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「和の国興亡記」第16話「隣国の陰謀」

**時期**:グランベルク暦1247年晩秋

**場所**:アーサー王国王宮、ベルガモット王国宮殿、大和国各地

**天候**:各地で不穏な雲が広がる

### 【アーサー王国の野心】


大陸西部に位置するアーサー王国の王宮では、重大な軍議が開かれていた。石造りの巨大な王宮の奥深く、円卓の間と呼ばれる会議室に、国王と重臣たちが集まっている。


「諸君」アーサー三世が威厳ある声で口を開いた。45歳の国王は、祖父の代から続く騎士道の伝統を体現する堂々たる体躯の持ち主である。金髪に青い瞳、そして胸に輝く王家の紋章——まさに騎士道物語に登場する王の風貌だった。


「大和国の情勢について報告せよ」


王の命に応じて立ち上がったのは、情報大臣のガレス卿だった。50歳の熟練した騎士で、長年諜報活動を指揮してきた人物である。


「陛下、大和国は完全に分裂状態にあります」ガレスが地図を広げながら説明した。「三つの騎士団が互いに対立し、統一した指揮系統は完全に崩壊しております」


ガレスの報告は詳細だった。武田派の血統主義、桜井派の理想主義、影山派の実用主義——それぞれの主張と、現在の勢力分布が正確に分析されている。


「興味深いな」アーサー三世が冷笑を浮かべた。「あの国は『武士道』なるものを誇りにしていたが、結局はこの程度か」


王の言葉に、円卓を囲む騎士たちがざわめいた。


「陛下」円卓騎士の筆頭、ランスロット卿が発言した。「大和国の武士道は、我が国の騎士道の偽物に過ぎません。真の騎士道精神は、我々アーサー王国にこそ存在します」


アーサー三世の**動機**は明確だった。騎士道の本場として、大和国の「偽武士道」を許すことができない。彼の祖父、初代アーサー王は円卓騎士団を設立し、騎士道の理想を追求した伝説的な王だった。その血を引く自分が、偽物の騎士道を放置することは、先祖への冒瀆だと考えていた。


「大和国は我が国の騎士道を歪めて『武士道』などと称している」王の声に怒りが込められた。「これは文化的な侵略行為だ。断固として正さねばならない」


軍務大臣のガウェイン卿が軍事状況を報告した。


「陛下、我が軍の準備は整っております」ガウェインが胸を張って報告する。「重装騎兵5000騎、歩兵15000名、そして新型の攻城兵器100台が配備済みです」


アーサー王国の**軍事力**は確実に大和国を上回っていた。特に重装騎兵の突撃力は、大陸でも屈指のものと評価されている。


「戦略はどうか」王が尋ねた。


「西側から正面攻撃を仕掛けます」ガウェインが地図上の進軍ルートを示した。「大和国の武力を直接試し、彼らの『武士道』とやらが真の騎士道に勝てるかを証明いたします」


アーサー三世は満足そうに頷いた。


「よし。偽物の武士道に、真の騎士道の力を見せつけてやろう」


### 【ベルガモット王国の計算】


一方、大陸北部のベルガモット王国では、より巧妙な計画が進行していた。エレガントで美しい宮殿の奥座敷で、女王エリザベス二世が側近たちと秘密会議を行っている。


38歳のエリザベス二世は、聡明で美しい女王として知られていた。黒髪に緑の瞳、そして計算高い微笑みを浮かべる表情は、多くの外交官を魅了してきた。


「大和国の技術力は魅力的ね」女王が優雅に紅茶を飲みながら言った。「特に彼らの農業技術と工芸技術は、我が国の発展に大いに役立つでしょう」


女王の**動機**は、アーサー三世とは異なっていた。彼女が求めているのは、大和国の技術力と貿易利権だった。大和国が開発した冷却技術、改良された農業技術、そして精巧な工芸品——これらは全て、ベルガモット王国の経済発展に必要なものだった。


「陛下」宰相のオリヴィエ伯爵が慎重に発言した。「大和国を直接攻撃するのは得策ではないかもしれません。彼らは意外に強固な防御力を持っています」


「もちろんよ、オリヴィエ」女王が微笑んだ。「だからこそ、より巧妙な手段が必要なの」


ベルガモット王国の**軍事力**は、アーサー王国とは異なる特色を持っていた。軽装騎兵3000騎は高い機動力を誇り、弓兵12000名は正確な射撃で敵を圧倒する。そして最大の特徴は、魔導師団500名の存在だった。


「魔導師団の準備はいかが」女王が魔導師長のメリン老人に尋ねた。


「陛下、新開発の幻術魔法が完成しております」メリンが自信を持って答えた。「敵軍に混乱と内部対立を引き起こすことができます」


女王の**戦略**は狡猾だった。北側から奇襲をかけ、混乱に乗じて主要都市を占領する。しかし、それは表面的な作戦に過ぎない。真の目的は、大和国の技術者と職人を生け捕りにし、技術を奪取することだった。


「平和と文化交流を名目に接近する」女王が計画を説明した。「特に桜井派は理想主義的で、我々の『平和的意図』を信じやすいでしょう」


### 【情報戦の詳細】


両国の情報戦は、既に大和国内で本格化していた。


#### アーサー王国の情報工作


アーサー王国のスパイたちは、主に武田派の周辺で活動していた。彼らの手法は、大和国内の反2世感情を巧妙に煽ることだった。


桜京の酒場「武士の誇り」で、アーサー王国のスパイ、騎士エドワードが偽名を使って活動していた。エドワードは30歳の熟練したスパイで、完璧な大和国の方言を話すことができた。


「おい、聞いたか」エドワードが2世の農民、田中二郎に酒を勧めながら囁いた。「桜井のやつら、今度は現地人を重要な役職に就けるつもりらしいぞ」


「何だって!」田中が激昂した。「それじゃあ、俺たちの父親が血を流して築いた国が、現地人に乗っ取られちまう!」


エドワードは満足そうに頷いた。


「その通りだ。真の日本の心を理解するのは、我々日本人だけだ。現地人には分からん」


このような工作が、大和国各地で行われていた。アーサー王国のスパイたちは、2世と3世の対立、日本系住民と現地人の対立を意図的に煽り、大和国の分裂を促進していた。


また、アーサー王国は武田派に対して「騎士道の盟友」としてアプローチしていた。


「真の武士道と真の騎士道は、根本において同じです」アーサー王国の特使、ガラハッド卿が武田信玄に語りかけた。「我々は共に、堕落した現代に真の武士道精神を蘇らせるべきです」


武田信玄はこの申し出に興味を示していた。アーサー王国の騎士道への憧れと、孤立感から抜け出したい気持ちが、判断を曇らせていた。


#### ベルガモット王国の経済諜報


一方、ベルガモット王国のスパイたちは、商人に変装して経済情報の収集に専念していた。


影山商会を頻繁に訪れる商人、フランソワ・デュボワは、実はベルガモット王国の諜報員だった。35歳の彼は、表向きは織物商人として活動しているが、実際は大和国の経済構造と技術情報の収集を行っている。


「影山さん、素晴らしい冷却装置ですね」フランソワが商会の展示品を見ながら感心したふりをした。「ベルガモット王国でも、このような技術は大変需要があります」


「ありがとうございます」影山無名が商人らしく愛想良く応対した。しかし、その目は常にフランソワの動きを観察している。


フランソワは技術の詳細を聞き出そうとしたが、無名は重要な部分については曖昧な答えしか返さなかった。さすがに諜報のプロ同士、簡単には情報を与えない。


ベルガモット王国はまた、桜井派に対して「平和と文化交流の推進」という名目でアプローチしていた。


「我が女王エリザベス二世は、大和国の美しい文化に深い敬意を抱いております」ベルガモット王国の文化大使、マリー・アントワネット伯爵夫人が桜井義信に語りかけた。「両国の文化交流を通じて、より美しい世界を創造したいのです」


桜井義信はこの提案に強い関心を示した。理想主義的な彼にとって、平和的な文化交流は願ってもない申し出だった。


### 【両国の密約】


アーサー王国とベルガモット王国の間では、密かに秘密協定が結ばれていた。


密約の場所は、両国の国境近くにある中立都市、ニュートラルシティの高級ホテルだった。アーサー王国の外務大臣ガレス卿と、ベルガモット王国の外務大臣オリヴィエ伯爵が、極秘に会談を行った。


「大和国分割統治協定」と名付けられたこの密約の内容は以下の通りだった:


**第一条**:両国は大和国に対して同時侵攻を行う

**第二条**:アーサー王国は大和国の西半分を統治する

**第三条**:ベルガモット王国は大和国の東半分を統治する

**第四条**:大和国の技術と人材は両国で分割する

**第五条**:この協定は絶対秘密とし、第三国には知らせない


「タイミングが重要ですな」ガレスが慎重に確認した。


「もちろんです」オリヴィエが同意した。「大和国の内部分裂が頂点に達した時、我々は同時に行動します」


両国の情報部は、大和国の情勢を詳細に監視していた。田中翁の健康状態、三騎士団の対立状況、民衆の動向——全てが侵攻のタイミングを決める重要な要素だった。


「田中翁が亡くなれば、大和国は完全に統制を失うでしょう」ガレスが冷酷に分析した。


「その時が、我々の機会です」オリヴィエが合意した。


### 【影山無名の警戒】


大和国で唯一、この危険な状況を正確に把握していたのは、影山無名だった。彼の諜報網は、両国の動きを詳細に監視していた。


無名の私室で、緊急会議が開かれていた。参加者は、無名の最も信頼する諜報員たちである。


「状況は極めて深刻だ」無名が地図を広げながら説明した。「アーサー王国は西から、ベルガモット王国は北から、ほぼ同時に侵攻してくる」


上忍の一人、影丸が報告した。


「アーサー王国軍は国境から50キロの地点に集結しています。表向きは『軍事演習』ということになっていますが、実際は侵攻準備です」


もう一人の上忍、霧女が補足した。


「ベルガモット王国も同様です。『国境警備の強化』と称していますが、明らかに攻撃態勢です」


無名の表情は深刻だった。


「両国とも、我が国の内部分裂を利用しようとしている。武田派にはアーサー王国が接近し、桜井派にはベルガモット王国が接近している」


中忍の一人、風太が疑問を呈した。


「なぜ影山派には接触してこないのでしょうか」


無名が苦笑いを浮かべた。


「我々は現実主義者だからだ。簡単には騙されないことを、彼らも理解している。だから直接的な軍事侵攻で対処するつもりなのだろう」


### 【クラル王の憂慮】


宿屋「桜屋」で、クラル王は深く憂慮していた。グランベルク王国の情報網により、彼もまた近隣諸国の動きを把握していた。


「田中さん」クラル王が女将の田中ゆきに声をかけた。「この状況をどう思われますか」


ゆきは疲れ切った表情で答えた。


「もうどうにでもなれ、という気持ちです。内部でいがみ合っている間に、外国に攻められるなんて...」


クラル王は窓の外を見つめた。桜京の街並みは美しく、平和そうに見えるが、その平和は虚構に過ぎなかった。


(私は介入すべきか...)


クラル王の心は複雑だった。統治者としての本能は、この危機に介入して大和国を救おうとする。しかし、学習者としての立場は、彼らの自立性を尊重し、自力での解決を見守ることを求める。


さらに複雑なのは、クラル王が察知していた祖国グランベルク王国の動きだった。


グランベルク王国もまた、この混乱を好機と捉えて動いていた。ただし、その目的は征服ではなく、影響力の拡大だった。大和国を保護国化し、経済的・政治的な従属関係を築こうとしている。


「三つの隣国すべてが、大和国を狙っている」クラル王が心の中で呟いた。「しかも、それぞれ異なる方法で」


### 【迫りくる危機】


夜が深まる中、大和国を取り巻く危機は刻一刻と迫っていた。


アーサー王国の軍営では、騎士たちが最終的な作戦会議を行っている。


「明日の夜明けと共に、第一段階の作戦を開始する」ガウェイン卿が命令を下した。


ベルガモット王国の宮殿では、女王エリザベス二世が魔導師団に最終指示を与えている。


「幻術魔法の準備はよろしいわね」女王の声に冷たい決意があった。


そして大和国内では、三騎士団が互いに対立を続け、迫りくる危機に気づいていない。


田中翁の庵では、翁の容体がさらに悪化していた。


「おじいちゃん、大丈夫ですか」さくらが心配そうに翁を見守った。


翁は薄れゆく意識の中で、何かを感じ取っていた。


「嵐が...来る...」翁の最後の予感だった。


外では風が強くなり、雲が厚く重なっている。まさに嵐の前の静けさだった。


大和国の運命を決める重大な局面が、もうすぐ到来しようとしていた。


**次回予告:第17話「忍の暗躍」**

*影山無名が最後の策略に打って出る。外敵の侵攻が迫る中、あえて内部対立を煽って危機感を演出し、強制的な団結を図る危険な賭け。二重スパイ作戦により両国の軍事計画を操作し、同時侵攻のタイミングを調整。しかし、この策略は部下たちの苦悩と、無名自身の孤独な重圧をもたらす。果たして国を救うためなら悪魔にもなるという覚悟は報われるのか...*

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