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第3話『ブレイブ・ソードのリーダー』

 あれから数日の旅を経て。


 俺たちはようやく【王都ソード】に到着した。


 道中かなりの剣獣に絡まれたりしたが、メリルやミリアがいたので、どうにか無事に切り抜けられた。


 王都の門の前で俺はその圧倒的なデカさに圧倒されていた。


「でっけぇ門だなぁ~~!」


 俺が感心していると、ミリアに説教された。


「馬鹿。こんな門くらいで、いちいち感動するな。これじゃ完全におのぼりさんに見えるだろうが!」


「ええ~~。いいじゃねぇかよぉ。本当にデカいんだしよぉ?」


「そういうところが、おのぼりさんに見えるって言っているんだ。全く。こいつマジでガキ過ぎる……」


 そんな漫才をメリルとしていると、門の手続きが終わったメリルが戻ってきた。


「二人分ともスマホで身分証アプリ入れていますか?」


「うん。入れてるぜ!」


「問題ない」


 俺たちが正直に返答すると、メリルは門を指さした。


「あの門の近くにある詰所で、それをスキャンしたら銅貨二枚で通れます。ちなみに王都にいる間は月銅貨二枚納税しないといけませんので、忘れないでくださいね? 納税の義務を怠ると奴隷に身分が落とされますからね?」


「りょーかい!」


 俺たちが軽く答えると、メリルは微笑んで、俺の手を引っ張った。


「さあ。早く面倒事を片付けますよ。王都は見所がたくさんあって、楽しいんですから!」


 その言葉を聞いた途端、俺の好奇心は激しく刺激された。


「へぇ~~。そりゃすげぇや。早く王都の中を見て回りたいぜ!」


 俺が無邪気にはしゃぐと、ミリアは呆れたように溜息を吐いた。


「全く。ワタシたちは観光で来たわけじゃないんだぞ? 剣士団を作るために来たんだ。それを忘れて羽目を外し過ぎるなよ?」


 俺はけらけら笑いながら言い返した。


「大丈夫だって。せっかく王都に来たんだし。ちょっとは楽しもうぜ! そんなクール気取って恰好つけてばかりだと、皺が増えるぞ?」


「なっ!? ワタシはまだ皺ができる歳じゃない!」


 眉間に皺を寄せているミリアに俺は思いっきり突っ込んだ。


「ほら? 皺できてんじゃん。あっはっはっはっはっは!」


 ミリアはブチ切れて【ブロンドソード】を抜いた。


「この馬鹿ゼロ! 今日という今日は許さない。絶対に――斬るッ!」


「あっはっはっは! ミリアがキレた〜〜! あっはっは!」


 無邪気にはしゃいでいると、珍しくメリルから注意された。


「ふたりとも〜〜。仲がいいのは大変よろしいのですが、いまは身分証明認証の方を優先してくださいね?」


 メリルの注意が入り、俺は大人しく従った。


「りょーかい! そんじゃミリアもいつまでも根に持ってないで行くぞ?」


「ちっ! お前あとで絶対にシメるから覚悟しとけよ?」


 全くミリアは相変わらず恐ろしいやつだ。


 それでも普段は俺がからかわれてばかりだから仕返しだ。

 

 俺達はメリルに従い城門の詰所へと向かった。

 

 そこには城の兵士が俺達に威圧するように声をかけてきた。


「メリルから話は聞いている。新人剣士志望者らしいな。奥の詰所で身分証明認証を行って貰う。スマホがない場合はカードタイプの証明書を提示して貰うがよろしいかな?」


 俺は兵士のおっさんの言うことに従った。


「ああ。いいぜ!」


「……別に構わない」


「それじゃついて来い!」


 兵士のおっさんに案内されて、俺達は詰所の奥へと向かった。


 色々な剣因子仕掛けの機械が立ち並んでいた。


 パソコンに資料に武器や防具。


 他にも用途不明の器具が所狭しと配備されている。


 そんな謎空間で兵士のおっさんは俺達に二枚のQRコードを提示した。


「そいつをスマホでスキャンしてくれ。あとはデータで滞在民か住民になるか選択して、名前や出身地を登録して、今月の税金と通行料を貨幣で支払ってくれたら、完了だ!」


 俺達は兵士のおっさんに言われるままにスマホでQRコードをスキャンした。


 そこにある項目を埋めていき、ある部分でタップするのを迷った。


 滞在民か住民か。


 俺は剣士団をどのように運用するのかは具体的に考えていたので、ミリアに相談した。


「ミリア。住民登録にしよう。やっぱ剣士団を運営するならデカい街を拠点にした方がいいだろ?」


 俺の答えにミリアも頷いた。


「確かにこの街を拠点にした方が効率は良さそうだな。ならそうするか!」


 俺達は住民登録にチェックマークを入れて、規約事項をざっと確認した。


 街中でも剣魔や剣獣はたまに出ること。


 試合や決闘や犯罪者確保以外での殺人は大罪。窃盗。強姦。詐欺。放火。ハッキング。王族への名誉毀損は投獄され、十人以上無差別殺人を行なった場合は死罪。


 王城や王族への窃盗。放火。強姦。ハッキングなども死罪。


 それ以外は罰金と数週間から十年までの懲役が行われるらしい。


 やはり最低限の法整備は整えられているらしい。


 あと貴族や王族に婚姻を迫られたり、愛人に誘われたりしても、税金を納める平民である限りは人権が優先され、断ることができる。


 ただし奴隷に人権はなく、何をしても罪にはならないらしい。

 

 これは最低でも税金をきっちり支払う必要があるようだ。

 

 さらに金貨五枚の収益が発生した場合は、金貨二枚納めないといけないなど、色々細かい規約が多かった。


 俺が規約に目を通していると、ミリアはもう貨幣を支払っていた。


 気になったので、念の為に確認した。


「ミリア? お前ちゃんと全部の規約に目を通したか?」


 ミリアは首を振った。


「そんな面倒臭いし、適当でいいだろ? それより早く宿の確保と剣士ギルドを……」


 そこで俺はミリアの額をデコピンした。


「あたっ! 何をする!?」


 とりあえずこのせっかちさんに、きちんと説教しておいた。


「アホか! ちゃんと法整備とか確認しとかないと、お前下手したら投獄されるぞ? あと奴隷になったら凄く悲惨な目に遭うんだぞ?」


 ミリアは面倒臭そうに頭を掻いた。


「だって活字を読むのって面倒臭いだろ? ワタシ的には今時動画で説明して欲しいな!」


 ミリアがそう発言した途端、兵士のおっさんがスマホを見せてきた。


「そういう人の為に国の公式チャンネルで動画も用意されているぞ? 後できちんと確認しておきなさい」


「はぁ。分かったよ。全く。マジで面倒臭いな……」


 ミリアは俺と違い本など全く読まない。


 俺も勉強嫌いだが、こう見えて地頭には自信がある。


 ゲームな漫画やアニメやラノベや小説や雑学動画などで鍛えたスキルだ。


 ミリアは本当に剣馬鹿で、剣の動画しか見ない。


 たまにゲームやアニメも見ているが、漫画やラノベや小説などの活字媒体は避ける傾向があり、まさに剣術や戦いの理論にしか関心を示さない。


 そのため、やや常識や世間の流行りに疎いところがあり、協調性がなく、マイペースな女なのだ。


 好奇心は旺盛なのだが、それは剣に関心が絞られている。


 だから剣オタクの称号が相応しいだろう。


 俺も規約を隅々まで読み込み、問題がないことを確認してから、チェック項目を入れてボタンをタップして申請した。


 兵士のおっさんがそれを見て頷いたので、俺も貨幣を支払った。


 これで住民登録は終了だ。


 動画の前にミリアに規約のことについて、少しは聞かせておかないと。


 そう誓っていると、兵士のおっさんが立ち上がった。


「よし。申請は終わりだ。剣士ギルドは王都の中央街にある。そこを訪れるといい」


 親切な兵士のおっさんに俺は頭を下げた。


「兵士のおっさん。ありがとうな!」


 俺が礼を述べると、おっさんはにやりと笑った。


「坊主。お前は何処か三大剣士団のリーダー達と同じ雰囲気を感じる。剣士としての活躍を期待しているぞ!」


「ああ。ありがとう。またな!」


 おっさんとの挨拶を終えると、早速動画を見ながら歩きスマホしているミリアの手を引いた。


「ほら行くぞ? 口頭で伝えてやるから、歩きスマホは辞めとけ!」


「はぁ……。分かったよ……」


 俺たちは門の中で待っていたメリルと合流した。


 そして、メリルは両手を広げてこう言った。


「ふたりともようこそ王都ソードへ!」


「うおぉぉぉ~~!?」


 俺とミリアは同時に声を上げた。


 それだけ王都が最先端のコンクリート造りの街で、ビルやら工場やらがたくさん立ち並んでいたからだ。


 田舎の村とは違う最先端の技術が集約された王都の壮観さに、俺はすぐに心を奪われた。


 俺がぼけーとしていると、メリルに声をかけられた。


「ほら。早く剣士登録へ向かいますよ。それからわたしと相棒が泊まっている宿を紹介します」


「ああ。分かった。ミリア行くぞ?」


「うるさいな。分かってるってば」


 どうやらミリアもこの王都の景色に圧倒されていたらしい。


 街中を歩くと、美味しそうなフランクフルト屋を見つけた。


 その店が視界に入ってから、ふたりに寄り道して食べて行こうと言う前に、メリルが先に動いていた。


「ふたりとも~~。ちょっと買い食いしていきましょうよ~~!」


 やはりメリルはどうしようもない腹ペコらしい。


 俺はため息を吐きながら、メリルの暴飲暴食に付き合った。


 これからお世話になる先輩だ。


 できるだけ仲良くしておいた方が得だろう。


 俺はフランクフルトをメリルに受け取る。


 ミリアも同じように受け取った。


 メリルは自慢気にこうほざいた。


「ここはお姉さんの奢りですよ! 感謝するといいです!」


 そうメリルが胸を張ると、お店の人にツッコまれた。


「お客さん。お代足りないよ?」


「へ? 嘘? あれだけ剣獣を倒して、素材を売って、お金稼ぎながら、ここまで稼いできたはずなのに。ど、どうしてなのでしょうか?」


 店の人は激怒した。


「お代が足りないなら商品を返してくれ。さもないと兵士団を呼ぶよ?」


 さきほどの規約書にも書いてあったが街中で犯罪を行為に及ぶと、兵士団に連行されて、しかるべき処罰を受けるらしい。


 あまりにもメリルがポンコツなので、俺は助け舟を出した。


「俺が代わりに支払ってやるよ。ったく奢るなら、自分の財布くらい確認してから言えっての!」


 メリルは涙目になりながらへこんだ。


「うぅ。ぐうの音も出ないです……」


 それを見たミリアは呆れたようにぼやいた。


「全くこんな奴が先輩で本当に大丈夫なのか? ましてや仲間に引き入れるには馬鹿過ぎて話にならないぞ?」


 ミリアのド正論に、メリルはまた肩を落とした。


「うぅ……、ミリアちゃん手厳しいですぅ……」


 それでもここまで一緒に旅をしてきたんだ。


 可哀そうな気がして、俺はメリルを庇った。


「まあ。確かに馬鹿ではあるが、剣能と剣の腕前だけは本物だ。それに馬鹿の方が退屈しなくていいじゃねぇか!」


「ゼ、ゼロ様ぁぁぁ~~!」


 メリルはフランクフルトを持った俺に抱き着いてきた。


「は、離れろよ! フランクフルト落としちゃうだろ?」


「ならゼロ様のフランクフルト食べちゃいます。ぱくっ!」


「な、何しやがる! 俺のフランクフルトを返せ!」


「嫌です。ゼロ様のフランクフルトはもうメリルの物になりました!」


 俺が自分のフランクフルトを取り返そうと躍起になっていると、ミリアがメリルを俺から引き離して、俺に新しく買ったフランクフルトを差し出してきた。


「馬鹿やってないで、さっさと食え!」


 俺はフランクフルトを受け取るとにこやかに笑った。


「ありがとよ。ミリア。がつがつ! んんぅぅ~~! うめぇ~~!」


 俺は一気に塩辛いフランクフルトを平らげる。


 ケチャップとマスタードのブレンドがいい味を出していた。


 ミリアやメリルたちもフランクフルトを食べ終わると、すぐに街路へと戻った。


「さて、剣士ギルドへ向かいましょうか! 剣士登録はお金さえ支払えば誰でもできますよ? プロの称号なんて所詮銀貨二枚の価値ですから!」


 銀貨二枚と言えば、一般的な鎧ふたり分だ。


 それだけでなれる剣士の価値とは、一体何なのだと考えてしまったが、昔からの夢の一歩が銀貨二枚で叶うんだ。


 こちとら剣獣退治しながら王都まで旅してきたので、その素材を行商人に売ることで、銀貨三十枚は持っている。


 これだけあるのだから、銀貨二枚くらいは痛くも痒くもないのだ。


 街路を真っすぐ進むとセンター街が見えてきた。


 大広間に噴水があり、何処となくお洒落な雰囲気を醸し出している。


 その噴水の真ん前に大きな赤い屋根の建物があった。


 あれこそ剣士ギルド王国本部だろう。


 だって看板にデカデカと書いてあるし。


 俺たちはその建物に圧倒されていると、メリルが悪戯っぽく笑い挑発してきた。


「あれあれぇ? もしかしてふたりともビビっちゃいました?」


 俺は顔を強く叩き気合を入れて反論した。


「誰がビビるかよ!」


 ミリアも同じく頷いた。


「そのくらいでワタシ達が怖気づくわけないだろ!」


 メイルは微笑みながら語尾を強めて行った。


「まあ。ふたりの実力なら、きっとE級にもすぐに到達できますよ!」


 剣士には階級がある。新人のF級。一人前のE級。三流のD級。二流のC級。一流のB級。最強のA級。現在三大剣士団のリーダーしか存在しないS級。


 俺が目指すのはS級よりさらに上。英雄に与えられるEX級だ。


 EX級になれば、剣聖になるために【グレイテスト・ソード】の探索許可が下りる。


 つまりEX級の英雄にならなければ、絶対に剣聖には成れないのだ。


 それらの情報もネットで勉強した。


 とにかくもうこれ以上足踏みしている暇はない。


 一刻も早くEX級になり、俺は剣聖になりたい。


 俺たちは剣士ギルドの扉を開くと、そこはたくさんの剣士がテーブルに座り、コーヒーや紅茶を口にしていた。


 どうやら酒類は置いてないらしい。


 荒くれ者の剣士たちが、酒なんて飲んだら問題や喧嘩を起こすに決っているからな。


 俺たちは先輩剣士の鋭い眼光を気にせずに、受付カウンターまで進み受付嬢に語りかけた。


「すみません。俺たち剣士団を作りたいんですけど?」


 正直にそう語ると、受付嬢がくすくすと馬鹿にしたように笑い、他の剣士たちもげらげらと爆笑していた。


 俺は何か可笑しなこと言ったかなと首を傾げると、受付嬢が説明してくれた。


「失礼ですが、剣士団を作るには四人以上のメンバーとC級剣魔の討伐が必要です。それにまずは剣士登録を済ませていただかないと、プロの剣士ですらありませんので……」


 あまりの正論に俺は思わず笑ってしまった。


「あはは。確かにそうだな。それじゃ剣士登録してくれ。俺とこの隣にいる青いのと二人分頼むよ!」


 青いのという言葉が気に食わなかったのか、ミリアに脇をつままれた。


 俺は「いつつ」と言いつつ、受付嬢の方に視線を向けた。


 受付嬢はQRコードと、セミセルフレジを差し出してきた。


「ではこのQRコードから剣士登録を送信して頂いて、貨幣をお支払いください。デジタルペイ払いも対応しておりますので、お好きな方をご利用ください」


「ああ。分かった。ほら。ミリアも?」


「ちっ。うるさいな。今すぐやるから黙ってろ!」


 俺たちは受付嬢の指示通りにスマホでQRコードをスキャンして、あれやこれやの規約を確認して、チェックボタンを押し、銀貨四枚を支払った。


 そして、受付嬢は拍手した。


「おめでとうございます。これでおふたりとも、晴れてプロの剣士の仲間入りですよ!」


 そう言われて、ようやく実感した。


 俺たちはやっとプロの剣士に成れたんだ。


 その興奮を抑えきれずに、俺とミリアははしゃいでハイタッチした。


「イエーイ! やったな! これで俺たちもプロの剣士だぜ!」


 ミリアも悪戯っぽくにやりと笑った。


「ああ。でもワタシの足を引っ張るなよ? このミリア・マイウェイは剣を極める女なんだからな!」


 そう宣言するミリアに俺も言い返した。


「言ったな。夢のデカさなら俺も負けてないぜ! なんたって剣聖を目指してるんだから! お前の方こそ足を引っ張んなよ!」


 ミリアは嬉しそうに笑った。


「言ったな。この天才のワタシに何処までついてこれるか楽しみだな! あっはっはっは!」


 その瞬間、会場が沸いた。


「マイウェイって。あの嬢ちゃんもしかして英雄マイウェイの娘か!」


「あのブレイブ・ソードの元リーダーの娘なんて、こりゃ大型新人が入って来たもんだぜ!」


 などと盛り上がりを見せていた。


 なんだよ。いつもミリアばっかり。俺は悔しくなって怒鳴った。


「てめぇらマイウェイ。マイウェイってうるせぇぞ! 剣聖になる俺を差し置いて、ミリアばかり褒めるなッ!」


 俺が堂々と言い放つと、周囲から大爆笑の渦が巻き起こった。


「ぎゃっはっはっは。このガキ馬鹿じゃねぇの!」


「剣聖になるってのは夢見すぎだろ。英雄の娘の腰巾着の癖にイキり過ぎじゃねぇの。あっはっはっはっは!」


「三大剣士団もいるこの場所で、よくそんな大言壮語を吐けるたぁ、ある意味大物かもな! がっはっは!」


 俺は馬鹿にされて、頭にきたが、ミリアに肩に手を置かれて、悔しくてもぐっと堪えて我慢することにした。


 あまり騒ぎを大きくしたら、こいつにまで迷惑かけちまうからな。


 先ずは剣士団を作って見返してやらないと。


 あとその件についてだが、剣士団っていきない作れる物じゃなかったのは驚きだ。


 絶対に一発で行けると思ったんだけどな。


 まあ。それはこれからひとつずつ課題をこなしていけばいいだけだ。


 それよりも問題は仲間集めか。


 そこをどうにかしないと、剣士団すら結成できない。


 どうしたものかと悩んでいると、俺たちと隣側の受付で依頼の完了を済ませたメリルがやってきた。


「おふたりとも。これで晴れてプロの剣士の仲間入りですね。それとわたしのはぐれた仲間を探しておふたりに紹介を……」


 そう言いかけたところで、メリルの声を野太い声が遮った。


「おい。坊主。お前さん見たところ田舎のお上りさんだろ? どうだ? このオレとひと試合しないか?」


 いきなり話を遮り話かけてきたおっさんは、グレイ色のボサボサの髪型に、灰色のマントを着た厳つい風貌をしていた。


 これが所謂新人潰しという奴かと疑ったが、悪い奴には見えなかったので、俺はおっさんの試合を受けることにした。


「ああ。いいぜ!」


 俺は拳を軽く鳴らして首を左右に動かした。


「あと言っとくが、俺は剣能なしじゃ、ミリアより弱ぇぞ? 英雄の娘であるミリアじゃなくていいのか?」


 おっさんは頷いた。


「お前じゃなきゃ駄目だ。マイウェイさんにはお世話になったが、その娘になんぞ興味はない。オレが興味あるのはお前なんだよ。坊主!」


 なんだよ。このおっさん。


 もしかして男が好きなのかな? 


 どうでもいいが王都の剣士が、どれくらい強いのかだけはすげぇ興味がある。


 だから俺はおっさんの申し出を受けることにした。


「分かった。そこまで言うならやり合おうぜ! 言っとくが負けねぇぞ?」


 おっさんは高笑いして、俺を睨んだ。


「がっはっは。言うじゃねぇか。坊主。お前に真の剣士の厳しさって奴を教えてやる!」


 なんだか周りが騒がしい。


 あのグレイさんに喧嘩売った馬鹿な新人がいるだとか。


 とんだ命知らずがいたもんだとか。


 このおっさんってそんなに強いのだろうか。


 俺はなんだかすごくやる気が沸いてきた。



 ☆☆☆



 場所を移し替えて、俺たちは剣士ギルドの訓練場まで来ていた。


 なんだか如何にも剣士の訓練場って感じで、たくさんの案山子人形や、木剣が置いてあった。


 そして、周囲には圧倒的なギャラリーが沸いている。


 こんなの見ちまうと、なんだか燃えてきて仕方がない。


 ギャラリーを見ると、ミリアとメリルも座っていた。


 メリルもミリアも心配そうにこちらを見ていた。


 俺はふたりにとりあえずサムズアップしておいた。


 すると、ミリアは親指を下にして、メリルは手を振ってくれた。


 眼前のおっさんは木剣を手にとっており、やる気満々と言った感じだ。


 実は剣能は、その剣を所持した瞬間から、適用される。


 ざっと仕組みを説明すると、剣因子と呼ばれるこの世界を構成する物質がある。


 その剣因子が体内でエネルギーに変換された物が剣力だ。


 この剣能持ちの剣を装備すると、その剣因子を通して、肉体の剣力に溶け込み、剣能を常時発動できるようになるというわけだ。


 それは別の剣能持ちの剣を装備して、剣の持ち主として認められない限り上書きされない。


 つまり別の普通の武器を持ったところで、剣能が使えないわけではないのだ。


 だからチャンスはある。


 たとえどんなにボコボコにされても気合で立てれば、それだけで俺は強くなれる剣能だからだ。


 そこは俺の十八番だ。


 伊達に何年もミリアに負け続けていない。


 どんなに負けても決して夢を諦めない鋼のメンタルだけが、俺の唯一の取り柄なんだからな。


 おっさんは俺に剣を向けた。


「覚悟はできたか? 坊主?」


「ああ。もう待ちくたびれたくらいだ。とっととおっぱじめようぜ!」


「全く身の程知らずな坊主だぜ。なら行くぞ! ふん!」


 おっさんは剣力を身に纏い、全力で突っ込んできた。


 そのあまりの速度に、俺は対応しきれない。


 俺はおっさんに一太刀によってその場に崩れた。


 すると、ギャラリーは沸いた。


「見たか! 新人! グレイさんがお前みたいな素人に負けるはずがねぇんだよ!」


「全く馬鹿で世間知らずなガキだよな。あのマイウェイさんの後継者としてブレイブ・ソードのリーダーを務めるグレイさんに喧嘩を売るなんてよ!」


 俺はその話が耳に入り、ますます俺の闘志に火が点いて、立ち上がった。


「へっへっへ。そうか。おっさん。あんたあのブレイブ・ソードのリーダーだったのか! どうりで強いはずだぜ!」


 俺が立ち上がったことに、みんな驚いているようだ。


 おっさんは俺に尋ねた。


「それで? 坊主。お前はオレがブレイブ・ソードのリーダーだと分かって、怖気付いたのか?」


 俺はにやりと笑って首を振った。


「バァカ。んなわけねぇだろ。むしろその逆だ!」


 俺は先ほどの倍の剣力を身に纏った。


 おっさんは豪快に笑った。


「全くお前みたいな馬鹿は初めてみたよ。ますます気に入った。徹底的にぶちのめしてやる!」


 そこからはワンサイドゲームだった。


 何度俺が立ち向かおうとも、おっさんは一太刀で俺を斬り伏せた。


 それでも俺は何度でも立ち上がった。


 もう身体はボロボロだ。


 骨は折れてないが、打撲はしているだろう。


 全身たんこぶと血だらけになりながら、それでも俺は立ち上がった。


「へっへっへ。おっさん。俺はまだ負けてねぇぞ! もっともっとかかって来い!」


 俺の言葉におっさんは厳しい表情を見せた。


「どうしてだ。もう力の差は歴然だろうが。なぜそうも立ち向かおうとする? このままだとお前は――」


 おっさんがそう言おうとした瞬間に俺は叫んだ。


「ざけんな。俺がおっさん如きに殺されてたまるかよ。勝手にこっちが負けること前提で話てんじゃねぇ!」


 おっさんは豪快に笑った。


「これは失礼したな。ではお前のその負けん気を勝って本気で行かせて貰う! 死ぬ覚悟はできたか?」


 俺は馬鹿にしたように鼻で笑った。


「へん。死ぬのはおっさんの方だ。だからぁ。俺はお前を――」


 俺は一歩前に踏み出し吠えた。


「ぶった斬る――ッ!」


 俺の全力の一撃は神速を超えていた。


 流石のおっさんも躱しきれずに、その一太刀を身体にクリーンヒットさせた。


「がはぁ――ッ!」


 おっさんは片膝をつく。


 そして、立ち上がった。


「よくやった坊主。オレに片膝をつかせたのは、他の三大剣士団長とマイウェイさんだけだ」


 おっさんは不敵に笑う。


「ここまでやったお前にご褒美だ。オレのとっておきを披露してやろう!」


 おっさんは凄まじいまでの剣力を木剣に集めて、まるで獅子のようだ。


 そのまま俺に向かって横一閃に木剣を薙ぎ払ってきた。


「秘剣・獅子の太刀――ッ!」


 おっさんの暴力的なまでの一撃が迫りくる。


 俺はそれを木剣で受け止めようとしたが、その木剣ごとおっさんの秘剣に砕かれた。


 おっさんの太刀が直撃し、遂に俺は立ち上がる気力が湧かないほどの、圧倒的な一撃を受けてしまった。


 倒れそうになるほど意識を持って行かれそうになったが、それでも俺は気合を込めて立ち上がった。


「まだだ。まだ負けてねぇ……」


 俺が踏ん張ると、おっさんは何故か豪快に笑った。


「がっはっは。まさかオレの秘剣を食らって立っていられる奴がいるなんてな!」


 おっさんは俺に近寄り、こう言った。


「合格だ。ゼロ。オレの元へ来い。次の剣士団リーダーの枠を確約してやる!」


 その途端、ギャラリーが湧いた。


「嘘だろ? あの新人。グレイさんに一撃入れただけでなく、秘剣を食らっても立ち上がりやがった!」


「何者なんだ。あのガキ。それに時期剣士団リーダーの枠を確約とか、どんだけ規格外なんだよ!」


 なんか外野が勝手にごちゃごちゃ抜かしているが、俺はおっさんにはっきり言ってやった。


「そんなの嫌に決まってんだろうが! 俺は自分で剣士団を作って【グレイテスト・ソード】を手に入れて剣聖になるんだ。おっさんの剣士団なんか死んでも入らないね!」


 俺がそう言い切ると、また外野がごちゃごちゃ抜かしたが、おっさん。いやグレイさんは俺に近寄り頭を撫でてくれた。


「がっはっは。よく言った坊主。お前はオレが思っていた以上の本物だ。いつか三大剣士団まで必ず上がって来いよ!」


「ああ。俺ももっともっと強くなって、おっさん。いやグレイさんを徹底的にぶちのめしてやる! 勝負はその時までお預けだ!」


「おう!」


 俺とグレイさんが握手を交わすと、急に後ろから呼び声がかかった。


「待て。貴様。グレイさんが認めてくれたのに、剣士団に入らないだと? ふざけるのも大概にしろ!」


 そう言い放ったのは黒い髪をした俺とタメの少年剣士だ。


 少年は俺の前に来ると、木剣の切っ先を向けた。


「僕と決闘しろ! もし負けたら、グレイさんの言う通りウチの剣士団へ入れ!」


 なんか思った以上に強そうな奴だ。


 戦ってみたい好奇心を抑えきれずに、俺は頷いた。


「ああ。いいぜ! その決闘を受けてやる!」


「ふん。どうやら度胸だけは一人前みたいだな。逃げなかったことを褒めてやる!」


 そうクールに言い放つ少年をグレイさんが止めた。


「おい。シュバル。勝手なことをするな! そいつとの話し合いはもう終わったんだよ!」


 しかし、シュバルは首を振った。


「お言葉ですがリーダー。僕はこいつが気に食わないのです。リーダーに認められた癖に入団拒否など言語道断です!」


 グレイさんは豪快に笑った。


「がっはっは。そうか。お前としても男の譲れないプライドがあるわけだな。いいだろう。お前の手で無理矢理その馬鹿を仲間へ引き入れろ!」


「御意!」


 御意ってまるで召使いみたいな言い方をするんだな。


 なんとなくこいつが気に食わないので、俺は言ってやった。


「言っとくけどなぁ。お前みたいな奴じゃあ、天地がひっくり返っても、俺には勝てないと思うぞ?」


 俺がそう言うと、シュバルという男はブチキレた。


「うるさい。どの口がほざく! それに剣聖になるだと笑わせるな! お前のような夢見がちなガキがなれるわけがないだろう!」


「なんだと! てめぇ! 俺の夢を馬鹿にするな!」


 シュバルはふっと鼻で笑った。


「何度でも言ってやるさ! 貴様には無理だ! 諦めろ!」


 俺はとうとう頭に血が上り、木剣をこのシュバルとかいう生意気な奴に向けた。


「お前……。マジで俺を怒らせやがったな? ぜってぇぶった斬ってやるから覚悟しろぉぉぉッ!」


 シュバルは呆れたように肩をすぼめた。


「やれやれ。これだから素人は。お前のような傲慢なガキに、今すぐ身の程ってものを分からせてやる!」


 こうして、剣士と剣士のプライドを賭けた、第二ラウンドが発生した。

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