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第2話『暴食の女剣士』

本日より毎週月曜日投稿となります。

 村を旅立ってから三日後。


 俺たちは野営地で食事を取っていた。


 食事と言っても野営地の行商人から買ったハムサンドと、そこいらで採れた山菜で塩と胡椒だけで作ったスープだけだが、孤児院の頃よりいい物を食べている。


 道中で何度か剣獣を討伐して、素材を売って換金したから、わりと余裕があるのだ。


 そして、セントソード王国の王都ソードへ辿り着くには、あと五日は歩かないとならない。


 何処かで馬車にでも乗れたら二日で辿り着くだろうが、生憎そこまでの持ち合わせがない。


 それにしても道中で何度も剣獣に出くわした。


 外の世界はこれほど危険なのかと改めて思い知らされたが、それにしてもやけに数が多い気がする。


 まあ。おそらく気のせいだろう。


 そんなことよりも、マジでこのハムサンドは絶品だ。


 出来合いなんて、孤児院にいた頃には、たまにしか食べられなかったからな。


 しかし、このふたり黙って飯を食うというのは、なんとも味気ない。


 だから俺は無言でハムサンドを食べ続けるミリアに語りかけた。


「なぁ。昨日のチートマンの最新話見たか?」


 俺がサブスクで配信されているアニメの話を持ちかけると、ミリアは頷いた。


「ああ。でもまたブラックソードでモンスターを倒して終わりとかワンパターンな感じがしたな」


 俺は自分の好きな作品を叩くミリアに食ってかかった。


「馬鹿言え! チートマンの代名詞といえばブラックソードだろうが! それが熱いんだろうがよ!」


 俺が熱く語ると、ミリアは呆れたように呟いた。


「ホントお前オタクだよな。普段はめちゃくちゃ悪ガキぶっている癖に!」


「うっせぇ。今時オタクは当たり前なんだよ。お前だって人のこと言えないくらいの剣術オタクだろうが!」


「いや。確かにそうだけど。普通オタクって言ったら、もっと大人しいワタシと同じくらいの陰キャみたいな感じだろ? お前みたいな悪ガキっぽい陽キャオタクの方がレアだと思うぞ?」


「うっせぇ。陽キャだろうが、なんだろうが、俺は二次元を愛してんだよ! 悪いか? ああ?」


「いや。悪くはないけど。そんなだから現実の女にモテないんじゃないのかって思っただけさ。なんていうか鈍感だしな……」


「はあ? 悪かったな! 非モテ男子で!」


「別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけどな……。とにかくもっと女心を知らないと後悔することになっても知らないぞ?」


「いいんだよ。俺には二次元さえあれば。ああ。チートマンのミルたんみたいな子が現れないかなぁ~~!」


 俺が画面に食いついてにやついていると、ミリアは呆れたように溜息を吐いた。


「そんな都合よく二次元みたいな子が現れるわけがないだろう。もっと現実見ろよ。現実を!」


「ああ。聞きたくない。俺は二次元さえあればそれでいいんだよ。はぁ。ミルたんマジで可愛いな……」


「はぁ……」


 なんかミリアからじろりとした冷たい視線を感じるが、俺はそれを無視して、アニメの推しキャラミルたんのファンアートを眺めてときめいていた。


 そんな時、誰かが俺の背中の服を引っ張った。


「おわ!? 何だ?」


 俺が振り返ると、そこには桃色のツインテールのナイスバディの美しい少女がげっそりとした顔で頼み込んできた。


「あ、あの……。すみません……。食べるものください……」


 なんだよ。この女は。


 けっこう可愛いけど、なんかやたらとやつれてやがるな。


 とにかく目の前で死なれたら寝覚めが悪いので、俺は残りのハムサンドを差し出した。


「ほら。これが残りの二個だ。あと山菜のスープもまだまだあるから飲んでいけよ?」


 俺がプラスチックの皿に山菜のスープをよそって、プラスチックのスプーンを渡すと、桃髪ツインテ女は喜んでそれらを受け取り口にした。


 礼も言わずにひたすら食べることに夢中になっている。


 どうやら何日も食事をとっていないのだろう。


 俺はミリアに視線を合わせると、怪訝な目をしている。


 お得意の人見知りが発揮されているらしい。


 とにかく食べ終わったら、話を聞こう。


 腰の鞘を見る限り、この女も剣士みたいだからな。


 女は全ての食事を完食すると、満足そうに表情を緩めた。


「ああ~~。美味でした。ごちそうさまです!」


 いただきますは言わなかった癖に、きちんとごちそうさまはするんだな。


 それよりどういう事態なのか、詳しく事情を聞いてみることにした。


「あんたさ? 剣士だろ? こんな辺鄙なところで何してんだよ?」


 俺が語りかけると、ミリアに脇を突かれた。


「馬鹿。面倒事に自分からクビを突っ込むな!」


「いいじゃねぇか。同じ釜の飯を食ったなら同志も同然だろ?」


 ミリアは呆れたように顔を背けた。


「勝手にしろ。ワタシは仮眠をとる」


 そう言ってミリアは本当に居眠りしやがった。


 ちょっとくらいは他人に興味を示せよ。


 そんなだから俺とベン以外に友達がいないんだぞ。


 まあ。いまはとりあえず、この女の話を聞いてみよう。


 俺は咳払いして話の続きを促した。


「ウチのコミュ障女がすまねぇな。俺はゼロってんだ。あんたの名前は?」


 俺が名を尋ねると、桃髪ツインテ女はぺこりと礼儀正しくお辞儀をして、語りかけてきた。


「わたしはメリルという者です。王都ソードで相棒の天才女剣士と一緒にバディを組んで、プロの剣士活動を行っております!」


「ふぅん。やっぱり王都のプロ剣士だったのか。でもその相棒はどうしたんだよ?」


 メリルはちょっと困った表情をしてから、とんでもないことを言い出した。


「いや。実は依頼の途中ではぐれちゃいまして……。はぐれたら王都で落ち合う予定だったんですけど。食料もお金も相棒に持たせたままでして……。それで道に迷って歩き続けているうちに、行き倒れそうになってました。てへっ♪」


 なんかてへぺろみたいにあざとく頭に拳を乗せて舌を出しているが、ようは迷子ってことだからな。


 こいつ清楚で礼儀正しいけど、思ったよりアホの子なのかもしれない。


 俺はちょっとどん引きしつつも、とりあえず王都までついて行ってやった方が良さそうだ。


 このままだと行き倒れて死んでしまいかねないからな。


 俺はメリルに提案をした。


「だったら俺たちについてこいよ。実は田舎の村を出て、剣士団を設立するために王都に向かっていたんだ!」


 そう告げると、なんだか俺を見るメリルの顔がうっとりしている。


 俺は彼女の前で手を振った。


「おーい? 話し聞いてんのか? おーい?」


 メリルの前で手を振り続けていると、いきなり食いつくようにがしっとその手を掴まれた。


「ゼロ様。わたし、貴方に一目惚れしちゃいました。よくお顔を拝見したら、イケメン過ぎますぅ。これはもう運命としかいいようがありません!」


「はぁ? い、いや、急にそんなこと言われても、困るっつーの。それに俺は剣聖を目指して剣士団を作りたいんだ。色恋なんかに構ってられっかよ!」


 するとメリルにがっしりと手を握りしめられた。


 いや、普通に痛いから。


 ていうか、マジで怖いから。


 メリルはもう完全に恋する乙女の顔になっていた。


 いきなりのモテ期の到来に俺はたじろいでいると、メリルがぐいぐい肉食系のように押してきた。


「流石です。ゼロ様。剣聖になりたいなんて、なんと気高くて崇高な目的をお持ちなのでしょう。わたしはますます貴方様の虜になってしまいました……♡」


「いやいやいや。アンタ話しちゃんと聞いてたか? 俺は色恋には興味ないって言ったところだろうが!」


 それでも一歩も引かずに、メリルは押してきた。


「さあ。今すぐわたしと永遠の愛を為しましょう。貴方様に身も心も捧げる覚悟はできております♡」


 そう言ってメリルは俺を押し倒してきたので、俺はミリアに助けを求めた。


「ちょ、ミリア、助けてくれ! 変な女に押し倒された!」


 すると、メリルはすぐに否定した。


「変な女ではございません。貴方様の運命の女です!」


「いま会ったばかりでどうしてそうなんだよぉぉぉぉ! ミリア。早く助けろ!」


 俺たちのドタバタ騒ぎで目を覚ましたのか、ミリアはこちらの様子を伺い、無言ながらも鋭い眼光をメリルに向けていた。


「おい。そこのお前。ワタシの親友に何してる……?」


 一方メリルは開き直ったかのように、本音を口にした。


「永遠の愛を誓い合っている真っ最中です! たかがお友達如きが、わたしとゼロ様の愛の邪魔をしないでください!」


 ミリアはゴゴゴという効果音がしそうなほど激怒している。


 ああ。これはもう絶対面倒臭いことになること間違いなしだ。


 そして、焚火の近くに立てかけてあった【ブロンドソード】の鞘から剣を抜き、メリルにその切っ先を向けた。


「ぶっ殺してやる。今すぐ面を貸せ!」


 やっぱりそうなるよな。


 俺はなんとか穏便にことを済ませようとミリアを宥めた。


「待てって。助けろとは言ったけど、剣を抜けとは言ってねぇ。それにお前はまだ剣力を身に纏うことが……」


「うるさい! ゼロは黙ってろ!」


「は、はいぃぃぃぃぃ!」


 やばい。ミリアの奴ガチギレしてやがる。


 そして、今度はメリルも俺から離れて、異能効果がありそうな名剣を抜き放った。


「いいでしょう。わたしとゼロ様の愛を邪魔するというのなら、この【暴食剣イーター】の餌食にしてさしあげます!」


 俺はその剣を見た途端、背筋に緊張感が迸った。


 それくらい恐ろしい剣能を持った剣だと、察することができたからだ。


 俺はすぐにミリアを止めた。


「ミリアやめとけ。お前が勝てる相手じゃねぇ!」


 ミリアは俺の方へずんずん寄ると、襟元を掴んだ。


「お前、ワタシがこんなクソ女に負けるとでも思っているのか? あまり舐めていると三枚に卸すぞ?」


「ひ、ひぃぃぃぃぃ。す、すんませんしたぁぁぁぁぁ!」


 もうこうなったら止められない。


 ミリアとメリルのデスマッチは確定した。


 やめて。俺のために争わないで。


 みたいな物語のヒロインのような状況は、男としてものすごく情けない気がする。


 もう好きなようにさせておこう。


 このメリルという女剣士の実力もかなり気になるしな。


 何せあの【暴食剣イーター】と呼ばれる緑色の剣は、なんだか底知れない力を感じるのだ。


 それがミリアと戦うことによって明らかになる。


 もし俺のお眼鏡にかなうようなら、剣士団の仲間にスカウトするのもアリだ。


 それに向こうは何故か知らないが、俺に好意を抱いてくれているらしいし、仲間に誘いやすい。


 だけど、そのことをミリアが許してくれるかが問題ではあるのだが。


 ふたりは剣を構えると、互いに名を名乗った。


「わたしはメリルって言います。ゼロ様は命の恩人にして運命のお方。貴方には渡しません!」


 メリルが暴走気味に呟くと、ミリアはぺっと唾を吐いて思いっきりメンチを飛ばした。


「ワタシはゼロの親友で幼馴染のミリア・マイウェイだ。人の相棒に手を出そうとした罪。この剣で分からせてやる!」


 ミリアの名前を聞いた途端、メリルは納得したような表情を見せた。


「マイウェイって、貴方もしかして英雄マイウェイ様の娘さんですか?」


 ミリアはますます恐ろしい形相で睨みつけた。


「親父のことは関係ない。御託はいいから始めるぞ!」


 メリルはくすくすと笑った。


「そういう喧嘩早いのって、嫌いじゃないですよ? わたしの相棒もそうなので!」


 そう言えばメリルの相棒って、どんな奴なのだろうか。


 確か天才女剣士で、さらに喧嘩早いってことは、ミリアと同じようにヤンキー系か、男勝りな女なのかもしれない。


 なんて考えていると、ミリアが吠えた。


「絶対に殺す――ッ!」


 次の瞬間あり得ない速度で、ミリアはメリルに斬りかかった。


 剣力を身に纏っていない状態で、このフィジカルだ。


 あまりにも規格外過ぎて、俺はとんだ化け物と毎日試合していたんだなと改めて思い知らされる。


 激しい何合もの打ち合いの中で、メリルは剣力を身に纏い身体能力を強化しているのにも関わらず、ミリアの圧倒的な地のフィジカルに押されていた。


「くっ……! なかなかやりますね! ですが――!」


 そこでメリルは体内の剣力を爆発的に上昇させて、ミリアを吹き飛ばした。


 なんて剣力だ。


 おそらく俺より強いんじゃないか。


 そこからメリルの反撃が開始された。


 先ほどまで押していたミリアも、彼女の予測不能な剣筋に苦戦を強いられていた。


 あれは確か動画で見たことがある。


 確か【不死鳥流】と呼ばれる流派の剣術だ。


 予測不能な剣筋で相手を惑わし、敵の攻撃を完全に防ぐ防御重視のカウンター型の剣らしい。


 これは相当な手練れだ。


 動画を見ながら三大流派の基礎と、他の独自流派の剣術を勝手に取り入れて、我流で磨いてきた俺たちの剣術とは伝統と格が違う。


 何より基礎、応用、発展、全てを体得しており、生半可な我流剣術では通用しない。


 ミリアも負けまいと反撃に出るが、既にパターンを見切られており、淡々と受け流されるだけだ。


 これ以上は本当にミリアが殺されかねない。


 俺がストップをかけようとすると、急に獣の雄叫びが聞こえてきて、大量の黒い影が現れた。


「クソ! 誰だ! 人様の決闘を邪魔する奴はッ!」


 ミリアがその黒い影を斬ると、ばたりと機械仕掛けの鋭い剣の鉤爪を持つ狼が現れて血を噴き出しながら倒れて、黒い靄となって消えた。


 剣獣だ――。


 おそらくメリルの高い剣力に反応して、剣獣が引き寄せられてしまったのだ。


 俺はすぐさま愛剣【不屈剣リバイバル】を手にして、彼女たちに加勢した。


「どうやら、こんなところで決闘したのが裏目に出ちまったみてぇだな……」


 俺の言葉にふたりは舌打ちした。


 何故なら剣獣の数があまりにも多すぎるからだ。


 こんな数を相手に、素人剣士と、ソロのプロ剣士が相手にするには厳しすぎる。


 それとあくまで憶測だが、彼女たちの決闘もそうだが、俺の剣力に惹かれてきたという可能性も考えられる。


 これも理由は不明だが、俺の剣力は剣獣や剣魔にとって魅力的らしい。


 それはこの前の村への剣獣の襲撃で明らかになった。


 思い返せば、十四歳になってから、やたらと剣獣が村を襲ってきていたような気がする。


 ダンの村の門兵たちも、相当困っていたっけな。


 それがまさか俺のせいだったなんてな。


 全く人気者は大変だぜ。


 なんて呑気に構えていると、ミリアからすぐに指示が入った。


「敵の数が多すぎる。ある程度数を減らしたら、荷物を持って退散するぞ!」


 俺もその答えに同意した。


「だな。流石にこれだけの剣獣を相手にしてたらキリがねぇ。逃げるが勝ちって言うくらいだかんな!」


 しかし俺たちふたりの判断とは別に、メリルはぶっ飛んだ発言をして、予想外の行動に出た。


「ああ……♪ 餌です。餌がたくさんいます。イーター。たくさん食べさせてあげますからね? あっはっはっはっはっはっはっはっは♪」


 そんなイカレた言葉を口にしたあと、メリルは数多の剣獣の中に単身で突っ込んでいった。


「なっ!? あの馬鹿女! 何考えてやがんだよ! ミリア。加勢して助けるぞ?」


 俺が助けに行こうとすると、ミリアに肩を掴まれた。


「おい! 何すんだよ?」


 俺が驚きながら文句を言うと、ミリアは落ち着いた表情でこう告げた。


「あいつを囮にして逃げるぞ?」


 あまりにもミリアの冷酷な発言に、俺はブチギレた。


「馬鹿言うなよ! そんなことしたら、あの馬鹿女が本当に死んじまうじゃねぇか!」


 ミリアは吐き捨てるように、現実的な科白を言い放った。


「ゼロ。気持ちは分かるが、よく考えてみろ? 奴はお前の気持ちを考えずに押し倒そうとした。ワタシのことも嫌っている。しかも身の危険も考えずに剣獣と単身で戦っている。そんな頭の可笑しな奴を助けるメリットが何処にある? そんなどうでもいい奴に同情して命を捨てるのは馬鹿のすることだぞ?」


 確かにミリアの言うことはド正論だ。


 あんなクレイジーな女を仲間に入れるメリットはねぇ。


 だが、それでも俺はミリアの手を払いのけた。


「ミリア。お前の言うことは確かに正しいよ。でも、でもよぉ。目の前で死にそうになっている女の子を見捨てることができるほど俺はクールになれねぇんだよ!」


 そう吐き捨てると、ミリアは呆れたように頭を掻いた。


「全く。ウチリーダーさんはとんだお人好しだな。分かった。助けよう。ただし、危なくなったら逃げるのが条件だ。いいな?」


「ああ。それでいい!」


 話しは纏まったので、俺は剣能の力を借りて、その身に剣力を宿した。


「行くぞ!」


「ああ!」


 俺たちは単身で剣獣と戦い、明らかにダメージを受けて傷だらけになっているメリルに加勢した。


「メリル。加勢しに来たぞ!」


 俺がそう告げると、メリルは明らかに顔を赤らめた。


「ああ……。ゼロ様はやはり本当の王子様なのですね。わたしは感激いたしました!」


 そう言いつつ、うっとりして隙が出来たメリルに、剣獣が襲い掛かる。


「がるぅ!」


「メリル。避けろ!」


「へっ?」


 反応が遅れたせいで、身動きが取れていない。


 固まっているメリルの頭部目がけて、剣獣の剣の爪が迫りくる。


 しかし、それを横から加勢した青い剣士がひと薙ぎで駆逐した。


「馬鹿。戦闘中に隙を見せるな。それでもお前はプロの剣士か?」


 ミリアの言葉にメリルはカチンと来たのか、集中力を取り戻した。


「言ってくれるじゃないですか。我流の癖に。いいでしょう。それならわたしの剣能を見せてさしあげます!」


 メリルは【暴食剣イーター】を目の前に掲げて、一気に剣力を解き放った。


「イーター・リフレクション! パージ!」


 そう言い放った途端、とんでもない光が周囲を巻き込んだ。


「うお! なんだこれ?」


「こ、これは……」


 ミリアが驚いた声を出したので、俺も周囲を見渡すと、剣獣が一匹残らず消滅していた。


「す、すげぇ……」


「くそ。これがあのクソ女の剣能か。全く規格外過ぎる……」


 俺たちが怖気づいていると、メリルはどや顔で宣言した。


「これがわたしの剣能【イーター】の能力です。攻撃。防御。ダメージ問わず接触する度に相手の剣力を吸収し、一定以上溜め込んだら対象の敵に倍にしてパージする。どうです? すごいでしょう?」


 確かにメリルの言う通り凄い剣能だ。


 こんなの集める剣力の量によっては、とんでもない爆発を巻き起すことが可能だ。


 どうしてこれほど有能な剣士が、ソロで相棒とバディを組んでいるのか分からない。


 そこでミリアはまた可愛くない発言を呟いた。


「ほらな? だからほっといて逃げとけば良かったんだよ。もし対象にワタシたちが入れられていたら、間違いなく死んでいたぞ?」


「そ、それはそうかもしれないけど、やっぱり放っておけないだろ? あんな可愛い子をひとりだけ剣獣の中に残しておくなんてさ?」


 俺がそう呟くと、メリルが俺に急接近してきて、手をがっしりと握りしめた。


「まあ。ゼロ様は、わたしのこと可愛いって思ってくださっていたのですね! メリル感激ですぅ♪」


 その意図を理解した俺は、顔が沸騰しそうになりながら否定した。


「いや。ちげぇってば! 可愛いって言うのは、あくまで客観的な意見だって。他意はねぇよ!」


 誤解を解くために言ったつもりだが、メリルはますます身体をくねらせて興奮した。


「またまたご冗談を~~。本当はもうわたしにメロメロなんですよね?」


 そんな大胆発言をして、パチリとウィンクをしてきたので、俺は思わず顔を赤くした。


「だからぁぁぁ。ちげぇってばぁぁぁ~~!」


 すると、またしても背後から恐ろしいまでの殺気が襲いかかってきた。


「ほう? このワタシより、そんなクソ女の方が可愛いと? ゼロ。お前はそう言いたいんだな?」


 なんかよく分からないが、ミリアさんがお怒りでいらっしゃる。


 俺は意味が分からず、ミリアに疑問を投げかけた。


「あの……。ミリア? どうしてそんなにブチキレてんの? 俺、別にお前の容姿が可愛くないとか言ったわけじゃない気がするんだけど……」


 その途端、ミリアは【ブロンドソード】を抜いた。


「問答無用! 斬る――ッ!」


「て、あわわ。ちょっとストップ。ストップ。仲間割れしている場合じゃないだろ? ここはいつも通りクールに穏便に行こうぜ? な?」


 俺がそう宥めると、ミリアはますますブチキレて、俺を本気で斬るつもりで剣を構えた。


「今日という。今日はマジで許さないからな? 覚悟しろ! ゼロォォォッ!」


「な、なんで、そうなんだよぉぉぉッ!?」


 ミリアに追いかけ回されたので、必死こいて逃げていたら、急に奥の森の木々から莫大な剣力を感知した。


 その時、その周囲一帯は怒号の叫びによって覆い尽くされた。


「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」


 けたたましい叫び声と共に、奥の方から剣の角を持つ巨大な狼が現れた。


 背中には剣の翼が生えている。


「な!? 新手の剣獣か?」


 俺がぼやくと、ミリアは同意した。


「そうみたいだな。どうやらさっきの奴らの親玉らしい……」


「くそ! おい! メリル。またさっきみたいなのぶちかませねぇのか?」


 ミリアは首を振った。


「む、無理ですよぉぉぉぉ! さっきのパージで剣力はもう残っていません!」


「な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!? あれって一発ずつしか使えないのか?」


 メリルは恥ずかしそうに頷いた。


「はい。集めた剣力を一気にパージするだけの剣能なので、また一から集めないといけませんね! てへっ♪」


 そう舌を出して頭に拳を当てるメリルに対して俺はぶち切れた。


「はぁぁぁぁ? ざけんなよぉぉぉ! てめぇぇぇ! じゃあ、あの化け物相手にまた一からやれってのか?」


 メリルは頷いた。


「そう……なりますね。たはは……。これは死んだかもしれません……」


 どうやらメリルもさっきのパージとやらで、かなり消耗しているようだ。


 一撃必殺の反撃技としては強力だが、使い勝手が悪すぎる。


 俺が吐くより先に、ミリアが溜息を吐いてから促した。


「こうなったら、ワタシがサポートする! だからゼロ! お前が命張れ! いつもみたいにボロボロになりながら、パワーアップして反撃するぞ!」


 俺は舌打ちした。


「ちっ。俺の怪我前提で話を進めるなよな。ちくしょう……。もうこうなりゃ腹を括るしかねぇな!」


 覚悟を決めた俺は、真紅の名剣【不屈剣リバイバル】を構えた。


 どうやらまた俺がボロボロにならないといけないらしい。


 それでも俺は後ろのふたりを見た。


 縋るように見つめられている。


 こんな可愛い美少女ふたりに頼られてびびってるようじゃ男じゃねぇ。


 俺はそう思って目の前の巨大な剣狼に宣言した。


「よっしゃ。やってやるぜ。覚悟しろよ。剣狼。俺と仲間に喧嘩売ったんだ。ぜってぇにお前をぶった斬る――ッ!」


 俺の雄叫びに反応して、剣狼はそのいきり立つように吠えた。


「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!」


 さっきよりも苛烈に吠えて、剣狼は怒涛の如く攻撃を仕掛けてきた。


 俺はその攻撃を逃げずに、わざと食らい続ける。


 傷が増えれば増えるほど、俺の剣力は高くなる。


 膝。腕。腹。肩。太もも。


 ありとあらゆるところを斬り裂かれて、俺は吐血して片膝をつく。


「がはぁぁぁッ!」


「いやああああッ! ゼロ様が……。ゼロ様が死んでしまいます! ミリアさん早くゼロ様を助けて……」


 後ろからそんな声が聞こえてきた。


 そして、次に相棒が口にする言葉を、俺はもう分かりきっていた。


「ごたごた抜かさずに黙って見ていろ。ウチの未来のリーダーはこれくらいで死ぬようなタマじゃない!」


 俺はその言葉を嬉しく感じた。


 そして、笑いながら、立ち上がった。


「へっへっへ。剣狼。それで終いか?」


 俺が笑いながらそう呟くと、剣狼はたじろいだ。


「く、くぅぅぅぅん……」


 どうやら目の前で、確実に仕留めた相手が立っていることに、恐怖しているらしい。


 俺は留めとして、剣狼にゲキを飛ばした。


「それで終いかと聞いているぅぅぅぅ――ッ!」


「くぅぅぅぅん……」


 剣狼はどうやら俺の言葉に臆したようだ。


 俺は溢れ出る剣力を身に纏い、剣狼に別れに挨拶を告げた。


「喧嘩を売る相手を間違えたな。来世では喧嘩相手はもっと慎重に吟味しやがれ!」


 俺の一声で剣狼は委縮した。


 しかし、プライドが許さなかったのか、こちらの中で一番剣力のないミリアに向かって駆け出した。


「がるるるぅぅぅッ!」


 俺は既に身体が反応して、剣狼に一太刀浴びせていた。


「だから言っただろう……。喧嘩相手はもっと慎重に吟味しろって! このクソ剣狼が!」


 剣狼は委縮していた。


 もう逃げる気満々だ。


「くぅぅぅん……」


 俺は弱い者を狙い勝てないとなったら、逃げようとする剣狼に対してブチキレた。


「俺は言ったはずだぜ? 俺と仲間に喧嘩を売ったお前がわりぃって」


 そして、続けながら剣力を足に集中させた。


「それにお前は卑怯にも剣力を纏えない俺の相棒を狙いやがったぁッ! そんなの許せるわきゃねぇだろうがぁッ!」


 もう遠目になる剣狼に、俺は耳がつんざくほどに怒号した。


「だからお前を――」


 俺は足の剣力を一気に解放し、瞬歩を活用して、爆速で距離を詰めた。


 そのまま袈裟気味に剣を構え。


「ぶった斬る――ッ!」


 最大の力によってそれを振り下ろし、剣狼を一刀両断のもとに斬り伏せた。


「ぎゃおおおおおんッ!」


 そう泣き叫びながら、剣狼は命の灯が潰えて、黒い靄となり、黒い結晶を落として消え去った。


 俺はふぅっと力を抜くと、その場にへたり込んだ。


 今回はまだ傷が浅かったせいで、意識はなんとか保ててはいる。


 俺は背後のふたりを見やると、にっと笑ってサムズアップした。


 その瞬間。ふたりとも涙を浮かべて俺に駆け寄ってきた。


「もうゼロ様。無茶し過ぎです。めっですよ!」


「ったく……。本当にお前は大した奴だよ!」


 ふたりに称賛されて照れ臭いが、適当に笑って誤魔化した。


「あははは。心配かけてわりぃな……」


 そのあとメリルは俺に抱き着き、ミリアは呆れたように涙を浮かべていた。


「いてぇ。いてぇから抱き着くな。あたたたた……」


 メリルは泣きじゃくりながら、痛みを堪えている俺にしがみついた。


 そして、ミリアは俺の身体の傷に目を向けたあと、すぐさまポーチから瓶を取り出して俺に放り投げた。


「ほら。治療ドリンクだ。飲め!」


 俺はミリアから治療ドリンクを受け取り、感謝の言葉を述べた。


「ああ。ありがとよ。ミリア。ごくごくごく」


 俺は治療ドリンクを飲み干すと、たちまち体の傷は塞がった。


 それを見たメリルは驚いた。


「ええ。あれだけの傷を負っていながら、初級の治療ドリンクで怪我が治るなんて、ゼロ様不死身ですか?」


 その答えに俺は首を振った。


「ちげぇよ。たぶん俺の剣能【リバイバル】の効果だ。ピンチになればなるほど、強くなって頑丈になるんだ!」


 ミリアは納得したように手を叩いた。


「ああ。だからあの時、わざと攻撃を受けていたのですね。なるほどですぅ♪」


 とりあえずこれでひと段落は着いた。


 そこで俺はもう一度ミリアに頼んでみた。


「なあ? ミリア? メリルにせめて王都まで同行して貰わねぇか? 素人の俺たちふたりじゃ、さっきみたいなのが連続で来たらちょっときついだろ?」


 ミリアも溜息を吐きながらも同意した。


「はぁ~~。まあ。仕方ないな。それじゃあ、飯は食わせてやるから、これからしっかりワタシたちのボディガード頼むぞ? 暴食さん!」


 相手がプロだと言うことを自覚したのか、ミリアは丁寧な呼び方をした。


 だが、メリルは意も介さずに、ミリアに答えた。


「メリルで構いませんよ。わたしもあなたのことミリアちゃんって呼ばせて貰うので♪」


 ミリアはため息を吐いて呆れながらも微笑んだ。


「ったく。知り合ってばっかりで、ちゃん付けとはな。まあ。細かいことはどうでもいいな。よろしく。メリル!」


 ふたりはがしっと握手した。


 俺は立ち上がり、ボロボロになった服にポーチから、ダメージ修復液と呼ばれる装備を即修復してくれる便利アイテムで、服の汚れや破れを直して立ち上がった。


「よし! それじゃあ、明日は王都へ向けて出発だな! 今後ともよろしくな。メリル!」


 メリルは無邪気に笑うと礼儀正しくお辞儀した。


「はい。改めてよろしくお願いしますね。ゼロ様。ミリアちゃん」


 俺とミリアは一度目を合わせてから、メリルを見て、豪快に笑った。


 こうして俺たちは、新たな同行者と共に、王都を目指すことになった。


 ついでにそのあとミリアのせいで、二日分の食料があっという間に尽きたことは言うまでもないことである。


 この女……。マジで面倒臭い……。


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