ!
奥歯が軋むほどの憎しみが私の中にせりあがってくる。
これは、キャサリンの怒りだわ。
だが、今、みんなの目はあきらかに一目見てわかる破れたノートや教科書が噴水にぷかぷかと浮いている。
一旦冷静になれ!こっちの始末が先だわ。
私は大きく息を吸った。
この場所は、靴箱からも教室からもかなり離れているし、表側の舗装された綺麗な通路に比べて、足場も悪く、日当たりも悪い。
リリーから隠れるために裏口を使った私たちはともかく、普通に教室や帰宅するなら通る場所じゃない。
それなのに、リリーはこんなところで騒いでいる。
大声で叫ぶから、みんな寄ってきたけど...
どう考えても意図的にみんなを集めるために騒いでいるようにしかみえない。
なのに、誰もそれを疑問に思わない。
ここで、私が感情的になったら、彼女の思う壺ね。
私が階段から落とされた時に、みんなが自分で落ちたのだから仕方がないと思った状況と似ている。
周りが魅了されている?
チラリと見るが、現時点では叫び声をきいてなにがあったのだろうという野次馬だけだ。
「おいおい、リリー、キャサリンは犯人じゃないよ。キャサリンはずっと俺やクルトと一緒にいたんだから」
その空気を破るように、アーサーは、トーマスの視線を遮るように私の前に立つ。
すると、リリーはまるで無理をして悲しみを抑えてますといわんばかりに、苦しそうな微笑みをして、大きな声で叫んだ。
「アーサーは、やっぱりキャサリン様の味方するしかないんだね。キャサリンなんて好きになったことはない。親に言われただけで、本当に好きだったのは君だけだって言ってくれたのは嘘だったんだ。私のこともう嫌いになっちゃったのかな?」
「そ、それは...すまない。正直、どうかしていたと思う」
ほーっ、否定しないところ......そう言ってたわけね。
まあそう言うしかないわ。
ここで、みんなの目の前で、君が魅了していたせいだろうなんて言えないか。
だが、周囲にざわめきが起きる。
「アーサー様、やっぱりリリーと出来てたんだ」
「リリー様は弄ばれただけだったってこと?やっぱり平民だもんね」
「でも、こんなふうに浮気を聞かされるキャサリン様もお気の毒ね。愛されていると思っていたんでしょうにね」
こそこそと話す中に少し嘲りの笑いも含まれる。
なるほど...
憐れみ、蔑まれると言う精神的攻撃二段構えですのね。
地味な嫌がらせですこと──
さて、売られたケンカは買いたいところだけど、残念なほどにアーサーに心が動きませんのよ。
「あら?アーサーとクルトを可愛がってくださったようでありがとうございます。二人の気の迷いなのに、その気にさせちゃってごめんなさいね。ちゃんと二人は躾けておきますわ」
ふふっ
わたしは、俯瞰した無表情でリリーを眺める。
わたしを庇おうと目の前に立ったアーサーを手で留めて、わたしはリリーとトーマスの真ん前で仁王立ちになる。
「ですけど、良かったわ。リリー様を弄ばれてしまって気の毒に思っていたんですけど、すぐ次の男性が守ってくださっているのね。」
ちらっと、トーマスを私が見ると、みんなの目も一斉にトーマスに動き出す。
「ほんとだわ。この短期間で次から次へと」
「どんな手を使ってらっしゃるのかしら?」
「嫌だわ、この間までアーサー様とクルト様だったのに.......そんなに殿方とお知り合いになるものかしら?」
身持ち悪くね?お前?
そんな感じが伝わるといいのですけど...
そのまま、野次馬の蔑みはお返しするわ。
「トーマスは友達だよ。ひどい。私がアーサー様を取ったからって、色仕掛けをしてるみたいな言い方して!」
キッと怒りに震えつつ、リリーの目はギラリと光り、睨みつけてくる。
あら?ちゃんと伝わったわ。どうやら...この目が地ね。
しかも、アーサーを取ったと発言するあたりがお前より上というマウントなんですよね。
でもねぇ...
わたしは、念の為にアーサーの頬をするっと触るが、それだけで、みんなから、きゃーっと小さな叫び声が上がる。
指先は、アーサーの頬から顎で止まり、アーサーは避けもせず、ぐっと声を堪えている。
「あら?わたしは取られたのかしら?ねえ、アーサーは、誰のものなの?」
わたしはみんなに聞こえるように、目の前で、アーサーの顔を指で撫で続ける。
アーサーは、顔を真っ赤にしながらも
「お、俺は...キャサリンの...ものだ」
はい、よくできました。
「きゃーーーっ!」
悲鳴が上がり、リリーは信じられないという顔をして、手は血管が浮き上がらん勢いで握りしめられ、震えている。
そんな中、空気を読めない駄犬が一匹。
「ダメだぞ!アーサー。俺だって、キャサリン様のものなんだからな!」
クルトもそれに乗っかり、俺も撫でろと顔を見つめてくる。
ふふっ。えらいえらい。
あとでヒールでツンツンしてあげるからね。
「な、ならば、アーサー様やクルト様が、キャサリン様と一緒にいたというのはなんの証言にもならないわ。それに、仮に一緒にいても、その間に人にやらせた可能性だってあるんだからね」
「それ以前に...」
わたしは首を傾げ、扇子を口に当てる。
「なぜわたしがやったといいますの?かわいいアーサーとクルトがあなたに尻尾を振ったのは、気の迷いだったと認めているし、私も小さな失敗ぐらいは生きていればあると思っておりますの。それなのに、あなたを気にしなければならない根拠はあるのかしら?」
「ほらっ!そうやってお前なんて目に入れるような存在じゃないって平民差別をするんだよ。トーマス!トーマスはみたんだよね?」
「ああ見た。お前のシルバーブランドの髪をな!」
ん?
シルバーブロンドってなんだよ。
プラチナブロンドの間違いでしょうよ。
そこから間違いを訂正しなきゃならんのかい!
「なるほど。ところで、なぜ私の髪の毛がシルバーブロンドだと?」
私はカツカツとトーマスの元に近づいていく。
白髪じゃあるまいし。
ちゃんと私の髪の色を見なさいな!
「なんでって!みんなお前の髪はシルバーブロンドだと知っているはずだ。」
「そうなの?ちょっと、そこのモブ!ああ、そうよ。そこの女!あなたよ」
なぜか私の口からモブという言葉が出てくる。
モブ??
前もそんな単語が頭に浮かんだのよね。
とりあえず名前も知らないただ見てるだけのあなたよ。
「は、はい。私ですか?」
おどおどとした女子生徒が、私に声をかけられて恐る恐る返事をする。
うん、すぐに忘れそうな顔立ちだわ。
「そう、あなたよ。私の髪の色を言葉に表してご覧なさい」
「へ?キャサリン様の美しい御髪を??そ、そうですね。プラチナブロンドかしら」
わたしは、「下がって良くってよ」と声をかける。
同じ行動を3人に行い、みんなわたしの髪はプラチナブロンドだと言った。
「何が言いたいかわかるかしら?トーマス様とおっしゃるそうね。あなたはシルバーブロンドという髪の色を誰から教えてもらったのかしら?わたしは銀がかった金髪に見えるのかしら?」
「リリーが俺に教え間違えたというのか?」
「あーら、飛んで火に入る夏の虫とはあなたのことね」
ふふっと笑って、トーマスを見る。
「誰もリリー様が教えたのだとは言ってないわよ。でも、シルバーブロンドの髪の女が犯人なら、私は関係ない3人に聞いて3人共違う髪色を言うんですもの。この学園のシルバーブロンドの方を探されてみては?」
世の中にシルバーブロンドは、ブロンドの髪に白髪が混ざった状態よ。全く──
だが、リリーは、まるで雷を受けたかのような顔でじっと私を見つめている。
あら?自作自演がバレたとでも言う顔...とも違うみたいな?
「リリー、大丈夫か?おいどうした?」
「モブ...モブですって?」
リリーはうわごとのように呟く。
あら?先ほど私が、なぜか見ている群衆に対して発した単語でしてよ?
なにかしら?モブ...さん?の知り合い?
モブ...だと言われたと思った?
私も、リリーのそのショックを受けている反応に、思わずたじろぐとトーマスが、リリーの肩を抱き、わなわな震え出した。
「お前、ふざけんなよ!言葉尻を捉えて、どれだけリリーを追い詰めたら気が済むんだ」
まずい。トーマスの目がすわったわ!
そう思った瞬間だった。
ドンッ!
ばしゃーーーん
へっ?
わたしは背中から尻餅をつく形で、噴水に叩き落とされたのだった。




