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「和の国興亡記」第26話「二正面作戦の開始」

**時期**:グランベルク暦1247年初冬、田中翁の葬儀から3日後の午前6時

**場所**:大和国全境、特に西の「白銀峠」と北の「翠の森」

**天候**:快晴、しかし戦雲立ち込める運命の朝


### 【運命の夜明け】


田中翁の葬儀が終わってからちょうど3日後、大和国に歴史的な試練の時が訪れた。


桜京の王宮では、三騎士団長が緊急軍議を開いていた。昨夜の和解以来、彼らの関係は劇的に変化していたが、その新しい絆が実戦で試される時がついに来たのだ。


「報告します!」斥候の兵士が息せき切って駆け込んできた。「西の白銀峠に、アーサー王国の軍旗が見えました!推定5000の大軍です!」


武田信玄は包帯を巻いた右腕を抑えながら立ち上がった。「ついに来たか...」


その時、もう一人の斥候が到着した。


「北の翠の森からも敵影!ベルガモット王国の魔導師の杖が朝日に光っています!こちらも4000以上!」


桜井義信は地図を睨みつけた。「同時侵攻...無名さんの予想通りです」


影山無名は冷静に分析した。「両軍とも午前6時きっかりに動き出すでしょう。私が流した情報の通りです」


### 【侵攻開始の狼煙】


#### 西戦線:白銀峠の雷鳴


午前6時ちょうど、西の白銀峠に巨大な狼煙が上がった。


**アーサー王国軍5000名**の進軍開始の合図だった。白銀色に輝く重装騎兵が、峠の向こうから現れた瞬間、大地が震動した。


「重装騎兵1500騎!歩兵3000!そして...攻城兵器20台!」偵察兵の報告に、桜の騎士団の兵士たちは息を呑んだ。


**アーサー王国の戦術は明確だった**:重装騎兵による正面突破。騎士道精神に基づく堂々とした正面決戦。彼らの重装甲は大和国の軽装備では容易に打ち破れない。


桜井義信は愛馬「桜駒」にまたがりながら、部下たちに檄を飛ばした。


「我らが相手にするのは、騎士道の本場の騎士たちだ!」義信の声が戦場に響いた。「しかし、我らには彼らにない『和の心』がある!美しく戦い、美しく勝利しよう!」


**桜の騎士団主力2000名**は、義信の言葉に鼓舞された。彼らの装備は軽装だが、機動力では勝っている。そして何より、昨夜の和解で得た「真の団結」という最強の武器があった。


#### 北戦線:翠の森の魔光


ほぼ同時刻、北の翠の森からも戦いの火蓋が切られた。


**ベルガモット王国軍4000名**の魔導師団が、森の木々の間から魔法の光を放った瞬間、空気が振動した。


「魔導師500名による集中砲火!これは...」武田信玄は敵の戦術を瞬時に理解した。「遠距離から我が軍を削り、その後で歩兵が突撃する作戦だ」


**ベルガモット王国の戦術**:魔導師による遠距離攻撃で敵の陣形を崩し、その隙を突いて軽装騎兵3000と弓兵500が一気に攻め込む。魔法という超自然的な力は、大和国軍にとって未知の脅威だった。


武田信玄は「不動明王」の旗印を高く掲げた。


「敵は魔法に頼っているが、我らには父祖伝来の武士道がある!」信玄の威厳ある声が響いた。「風林火山の戦術で、魔導師どもを蹴散らすぞ!」


**侍の騎士団主力2500名**は、信玄の指揮の下、伝統的な武田流の陣形を展開した。しかし、魔法という未知の敵に対する不安は隠せなかった。


### 【大和国の軍事状況】


#### 厳しい現実


クラル王は桜京の王宮最上階から戦況を見守りながら、大和国の置かれた状況を冷静に分析していた。


**大和国の総兵力**:正規軍15000名、民兵10000名の計25000名。数だけ見れば敵軍9000名を大きく上回っている。


しかし、**現実は厳しかった**。


「分散配置が最大の弱点ですね」影山無名が地図を指さしながら分析した。「三騎士団の対立時代の名残で、統一指揮系統が確立されていません」


具体的な配置は以下の通りだった:

- 西戦線(桜の騎士団):2000名

- 北戦線(侍の騎士団):2500名

- 首都防衛(忍の騎士団):150名

- 各地の守備隊:5000名(緊急時の移動に半日必要)

- 民兵:10000名(装備・訓練ともに不十分)


「装備格差も深刻です」武田信玄が苦い表情で報告した。「敵国の攻城兵器は我が国の倍以上。特にアーサー王国の『雷神の槌』は城壁をも粉砕する威力があります」


#### 地形的不利


さらに悪いことに、今回の戦場は大和国にとって不利な地形だった。


「白銀峠は平野に面しており、重装騎兵の突撃に最適な地形」桜井義信が地図上の地形を分析した。「我が軽装騎兵の機動力を活かしにくい」


「翠の森は一見我が方に有利に見えますが」武田信玄が続けた。「魔導師の遠距離攻撃では、森の木々が逆に我が軍の退路を塞ぐ可能性があります」


影山無名が補足した。「どちらの戦線も、最終的には平野部での迎撃戦を強いられます。敵の計算通りです」


### 【初期戦闘の混乱】


#### 西戦線:白銀峠の激突


**午前6時30分**、アーサー王国の重装騎兵がついに突撃を開始した。


大地を震わせる馬蹄の音が、白銀峠の谷間に響いた。**1500騎の重装騎兵**が一斉に駆け下りてくる光景は、まさに鉄の津波だった。


「構え!」桜井義信が長剣「桜散」を抜き放った。


桜の騎士団2000名は、義信を中心とした円陣を組んだ。これは彼らが開発した「桜舞の陣」——美しさと実用性を兼ね備えた独自の陣形だった。


**最初の衝突**は凄まじかった。


重装騎兵の突撃力は予想以上で、桜の騎士団の前列が一気に押し崩される。鋼鉄の鎧に身を包んだアーサー王国の騎士たちは、まるで巨大な鉄の塊のように桜の騎士団に襲いかかった。


「くっ...!」義信が敵の槍を脇差「花吹雪」で受け流す。しかし、その衝撃で右肩に軽傷を負った。


**桜の騎士団の苦戦**は明らかだった。装備の差は如何ともし難く、美しい陣形も重装騎兵の前では十分な効果を発揮できない。


「一時退却!」義信が苦渋の決断を下した。「陣形を立て直す!」


桜の騎士団は、約500メートル後退して陣形を再構築した。しかし、この**一時的な後退**は、アーサー王国軍に大きな自信を与えることになった。


「やはり東の島国の武士など、この程度か」アーサー王国の将軍ガウェインが嘲笑った。


#### 北戦線:翠の森の魔術戦


ほぼ同時刻、北戦線では全く異なる性質の戦いが展開されていた。


**ベルガモット王国の魔導師団500名**が、森の中から一斉に魔法を放った瞬間、空が光で満たされた。


「ファイアボール」「ライトニング」「アイスランス」——様々な属性の魔法が、侍の騎士団に襲いかかった。


「散開!」武田信玄が叫んだ。


しかし、魔法という未知の攻撃に対して、侍の騎士団は効果的な対策を取れずにいた。**遠距離魔法攻撃**は、従来の武士の戦術では想定されていない攻撃方法だった。


「前進!敵に接近戦を挑む!」信玄が決断した。


これは正しい判断だった。魔導師は近距離戦では無力に近い。しかし、その前進の最中に、信玄は敵の罠にかかった。


**ベルガモット王国の将軍オリヴィエ**が、魔法攻撃の混乱に乗じて信玄に一騎討ちを挑んできたのだ。


「東方の老武士よ、我と勝負せよ!」オリヴィエが魔法強化された剣を構えた。


「望むところだ!」信玄が愛刀「鬼切丸」を抜いた。


**激しい一騎討ち**が始まった。オリヴィエの魔法強化された剣は威力抜群だったが、信玄の数十年の経験と技術が上回った。


ついに信玄は、オリヴィエの懐に飛び込んで「鬼切丸」を敵の胸に突き立てた。


「見事...だ...」オリヴィエが倒れた。


しかし、その瞬間、別の魔導師が放った「ライトニング」が信玄の左脇腹を直撃した。


「ぐああああ!」信玄が膝をついた。


**敵将を討ち取ったものの重傷**を負った信玄。それでも侍の騎士団は、信玄の勇姿に鼓舞されて防衛線を維持することに成功した。


### 【首都の危機】


#### 予想以上の速攻


桜京の王宮では、戦況の深刻さが次第に明らかになっていた。


「敵軍の進軍速度が予想以上です」影山無名が斥候からの報告をまとめた。「このペースでいくと、明日の夕方には桜京が包囲されます」


**両戦線での苦戦**により、敵軍は予定よりも速く大和国の内部に侵入していた。


「西戦線では、桜の騎士団が500メートル後退」

「北戦線では、防衛線は維持しているものの、信玄殿の重傷で指揮に支障」


クラル王は冷静に状況を分析した。


「首都防衛はどうなっている?」


「忍の騎士団150名のみです」無名が答えた。「他の部隊は各戦線に向かっており、首都は手薄です」


#### 民衆の避難開始


この緊急事態を受けて、桜京では**大規模な避難**が開始された。


「女性・子供・老人の緊急避難を開始せよ!」義信の副官が命令を伝達した。


桜京の大通りは、避難する民衆で溢れかえった。しかし、パニックは起きていなかった。三騎士団の和解のニュースが伝わっており、民衆は彼らの力を信じていたからだ。


「三騎士団様が一つになったなら、必ず勝てる」老人が孫を抱えながら呟いた。


「義信様は美しい戦いで勝利する」若い母親が子供を励ました。


「信玄様の武士道は無敵だ」中年の商人が確信を込めて言った。


「無名様の策略で敵を撃退する」職人が工具を担いで避難した。


民衆の信頼は、三騎士団にとって最大の励みだった。


#### 政府機能の移転


同時に、**重要書類と宝物の疎開**も進められた。


「国家の重要文書は全て地下の隠し倉庫へ」

「田中翁の遺品と記録は最優先で保護」

「三騎士団の歴史的な武器・防具も安全な場所へ」


影山無名の諜報網が、この作業を効率的に進めた。普段は影で活動していた忍者たちが、今は堂々と国家のために働いている。


「もう隠れる必要はありません」無名が部下たちに告げた。「正々堂々と国を守りましょう」


### 【絶望的な状況の中で】


夕方になっても、戦況は好転しなかった。


**西戦線**:桜の騎士団は英雄的に戦っているが、装備差で劣勢は明らか

**北戦線**:信玄の負傷で士気に影響、魔法攻撃への対策も不十分

**首都**:防衛兵力不足で、敵の進撃を止められない可能性


しかし、この絶望的な状況の中で、**三騎士団の真の力**が発揮される準備が整いつつあった。


「明日の夜明けに、最後の決戦を挑みます」桜井義信が宣言した。


「我々三騎士団が、初めて完全に統合された作戦を実行します」武田信玄が包帯を巻きながら決意を示した。


「すべての策略を駆使して、必ず勝利します」影山無名が確信を込めて言った。


田中翁の遺言「血筋ではない、心意気だ」を胸に、三騎士団は史上最大の試練に立ち向かおうとしていた。


そして、その夜、クラル王は三人に最後の助言を与える準備をしていた。神王の千年の知恵が、ついに大和国の勝利の鍵となる時が来ていた。


**次回予告:第27話「三騎士団の緊急同盟」**

*絶望的な戦況の中、三騎士団は史上初の完全統合作戦を決断する。クラル王の軍師としての助言、武田流の伝統戦術、桜井式の美しい戦い、影山流の完璧な策略——すべてが融合した時、奇跡の反撃が始まる。しかし、敵軍の侵攻速度は予想以上。果たして間に合うのか?運命の夜明けまで、あと12時間...*

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