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ループ

作者: しのぶ

「昨日はさぁ……京都旅行に行ってきたんだ。写真見ない?」


 俺は同僚の門崎(もんざき)に言った。


 しかし門崎はどこか上の空のような調子だった。


「ああ……うん……」


「……でこれは嵐山の写真で……どうした?何か具合でも悪いのか?」


「いやそういうわけでは……なあ八谷(はちや)、変なことを言うだろうが聞いてくれるか?」


「ん?何だ?」


「実は俺……ループしてるんだ」


「え?」


「俺はこの9月22日の月曜日を何度も繰り返しているんだ。お前のその写真も……もう10回は見たんだ。信じてもらえないかもしれないが」


「おいおい……何言い出すんだよ……」


「本当なんだ。だからお前に協力してもらいたいんだ。このループから抜け出すために」


「はぁ……それで、仮にループしてるんだとして、抜け出すってどうすればいいんだ?」


「それは正直俺も分からない。なぜこれが始まったのかも分からないんだ。でも何か普段とは違う行動を取らなければならないはずなんだ」


 しかし、そんなことを話している間に休憩時間が終わりそうになっていた。そこで門崎は言った。


「今日帰る時に会社の前のあの十字路で待っていてくれないか。色々試したいんだ。頼むから来てくれよ」


「あぁ……うん」


 俺はそう返事したものの、まだ半信半疑だった。当然と言えば当然だが、にわかに信じられる話ではない。門崎が何かの冗談でこんなネタを仕込んでいるのではないかという気がした。エイプリルフールにしては季節が違い過ぎるけど……


 そんなこんなで門崎と別れたものの、その日の仕事をこなしているうちについループの話などは忘れてしまった。家に帰りかけた頃に思い出したが、今さら戻るのもなぁ……と思って門崎に“まだ十字路にいるか?”とメッセージを送ったが、返信がなく既読もつかないので、やはりイタズラだったのかと思ってそのまま帰って寝てしまった。



 次の日、また会社の休憩時間になった頃に昨日の門崎の話を思い出したが、既に次の日になってしまっているわけだし、やはりループなどは門崎の冗談だったのだろう。もしかしたら俺に話したことがきっかけでループから抜け出せたのかもしれないが、そんな簡単なことで抜け出せるものなのだろうか?

 ちょうど門崎が来たので、俺は言った。


「よう、ループはどうなったんだ?」


「え?ループ?」


「そうだよ昨日言ってただろ?22日が何度もやってくるとか……」


「そんなこと言ったか?気のせいじゃないのか」


「はあ……」


 どうやら言った本人も忘れたらしい。そう簡単に忘れるような話でもないと思うが、本人もだいぶ軽い気持ちで言った冗談なのだろう。


 そんなわけで、その後も俺は門崎との関係も特に変化なく日々が過ぎて行った。


 そうして次の年になって、また9月22日が近づいた頃に、俺はふと去年の門崎の話を思い出した。そう言えば去年のあいつはループしてるとか変なことを言っていたな……と思って、家に帰ったあと俺は去年門崎に送ったメッセージを見直してみた。あの時は結局既読もついていなかったけど、あのあと見たのだろうか?と思ってさかのぼってメッセージを見た俺は驚愕した。


“まだ十字路にいるか?”


“なんで来てくれなかったんだ?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

もう遅いまたループが始まってしまう。もう時間がないのに頼む今からでも急いで来てくれ。今ならまだ間に合うかもしれな”


 門崎のメッセージはそこで途切れていた。


「えっ……何だこれは……こんなの見た覚えないぞ……それにあいつは次の日に“ループ?そんなこと言ったか?”なんて言ってたけど、とぼけてたのか?こんなの送っといて……」


 そこで俺はふと思い至った。


 仮にこの世に同じ日にループする現象が存在したとして、それに気づいている者はループを認識するけど、それ以外の者はどう認識するのか?

 実際には何度も繰り返しているのにそれを認識しないまま忘れているのだろうか?それとも……


 実際にはループしているのはそれを認識している者だけで、他の者はループしていないのではないか?


 だとしたら……「あの門崎」だけがあの日の中に取り残されていてループしているのであって、あの日以後の門崎や俺は、そのままその日を通り越して普通の時間の流れの中に生きているのではないか?


 そして……「あの門崎」は今でもあの日の中に取り残されていて、今もループし続けているのではないか?あの日の中に取り残されて同じ言動を繰り返している、もう一人の俺と一緒に……

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