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ネオニッポンの亡霊達:金の悪魔

クラル王がシルバーポート商業都市に到着したのは、初秋の涼しい朝だった。港町特有の潮の香りと、商業都市らしい活気が入り混じった空気が、彼を迎えた。


しかし、表面的な繁栄の裏に、何か不穏なものを感じ取っていた。商人たちの表情には、わずかな緊張が見え隠れしている。活気はあるが、どこか不自然な活気だった。


「宿を探さねば……」


クラル王は変装を施し、一般的な商人として街に紛れ込んだ。今回は、慎重に情報収集を行う必要があった。相手は「金の悪魔」河村雄斗。悪魔マモンから商業と金融の知識、そして人心掌握術を学んだ17歳の少年。


しかし、到着してすぐに、事態の複雑さを痛感することになった。


港近くの宿「波音亭」で部屋を取った後、クラル王は情報収集を開始した。まずは酒場で、地元の商人や船員たちから話を聞くことにした。


「最近、この街の様子はいかがですか?」


クラル王は、中年の商人に酒を奢りながら尋ねた。


「様子?」商人は周囲をちらりと見回してから、声を潜めた。「表向きは好調だよ。取引量も増えてるし、新しい商会もどんどんできてる」


「表向きは?」


「でもな……」商人は更に声を小さくした。「何かがおかしいんだ。金の流れが、以前とは全然違う」


商人は酒を一口飲んでから続けた。


「昔は、商売ってのは分かりやすかった。品物を仕入れて、運んで、売る。利益は薄いが確実だった」


「今は違うのですか?」


「今は……」商人は困惑したような表情を浮かべた。「よく分からん仕組みで大金が動いてる。『金融商品』だの『投資機会』だの、聞いたこともない言葉ばかりだ」


クラル王は内心で警戒した。これは明らかに、河村雄斗の影響だった。


「その新しい仕組みを導入したのは?」


「『ゴールデン・トレーディング商会』って会社だ」商人は複雑な表情を見せた。「若い社長がやってる会社で、この数年で急成長した」


「若い社長?」


「ああ、まだ20代前半の青年だ。外国人みたいな顔をしてるが、商才は天才的だって評判だ」


クラル王は確信した。それが河村雄斗だった。


「どのような商売をしているのですか?」


「それが……」商人は頭を掻いた。「正確には分からんのだ。色々な事業に手を出してるらしいが、一番大きいのは『人材派遣業』だとか」


「人材派遣業?」


クラル王の血が冷えた。これは明らかに奴隷貿易の隠れ蓑だった。


「でも、俺たちみたいな小さな商人には関係ない話だ」商人は苦笑いした。「ただ、最近は彼らの影響で、従来の商売がやりにくくなってきた」


「どういうことですか?」


「彼らが提示する価格に、俺たちが太刀打ちできないんだ」商人の声に悔しさが滲んだ。「同じ商品でも、彼らは信じられないくらい安く仕入れて、高く売ってる」


「なぜそんなことが可能なのでしょう?」


「分からん……」商人は首を振った。「きっと、俺たちが知らない特別なルートがあるんだろう」


クラル王は、その「特別なルート」が何なのか、薄々理解していた。奴隷労働による生産コストの削減、そして不正な手段による流通の独占。


「その……ゴールデン・トレーディング商会の社長に会うことは可能でしょうか?」


「会う?」商人が驚いた。「無理だよ。あの人は滅多に人前に姿を現さない。商会の幹部たちが代理で交渉することがほとんどだ」


「そうですか……」


「それに」商人は声を更に潜めた。「あの会社に逆らった商人は、なぜか皆、商売がうまくいかなくなる」


「どういう意味ですか?」


「取引先が急に契約を打ち切ったり、船が『事故』に遭ったり、税務調査が入ったり……」商人は震え声になった。「偶然にしては、できすぎてるんだ」


クラル王は状況の深刻さを理解した。河村雄斗は単なる奴隷商人ではなく、シルバーポート全体の経済を支配しようとしていた。


翌日から、クラル王は本格的な調査を開始した。しかし、予想以上に困難を極めた。


まず、ゴールデン・トレーディング商会の実態を掴むことが難しかった。会社は確かに存在し、立派な本社ビルも構えているが、実際の事業内容が見えてこない。


「申し訳ございませんが、弊社の事業内容については、守秘義務がございまして……」


商会の受付嬢は、丁寧だが頑なに情報開示を拒んだ。


「簡単な概要だけでも……」


「恐れ入りますが、事前の紹介状がない限り、詳細なご説明はできかねます」


クラル王は別のアプローチを試みた。商会と取引のある会社を調べ、そこから情報を得ようとした。


しかし、それらの会社も口が堅かった。


「ゴールデン・トレーディング?ああ、優良企業ですよ」


ある商社の社長は、表面的な称賛の言葉を述べるが、具体的な話になると途端に口を閉ざした。


「具体的には、どのような取引を?」


「それは……企業秘密ですので……」


「では、社長の河村氏とは直接お会いになったことは?」


「いえ、直接は……代理の方とのお話で……」


どの商人も、河村雄斗本人を見たことがないと言う。しかし、彼の影響力は確実に街全体に及んでいた。


調査を続けるうちに、クラル王は徐々に河村の手法を理解し始めた。


河村は直接的な暴力や魔法を使わず、経済的手段によって人々を支配していた。その手法は巧妙で、被害者自身が被害を受けていることに気づかないほどだった。


最初に気づいたのは、労働市場の異常だった。


「最近、働き手の確保が難しくなった」


港湾労働者の組合長が嘆いていた。


「なぜですか?」


「ゴールデン・トレーディングが、高い賃金で労働者を引き抜いていくんだ」


一見すると、これは労働者にとって良いことのように思える。しかし、実態は違った。


「でも、引き抜かれた連中の話を聞くと……」組合長の表情が暗くなった。「最初だけ高い賃金をもらえるが、だんだん条件が悪くなっていく」


「具体的には?」


「労働時間が長くなり、休日が減り、最終的には辞めることもできなくなる」組合長は怒りを込めて言った。「借金を背負わされて、返済のために働かされるんだ」


これは明らかに債務奴隷制度だった。河村は法的な手続きを装いながら、実質的に人々を奴隷にしていた。


さらに調査を進めると、より巧妙な仕組みが見えてきた。


「投資話に乗った商人たちが、次々と破産している」


別の情報源から得た話だった。


「投資話?」


「ああ、『画期的な新商品への投資機会』だとか『確実に利益が出る貿易ルート』だとか、魅力的な話を持ちかけてくるんだ」


「それで?」


「最初は順調に利益が出る。配当も払われる。だから皆、追加投資をする」情報提供者は苦い表情を見せた。「でも、ある日突然、全てが消える」


「消える?」


「投資先の会社が倒産したり、貿易ルートが閉鎖されたり……理由は様々だが、結果は同じ。投資金は戻ってこない」


これは典型的なポンジ・スキームだった。新しい投資家の資金を使って既存の投資家に配当を払い、最終的に全てを持ち逃げする詐欺手法。


しかし、河村の手法はさらに悪質だった。


「破産した商人たちは、どうなるのですか?」


「『救済措置』として、ゴールデン・トレーディングが彼らの事業を買い取る」情報提供者は皮肉な笑いを浮かべた。「もちろん、二束三文でな」


「そして?」


「元の経営者は『顧問』として雇われるが、実質的には奴隷だ。自分の会社を、河村の指示通りに運営するしかない」


クラル王は愕然とした。河村は詐欺によって商人たちを破産させ、その後で彼らの事業を格安で買収し、さらに元経営者を奴隷として使役していた。


調査を始めてから一年が経った。クラル王は多くの情報を収集したが、河村雄斗本人の居場所や正確な実態は掴めずにいた。


「まるで影のような男だ……」


クラル王は宿の部屋で一人呟いた。田辺大地は物理的な影を操ったが、河村は経済という見えない影を操っていた。


河村の影響力は、もはやシルバーポートだけに留まらなくなっていた。近隣の都市でも、同様の手法による経済支配が始まっていた。


「この一年で、被害はさらに拡大している」


クラル王は集めた情報を整理していた。ゴールデン・トレーディング商会の関連企業は50社を超え、従業員数は数千人に達していた。しかし、そのほとんどが実質的な奴隷だった。


「正面から攻撃しても、効果がない」


通常の犯罪であれば、クラル王の力で簡単に解決できた。しかし、河村の犯罪は法的には「グレーゾーン」に位置していた。表面的には合法的な商取引を装っているため、証拠を掴むことが困難だった。


「もっと深く潜入する必要がある」


クラル王は決意した。表面的な調査では限界があった。河村の組織の内部に潜入し、直接的な証拠を掴む必要があった。


二年目に入り、クラル王は本格的な潜入作戦を開始した。


まず、偽の身分を作り上げた。名前は「マックス・シルバーマン」、中堅商人という設定だった。適度な資産を持ち、拡大志向があり、新しい投資機会を探している商人。河村の組織が標的とするであろう人物像を演じることにした。


「シルバーマン商会を設立します」


クラル王は正式に商会を登録し、実際に小規模な貿易業を始めた。表面的には本物の商人になりきる必要があった。


数ヶ月の準備期間を経て、ついにゴールデン・トレーディング商会からの接触があった。


「シルバーマン様ですね」


現れたのは、30代前半の男性だった。身なりは上品で、物腰も丁寧だが、その目には冷たい光があった。


「私、ゴールデン・トレーディング商会営業部長のハロルド・グレイと申します」


「これはご丁寧に」クラル王は商人らしい愛想の良さを演じた。「お忙しい中、わざわざありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ」ハロルドは営業スマイルを浮かべた。「弊社では、将来性のある商人の皆様とのパートナーシップを重視しております」


会話は、表面的には普通の商談だった。しかし、クラル王は相手の言葉の裏に隠された意図を読み取ろうとしていた。


「実は、シルバーマン様のような方にご提案したい、特別な投資機会がございます」


「特別な投資機会?」


「ええ、通常では得られないような高い利回りが期待できる案件です」ハロルドの目が鋭くなった。「ただし、極秘案件のため、詳細は信頼できる方にのみお話ししております」


クラル王は内心で警戒した。これが河村の手法の始まりだった。


「興味深いですね。差し支えなければ、概要だけでも……」


「もちろんです」ハロルドは資料を取り出した。「新大陸との貿易ルート開拓プロジェクトです」


資料を見ると、確かに魅力的な内容だった。新大陸の珍しい商品を独占的に輸入し、大陸全体で販売する。予想利回りは年率30%以上。


「素晴らしい計画ですね」クラル王は感心したふりをした。「しかし、これほどの大事業となると、相当な資金が必要でしょう」


「ごもっともです」ハロルドは頷いた。「総投資額は100万金貨を予定しております」


「100万……」


「ただし、シルバーマン様のような信頼できる方には、5万金貨からの参加が可能です」


クラル王は計算した。5万金貨は決して小さな額ではないが、中堅商人なら何とか用意できる範囲だった。


「検討させていただきたいのですが……」


「もちろんです」ハロルドは立ち上がった。「ただし、この案件は来月末までの限定募集となっております」


時間制限を設けることで、投資家に焦りを感じさせる手法だった。


「分かりました。早急に検討いたします」


ハロルドが去った後、クラル王は資料を詳しく検証した。一見すると問題のない投資案件に見えるが、細部を調べると疑問点が浮かび上がってきた。


新大陸の貿易会社の実態が不明確で、財務諸表も曖昧だった。独占契約の根拠も薄弱で、そもそもその商品に本当に需要があるのかも疑わしい。


「典型的な投資詐欺だな」


しかし、証拠を掴むためには、実際に投資する必要があった。


翌週、クラル王は5万金貨の投資を決断した。


「シルバーマン様、賢明なご判断です」


ハロルドは満足そうに契約書を取り出した。


「こちらにご署名いただければ、手続き完了です」


契約書は複雑で、小さな文字で書かれた条項が無数にあった。一般的な商人なら、全てを理解するのは困難だろう。


クラル王は契約書を慎重に読んだ。すると、問題のある条項を発見した。


「この条項は……」


「何か問題でも?」ハロルドの表情が一瞬強張った。


「いえ、確認したかっただけです」


実際には、投資家に不利な条項が巧妙に挿入されていた。利益の分配方法、損失の責任範囲、契約解除の条件など、全て投資家に不利な内容だった。


しかし、ここで拒否すれば潜入捜査が終わってしまう。クラル王は署名した。


「ありがとうございます」ハロルドは安堵の表情を見せた。「では、初回配当は3ヶ月後からお支払いいたします」


「楽しみにしております」


契約後、クラル王には定期的に「投資報告書」が送られてきた。プロジェクトは順調に進んでおり、予定通り利益が出ているという内容だった。


そして3ヶ月後、約束通り配当が支払われた。


「1万2千金貨です」


ハロルドが配当金を持参した。年率30%の約束通りの金額だった。


「順調ですね」


「ええ、新大陸の商品は大変好評で、予想以上の売り上げです」ハロルドは得意そうに言った。「実は、追加投資の募集も検討しております」


これが河村の手法だった。最初は約束通り配当を払い、投資家の信頼を得る。そして追加投資を促し、最終的により大きな額を騙し取る。


「追加投資ですか……」


「はい。今回は20万金貨までの追加投資が可能です」ハロルドの目が輝いていた。「利回りも、35%に引き上げることができます」


クラル王は悩むふりをした。実際には、この時点で河村の詐欺の証拠は十分に掴んでいた。しかし、河村本人の居場所はまだ分からなかった。


「検討させてください」


「もちろんです。ただし、今回は1ヶ月限定の特別募集です」


またしても時間制限だった。


追加投資を検討している間、クラル王は河村の組織について詳しく調査した。


ゴールデン・トレーディング商会は、実は巨大なネットワーク組織の頂点に過ぎなかった。その下に数十の子会社があり、さらにその下に数百の関連企業があった。


「完全にピラミッド構造だ」


クラル王は組織図を作成していた。最上層に河村雄斗、その下に幹部たち、さらにその下に中間管理職、そして最下層に実際の労働者たち。


しかし、河村本人がどこにいるのかは、依然として不明だった。幹部たちでさえ、河村と直接会ったことがある者は少ないようだった。


「社長は滅多に姿を現さない」


ある幹部が酒に酔って漏らした言葉だった。


「指示は全て書面で来る。時々、代理人が現れることはあるが、本人を見たことがある者は数人しかいない」


「代理人?」


「ああ、ミスター・Kと呼ばれる男だ」幹部は声を潜めた。「恐ろしく頭の切れる男で、社長の完全な代理権を持っている」


クラル王は興味を抱いた。このミスター・Kが、河村本人である可能性があった。


「そのミスター・Kに会うことは可能でしょうか?」


「無理だ」幹部は首を振った。「彼が会うのは、ごく限られた重要人物だけだ」


クラル王は、重要人物になる方法を模索し始めた。


三年目に入り、クラル王は河村の組織により深く潜入していた。追加投資を行い、さらに高額な「特別案件」にも参加していた。


「シルバーマン様の投資額は、既に30万金貨を超えております」


ハロルドは尊敬の念を込めて言った。


「これだけの規模になりますと、弊社でも大口投資家として特別待遇をご用意させていただきます」


「特別待遇?」


「はい。月例投資家懇親会へのご招待や、特別案件への優先参加権などです」


クラル王は内心で喜んだ。これで組織の上層部に近づけるかもしれない。


しかし、実際に懇親会に参加してみると、新たな問題が見えてきた。


「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」


懇親会の司会を務めるのは、ハロルドより上位の幹部らしい男性だった。


「弊社の業績は引き続き好調で、投資家の皆様への配当も順調にお支払いしております」


会場には約50名の投資家が集まっていた。皆、それなりの資産を持つ中堅以上の商人たちだった。


「今期の新規案件についてご説明いたします」


司会者は新しい投資案件を紹介した。今度は「革新的な製造技術への投資」だった。予想利回りは40%。


クラル王は周りの投資家たちの反応を観察していた。多くの人が興味深そうに聞いているが、一部の人は懐疑的な表情を浮かべていた。


「質問がございます」


ベテランらしい商人が手を上げた。


「この製造技術の詳細について、もう少し具体的な説明をいただけませんか?」


司会者の表情が一瞬曇った。


「申し訳ございませんが、技術的な詳細は企業秘密でして……」


「しかし、投資するからには、ある程度の情報は必要でしょう」商人は食い下がった。


「ごもっともです」司会者は営業スマイルを浮かべた。「後日、個別にご説明の機会を設けさせていただきます」


しかし、その商人はその後まもなく、投資を引き上げて姿を消した。


「あの人、どうしたんでしょうね」


別の投資家がクラル王に話しかけてきた。


「さあ……」クラル王は知らないふりをした。


「実は、最近そういう人が増えてるんです」投資家は不安そうに言った。「疑問を持った投資家が、次々と投資を引き上げてる」


「そうなんですか……」


「でも、不思議なことに、そういう人たちの商売がうまくいかなくなるんです」


クラル王は内心で警戒した。河村は反対者を経済的に潰しているのかもしれない。


「具体的には?」


「取引先が急に契約を解除したり、銀行が融資を渋ったり……」投資家は震え声になった。「偶然とは思えません」


これで、河村の支配力の一端が見えてきた。彼は単に詐欺を行っているだけでなく、経済界全体に影響力を持っていた。


四年目に入り、クラル王はついにミスター・Kとの面会の機会を得た。


「シルバーマン様、お待たせいたしました」


現れたのは、30代後半の男性だった。しかし、その顔は河村雄斗ではなかった。


「私、ミスター・Kの代理を務めますジョンソンと申します」


「代理の……代理?」


クラル王は困惑した。


「はい。ミスター・K様は大変お忙しく、直接お会いすることが困難でして……」


これでは、河村に辿り着くことがさらに困難になった。


「しかし、シルバーマン様のような優良投資家には、特別なご提案があります」


ジョンソンは新しい資料を取り出した。


「『究極投資プラン』です」


資料を見ると、投資額は100万金貨、予想利回りは50%という驚異的な内容だった。


「これは……」


「弊社の最高機密案件です」ジョンソンは声を潜めた。「参加できるのは、選ばれた投資家のみです」


クラル王は悩んだ。100万金貨は巨額だった。しかし、これに参加すれば、さらに組織の上層部に近づけるかもしれない。


「検討させてください」


「もちろんです。ただし、この案件は今月末までの限定募集です」


またしても時間制限だった。河村の組織は、この手法を徹底していた。


五年が経過し、クラル王は河村の組織について多くを学んだ。しかし、肝心の河村本人の居場所は依然として不明だった。


「まるで亡霊のような男だ」


クラル王は一人呟いた。河村の影響力は確実に存在するが、本人の姿は見えない。


この間に、河村の組織はさらに巨大化していた。関連企業は300社を超え、従業員数は1万人を突破していた。シルバーポートの経済の大部分が、河村の支配下にあった。


しかし、表面的には問題のない合法的な企業活動として行われているため、当局も手を出せずにいた。


「法的には問題がない」


シルバーポートの市長が、議会で答弁していた。


「ゴールデン・トレーディング商会は、この街の経済発展に大きく貢献している。

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