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時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「火曜日」

アミカナの火曜日の夜:夢を叶えた者

作者: 刹那メシ
掲載日:2025/12/01

火曜日の夜は、本編第5話「彼が日曜日に見たもの」の後の出来事になります。この日から、アミカナは志音の家に滞在しますが、取り乱した志音は眠らされてしまい、アミカナだけの夜となります。その時の彼女の心情を描いてみました。

挿絵(By みてみん)


<火曜日>

 アミカナは、ベッド脇の床の上で膝を抱え、頭から毛布を被っていた。今日は、様々なことが一気に起き過ぎた。

 志音が、あの球体の時間転送の瞬間に居合わせていたとは……彼女が彼に声をかける前から、彼はこの歴史改変に巻き込まれていたのだ。そんな彼と接触できたことは、この上のない幸運であったが……アミカナは身震いした。そんなことがあり得るだろうか?……彼と出会ったこと自体が、何かの計画の一部なのでは?……そんな疑念が頭をもたげる。

 彼女は顔を上げると、彼を振り返った。志音はベッドの上で寝息を立てていた。彼女が吹きかけた麻酔ガスがしっかり効いたようであった。まあ、少なくとも、彼自身が何らかの計画を把握しているとは思えなかった。

 そして、百貨店での惨事。あの時、あの場でアトロポスを起動していなければ、事態は違ったのではないか……あれは本当に必要だったのか?……彼と話す中で、舞い上がっていたのではないのか?……それは、彼女が最も直視したくない可能性であった。『二度とないからこそ、選択は尊いの。迷っても、後悔してもいいけど、何度もやり直せるのなら、選択する意味はないわ』……彼に対して偉そうなことを言ったが、あれはしっかり考えた上での選択だったのか?……その上、その後のドローンの撃ち漏らし……。彼女は頭を抱えた。

 ……大丈夫。任務を遂行できれば、何もかもなかったことになる……

 自分自身を慰めることを試みる。しかし、もし、任務を遂行できなければ……この歴史が定着してしまえば、私の選択は、一体何人の人の命を奪ったことになるのか……。そして、それをきっかけに、球体の監視は警察から軍隊の手に移り、より一層近付き難くなっている。

 ただでさえ歴史改変の全貌が見えていない中で、自分はメタクニームの計画にまんまと踊らされ、更には自らの不注意で、悉く間違った選択を重ねているのでは……。そう思うと、息ができなくなった。うずくまって胸を押さえる。

 ……誰か、力を貸して……

 禁断の言葉を発しかけて、彼女は自身の額を拳で叩いた。強く目を閉じる。それだけはダメだ!……いや、助けを求めたところでどうにもならない……私がやるしかないのだ。

 彼女は喘いだ。呼吸など必要ないのに、息を吸わずにはいられない。昨夜とは比べ物にならない不安に襲われて、彼女はTシャツの胸元を両手できつく握りしめた。

 背後に、彼の寝息が聞こえる。アミカナは、目を瞑ったまま、暫くそのゆっくりとした寝息を聞いていた。

 傍に人がいる……自分のことを知った人が……ただそれだけのことなのに、少しだけ、不安が薄らいでいくような気がした。この苦しさを分かってくれなくてもいい。ただ、傍にいてくれるだけで……。この雑然とした小さな部屋も彼女の世界ではなかったが、彼の息遣いが、彼女がここにいることを許してくれているようにも思えた。不意に、彼に抱き付きたい衝動に駆られる。色っぽい理由ではない。もっと根源的な、何かにすがりたいという欲求だ。彼女の拠り所は、そこにしかないのだ。夜になると、こんな風に自分の弱さが溢れ出す。

「……だから、夜は嫌い……」

 彼女が呟いた時だった。

「……う~ん……」

 突然、志音が寝言を言って、彼女は飛び上がった。自らの恥ずべき衝動を見透かされたような気がした。

 しかし、彼が起きた様子はなかった。

「……もう、覚えられない……」

 そう言って寝返りを打つと、再び寝息を立て出す。

 長い時間息を止めていた彼女はようやく胸を撫でおろし、そして眉をひそめた。

 ……もう、『覚えられない』?……

「……変な寝言……」

 ……一体どんな夢を見ているのだろう?……

 ……そう言えば、彼の夢って?……

 ふと考える。日中の彼は、夢が叶わないことをひどく嘆いていた。

 自分は、狭き門を突破して夢を叶えた。だからここにいる。今、楽しいかと問われれば、即座に頷くことはできないが、それでも、これが自分の目指したことなのだ。誰にでも夢を見る資格はある。しかし、それを叶えた者には、叶えた者にしかない責任を全うしなければならない。それが、わたしのやるべきことだ。

 立ち上がって彼の机に座った彼女は、自分の左手の親指の爪を引き剝がすと、中から端子を取り出した。それをパソコンに差し込む。一瞬の間をおいて、ログインのロックが解除された。

 ……ごめんね、志音……

 パソコン画面の背景は、航空機の翼の写真だった。

 ……パイロット……かな?……

 眠っている彼を一度振り返った後、彼女はキーボードを打ち始めた。

お読み頂きましてありがとうございます。水曜日以降、二人は常に一緒ですので、これ以上は描く部分がないかも知れません。また思い付く場面があれば、番外編に追加したいと思います。作者のわがままに長々とお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。

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