龍族との和平:新たなグランベルク王国の時代
グランベルク王国・王宮 午前8時
41歳となったクラル王は、王座の間で朝の政務を行っていた。長い耳が僅かに日光に反射し、金属光沢を持つ肌が威厳を放っている。
「陛下、各地に派遣されたグランベルク人からの報告書です」
レイモンド将軍が厚い書類の束を差し出した。
クラル王とグランベルクの民は、長年の信仰と魔獣の肉を摂取することによって、独特の進化を遂げていた。魔人族と呼ばれるようになった彼らは、長い尖った耳と金属のような光沢を持つ肌、そして驚異的な戦闘能力を身につけていた。
「東方諸国での活動状況はどうだ?」
「順調です。ただし…」
レイモンドが少し困った表情を見せた。
「龍族からの襲撃報告が激減しています」
クラル王が最強の龍と謳われた雷電龍サンダーローを単身で討ち取ったその日から、龍族の世界に激震が走っていた。
「王よ、まさかあのサンダーローが…」
「人間一人に敗れるなど…」
「しかもその人間、普通の人間ではない」
龍族の間で、新たなグランベルク人、魔人族への恐怖が急速に広まっていた。長い耳と金属光沢の肌を持つ戦士たちが各地に現れるたび、龍たちは姿を隠すようになった。
午後2時:王宮の庭園
「父上、今日の剣術指導をお願いします」
12歳になったアレクサンダー王子が、練習用の剣を手に現れた。背は父の胸元まで伸び、薄っすらと長い耳の特徴が現れ始めている。
「よし、今日は王としての心構えについても学ぼう」
クラル王が息子と向き合った。
「アレクサンダー、王とは何だと思う?」
「民を守り、国を繁栄させる存在です」
「そうだ。しかし、それだけではない」
クラル王が剣を構えながら続けた。
「時には敵と戦い、時には敵と和解する。その判断こそが王の真価だ」
午後4時:王妃の私室
2歳になったばかりの王女、イザベラが母親エリザベス王妃の膝の上で絵本を見ている。
「お父様!」
イザベラが小さな手を伸ばしてクラル王を迎えた。
「こんにちは、我が愛しい娘よ」
クラル王が娘を抱き上げると、イザベラの小さな耳も僅かに長く、肌に薄い金属光沢が見えた。
「新たなグランベルク人の血は、しっかりと受け継がれているのですね」
エリザベス王妃が微笑んだ。
夜8時:王宮の玄関
突然、王宮の衛兵が慌てて駆け込んできた。
「陛下!大変です!」
「どうした?」
「龍が…龍が人の姿で王宮の門前に現れました!」
「戦闘態勢を取るのか?」
レイモンドが剣に手をかけた。
「いや、まず話を聞こう」
クラル王が冷静に答えた。
午後8時30分:謁見の間
現れたのは、人間の姿をした美しい男性だった。しかし、その瞳には龍特有の縦瞳があり、髪は銀色に輝いている。
「グランベルク王国国王クラル陛下にお目通りを願います」
男性が深く一礼した。
「私は龍族現当主、ドラコニス・レックスと申します」
王座に座るクラル王の威圧感に、ドラコニスは明らかに緊張していた。サンダーローを討った男の前に立つことの恐ろしさを、身をもって感じている。
「何用で参った?」
クラル王の声に、ドラコニスは身を震わせた。
「陛下に…お願いがあります」
「申してみよ」
「我が一族への討伐を…どうか止めていただけませんでしょうか」
ドラコニスが震え声で続けた。
「サンダーロー様の討伐以来、我々龍族は恐怖に怯えております」
「各地のグランベルク人の皆様の戦闘力は、我々の想像を遥かに超えていました」
「これまで我々は…」
ドラコニスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「人間を虫けらのように扱い、いたずらに殺害し、略奪を行ってきました」
「しかし、それらの行為をすべて停止いたします」
「人間への危害は一切加えません」
「ですから、どうか討伐をお止めください」
王座から立ち上がったクラル王の存在感に、ドラコニスはさらに身を縮こまらせた。
「お前たちの過去の行いは、確かに許し難いものだった」
「しかし…」
クラル王が歩み寄った。
「真に反省し、行いを改めるというのであれば、新しい道もある」
「と、申しますと?」
「龍族をグランベルク王国の一員として迎え入れよう」
ドラコニスが驚愕の表情を見せた。
翌日午前10時:会議室
クラル王は重臣たちと龍族統合計画について話し合っていた。
「陛下、龍を信用するのは危険では?」
マーガレット財務大臣が心配そうに言った。
「確かにリスクはある。しかし、彼らの力を敵に回し続けるより、味方につける方が得策だ」
「具体的にはどのような計画ですか?」
レイモンドが尋ねた。
「まず、龍族の上級者は全員、王国の家臣として雇い入れる」
クラル王が説明を始めた。
「ドラコニスは龍族担当大臣として迎える」
「下級の龍たちは、希望があれば王国軍の特殊部隊に編入する」
「また、王国隣接地に龍族の居住区を建設し、良き隣人として共存する」
オブザーバー情報大臣が分析を示した。
「龍族の飛行能力は偵察に最適です」
「その戦闘力は、王国の軍事力を大幅に向上させるでしょう」
「また、彼らの知識と寿命の長さは、長期的な国家運営に有益です」
午後3時:王宮大広間
ドラコニスと上級龍族20名が人間の姿で正装して現れた。
「龍族現当主ドラコニス・レックス、ここにグランベルク王国への忠誠を誓います」
ドラコニスが片膝をついた。
「我が一族は、陛下とグランベルク王国に永遠の忠義を捧げます」
「よし。では龍族担当大臣ドラコニス・レックスとして任命する」
クラル王が威厳ある声で宣言した。
「同時に、龍族特殊軍団の創設を命じる」
龍族特殊軍団の構成
- 空中偵察部隊:上級龍10名
- 空中戦闘部隊:中級龍50名
- 地上支援部隊:下級龍200名
- 軍団長:ドラコニス・レックス
「これでグランベルク王国の軍事力は飛躍的に向上する」
レイモンドが満足そうに頷いた。
1ヶ月後:王国東部
グランベルク王国の東に隣接する広大な土地に、龍族の新しい居住区「ドラゴニア領」が建設された。
ドラゴニア領の特徴
- 山岳地帯を利用した巨大な洞窟住居
- 人間との交流のための平地区域
- 龍族の真の姿で過ごせる秘密エリア
- グランベルク王国との間の交易路
「想像以上に立派な居住区になりましたね」
エリザベス王妃が建設現場を視察しながら言った。
「彼らも、もう我々の大切な隣人です」
クラル王が微笑んだ。
3ヶ月後:王宮
「父上、龍族の皆さんとの訓練はとても勉強になります」
アレクサンダー王子が報告した。
「ドラコニス大臣から戦略を学び、龍族の兵士たちと実戦練習をしています」
「それは良いことだ。将来の王として、多様な臣下を理解することは重要だ」
新しいグランベルク王国の特徴
- 新たなグランベルク人・魔人族:長い耳と金属光沢の肌を持つ進化した人類
- 龍族家臣:高い戦闘力と知識を持つ異種族の重臣たち
- 混成軍団:人間と龍族の連携による最強の軍事力
- 多種族共存:異なる種族が協力する理想的な王国
「かつて敵対していた龍族と、こうして協力できる日が来るとは」
レイモンドが感慨深げに言った。
「これこそが、真の王の統治力だな」
1年後:王国全体
グランベルク王国と龍族の統合は大成功を収めていた。
- アレクサンダー王子(13歳):龍族との協調を学び、将来の理想的な王として成長
- イザベラ王女(3歳):龍族の子守りと遊び、種族を超えた友情を育む
- クラル王(42歳):新たなグランベルク人の王として、多種族統治のモデルケースを確立
「陛下の度量の広さに、我々は心から感謝しております」
ドラコニスが定期報告で述べた。
「かつて敵として恐れていた方に、こうして家臣として仕えることができるとは」
「これまでの我々の愚かな行いを深く反省し、王国のために尽くします」
グランベルク王国は、人間と龍族が共存する世界初の多種族王国として、歴史に名を刻むことになった。
クラル王の英断により、対立から協調へ、戦争から平和へと向かう新たな時代が始まったのである。




