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第4話『無双剣士との決闘』

 あれからシュバルって奴と、この訓練場で決闘することになった。


 しかし、連戦ということもあり、俺はミリアやメリルと合流して、治療を受けていた。


「馬鹿ゼロ。全くお前はホント無茶ばっかだな……」


「いやぁ~~。あっはっは。わりぃわりぃ」


 俺が右手を掲げて謝罪のポーズを作ると、ミリアは治療薬を身体の傷に思いっきり塗りたくった。


「あたたたたた! てめぇ! 何しやがる!」


 ミリアは治療薬を全て塗りたくると、俺の背中をばしっと叩いた。


「十四歳にもなってこれくらいでゴタゴタ言うな! 全く。それで今からまた怪我しようというのだろう? お前馬鹿なのか?」


 俺はカッとなり言い返した。


「馬鹿で悪かったな! 男には引けない時ってもんがあんだよ。それがいまってだけだ!」


 ミリアは呆れたように顔に手を当てた。


「あのな? なんであんな決闘受けたんだよ? 受けなきゃ向こうの剣士団に入らなくて済むじゃないか! あんな黒づくめの奴なんかほっとけば良かったのに……。本当にお前は大馬鹿野郎だよ!」


 ミリアの言うことも一理ある。


あのまま感情的に決闘さえ受けなければ、こんな面倒臭いことにならずに済んだのだ。


 でも俺はあえてこう宣言した。


「でもよぉ。あそこで逃げたら剣士じゃねぇだろ? 俺は剣聖を目指してんだぞ?」


 俺が覚悟を込めて睨むと、ミリアは手を掲げて肩をすぼめた。


「はぁ。これだから大馬鹿野郎だって言ってるんだ。まあいいさ。ならやるからには絶対に勝てよ? ワタシとの約束を違えたら斬るからな?」


 俺はどんと胸を叩いた。


「任せとけって、絶対に負けねぇから!」


 俺が自信満々にそう胸を張ると、珍しくメリルから鋭いツッコミが入ってきた。


「果たしてそう上手く行くでしょうか?」


 まさかメリルに勝利を疑われると思わなかったので反論した。


「ああッ!? だったら俺が負けるって言いてぇのかよ。メリル?」


 メリルは頷いた。


「はい。絶対に負けると思います」


 あまりにもはっきり言われたので、俺は思わずブチキレた。


「てめぇふざけんな! んなもんやってみなきゃ分からねぇじゃねぇか!」


 俺が激怒すると、メリルは手で俺を制して、落ち着いて事情を語り出した。


「確かにゼロ様の剣能も素晴らしい能力です。しかし、親友も凄腕の剣能持ちでした。天才と呼ばれるほどに。それでもあの無双剣士シュバルには勝てなかったのです!」


 俺はその言葉にとてつもないインパクトを受けた。


「無双剣士って。そんなにあのシュバルって奴はすげぇのか?」


「ええ。シュバル・シュトルーツ。あの男は異常です」


 メリルは続ける。


「無双剣オーバーパワードの剣能【オーバーパワード】は発動時に圧倒的な剣力と身体能力を自身に付与し、天才的な剣能才能を与えるという物です。シュバルは元から剣の天才なので、剣能によりさらにその天才性が増します」


 そして、メリルは最後に絶望的な言葉を告げた。


「その力は精鋭揃いの【ブレイブ・ソード】の中でも、あのグレイさんに次いで最強の剣士と噂されるほどです。つまりわたしたちなんかとは格の違う方なのですよ!」


 メリルに力説され普通なら絶望することだろう。


 しかし、俺はその絶望にすらある種の感情を抱いたので、それを吐露した。


「すげぇ。シュバルってのは、そんな強い奴なのか。くぅぅぅぅ。こりゃますます燃えてきたぜ! こりゃやるっきゃねぇよな! なっ?」


 俺がそう言うとミリアも笑った。


「あっはっは。それでこそワタシのマブダチだ。死ぬ気でかかれば超えられないことはない。ゼロ。あの黒いゴキブリ野郎をぶっ飛ばしてやれ!」


 俺はサムズアップした。


「ああ! 任せとけ!」


 メリルは呆れたように肩をすぼめた。


「ゼロ様も大概なお人ですね。一度現実という物を思い知るのも良いと思いますよ? わたしの親友に勝てない相手をゼロ様が倒せるわけがないのですから……」


 俺はメリルに一言ぶっ放してやった。


「馬鹿言うな! クソみてぇな現実なんて変えていくもんだろうがよ! それが夢を追う者の矜持ってやつだ!」


 メリルは呆れていたが、俺はこう宣告してやった。


「俺は負けねぇさ。お前が俺に惚れてるってんなら黙って背中だけ見てろ!」


 俺はそう言い残して訓練場へと戻った。


 そして、背後からメリルの声がした。


「カッコいいですぅ。んんぅぅぅぅ。わたしは、またしてもゼロ様に骨抜きにされましたぁ……」


 よく聞き取れなかったが、まあどうでもいい。


 それより今はあの黒いゴキブリ野郎との決着をつけるのが最善だ。


 俺は訓練場でじっと腕を組んで目を閉じているシュバルに語りかけた。


「おい。ゴキブリ野郎。待たせたな!」


 俺がそう宣言すると、シュバルは冷静にツッコんだ。


「誰がゴキブリだ。貴様のようなウジ虫にだけは言われたくない!」


 俺は木剣を持つと静かに構えた。


「じゃあ。本当にウジ虫か試してみろよ! 無双剣だが、土葬剣だか、知らねぇが。そんなゴキブリに俺が負けるかってんだ!」


 シュバルは冷静にツッコんだ。


「無双剣だ。あとウジ虫如きが僕をゴキブリ扱いしたことを今すぐ後悔させてやる!」


 シュバルも剣を構える。


 俺も思いっきり言い返した。


「やってみろよ。天才剣士。言っとくが俺は才能はねぇが、メンタルの強さだけは世界一だぞ?」


 シュバルは俺の言葉を一蹴した。


「精神論だけではどうにもならない真の天才の剣というものをお前に見せてやる! 行くぞ? 準備はいいか?」


「いつでもかかってきやがれ!」


「行くぞ! はぁぁぁぁぁぁっ! 剣能発動オーバーパワード――ッ!」


 俺はその凄まじい剣力と気迫にワクワクした。


「いいね♪ そうこなきゃ面白くねぇぜ!」


 シュバルは木剣を構え鬼神の如く気迫で吠えた。


「僕はお前みたいな夢見がちな馬鹿が一番嫌いなんだよ! お前に現実という物を思い知らせてやる! 剣技――渾身一閃!」


 シュバルはシュババと距離を詰めて、横一閃の剣技を繰り出してきた。


 俺はそれをあえて逃げずにわざと身体で受けた。


「がはぁッ!」


 大量の血が流れて、それでも俺はすぐに立ち上がってゴキブリを挑発してやった。


「おい。ゴキブリ。お前の剣技はその程度か? まるで鼻くそだな。あっはっは!」


 シュバルはますます剣力を高めた。


「今のはほんの小手調べだ。貴様の頑丈さも何処まで持つかな? 剣技――小龍連剣!」


 シュバルはさらに何度も連続で俺の身体を斬り裂いた。


 俺はそれを逃げも隠れもせず受け止めて、さらに流血した。


 でも笑いながら立ち上がった。


「どうした? そんな小便剣技じゃ俺は倒せねぇぞ?」


 シュバルは冷静に告げた。


「当たり前だ。貴様のようなカスはじわじわと痛みつける方が楽しい。それだけだ!」


 シュバルは次々と剣技を繰り出してきた。


 一度目は【竜連】という竜神流の中級剣技。


連続で敵を四方八方から逃がさないように斬り刻むとてつもない剣技だ。


 俺はそれも逃げずに受け止めた。


 その痛みすら俺にとって屁でもなかった。


 二度目は【爆力剛剣】という獅子王流の中級剣技。


 圧倒的な唐竹割りで相手の頭蓋骨を破壊するという殺人剣だ。


 しかし、俺は右手で受け止めた。


 骨が折れる音がしたが大したことはない。


 こんなの回復剤で治る程度のかすり傷だ。


 そして、三度目は【赤竜無双連撃】という竜神流の上級剣技。


 アクロバティックに、立体的に敵を五十回斬り刻むというとんでもない剣技だ。


 しかし、俺はそれを逃げずに身体で受け止めて、身体中血だらけになりながら、にやりと笑ってこう言った。


「なあ? それで終わりか?」


「くっ……」


 苦い表情をするシュバルに俺は大切なことなのでもう一度威嚇するように吠えた。


「それで終わりか、と聞いているッ!」


 そう威嚇したあと、俺はにやりと笑った。


シュバルはとうとう冷静さを失った。


「この化け物が! 貴様などこの剣技で完全に終わりにしてやる獅子王流上級剣技獅子一閃!」


 シュバルはとっておきの袈裟懸けを浴びせてきた。


 俺は逃げずに両手を広げて、それを身体で受け止めた。


 致死量と思われても可笑しくない流血だが、剣能のおかげでどれだけ血を失ってもすぐに傷が塞がり、血が、力が沸きあがるのを感じた。


 俺はもう一度問うた。


「おい。こんどこそもう終わりか?」


 シュバルはまるであり得ないという恐怖の目で俺を見つめた。


 そして、奴らしくない弱音を吐いた。


「そ、そんな馬鹿な。天才の。この天才の俺の剣技が効かないだと。そんな……。こ、こんなはずじゃ……」


 俺は首を鳴らして、木剣を構えた。


「よし! そっちがもう終わりってんなら、こっちから本気を出させて貰うぞ! 覚悟はいいか?」


 シュバルは必死にプライドを保とうと強気な態度に出た。


「ふ、ふざけるな! お前の攻撃など効くはずがな――」


 俺は敵が答える前にボディブローを食らわせた。


「ぐはぁッ!」


 たった一撃で片膝をつき、シュバルは俺を睨んだ。


「き、貴様何をした?」


 俺は至ってシンプルに答えた。


「お前がぼうっとして隙だらけだったから、腹に一発パンチを叩き込んだだけだぜ?」


「な……にぃ……」


 シュバルは完全に俺に恐怖している。


 俺はもうつまらなくなり、木剣を奴の首元に添えた。


「降参しといた方がいいぜ? 今ので分かっただろ? てめぇじゃ俺には天地がひっくり返っても勝てねぇんだよ!」


「くっ!?」


 シュバルはプライドから口を割ろうとしなかった。


 意地っ張りな男だ。


 もうこれ以上の言葉は無用なので、木剣を掲げた。


「だったら終わりだ。俺はお前を――」


 そして、それを振り下ろした。


「ぶった斬る――ッ!」


圧倒的に強化された剣力による一撃でシュバルはうめき声をあげた。


「ぐああああああッ!」


シュバルはそのまま気絶した。


 俺は思わず本当のことを呟いた。


「全くクソ強い癖にメンタル弱すぎだろ……」


 俺はがっかりしたよう溜息を吐くと、グレイさんが近寄ってきた。


「どうやら勝負あったみてぇだな!」


 俺はグレイさんに正直な感想を語った。


「勝負も何もねぇぜ。こいつたった一発のボディブローでビビっちまいやがった。んだよ。ようやく勝負がこれから始まるって時にさぁ。ったく話になんねぇぜ!」


「がっはっは。ちげぇねぇ」


 グレイさんは倒れたシュバルを哀れみながらぼやいた。


「まあ。シュバルの奴は、今まで自分以上の相手は、俺と三大剣士団リーダーだけだと決めてかかっていたからな」


「ふぅん。そうなんだな」


 俺が適当に返事を返すと、グレイさんはシュバルを抱き上げながら言った。


「まあ。ちぃとばかし傲慢過ぎたようだな。コイツにはいい薬にはなっただろうぜ!」


 グレイさんは他の仲間にシュバルの身柄を渡した。


 そして、再び俺の前に近寄ると、またしてもしつこく勧誘してきた。


「なぁ? ゼロよ? オレの剣士団に入っちゃくれねぇか。お前がいれば、きっと世界一の剣士団になると思うんだが。どうだ?」


 俺は思いっきり首を振った。


「お断りだぜ! 俺は俺の力で剣士団を立ち上げて世界一の剣士団にして、俺が剣聖になるんだ!」


 俺がそこまで言い切ると、グレイさんは大爆笑した。


「がっはっはっはっはっはっはっは! ゼロ! やっぱりてめぇは大した坊主だぜ! よし! ならぜってぇに剣士団立ち上げて、オレらの剣士団に試合を挑んでこい! そして、このオレを超えて見せろ!」


 俺はにやりと笑って頷いた。


「あたりめぇだろ! ぜってぇ俺がいつかグレイさんを超えてやる! そして、何が何でも剣聖になってやる!」


 グレイさんは軽く微笑し、俺に小指を差し出した。


「ほら。約束だ!」


 俺もその小指に自分のものを絡めて誓いを立てた。


「ああ。約束する!」


 漢と漢の約束だ。


 決して違えることは許されない。


 指切りを交わした後、グレイさんは一言だけ俺にアドバイスをくれた。


「そういや。オレんとこの試験を受けに来た小娘が居たんだがな。シュバルに負けたんで、不合格にしたが、あいつは相当な手練れだぞ? もし仲間集めに困るならその娘を訪ねて見るんだな!」


 小娘と言われても誰のことだか全く分からないので、グレイさんに聞いてみた。


「分かったけどよ。その小娘の名前ってなんていうんだ?」


 グレイさんは威厳のある声音で呟いた。


「シスナ・エリート。かつて過去に剣聖を輩出した名門剣士の貴族の娘っ子だ!」


「ええ!? 剣聖の子孫。そいつはすげぇや! 絶対にそいつを仲間にするよ! あっはっはっ!」


 俺が無邪気にはしゃぐと、グレイさんは不敵に笑った。


「ふっ。ゼロ。お前は剣聖になると言ったが、もしかするとそれ以上の存在になれるかもしれねぇな!」


 俺はグレイさんの言うことが今一つ理解できずに、はっきりと言い放った。


「俺は剣聖を目指しているんだ。それ以上の存在については、剣聖になってから考えるよ!」


 俺がそう言うとグレイさんはまた嬉しそうに笑った。


「がっはっは。言うじゃねぇか。まあ。精々これからも鍛錬に励み精進しろよ。技量だけならお前はまだ素人の毛が生えたレベルなんだからな! がっはっは!」


 技量のことを言われて、俺はぎくりとした。


 確かに俺は剣能と根性だけで戦っているだけで、剣技の一つも使えない。


 俺はグレイさんに宣言した。


「じゃあ。そのシスナって奴を仲間にして剣について教えて貰うよ! 親切にいろいろありがとな! じゃあな。グレイさん!」


 グレイさんはその場から立ち去ろうと背中を向けて手をあげながら別れの挨拶を口にした。


「ふふ。いつかまたお前と剣を交えられる時を楽しみにしてるぜ。強くなれよ。ゼロ!」


 俺は去り行くグレイさんに手を振りながら叫んだ。


「バイバ~~イ! グレイさぁぁん! 俺、強くなっから! ぜってぇ剣士団を作ってグレイさん超えて、剣聖になってやるからなぁぁぁぁっ!」


 グレイさんは無言でもう一度手を上げて去っていった。


 俺は何だか胸の奥が熱くなる感覚がした。


 気が付くと俺のありったけの想いが溢れ出ていた。


「いつかあのでっかい背中を超えてやるぜ!」


 我ながらちょっと感情的に成り過ぎたなと反省する。


 しかし、グレイさんが完全に立ち去ったあと、観客から大歓声が送られた。


「あ、あのガキ! グレイさんに片膝つかせただけじゃなく無双剣士シュバルまで倒しちまいやがった!」


「なんてタフさだ。きっととんでもねぇ剣能持ちにちげぇねぇぞ!」


「でもよ。剣術自体はそこまで大したことないぜ? 素人中級者レベルだぞ?」


「馬鹿言え。技術なんて後からいくらでも身に付くんだよ。大事なのはあのガキの根性が異次元レベルってことだ!」


「そうよ。どんな卓越した剣士でもメンタルが弱いせいで大成しなかった人は数えきれないほどいるわ。でもあのボウヤは最初から剣士の矜持を持っているのよ。それも剣士団でリーダーを張れるレベルのね!」


「ったく。とんでもねぇルーキーだぜ! おい! クソガキ頑張れよ!」


「そうだ。そうだ。おれらの期待を裏切るんじゃねぇぞ!」


「ガチのマジで剣聖になっちまえ馬鹿野郎!」


 色んな野次が飛んできたが、ほとんどは俺への期待と応援だった。


 これだけの剣士が俺を応援してくれている。


 その応援が嬉しくて、俺はみんなに向かって頭を下げた。


「試合の観戦と応援ありがとうございました!」


 それから観客席に向かって俺は真っすぐに拳を突き上げた。


「だから見ていてくれ! みんな! 俺は必ず剣聖になる!」


 その瞬間、再び大歓声が沸いた。


 俺はそのことが嬉しくて、誇らしくて、なんだか楽しくて笑いながら手を振った。


 その時、俺の背中に誰かふたりが抱き着く感触がした。


「全く。お前は大した男だよ。ゼロ!」


「ホントに素晴らしかったですぅ。わたしの予想を超えていました。やはりゼロ様は天才剣士なのですね!」


 振り向くとミリアとメリルが俺を背中から抱き着いてはしゃいでいるみたいだ。


 色々柔らかい感触に満たされて顔から湯気が出そうなので、俺は必死に抵抗した。


「バカ! てめぇら。やめろ! はずいだろうが! 抱き着くなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 それを見ていた観客たちは大爆笑した。


「おいおい。期待の大型ルーキーは女にもモテるみてぇだぜ?」


「ひゅー。ひゅー。この色男め!」


「ああ。若いっていいな。俺なんてこの歳で彼女いない歴年齢なのによぉ!」


「まあ。お前と大型ルーキーじゃ格がちげぇっての。英雄色を好むというし。あれはきっと本物だぜ!」


「ああ。いい男ね。私もガールフレンドにしてくれないか申請してみようかしら?」


 散々好き放題言われて、俺の心はいたたまれなくなり、大声で悲鳴をあげた。


「ああ。もぉぉぉぉぉぉぉう! 勘弁してくれよ! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺が叫ぶと、またしても大爆笑の渦が巻き起こった。


 それから大型ルーキーの誕生。


 俺は【不屈の剣士ゼロ】として、登録一日目にして二つ名がついたのであった。



 ~~シュバル視点~~


 気が付くとそこは白い天井だった。


 どうやら僕は病室に居るらしい。


 そっと起き上がろうとすると、そこにはグレイさんがいた。


 グレイさんは僕に優しく声をかけてくれた。


「おう。シュバル。身体はもう大丈夫か?」


 僕は軽く腕を回してみた。


 思った以上によく動く。


 体調は軽快なので素直に語った。


「ええ。かなりマシになりました。それよりリーダー。そ、その……」


 僕は少し言葉にするのが怖かったが、筋を通すために謝罪した。


「本当に申し訳ありませんでした。あのゼロとか言う、馬鹿を仲間に引き入れることに失敗しました……」


 僕は叱られると身構えていると、グレイさんは豪快に笑い僕の頭をガシガシと撫でてくれた。


「がっはっは。気にすんな。それにあの坊主はウチなんかに収まる器じゃねぇ。ありゃ伝説になるような男だ!」


 僕はその言葉がどうしても気に食わず、恐れ多くもグレイさんに物申した。


「確かに僕は負けました。でも伝説になるというのは言い過ぎでは、剣の技術はまだ素人ですよ? それにそれほど才能だってあるとは思えません。所詮剣能が強いだけのただのガキです!」


 グレイさんは僕の言葉を聞いたあと、馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ふっ。シュバル。お前は分かっちゃいねぇな!」


 グレイさんのその言葉がどうしても受け入れられず思わず感情的に言い返した。


「なら、あのガキの何処が凄いというのです? 何処が伝説になる素養があると言うのですか?」


 グレイさんは遠くを眺めるような瞳をしながら答えた。


「似てるんだよ。かつて大英雄と謳われたマイウェイさんに!」


 その言葉を聞いて僕は驚いた。


「そのゼロがマイウェイさんに似ている? それは本当ですか?」


 グレイさんは真剣に頷いた。


「ああ。若い頃のマイウェイさんにそっくりだ!」


 僕はその言葉に衝撃を受けた。


 しかし、認めたくないので反論した。


「でも性格が似ているだけで、英雄の器とは限らないのでは?」


 グレイさんはその言葉を聞いてまた豪快に笑った。


 その態度が気に食わず、僕は激怒した。


「何が可笑しいというのです? マイウェイさんは才能の塊じゃなかったんですか?」


 グレイさんは正直に答えた。


「いや。若い頃はむしろ落ちこぼれだった。オレとはマイウェイさんは幼馴染で、マイウェイさんは兄貴分なんだが、オレに剣で一回も勝てたことがなかったよ! 最初はだけどな!」


「ええ!? そうだったのですか?」


 グレイさんは苦い顔をしながら頷いた。


「ああ。正直、最初は無能だと見下していたよ。でもあの人には決して折れない魂があったんだ!」


「魂ですか? 非論理的ではありませんか? 魂なんかで剣の強さが変わるのでしょうか?」


 グレイさんはため息を吐いて、僕の額に指を当てた。


「よぉぉく。思い出してみろ? お前あの坊主が何度斬られても立ち上がった時どう感じた?」


 僕ははっとして、あの時のゼロの『おい。もう終わりか?』という言葉が蘇った。


 あれだけ斬られて負けると一ミリも思っていない。


 それは正直、恐怖でしかなかった。


 僕は正直に答えた。


「恐ろしかったです。こいつ化け物かとそう思いました……」


 グレイさんはにっと笑った。


「だろう。ああいうタフな根性と気合だけで、負けることを決して諦めない男ってたまにいるんだよ!」


 グレイさんは懐かしそうに語った。


「まさにマイウェイさんはそういう人だった。それにな、シュバル。偉大な剣士って言うのはそういう魂を持ち合わせているもんなんだ。そういう奴がいつの間にか偉大になる! 最初は才能なんてなくてもな!」


 僕は衝撃を受けた。


 そして、自然とこんな言葉が出ていた。


「それじゃ、ゼロって奴は本物なのですか? 天才である僕より大物になるというのですか?」


 グレイさんは真剣な表情で語った。


「それは半分正解で、半分間違いだ!」


「ど、どういうことですか?」


 グレイさんは冷静に解説を始めた。


「あのゼロって奴には夢への矜持を感じた。それも並々ならぬ狂気に近い矜持だ。それとあのどんなことがあっても諦めない根性。ありゃ本物なんて物じゃない。伝説になる男の器そのものだ!」


「そ、そんな……」


 俺がショックを受けていると、グレイさんはそのまま続けた。


「でもな。シュバルお前も伝説に成れる器だとオレは思っている!」


「えっ!?」


 僕が驚くと、グレイさんは熱く語った。


「オレはな。魂と矜持のゼロ。才能と実力のシュバル。知性と技量の【セイントナイツ】のリーダーの嬢ちゃん。この三人が時代を変える伝説の剣士になると思っている。オレやマイウェイさん以上の存在にな!」


「……僕やゼロや奇術剣士ブランが伝説の存在に?」


 グレイさんは笑った。


「へっへっへ。そうだ。これからはお前らの時代だ!」


 グレイさんは強く拳を握りしめ熱く語った。


「だからシュバル。お前も何かしらの矜持を持て!」


「……矜持ですか?」


 いきなり矜持と言われてもピンとこない。


 僕が必死に悩んでいると、グレイさんが助け舟を出してくれた。


「なあ? シュバルよ? おめぇが剣士として求める物は何だ? 何のために剣士をしたい?」


 グレイさんの言葉にはっとさせられた。


 そうだ。親友を剣魔に殺されて、この人に助けられてから、誓ったじゃないか。


 僕は強くはっきりと主張した。


「僕は強くなりたいです。誰にも負けないくらい強くなりたい……!!」


 グレイさんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「じゃあその強くなりたいって気持ちがお前の矜持だ。その想いをもっともっと強く育てていけ! そうすれば、お前はゼロにだって負けない剣士になれるぜ! オレが保障する!」


 僕は思わず涙ぐみながらグレイさんに誓った。


「うぅぅ……。はい……。僕はもっと強くなります。そして、いつかゼロに勝ってみせます! 絶対に!!」


 グレイさんは豪快に笑った。


「あっはっは。それでこそシュバルだぜ! さあ。今夜はオレの奢りだ! 他の奴らも誘って飯行くぞ!」


「は、はい!」


 僕は涙を服の袖で拭いて、ベッドから降りた。


 そうだ。僕は強くなる。もっともっと強くなって、いつかグレイさんも、ゼロも超えてみせる。


 そう強く誓うのであった。


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