地球滅亡まであと一分、友人が取り出したものとは
(一分で滅亡するのに読了時間が五分なのはお許しください)
今から十数年前。俺が小学生だった頃。
『もし世界があと一分で滅亡するとしたら、何する?』
という、質問が流行った。
給食を食べ終わってすぐに訪れる昼休み。
いつもは小さなグループごとに集まっているため分裂しているクラスが、今日は珍しく、二十人程がひとつの席に固まっているのを見た。
転校生でも来たのかと思ったが、その集団の中心の席には、明るい男子と彼に握られている心理占いの本があった。
そして、例の質問をしたのだ。
大きな声だけが取り柄の、図体のでかい男子は、おやつを食べまくる、と真っ先に答えた。
度の強いメガネをかけた、少し真面目風な女子は、お父さんとお母さんに会いに行く、と答えた。
クラスメイトの皆から人気なイケメンな男子は、好きな人に想いを伝えに行く、と答えた。
そして、クラスでぼっちだった俺、光が唯一、心を許していた友人の翔太は、小声になりながらもこう答えた。
俺は、何もしない、と。
正直、小学生の頃から斜に構えていた俺は、クラスメイトのどの意見にも賛成することができなかった。
だが、じゃあ俺は何をするんだと自問したときに、答えは出なかった。
そこでハッと気付いたんだ。
俺は翔太と同じで、何もしないんだと。
いや、何も出来ないんだと。
あれからあっという間に十数年なんだ。
ただの心理テストが、現実になってしまった。
遂にその日は訪れたんだ。
あと一分で、隕石が衝突して地球は滅亡する。
ニュースでは、キャスターが絶望といった表情を見せていた。
「……翔太。あと一分を、どう過ごそうか」
俺は分かっていながら敢えて、翔太に質問をした。
答えも、予想できていた。
「よし、ご飯食べよう」
「えっ……?」
百パーセント当たるだろうと思っていた予想が、全くもって外れていたことに、大きく驚いた。
翔太なら、何もしないで終わると思っていた。
なのに、すくっと立ち上がる姿に、なんとも言えない違和感と、置いていかれたかのような孤独感を感じたのだ。
いつの間にか、二人で陰キャしていたあの頃の翔太とは変わって、こんなにも行動力のある青年になってしまったのかと思うと、少し寂しさを感じる自分がいた。
「最後の晩餐……? まあ、意味は分かるけど……」
「最後くらい、お前と飯が食べたいんだ。お世話になったしな」
翔太のセリフに感動していた所で、『んっ?』となった。
翔太は、迷いもない手つきで、あるものを二つ取り出し、お湯を入れた。
それはまさしく、カップ麺だった。
「か、カップラーメン……? なんで?」
「ん? 光、どうした?」
「いや、それ、お湯を入れたら三分待たなきゃじゃん……」
「まあまあ、美味しいからさ。騙されたと思って食ってみろよ」
「そういう事じゃねえんだよ……! 美味しい所まで辿り着けねえんだよ……!」
俺は翔太がボケているのだと思って精一杯ツッコんだが、あまりにも真面目な表情で返されてしまったので、涙の感情が盛大に勝った。
「そんな……。翔太、最後くらい俺と飯を食べたいってさっき言ってたのに……」
「あ、俺のカップ麺は四分だ。お前だけ三分かよ。ずるいな」
「関係ねえよ……! 二人とも待ってたらもうすぐ爆死するんだよ……! ってかそもそもお前が二人分の麺を選んだんだからずるいも何もないだろ……!」
「ははっ、俺のはカップラーメンじゃなくてカップ焼きそばだったわ」
「水を切る工程を挟むじゃねえか……!」
俺がツッコミながら慟哭する中、滅亡までの時間は無慈悲にも刻一刻と近づいてくる。
その時に、改めて思い出したんだ。
十数年前、翔太が言っていたことを。
『俺は、何もしない』
やっぱりそうだったんだ。
翔太の言う通り、地球滅亡まであと一分だからと言って、何かをしなくてはならない訳ではない。
両親に会ったり、想いを伝えたりする必要なんてない。
今更焦っても意味が無いのだ。
こうやって、友人とバカしながら、時間が過ぎるのを待つ。
それが、正しい終わりの迎え方なんだ。
俺は嬉しかった。最後の一時を、友人と過ごすことができて。
孤独だったら、こんな大切なことに気付く暇もなく、静かに爆死していた。
最後の晩餐には荷が重いだろうと思っていたカップラーメンにも、約二十年生きてきた中で最もかけがえのない、風情を感じた。
翔太が言っていた、『何もしない』という言葉の意味を、十数年越しにやっと理解したんだ。
小学生の頃から、俺の最期に伏線を貼ってくるなんて、やっぱり親友の翔太には敵わないなと思った。
「翔太……お前ってやっぱり、凄いやつだな。……本当に、ありがとな。何年も、何十年も、俺と友達でいてくれて」
「あーー! カップラーメンが出来上がる前に地球が滅亡するじゃないか! 光、お前先言えよ!!」
「は?」
そして、地球は滅亡した。
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