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龍族との和平:龍の回廊(続き)

「母上、私はこの五年間、多くのことを学びました。人間と龍族が理解し合うことの素晴らしさも、その困難さも。そして何より、異なる存在同士が手を取り合うことで、新しい可能性が生まれることを」


王子の目には、確固たる信念が宿っていた。


「私は王位継承者として、この王国の未来に責任があります。人間だけでも、龍族だけでもない、真の多種族王国を築くために。今回の危機は、その理想を試される時なのです」


エリザベス王妃は、息子の成長した姿に、誇りと不安を同時に感じていた。


「あなたは……本当にクラルに似ている」王妃は微笑んだ。「責任感が強すぎるところまで」


「父上から学んだことです」


「でも、一つだけ約束して」王妃の目が真剣になった。「無理はしないこと。和平も大切ですが、あなたの命はもっと大切です」


「はい、約束します」


王子は深く頭を下げた。


翌朝、ドラゴニア領の中央神殿に、特別な魔法陣が描かれていた。


古代龍語の文字が複雑に組み合わされた陣は、直径十メートルほどの円形で、中心には小さな祭壇が設置されていた。陣の周囲には、龍族の上級魔術師たちが配置され、詠唱の準備を整えていた。


アレクサンダー王子とユリス・アーマイト、そして選ばれた三名の騎士が、陣の中央に立っていた。全員が軽装で、必要最小限の装備のみを身に着けていた。重い鎧や大きな武器は、精神世界では意味をなさないからだ。


「準備はよろしいですか?」ネリウスが確認した。


「はい」王子が答えた。


ユリスは剣の柄を握りしめていた。緊張しているのは明らかだったが、その目には強い決意が宿っていた。


「それでは、始めます」ネリウスが龍語で詠唱を開始した。


古い言葉が神殿に響き渡る。それは人間の耳には理解できない音だったが、なぜか心の奥深くに響く、神秘的な響きだった。


魔法陣が淡く光り始める。最初は青白い光だったが、徐々に金色に変化していった。


「意識を集中してください」ネリウスの声が聞こえた。「自分の目的を強く思い描くのです」


王子は目を閉じ、心の中で呟いた。


(和平を守る。人間と龍族の未来を築く。アル=ゼイルと対話し、新たな道を見つける)


光が一層強くなる。そして、急に世界が静寂に包まれた。


王子が目を開けると、そこは神殿ではなかった。


目の前に広がっていたのは、言葉では表現し難い光景だった。


空は深い紫色で、そこに無数の光点が浮かんでいた。しかし、それは星ではない。よく見ると、その一つ一つが記憶の断片のように見えた。龍族の歴史の一コマ一コマが、光として空に浮かんでいるのだ。


足元は雲のように柔らかく、歩くたびに微かに光った。遠くには、巨大な柱のような構造物がいくつも立っており、それぞれが異なる色の光を放っていた。


「これが……龍の回廊」


王子の声が、不思議に響いた。ここでは音も、現実世界とは違っているようだった。


「ユリス、大丈夫か?」


「はい……ただ、少し頭がふらつきます」


ユリスの顔は青ざめていたが、しっかりと立っていた。他の騎士たちも同様で、精神世界に適応しようと努力しているのが分かった。


「皆さん、無事に到着できましたね」


振り返ると、ネリウスがいた。しかし、その姿は現実世界とは明らかに違っていた。人化形態ではなく、智龍としての本来の姿——美しい青い鱗に覆われた、巨大な龍の姿だった。


「ここでは、真の姿が現れるのです」ネリウスの声が直接心に響いた。「皆さんも、やがて内面の真の姿が現れるかもしれません」


王子は自分の手を見た。まだ人間の姿のままだったが、肌の金属光沢がより強く輝いているように見えた。


「まず、ミリリィアを探しましょう」ネリウスが提案した。「彼女の助けなしには、アル=ゼイルの元に辿り着くことは困難です」


「どこにいるのですか?」


「記憶の泉の近くにいるはずです。あちらの方向です」


ネリウスが指差した方向に、特に明るく光る領域があった。


一行は、その方向に向かって歩き始めた。しかし、この世界では「歩く」という概念も曖昧だった。足を動かすというより、意識を向けることで移動しているような感覚だった。


歩いていると、時折、光の断片が彼らの前を通り過ぎた。それらは龍族の記憶の欠片で、触れると一瞬だけその内容を垣間見ることができた。


王子が一つの光に触れると、突然視界が変わった。


王子の目の前に、古代の龍族の集落が現れた。


そこは、現在のドラゴニア領とは全く違う風景だった。洞窟を掘り抜いて作られた住処に、野生に近い龍族たちが住んでいた。彼らは知性を持ってはいたが、まだ文明と呼べるほどのものは築いていなかった。


その時、空から巨大な影が降りてきた。


それがアル=ゼイルだった。


王子の心臓が早鐘を打った。アル=ゼイルは、想像していたよりもはるかに巨大で、美しく、そして威厳に満ちていた。純白の鱗は神々しく輝き、六枚の翼は空を覆うほどの大きさだった。しかし、その目には冷たい光があった。


『我が子らよ』


アル=ゼイルの声が響いた。それは愛情に満ちているようでありながら、同時に絶対的な支配を示すものだった。


『汝らに秩序を与えよう。完璧なる存在として、永遠に変わることなく生きるのだ』


龍族たちは恍惚とした表情でアル=ゼイルを見上げていた。そして、その瞬間から、彼らの生活が一変した。


洞窟は美しい神殿に変わり、龍族たちは規則正しく、完璧に秩序立った生活を送るようになった。しかし、その顔からは、野生の生き生きとした表情が失われていた。


記憶の断片はそこで終わった。


「見ましたね」ネリウスの声が聞こえた。「アル=ゼイル様の『秩序』を」


「あれが……」王子は言葉を失っていた。


「完璧ですが、変化のない世界です。美しいですが、成長のない世界です」


王子は深く考え込んだ。確かにアル=ゼイルの与えた秩序は完璧だった。しかし、それは同時に、可能性を奪うものでもあった。


「でも、最初の龍族たちは幸せそうに見えました」


「そうです。彼らは幸せでした。疑問を抱くことなく、変化を求めることもなく。しかし……」


ネリウスは続けた。


「時が経つにつれて、一部の龍族は疑問を抱き始めました。『これで良いのか』『我々はもっと何かになれるのではないか』と」


王子は頷いた。その気持ちがよく理解できた。


「そして、人間と出会った時、その疑問は確信に変わったのです」


記憶の泉に到着すると、そこは美しい光の池だった。水面には、龍族の様々な記憶が映像として浮かんでは消えていた。


そして、池のほとりに、小さな龍がいた。


「ミリリィア」ネリウスが優しく呼びかけた。


小さな龍——ミリリィアは振り返った。彼女は手のひらほどの大きさで、虹色の鱗に覆われていた。その目は大きく、まさに純粋さの象徴のような美しさだった。


『あ、ネリウス様!』


ミリリィアの声は鈴のように美しく響いた。


『久しぶりです!でも……』


彼女は王子たちを見て、首をかしげた。


『人間さんたちが一緒ですね。珍しい』


「ミリリィア、紹介します。こちらはアレクサンダー王子、グランベルク王国の王位継承者です」


『王子様?』ミリリィアの目が輝いた。『本当の王子様に会うのは初めてです!』


彼女は王子の周りを飛び回った。


「君が、ミリリィアか」王子は微笑んだ。「可愛いな」


『えへへ、ありがとうございます』


ミリリィアは嬉しそうに笑った。その笑顔は、見ているだけで心が温かくなるような純粋さに満ちていた。


「ミリリィア、お願いがあります」ネリウスが真剣な表情になった。「アル=ゼイル様に会いたいのです」


ミリリィアの表情が一瞬曇った。


『アル=ゼイル様に?でも……アル=ゼイル様は、とても怒っていらっしゃいます』


「怒っている?」


『はい。封印が緩んで、少しずつ力を取り戻していらっしゃるのですが……外の世界の変化を感じ取って、とても不機嫌なんです』


ミリリィアは心配そうに続けた。


『特に、龍族と人間が一緒にいることを、とても嫌がっていらっしゃいます。「汚染だ」って、何度も仰っています』


王子とユリスは顔を見合わせた。


「それでも、会わなければなりません」王子が言った。「話し合えば、きっと理解してもらえるはずです」


『でも、危険です』ミリリィアは首を振った。『アル=ゼイル様は、とても強い方です。怒っていらっしゃる時は、近づくだけでも……』


「お願いします」王子はミリリィアの前にひざまずいた。「君の力が必要なんです」


ミリリィアは王子の真剣な表情を見つめていた。


『……王子様は、どうしてアル=ゼイル様に会いたいのですか?』


「人間と龍族の和平を守るためです」王子は正直に答えた。「僕たちは、この五年間、お互いを理解し合い、一緒に生きてきました。でも、アル=ゼイルの影響で、その関係が壊れそうになっている」


『和平……』


「そうです。僕は、人間と龍族が一緒に暮らせる世界を作りたいんです。お互いの違いを認め合い、支え合える世界を」


ミリリィアは長い間考えていた。そして、小さく頷いた。


『わかりました。お手伝いします』


「ありがとう」


『でも、条件があります』ミリリィアは真剣な表情になった。『私も一緒に行きます。アル=ゼイル様とお話しする時、私も同席させてください』


「もちろんです」


『それと……』ミリリィアは少し恥ずかしそうに言った。『もし、うまくいったら、外の世界を見せてくれませんか?私、ずっとここにいて、外の世界がどうなっているのか知らないんです』


王子は微笑んだ。


「約束します。きっと、素晴らしい世界を見せてあげる」


『やった!』ミリリィアは嬉しそうに宙返りした。『それじゃあ、案内しますね』


ミリリィアの案内で、一行はアル=ゼイルの封印された領域に向かった。


しかし、その道のりは単純ではなかった。龍の回廊では、目的地に向かうために、様々な記憶の層を通り抜ける必要があった。


「次は、『分裂の記憶』を通ります」ミリリィアが説明した。『ちょっと悲しい記憶ですが、我慢してくださいね』


一行が光の壁を通り抜けると、突然景色が変わった。


そこは戦場だった。


空には無数の龍が飛び交い、激しい戦いを繰り広げていた。炎と氷、雷と風が入り乱れ、美しいはずの空が戦火に染まっていた。


これが、アル=ゼイルを封印する前に起こった、龍族の内戦の記憶だった。


『純粋派』と『進歩派』に分かれた龍族たちが、互いに爪と牙、そして魔法を向け合っていた。


王子は、その光景に言葉を失った。平和な現在のドラゴニア領しか知らない彼にとって、龍族同士が殺し合う姿は衝撃的だった。


「これが……」


「私たちの恥ずべき歴史です」ネリウスの声が沈んでいた。「同族同士で争った、暗黒の時代です」


戦いの中心には、ひときわ巨大な龍がいた。それがアル=ゼイルだった。現実世界で見た記憶よりも、さらに威厳と力に満ちていた。


『裏切り者どもめ!』


アル=ゼイルの怒りの声が響いた。


『我が与えた完璧な秩序を捨て、不完全な存在に心を奪われるとは!』


その時、一体の龍がアル=ゼイルの前に立ちはだかった。それは若いネリウスだった。現在よりもはるかに若く、力強い姿だった。


『アル=ゼイル様、我々は裏切ったのではありません』若いネリウスが叫んだ。『我々は成長したのです!』


『成長だと?』アル=ゼイルの目が怒りに燃えた。『完璧な存在に、成長など必要ない!』


『それは違います!』


別の龍が前に出た。それは若いドラコニス・レックスだった。


『我々は人間と出会い、多くのことを学びました。彼らの短い命の中に込められた情熱、変化への意欲、そして何よりも……愛を』


『愛だと?』アル=ゼイルが嘲笑した。『下等な感情に過ぎぬ』


『違います!』レックスは続けた。『愛こそが、我々に新たな可能性を教えてくれました。完璧であることよりも、共に成長することの素晴らしさを』


王子は、その言葉に深く心を動かされた。それは、まさに彼が龍族との和平の中で学んだことと同じだった。


戦いは激しさを増していく。しかし、やがて進歩派の龍族たちが優勢になった。アル=ゼイルは強大だったが、数の不利と、何よりも『新しい力への意志』の前に、徐々に押され始めた。


『我が子らよ……』


最後に、アル=ゼイルが悲しみに満ちた声で呟いた。


『汝らは、完璧な存在であることを放棄するのか』


『我々は、完璧さよりも可能性を選びます』


ネリウスが答えた。


『そして、孤独よりも愛を選びます』


その瞬間、巨大な魔法陣がアル=ゼイルを包み込んだ。それは封印の魔法陣だった。


『いつか……』アル=ゼイルの声が次第に遠くなっていく。『いつか、汝らは己の選択を後悔する時が来るだろう……』


光に包まれて、アル=ゼイルの姿が消えた。


記憶の断片はそこで終わった。


記憶の戦場から現実の回廊に戻ると、王子は深く考え込んでいた。


「今の記憶を見て、どう思われましたか?」ネリウスが尋ねた。


「アル=ゼイルは……間違っていたとは思いません」王子はゆっくりと答えた。


一同が驚いた表情を見せた。


「確かに、完璧な秩序は美しいものです。争いも苦しみもない世界は、理想的に見えます」


「しかし」王子は続けた。「それは同時に、成長も変化もない世界です。新しい出会いも、新しい発見もない」


王子は振り返った。


「僕は、この五年間で多くのことを学びました。龍族との出会いによって、僕自身も変わりました。そして、それは素晴らしいことだった」


「完璧でいることよりも、誰かと一緒に成長することの方が、ずっと価値があると思います」


ユリスが頷いた。「王子の言う通りです。私も、龍族の皆さんと知り合って、多くのことを学びました」


『私も同感です』ミリリィアが言った。『一人で完璧でいるより、みんなで不完全でも一緒にいる方が楽しいです』


ネリウスは感慨深げに王子を見つめていた。


「アレクサンダー王子、あなたの言葉は、まさに我々が求めていたものです。アル=ゼイル様にも、きっと理解していただけるでしょう」


「そうであることを願います」


『あの……』ミリリィアが遠慮がちに言った。『そろそろアル=ゼイル様の領域に着きます。でも、本当に大丈夫ですか?』


王子は深く息を吸った。


「大丈夫です。僕には、守りたいものがある。人間と龍族の和平、そして……」


王子は王の印章を握りしめた。


「父上や母上、妹、そして王国の皆が待っている現実の世界です」


「行きましょう」


アル=ゼイルの封印された領域は、回廊の最深部にあった。


そこは他の場所とは明らかに異質な空間だった。純白の光に満たされ、完璧に整然とした幾何学模様が空間を埋め尽くしていた。美しいが、同時に冷たく、生命感のない世界だった。


『ここが……』ミリリィアが小さな声で呟いた。『アル=ゼイル様の領域です』


領域の中央に、巨大な光の繭のようなものがあった。その中に、アル=ゼイルが封印されているのだ。


一行が近づくと、突然繭が輝いた。


『誰だ』


威厳に満ちた声が響いた。それは、記憶で聞いた声よりもさらに荘厳で、圧倒的な力を感じさせた。


『我が眠りを妨げる者は』


『アル=ゼイル様』ネリウスが前に出た。『私です、ネリウス』


『ネリウス……』


光の繭が揺らめいた。


『裏切り者が何の用だ』


『お話があります。外の世界のことを』


『外の世界だと?』アル=ゼイルの声に怒りが込められた。『汚染に満ちた世界など、知りたくもない』


その時、王子が前に出た。


「アル=ゼイル様」


『……人間だと?』


アル=ゼイルの驚きが声に現れた。


『人間が、我が領域に足を踏み入れるなど……』


「僕は、アレクサンダーです。グランベルク王国の王位継承者です」


『王位継承者……』アル=ゼイルの声に軽蔑が込められた。『下等な種族の王など、我には関係ない』


「関係があります」王子は毅然として答えた。「あなたの力が、僕たちの世界に影響を与えているからです」


『当然だ』アル=ゼイルは冷たく言った。『我が子らが汚染から解放されるまで、我は決して諦めぬ』


「汚染とは何ですか?」


『人間との接触だ』アル=ゼイルの怒りが爆発した。『完璧な龍族が、不完全な存在と混ざり合うなど、許されることではない』


光の繭がさらに輝きを増し、周囲の空間が震え始めた。


「でも、僕たちは幸せです」


王子の静かな声が、アル=ゼイルの怒りを一瞬止めた。


『何だと?』


「僕たち人間と龍族は、この五年間、共に生きてきました。そして、とても幸せです」


『幸せだと?不完全な存在との関わりで、幸せなどあり得ぬ』


「でも、実際に幸せなんです」王子は続けた。「お互いの違いを学び合い、支え合い、共に成長する。それがどれほど素晴らしいことか」


『成長など不要だ!完璧な存在に成長は……』


「完璧って、何ですか?」


王子の質問に、アル=ゼイルが言葉を失った。


「変わらないこと?間違いを犯さないこと?それとも、一人で全てを完結できること?」


『それは……』


「僕は、違うと思います」王子の声に確信が込められた。「本当の完璧さとは、不完璧な自分を受け入れ、他者と共に成長し続けることだと思います」


『馬鹿な……』


「あなたは、一人で完璧でいることを選んだ。でも、それで本当に幸せでしたか?」


アル=ゼイルの沈黙が続いた。


「僕たちは不完璧です。でも、だからこそ学び合うことができる。支え合うことができる。そして、一人では到達できない高みに、共に登ることができる」


『……』


「あなたが与えた秩序も確かに美しい。でも、それは生きている美しさではない。僕たちが築いている世界は、時には混乱し、時には間違いを犯す。でも、それは生きている証拠です」


王子は一歩前に出た。


「あなたも、僕たちと一緒に生きませんか?完璧な孤独ではなく、不完璧でも温かい関係の中で」


光の繭の中から、深いため息が聞こえた。


『人間よ……汝の言葉は、我には理解し難い』


「どの部分が理解し難いのですか?」


『全てだ』アル=ゼイルの声に戸惑いが混じっていた。『我は数万年の時を生きてきた。その間、我は常に完璧であり続けた。一度たりとも間違いを犯したことはない』


「それは……辛くありませんでしたか?」


『辛い?』アル=ゼイルが困惑した。『何故辛いなどと?』


「一度も間違いを犯さないということは、一度も挑戦したことがないということでもあります。新しいことを学んだり、冒険したり、予想外の喜びを感じたりしたことがないということです」


『……』


「僕は、間違いをたくさん犯してきました。でも、その度に学んで、成長して、新しい自分になれた。それがとても楽しかった」


『楽しい……』


アル=ゼイルがその言葉を繰り返した。まるで、初めて聞く言葉のように。


その時、ミリリィアが前に出た。


『アル=ゼイル様』


『ミリリィア……』アル=ゼイルの声が優しくなった。『汝だけは、純粋なままでいてくれた』


『はい。でも、ちょっと寂しかったです』


『寂しい?』


『はい。ずっと一人でいたから。でも、王子様たちと一緒にいると、とても楽しいです』


ミリリィアは王子の肩に止まった。

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