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乙女ゲームの悪役令嬢に転生したので、攻略対象を犬にしてシナリオを全部バグらせます  作者: かんあずき
聖女編

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10/30

10 魔法が使えない

「キャサリン、いくらなんでもやりすぎだ。」


アーサーはすっかり犬と化したクルトを見て、蒼白になる。


「クルト!お前どうしたんだよ!」


そうクルトに対して叫ぶが、本人は恍惚としているので、腹立たしそうにアーサーは私を睨みつける。


「あら?あなたクルトが羨ましいの?自分の仮面をひとつ剥がせば、クルトみたいに新たな世界が広がるわよ。

わたしは犬は一匹いればいいけど、どうしてもというなら多頭飼いしても良くてよ?」


この程度で、やりすぎなんて...

キャサリン舐めるなって感じよ。

あんたたちの方がよっぽどやりすぎたと気づいて欲しいものだわ。


だって、私は、王子と宰相の息子を駒にしたにすぎない。


あら?でもこの国のトップ2の子息か?

なんか充分なような...

まあいいわ。


「クルト、お前の主人は誰?」

「俺の主人はキャサリン様です。あのぉ、ご褒美は?」


わたしはツンとしてクルトに言い放つ。


「今日のリリーの報告をしなさい」

「はい。そうしたらご褒美は?」

「そうね。内容次第かしら?」


クルトは、すっかりわたしの犬となり、今日も私にヒールの先でツンツンしてもらいたがる。





「今度は総司令官の息子?」


「アーサーがいなくなりましたし、俺もキャサリン様の犬ですからね。一気にトーマスが表に出てきました」


総司令官は、騎士団を取りまとめているそうで、トーマスはその息子に当たる。


筋肉は裏切らないをモットーに、同年代より一回りおおきな体つき、暇があれば筋トレ。

趣味は、剣のコレクションを眺めること。


なるほどねぇ。また個性的ですこと。


「ふうん。しかし、次から次とよく彼女のナイトが登場するわね。貴方たち二人から見てリリーはどこが魅力的なの?」


わたしが腕を組んで、ソファーの背もたれにもたれかかりながら聞くと、アーサーとクルトはお互い顔を見合わせる。


「いや、それがわからなくなってきた」


アーサーは、困惑の顔を浮かべ、顎に手を当てて真剣になやんでいるようだ。


「なんていうんだろうな。当たり前のように見えていたリリーの姿がぼんやりと歪んで、そういえばこんな顔だったなっていう感じなんだよな」


「貴方、薄情を通り越して、本当に真実の愛が軽すぎるタイプね。」


浮気は繰り返すとは言ったものの、思わず呆れてしまう。


「いや、でもキャサリン様、アーサーだけじゃなくて俺もなんですよ」


クルトは、うーんと首を傾ける。


「キャサリン様に犬になれと言われたところまでは屈辱だったんです。でも、首をすーっと触られたじゃないですか?あの瞬間、俺の何かがパリンと割れて、キャサリン様しか目に入らなくなってしまったんです」


「それは違った嗜好に目覚めただけよ。」


わたしは冷たく言い放ちながら、呆れた目でクルトを見下ろす。だが、クルトはその目にうっとりしているだけだ。


はぁー、つける薬すらないわ


「あなた婚約者がいるんでしょう?早めにご自分の嗜好を知ってもらって、婚約者様に躾けていただいた方がいいと思うわ」


今度はわたしがクルトに言い寄っていると思われるのはごめんだし、犬は欲しいけどクルトが必要なわけではない。

浮気もDVも繰り返すが自論だ。

もちろん、繰り返すなら使い物にならなくするだけだが。


「ああ、それすでに破談にされました...キャサリン様をみんなの前で突き飛ばしたのが噂になってしまったようで」


クルトは少し目を泳がせた。

私にも婚約者にも悪いことをした自覚はあるらしい。

良いことだわ。


わたしは、ふーんと頷いた。


「まあ、確かに...婚約者様のご両親もそんな婚姻は嫌よね」


どんなに我が家が動かなくても、貴族の世界もビジネスの世界でも、噂や評判で動く人たちはたくさんいる。


あれ?頭にズキンと刺激が入る。


ビジネス??

私は働いていた気がする。

ビジネスとかサレ女とかわからないワードが頭をガンガン。


いててててっ!


だが、そんな頭痛に顔を顰め、苦しそうな表情を見せる私をみたクルトは壮大な勘違いをしたらしい。


「ああ、誤解がないようにしてください。俺はキャサリン様の犬となれて幸せですし、両親も婚姻も大事だが、キャサリン様のお気に入りの犬になることはもっと大事だと言っておりますので」


クルトは、慌てたように私を見上げ、言い訳を始める。


後継つくるよりも、我が家に嫌われる方が怖いってどんな極悪公爵家なんだか?


ただ...気になるわねぇ。


「ねえ、二人とも。ここは魔法が使える世界なのよね」

「ほんとにキャサリン様、記憶がないんですねえ。あれほどの氷の魔術師だったのに」

「その、氷を使っている記憶すらないのよ。ねえ、魔法ってなんでもありなんでしょ?だとしたら、魅了とか、幻惑とかにかかっていた可能性はないの?」


私がアーサーを見ると、ハッとしたようにわたしを驚愕の目で見つめる。


このパターンのヒロインは、魅了系多いからね

で、悪役令嬢は、聖女の力でそれを助けてあげる...


あれ?そんなパターンだっけ?

頭が痛くてパターンがわからなくなってきたわ

私は眉間を揉みながら、必死に記憶の断片を探そうとするのだった。




「とりあえず記憶にないんだから、一から勉強だな」


恐ろしいほどすっからかんになった頭だが、キャサリンは勉強熱心だったらしく、ノートにまとめているものは残されていた。


その几帳面な文字が、わたしの空っぽの記憶の泉に吸収されたように入っていくが、パズルのピースが転がっているような状況だ。


「キャサリンが戻ったら無駄だけど、テストがあるし、勉強もやらないと仕方ないわよね。」


私は、手を抜くのが嫌なタイプらしい。

ああ、今日からまた受験生みたいな生活に戻るのね。

そう、心が嘆いている。


受験生??勉強する人を受験生と呼んでいたのかしら?

この世界にない単語がたくさん出てくるのだから、やっぱり、別の世界にいたんでしょうね。


「例えば地理なんかも初めて見る世界地図でしょう?それぞれの気候や農作物など聞かれても、その農作物すら、初めて知るのよ。だから、分からないから全く頭に入ってこないし、魔法もいろんな呪文は覚えたけど、どうやってその呪文から氷を使いこなしていたのかわからないのよ」


わたしは二人に困っていることをとりあえず伝えてみる。


「魔法だったら、テスト範囲ぐらいのレベルなら、俺たちも手伝えると思う。」


そう、アーサーが言うので、出来なくなったことを周囲に知られないように、まずは我が家で二人の前で訓練してみる。


だが、強度がわからない。


「イェーゲル アイス!」


杖を振り、呪文を唱える。

簡単な目の前のコップの水を凍らせる方法だ。


だが──


迂闊に、クルトの大事な急所を凍らせてしまい、急いで氷を叩き割ろうとしたら、アーサーに止められる。


「ダメだ!ゆっくり溶かすから。そっと杖を置いてくれ!」

「くぅぅううう!」


まあ、それはそれでクルトにはいい刺激だったらしいが......

アーサーはキッパリわたしの顔を見て言う。


「諦めよう。先生方も、隠すより、記憶を取り戻そうとして努力している方が心証がいいだろう。放課後は図書室で勉強しよう。」


わたしも、そうねと呟く。

さすがにやった記憶もない魔法を体に思い出させるのは、時間がかかるかもしれない。


「家には、学生用の書籍がない。もう少し初歩的なことや呪文をたくさん読み込めば、どれか一つぐらい思い出すかもしれないだろう?俺も教えられるところは教えるし、クルトも宰相の息子という肩書きは伊達じゃない」


「そういわれてもクルトの肩書きの結果で、私は突き飛ばされたのだけど...」


まあ、急所を凍らせたからどっちもどっちね。

私は、仕方ないかと諦めようとする。

だが──


「たしか、図書室は最近、リリーも出入りしていると思いますよ。魔法が使えない今、接点を持つのは厳しいんじゃないですか?」


クルトが心配そうに言う。

間違えて、リリーを凍らせたら...


それはスカッと...じゃなかった。

完全にいじめっ子の構図になるわ。

わたしたち三人は顔を見合わせた。




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