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ネオニッポンの亡霊達:最終対決

黄金の館は、クラル王が想像していたよりもはるかに巨大で威圧的だった。


三階建ての本館を中心に、複数の別棟が配置されている。敷地全体は高い塀で囲まれ、所々に監視塔が建てられていた。警備員たちが規則正しく巡回しており、その装備は一般的な警備員のものではなく、明らかに軍事レベルだった。


「まるで要塞だ……」


クラル王は森の陰から館の全体像を観察していた。正面から侵入するのは不可能に近い。


河村の馬車は正門を通り、本館の玄関前で停止した。河村は馬車から降りると、待機していた使用人に迎えられ、館の中に消えていった。


「あの中に、ついに河村がいる」


クラル王は十年間の調査の末に、ついに標的を確認できた。しかし、問題はここからだった。どうやって館に侵入し、河村と対峙するか。


館の構造を詳しく観察していると、一つの可能性に気づいた。


「使用人の入り口か……」


本館の裏手に、従業員用と思われる小さな扉があった。そこから使用人たちが出入りしているのが見えた。


クラル王は変装を検討した。使用人に化けて侵入する方法もあったが、リスクが高すぎた。この館で働く使用人たちは、おそらく全員が河村の身元調査を受けているだろう。


「直接的な方法しかないか……」


夜が更けて館が静まり返った頃、クラル王は行動を開始した。


豊穣神の力を使い、館の外壁を静かに登っていく。三階の窓から侵入し、内部を探索する計画だった。


しかし、窓に手をかけた瞬間、異変を感じた。


「魔法の結界……」


館全体に、強力な防御魔法がかけられていた。物理的な侵入を検知し、警報を発する仕組みらしい。


「さすが、悪魔の知識を持つ男だ」


クラル王は結界を慎重に分析した。マモンから授かった知識により、河村は高度な防御システムを構築していた。


しかし、豊穣神の力は悪魔の魔法を上回る。クラル王は神の力で結界を中和し、音もなく窓を開けた。


館の内部は、外観に負けず劣らず豪華だった。廊下の床は大理石で、壁には高価な絵画が掛けられている。シャンデリアが微かな明かりを放ち、幻想的な雰囲気を演出していた。


「まるで宮殿のようだ」


クラル王は慎重に廊下を進んだ。使用人たちは全員就寝しているようで、人の気配はなかった。しかし、所々に監視の魔法が仕掛けられており、油断はできなかった。


一階に降りると、大きな書斎を発見した。扉は閉まっていたが、中から微かに明かりが漏れている。


「誰かいるのか……」


クラル王は扉に耳を当てた。中から、一人の男性の声が聞こえてきた。電話で誰かと話しているようだった。


「はい、計画は順調に進んでいます」


その声は、間違いなく河村雄斗のものだった。


「来月には、隣国のクレセント王国でも事業を開始する予定です」


クラル王は衝撃を受けた。河村の野望は、シルバーポートを超えて隣国にまで及んでいた。


「奴隷の調達も、順調です。今月だけで500人を確保しました」


河村の冷淡な声が続いた。人間を数字としてしか見ていない残酷さが、声の調子から感じ取れた。


「はい、品質も向上しています。『教育』システムが効果を上げています」


クラル王の怒りが静かに燃え上がった。「教育」とは、奴隷を従順にするための洗脳システムのことだろう。


電話が終わると、書斎の中が静かになった。


クラル王は決断した。今こそ、河村と直接対峙する時だった。


扉をゆっくりと開け、書斎に足を踏み入れた。


書斎は、館の他の部屋と同様に豪華に装飾されていた。壁一面に本棚があり、無数の書籍が整然と並んでいる。中央には大きな机があり、その向こうに革張りの椅子が置かれていた。


その椅子に座っていたのが、河村雄斗だった。


27歳になった河村は、17歳の頃とは完全に別人のような外見だった。銀髪に金色の瞳、彫りの深い顔立ち。まるで西洋の貴族のような風貌だった。身に着けているのは、最高級の絹で仕立てられたスーツで、胸元には大きなダイヤモンドのブローチが輝いていた。


「ようこそ、我が館へ」


河村は振り返ることなく言った。まるで、クラル王の侵入を予期していたかのようだった。


「驚かないのですね」


クラル王は部屋の中央に立った。


「驚く?」河村がゆっくりと椅子を回転させ、クラル王と向き合った。「10年間も私を追いかけ続けた男が、ついに辿り着いただけのことです」


河村の金色の瞳は、まるで蛇のように冷たく光っていた。


「知っていたのですか?私の正体を?」


「もちろん」河村は微笑んだ。「マックス・シルバーマン……いや、グランベルク王国国王クラル様」


クラル王は内心で驚いた。いつから正体がばれていたのだろうか。


「いつから?」


「最初からです」河村は立ち上がった。「あなたがシルバーポートに現れた時から、全て把握していました」


「それなのに、なぜ放置していたのですか?」


「面白かったからです」河村の笑みが深くなった。「あの偉大なグランベルク王が、10年もかけて私を追いかけている。これほど楽しい見せ物はありません」


クラル王は河村の言葉に怒りを覚えた。


「見せ物?」


「そうです」河村は机の前に歩いてきた。「私にとって、あなたの調査活動は最高のエンターテイメントでした。どこまで真実に迫れるか、いつ諦めるか、とても興味深く観察させていただきました」


「では、エドワード・ブラウンやアリシア・スミスも……」


「私の指示で動いていました」河村は冷酷に言った。「彼らが提供した情報も、私が与えたものです」


クラル王は愕然とした。10年間の調査が、全て河村の掌の上で踊らされていたということか。


「なぜ、そこまで……」


「なぜ?」河村は首をかしげた。「あなたが私を『救った』からです」


「救った?」


「ネオニッポン事件の時、あなたは私たちを救出したと言いました」河村の目に憎しみの光が宿った。「でも、私は救われたくなんかなかった」


クラル王は困惑した。


「あの偽りの楽園で、私は初めて『価値ある存在』として認められたんです」河村の声が感情的になった。「マモン様は私の才能を認め、力を与えてくださった」


「しかし、あれは悪魔の罠でした」


「罠?」河村が笑った。「私にとっては天国でした。元の世界では、私は何の価値もない商人の息子。誰からも注目されず、誰からも期待されない存在でした」


河村は窓の方に歩いていき、外の闇を見つめた。


「でも、マモン様のおかげで変わりました。商業の才能、人心掌握術、そして何より……人間の本質を見抜く力を得ました」


「人間の本質?」


「そうです」河村は振り返った。「人間は皆、欲望に支配される愚かな生き物だということです」


河村は本棚から一冊の本を取り出した。


「この10年間で、私は数万人の人間を観察しました」河村は本をぺらぺらとめくった。「そして確信したんです。人間に自由意志なんてない」


「何を言っているのですか?」


「金と権力さえあれば、どんな人間でも思い通りに動かせます」河村の目が狂気を帯びてきた。「政治家も、官僚も、商人も、労働者も……皆、私の手のひらで踊っています」


河村は本を机に置いた。


「そして、あなたも例外ではありませんでした」


「私も?」


「この10年間、あなたは私の思惑通りに動いていました」河村は得意そうに言った。「私が与えた情報を信じ、私が仕組んだ罠にはまり、そして今、この部屋まで誘導されてきた」


クラル王は戦慄した。本当に、全てが河村の計算だったのか。


「なぜ、わざわざ私をここまで?」


「決着をつけるためです」河村の声が冷たくなった。「あなたは私の唯一の失敗作ですから」


「失敗作?」


「そうです」河村は机の引き出しから何かを取り出した。「私が支配できなかった唯一の人間」


河村の手には、金色に輝く短剣があった。柄にはマモンの紋章が刻まれており、刃からは邪悪な気配が漂っていた。


「その剣は……」


「マモン様から授かった特別な品です」河村は短剣を愛おしそうに撫でた。「『魂切り』という名前で、対象の魂を直接攻撃できます」


クラル王は警戒した。神の力を持つ自分でも、魂への直接攻撃は危険だった。


「あなたを殺すために、10年間かけて準備してきました」河村は短剣を構えた。「私の支配から逃れた唯一の人間として、特別に丁重に始末させていただきます」


「河村雄斗」


クラル王は斬馬刀を抜いた。10年ぶりに手にする愛用の武器が、久しぶりの実戦に震えているようだった。


「お前は、根本的に間違っている」


「間違っている?」河村が嘲笑した。「何が間違っているというのですか?」


「人間は、お前が思っているほど愚かではない」


クラル王は剣を構えた。


「確かに、欲望に負ける者もいる。金や権力に屈服する者もいる」


「そうでしょう?」


「しかし」クラル王の目に強い光が宿った。「それでも最後まで抗い続ける者もいる。困難に立ち向かい、他者のために戦う者もいる」


「綺麗事を……」


河村は魂切りを振りかざした。短剣から放たれた邪悪な光が、クラル王に向かって飛んだ。


クラル王は斬馬刀で攻撃を受け流した。神の力が悪魔の力と激突し、書斎の空気が震えた。


「お前が10年間で支配した人々も、心の奥底では抵抗していたはずだ」


クラル王は反撃に転じた。斬馬刀が神の光を纏い、河村に向かって振り下ろされた。


河村は素早く身をかわしたが、攻撃の余波で本棚の書籍が吹き飛んだ。


「抵抗?」河村が笑った。「皆、喜んで服従していましたよ」


「それは、選択肢を奪われていたからだ」


クラル王は続けた。


「お前は巧妙に人々を追い詰め、服従以外の道を塞いでいた」


河村は再び魂切りで攻撃してきた。今度は連続攻撃で、短剣が残像を残しながら襲いかかった。


クラル王は全ての攻撃を受け流したが、魂への攻撃は確実にダメージを与えていた。


「でも、それでも諦めない人がいた」


クラル王は反撃しながら話し続けた。


「エドワード・ブラウンのように、敗北を受け入れずに立ち上がる人が」


「彼らも私の駒でした」河村は冷たく言った。


「最初はそうだったかもしれない」クラル王は認めた。「しかし、途中で本当の意志を持ち始めた」


河村の表情が一瞬揺らいだ。


「エドワードが私に協力したのは、お前への復讐心だけではなかった」クラル王は続けた。「苦しんでいる人々を救いたいという、純粋な善意もあった」


「そんなもの……」


「アリシア・スミスもそうだ」クラル王は魂切りの攻撃をかわしながら言った。「最初はお前の指示で情報を流していたかもしれない。しかし、最後は本当に組織を裏切ろうとしていた」


河村の動きが鈍くなった。


「人間には、お前が理解できない力がある」クラル王は斬馬刀を振り上げた。「それは愛だ」


「愛?」河村が嘲笑しようとしたが、声が震えていた。


「家族への愛、友人への愛、そして見知らぬ人への愛」クラル王の剣が神々しく輝いた。「その力は、どんな支配よりも強い」


河村は魂切りを両手で握り、全力で突進してきた。


「綺麗事はうんざりだ!」


しかし、その攻撃は以前ほどの勢いがなかった。クラル王の言葉が、河村の心に動揺を与えていた。


「お前も、本当は知っているはずだ」


クラル王は河村の攻撃を受け止めながら言った。


「マモンから力を得る前の、純粋だった頃の自分を」


「黙れ!」


河村は叫んだが、その目に涙が浮かんでいた。


「あの頃のお前は、人を支配したいなんて思っていなかった」クラル王は優しく言った。「ただ、認められたい、愛されたいと思っていた」


「それがどうした!」河村の声が裏返った。「誰も俺を認めてくれなかった!誰も俺を愛してくれなかった!」


「それは違う」


クラル王は剣を下ろした。


「お前の両親は、お前を愛していた」


「嘘だ!」


「商売ばかりで構ってくれなかったかもしれない。しかし、お前の将来を心配し、お前の幸せを願っていた」


河村の手が震え始めた。


「そして、学校にも、お前を理解しようとしてくれた人がいたはずだ」


「いない……誰もいなかった……」


「本当にそうか?」クラル王は一歩近づいた。「よく思い出してみろ」


河村の頭の中に、封印していた記憶が蘇ってきた。


商売で忙しい両親が、それでも自分の誕生日を覚えていてくれたこと。


クラスで孤立していた時に、一人だけ声をかけてくれた同級生がいたこと。


担任の先生が、成績の悪い自分を見捨てずに指導してくれたこと。


「思い出したか?」


河村の目から、涙が流れ始めた。


「でも……でも、俺は……」


「まだ遅くない」クラル王は手を差し伸べた。「お前が支配した人々を解放し、償いをすれば……」


その時だった。


突然、河村の体が黒いオーラに包まれた。


「マモン様……」


河村の声が変わった。明らかに別の存在が憑依していた。


『久しぶりだな、クラル』


マモンの声が河村の口から発せられた。


『我が子を惑わそうとは、相変わらず愚かな男よ』


クラル王は警戒した。マモンの本体は既にこの世界を去っているはずだった。


『安心しろ。我の本体はもうここにはない』マモンが笑った。『これは、雄斗に残した最後の贈り物だ』


河村の体が変化し始めた。身長が伸び、筋肉が膨れ上がり、肌が金色に変色していく。


『雄斗は我が最高傑作だ。貴様ごときに負けるはずがない』


完全に変身を終えた河村は、もはや人間とは思えない存在になっていた。3メートルを超える巨体に、黄金の肌、そして燃えるような赤い瞳。


『さあ、決着をつけようではないか』


変身した河村が、魂切りを振り回した。短剣も巨大化し、大剣ほどの大きさになっていた。


変身した河村との戦いは、これまでとは全く違う次元のものだった。


『どうした、クラル!』


マモンに支配された河村が、巨大化した魂切りを振り回した。その一撃一撃が、書斎の壁を粉砕し、床に深いクレーターを作った。


クラル王は豊穣神の力を全開にして応戦した。斬馬刀が神の光に包まれ、悪魔の力と真っ向から激突した。


『貴様の偽善にはうんざりだ!』


河村の攻撃が激しさを増した。魂切りから放たれる邪悪な光が、クラル王の魂を直接攻撃してくる。


「偽善ではない!」


クラル王は反撃した。斬馬刀の一閃が、河村の胸を浅く切り裂いた。


『ならば何だというのだ!人間など、所詮は欲望の塊ではないか!』


「確かに、人間は不完全だ」クラル王は認めた。「欲望もあれば、弱さもある」


クラル王は河村の攻撃をかわしながら続けた。


「しかし、それでも成長し、変化し、他者を思いやることができる」


『綺麗事を!』


河村は魂切りを両手で握り、全力で振り下ろした。


クラル王は斬馬刀で受け止めたが、その衝撃で床が陥没した。


「綺麗事ではない!」クラル王は力を込めて河村を押し返した。「実際に見てきたからだ!」


「この10年間で、私は多くの人間の真の姿を見た」


クラル王は攻勢に転じた。


「お前に支配された人々も、完全に屈服していたわけではなかった」


斬馬刀が連続で振るわれ、河村の巨体に傷を刻んでいく。


「彼らは心の奥底で、家族を思い、仲間を思い、より良い未来を願っていた」


『嘘だ!』河村が反撃した。『皆、金と権力に屈服していた!』


「表面的にはそうだった」クラル王は認めた。「しかし、魂まで売り渡した者はいなかった」


クラル王は河村の懐に飛び込み、至近距離で斬馬刀を振るった。


「だからこそ、エドワードのような人間が現れた」


『エドワードは我の駒だ!』


「最初はそうだった」クラル王は続けた。「しかし、途中で変わった。お前への復讐心だけでなく、正義への想いも芽生えた」


河村の動きが鈍くなってきた。マモンの力は強大だったが、人間の体には負担が大きすぎた。


「アリシアもそうだ。最初はお前の指示で動いていたが、最終的には本当に内部告発をしようとしていた」


『そんなことは……』


「そして何より」クラル王は決定的な一撃を放った。「お前自身が、まだ完全には堕ちていない」


斬馬刀が河村の胸を深く貫いた。


『何だと……』


「お前が本当に完全な悪だったなら、私の言葉に動揺することはなかったはずだ」


河村の巨体が崩れ始めた。マモンの力が急速に弱まっていく。


「お前の心の奥底には、まだ人間らしい部分が残っている」


『馬鹿な……我は完璧な悪の化身……』


「違う」クラル王は優しく言った。「お前は、愛に飢えた哀れな少年だ」


その瞬間、河村の体からマモンの力が完全に抜けていった。


マモンの力が去ると、河村は元の人間の姿に戻った。


しかし、長年にわたる悪魔の力の使用により、彼の体は限界に達していた。胸の傷も深く、生命に関わる状態だった。


「ハァ……ハァ……」


河村は床に倒れ、苦しそうに息をしていた。


クラル王は剣を収め、河村の傍らにひざまずいた。


「河村雄斗……」


「クラル……王……」河村は苦しそうに呟いた。「俺は……俺は何をしていたんだ……」


マモンの支配から解放された河村の目に、人間らしい感情が戻ってきていた。


「10年間……俺は何をしてきたんだ……」


河村の目から涙が流れ始めた。自分が犯してきた罪の重さが、ようやく理解できたのだ。


「あの人たちを……奴隷にして……」


「まだ間に合う」クラル王は言った。「組織を解散し、支配下の人々を解放すれば……」


「無理だ……」河村は首を振った。「俺の組織は……もう俺の手に負えないほど大きくなってる」


河村は続けた。


「部下たちは……俺がいなくても……組織を維持し続けるだろう……」


クラル王は愕然とした。河村を倒しても、問題は解決しないということか。


「俺が作ったシステムは……完璧すぎた……」河村は自嘲的に笑った。「もう誰にも止められない……」


「そんなことはない」クラル王は言った。「必ず方法がある」


「方法……」河村は何かを思い出したような表情をした。「一つだけ……ある……」


河村は机の引き出しを指差した。


「あの中に……『マスターキー』がある……」


クラル王は指定された引き出しを開けた。中には、小さな金色の鍵があった。


「それは……全システムの……停止キーだ……」河村は説明した。「マモン様が……万が一の時のために……作らせた……」


「どう使うのですか?」


「地下室に……中央制御装置がある……」河村の声が弱くなってきた。「そこで……その鍵を使えば……」


「全システムが停止する?」


「ああ……」河村は頷いた。「でも……俺の生体認証も……必要だ……」


河村は自分の手を見つめた。


「俺が死んだら……システムは永久に……止められない……」


クラル王は決断した。


「案内してください」


「俺を……助けるのか……?」河村は驚いた。


「あなたは、まだ償いをしなければならない」


クラル王は河村を支え起こした。


「最後に、正しいことをしましょう」


河村の目に、僅かな希望の光が宿った。


「俺に……それができるのか……」


「できます」クラル王は確信を込めて言った。「人間は、最後まで変わることができる」


二人は書斎を出て、地下室に向かった。


地下室には、巨大なコンピューターシステムが設置されていた。それは魔法と科学技術を融合させた、この世界では類を見ない装置だった。


「ここで……俺の10年間の……罪を清算する……」


河村は中央制御パネルの前に立った。


「生体認証を開始します」


機械の音声が響いた。河村は手をスキャナーに置き、目をカメラに向けた。


「認証完了。マスターキー挿入をお待ちしています」


河村はクラル王からキーを受け取り、指定されたスロットに挿入した。


「最終確認です。全システムを停止しますか?」


河村は一瞬躊躇した。このシステムを停止すれば、彼が10年かけて築き上げた全てが失われる。


しかし、彼は決断した。


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