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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ


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偽りの理想郷 ネオニッポン:終幕・悪魔の自滅

第1日:混乱の始まり(72時間前)


ネオニッポン中央タワー・最上階


『魂枯渇まで:71時間45分12秒』


空に浮かぶカウントダウンを見つめながら、5悪魔が緊急会議を開いていた。


「これは一時的な警告に過ぎません」


ルシファーが余裕を装いながら言った。


「魔界のシステムなど、私が書き換えます」


「書き換え?」


マモンが電卓を叩きながら尋ねた。


「具体的な方法はあるのか?」


「あります」


ルシファーが邪悪な笑みを浮かべた。


「人間の魂を直接燃料として使用するのです」


ルシファーの提案:人間燃料化計画


「ヒューマン・フューエル・プロジェクト」


「住民10万人と観光客5万人、合計15万人の魂を一度に燃焼させます」


ルシファーが恐ろしい計画を説明した。


「これにより約300万魂相当のエネルギーを取得」


「2年間の延長滞在が可能になります」


「素晴らしいアイデアだ」


サタンが興奮して賛成した。


「どうせ人間など、我々の玩具に過ぎない」


「効率的ですね」


レヴィアタンも同意した。


「15万人程度なら、すぐに補充できます」


しかし、マモンは計算的な疑問を示した。


「リスクはないのか?」


「魔界との契約違反になる可能性は?」


「心配無用です」


ルシファーが断言した。


「緊急時の自衛権として正当化できます」


地下最深部・秘密基地


アスモデウスは、他悪魔の会議を盗聴していた。


「15万人を燃料に…」


アスモデウスが震え声で呟いた。


「そんなことをすれば、人類への完全な背信行為だ」


「どうすれば阻止できる…」


アスモデウスが必死に考えていた。


1. 他悪魔に直接反対する(勝算なし)

1. 住民を避難させる(時間不足)

1. 魔界に直接通報する(自分も処罰される)

1. グランベルク王国と接触する(前例なし)


「まさか…私が人間側につく日が来るとは」


アスモデウスが苦笑いを浮かべた。


ネオニッポン外縁部


グランベルク王国の魂観測使たちが、巨大な光の魔法陣を完成させつつあった。


「障壁の設置、80%完了」


セラフィナが報告した。


「このまま順調にいけば、24時間で完成します」


レイモンドが部下たちに説明した。


「この障壁は二重の効果を持ちます」


「第一に、悪魔の力を段階的に弱化させる」


「第二に、洗脳された人間の意識を覚醒させる」


「つまり?」


ガルディアンが確認した。


「悪魔たちは徐々に弱くなり、住民たちは正気を取り戻します」


マーガレットが補足した。


「しかし、完成には24時間が必要です」


午後6時:ネオニッポン市街地


光の障壁の影響で、一部の住民に変化が現れ始めた。


「あれ…僕、なんでここにいるんだっけ?」


カジノで遊んでいた観光客、田中一郎が困惑していた。


「確か、日本で普通に働いていたはず…」


「私も…なんか変な感じ」


隣にいた女性、佐藤花子も首をかしげた。


「息子の運動会があるはずなのに…」


記憶の断片的回復


- 日本での普通の生活

- 家族への愛情

- ネオニッポンに来る前の記憶

- 「何かがおかしい」という直感


「ここ、本当に天国なのかな?」


疑問を抱く住民が増え始めた。


第2日:対立の激化(48時間前)


人間燃料化計画の開始


午前8時:ルシエル都市


ルシファーが人間燃料化装置の起動準備を開始した。


「まず実験として、1,000名で試してみましょう」


巨大な魔法炉が建設され、住民たちが「特別なイベント」として集められた。


「皆さん、神格化の最終段階です」


ルシファーが住民たちに説明した。


「この炉に入ることで、真の神となれます」


しかし、光の障壁の影響で意識が回復した住民たちは疑問を抱いていた。


「炉に入るって…危険じゃないですか?」


「神になるって、具体的にはどういうことですか?」


ルシファーは住民の変化に気づき、苛立ちを見せた。


「質問は後です。まず体験してください」


同時刻:地下緊急放送


アスモデウスが秘密の放送設備を使って、全住民に警告を発した。


『緊急警告:全住民に告ぐ』


『現在、あなた方の生命が危険にさらされています』


『ルシファーの施設には近づかないでください』


『地下シェルターに避難してください』


「え?アスモデウス様からの放送?」


「ルシファー様と対立してるの?」


住民たちは悪魔同士の内紛に困惑した。


「どっちの言うことを聞けばいいの?」


サタンとレヴィアタンの暴走


ラグナレイジ格闘場


サタンが強制的に住民を集めていた。


「燃料化する前に、最後の戦いを楽しもう」


「勝者は生き残り、敗者は燃料になる」


サタンが10,000名の住民を格闘場に押し込んだ。


「殺し合え!生き残りをかけて戦え!」


MirrorMeX本部


レヴィアタンも同様に住民を集めていた。


「嫉妬の究極形態を見せてもらいます」


「最も憎い相手を指名し、その人を殺してください」


「成功者は生存権を与えます」


ソウルコイン取引所


マモンは事態を商機として捉えていた。


「緊急オークションを開催します」


「生存権を最高値で落札した方に販売します」


オークション結果


- 1位:田中社長(100万ソウルコイン)

- 2位:佐藤投資家(95万ソウルコイン)

- 3位:山田商人(90万ソウルコイン)


「お金で命を買う時代の到来です」


マモンが満足そうに呟いた。


午後2時:光の障壁70%完了


「住民の覚醒が予想より早く進んでいます」


セラフィナが報告した。


「このままでは間に合いません」


レイモンドが決断した。


「障壁が不完全でも、介入を開始します」


緊急救出作戦の開始


グランベルク王国の特殊部隊が、ネオニッポンへの侵入を開始した。


「目標:住民の安全確保」


「手段:悪魔施設の無力化」


「制限時間:36時間」


午後6時:ギルティドーム監獄


リアリティ・レジスタンスのリーダー、田中雄介が仲間に呼びかけた。


「今こそ立ち上がる時だ」


「悪魔たちは内紛状態にある」


「我々が住民を導かなければ」


監獄内で大規模な暴動が発生した。


200名の抵抗メンバーが脱獄に成功し、街中で住民に真実を伝え始めた。


「みんな、目を覚ませ!」


「ここは天国じゃない、地獄だ!」


「家族を思い出せ!故郷を思い出せ!」


第3日:最終決戦(24時間前)


午前6時:中央タワー


悪魔の会議は完全に決裂していた。


「貴様らは愚か者だ!」


ルシファーが他の悪魔を罵倒した。


「私一人で十分だ!」


「何を偉そうに」


サタンが立ち上がった。


「戦いなら受けて立つ」


悪魔同士の戦闘が始まった。


中央タワーが5つに分裂し、それぞれの悪魔が占拠した。


- ルシファータワー(北)

- マモンタワー(東)

- サタンタワー(南)

- レヴィアタンタワー(西)

- ベルフェゴールタワー(中央・そのまま寝ている)


各タワーから放出される魔力が衝突し、街中で爆発が起こった。


午前10時:ネオニッポン郊外**


「まさか、人間と手を組む日が来るとは」


アスモデウスがレイモンドと向き合っていた。


「我々の目的は同じです」


レイモンドが冷静に答えた。


「住民の安全確保」


「協力しましょう、アスモデウス」


- アスモデウス:内部から5悪魔の妨害

- グランベルク部隊:外部から住民救出

- 光の障壁:悪魔の力を継続的に弱化


午後2時:各地で同時救出開始


ルシエル都市


「燃料化装置を破壊します」


アスモデウスが単身でルシファーと戦闘開始。


その隙に、グランベルク部隊が住民5万人を救出。


「こちらへ!安全な場所があります!」


セラフィナが住民を誘導した。


ガルディアンが格闘場に突入し、強制戦闘をやめさせた。


「戦いをやめろ!お前たちは洗脳されている!」


住民2万人が正気を取り戻し、脱出。


MirrorMeX本部


マーガレットがシステムをハッキングし、嫉妬増幅装置を無効化。


「データを削除しました」


住民1万人が記憶を回復し、避難開始。


ソウルコイン取引所


オブザーバーが金融システムを麻痺させ、マモンの動きを封じた。


「取引停止。システム緊急停止」


住民1万人が避難。


レイモンドが自動化システムを強制停止。


完全受動状態だった住民1万人が意識を回復。


「俺は…誰だ?ここはどこだ?」


「家族…家族はどこだ?」


午後6時:幸福エネルギー貯蔵庫


快楽中毒状態だったベルゼブブが、突然立ち上がった。


「面白い…実に面白い展開だ」


ベルゼブブの目に、久しぶりに理性の光が宿った。


「私も最後の一花を咲かせてやろう」


ベルゼブブが貯蔵していた膨大な幸福エネルギーを一度に放出した。


「全人類に最高の快楽を与えてやる」


巨大な快楽の波がネオニッポン全体を覆った。


脱出中の住民たちが、突然立ち止まった。


「あ…なんて気持ちいい…」


「もう少しここにいたい…」


「家族より、この快楽の方が…」


午後8時:グランベルク王国上空


「私自らが行きます」


クラル王が転移魔法でネオニッポンに向かった。


「豊穣神として、魔王として、人類を救う」


クラル王がネオニッポン上空に現れると、温かい光が街全体を包んだ。


「帰っておいで、子供たちよ」


クラル王の声が、すべての住民に届いた。


「君たちの家族が、故郷が、待っている」


クラル王の豊穣の力により、ベルゼブブの快楽エネルギーが浄化された。


住民たちの意識が完全に回復した。


「そうだ…僕には妻と子供がいる」


「私の故郷は日本だ」


「ここは…ここは地獄だったんだ」


午後11時:カウントダウン最終段階


『魂枯渇まで:01時間00分00秒』


巨大な黒い渦が5つのタワーに現れた。


「まだ終わらん!まだ終わらんぞ!」


ルシファーが抵抗しながら渦に吸い込まれた。


「投資が…私の投資が…」


マモンも計算機と共に消えていった。


「戦いは続く…いつか必ず戻ってくる…」


サタンが雄叫びを上げながら送還された。


「みんな私を置いていく…最後まで嫉妬ね…」


レヴィアタンも渋々と渦に向かった。


「あー、面倒だったなー」


ベルフェゴールは眠ったまま送還された。


午後11時50分


アスモデウスにも送還の渦が現れた。


「私も…時間ですね」


アスモデウスがレイモンドを見つめた。


「最後に言わせてください」


「人間を愛していました」


「歪んだ愛でしたが…確かに愛していた」


「それだけは嘘ではありません」


レイモンドが頭を下げた。


「あなたの最後の行動は、確かに愛でした」


アスモデウスが微笑んで渦に向かった。


「さらばだ、人間たちよ」


真夜中:魂枯渇完了


すべての悪魔が送還されると、ネオニッポンの街が廃墟の神聖教皇国へ戻る。


巨大な建物群が霧のように消え、元の荒野に戻っていく。


悪魔送還直後:元ネオニッポン跡地


5悪魔が魔界に送還されると同時に、ネオニッポンの華麗な街並みは霧のように消え去った。そして、その下から現れたのは、古い石造りの廃墟だった。


「これが…元々この土地にあった神聖教皇国か」


クラル王が崩れた大聖堂の前に立っていた。


砕けた十字架、色褪せたステンドグラス、苔むした石壁。長い年月を経て朽ち果てた神聖な建造物が、静寂の中に佇んでいた。


「悪魔たちは、この神聖な土地の上に偽りの楽園を築いていたのですね」


レイモンドが古い祭壇の前で十字を切った。


「神聖教皇国の人々の魂が、ようやく安らげることでしょう」


午後2時:廃墟の大聖堂跡


クラル王が一人で祈りを捧げていると、突然空気が揺らぎ、見慣れた姿が現れた。


「クラル王」


アスモデウスが、以前よりも穏やかな表情で立っていた。


「アスモデウス…まだ魔界に送還されていなかったのか?」


「少しだけ時間をもらいました。あなたに最後の提案をするために」


アスモデウスの目には、かつての邪悪さではなく、深い悲しみが宿っていた。


「率直に申し上げます」


アスモデウスが膝を突いて頭を下げた。


「救出された15万人の人々を、元の世界に完全に戻してあげることはできないでしょうか?」


「彼らの心の傷、失った記憶、奪われた時間…すべてを元通りにしてあげたいのです」


クラル王が驚いた表情を見せた。


「それは…可能なのか?」


「はい。ただし、相応の対価が必要です」


アスモデウスが申し訳なさそうに続けた。


「通常なら数十万の魂が必要ですが…」


「あなたの実績により、魂の価値が大幅に上昇しています」


「私の実績?」


「はい。豊穣神として数万の民を救い、魔王として悪を討ち、そして今回、15万人を地獄から救出した」


アスモデウスが敬意を込めて説明した。


「あなたの魂一つで、15万人分の完全復活が可能です」


クラル王は深く考え込んだ。


「つまり、私が死ねば、彼らは完全に救われるということか」


「そういうことになります」


しかし、アスモデウスは別の案を提示した。


「ですが…もう一つの方法があります」


「それは?」


「私自身があなたになることです」


「何?」


「私があなたの肉体に宿り、あなたの記憶を完全に保持します」


「そして私自身の記憶は一時的に封印し、完全にクラル王として生きます」


「あなたが自然な寿命を迎えた時、私は魔界に送還される」


「それまでの間、私はクラル王として、あなたの意志を継いで生きていきます」


クラル王は長い間沈黙していた。


家族の顔が頭に浮かんだ。愛する王妃エリザベス、9歳の息子アレクサンダー。


「私の家族は…気づくだろうか?」


「気づきません。私はあなたの記憶、感情、すべてを完璧に再現します」


「あなたの愛も、責任感も、すべて私が引き継ぎます」


「では、私の意識はどうなる?」


「あなたの意識は私の中で生き続けます」


「時々、夢の中で私と対話することもできるでしょう」


午後4時:夕日の差し込む廃墟


「15万人の人々が、完全に元の生活に戻れるのですね?」


「はい。家族との記憶も、失った時間も、すべて埋め合わせられます」


「彼らは悪夢を忘れ、幸せに生きていけます」


クラル王が立ち上がった。


「分かった。その提案を受け入れよう」


「本当によろしいのですか?」


「ああ。王として、父として、これが最善の選択だ」


午後5時:神聖な儀式


廃墟の祭壇の前で、最後の契約が結ばれた。


「では、始めさせていただきます」


アスモデウスが古い魔法陣を描いた。


「痛みはありませんので、ご安心ください」


光が二人を包み込んだ。


クラル王の魂とアスモデウスの魂が、ゆっくりと融合していく。


「ありがとう…アスモデウス」


クラル王の最後の言葉だった。


「こちらこそ…あなたの素晴らしい人生を、私が引き継がせていただきます」


午後6時:融合完了


光が消えると、そこには変わらぬクラル王の姿があった。


外見も声も、記憶も感情も、すべて以前と完全に同じ。


「私はクラル王だ」


クラル王が自分の手を見つめた。


「愛する妻エリザベスと、息子アレクサンダーが待っている」


アスモデウスの記憶は完全に封印され、今の彼は疑いなく、純粋にクラル王そのものだった。


家族への愛、国民への責任、すべてが自然に、当然のこととして心に存在していた。


同時刻:世界各地


契約の力により、元ネオニッポンの住民と観光客15万人に奇跡が起こった。


日本・東京


「あれ?僕、なんで会社を休んでたんだっけ?」


田中一郎が自宅のソファで目を覚ました。


頭の中にはネオニッポンの記憶は全くなく、ただ「少し長い休暇を取った」という記憶だけがあった。


「お帰りなさい、お父さん」


息子が笑顔で迎えてくれた。


15万人全員が、それぞれの故郷で家族と再会していた。


失われた時間は補完され、心の傷は癒され、完全に元の生活に戻っていた。


夕方7時:王宮


「お帰りなさい、陛下」


エリザベス王妃が夫を迎えた。


「心配しましたわ」


クラル王は自然に妻を抱きしめた。


深い愛情が心から湧き上がってくる。


「ただいま、エリザベス」


「お父様!」


アレクサンダー王子が駆け寄ってきた。


「無事でよかった!」


クラル王は息子を抱き上げた。


「心配をかけてすまなかった、アレクサンダー」


家族への愛情は、疑いようもなく本物だった。完全に、純粋に、クラル王としての感情だった。


その夜:王の執務室


クラル王は、残された政務を確認していた。


「国民の幸福のために…」


すべてが自然に感じられた。


国への愛、民への責任、すべてが当然のこととして心にあった。


王としての使命を全うする。それが自分の生きる道だった。


3ヶ月後:世界各地


ネオニッポンの生存者たちは、それぞれの故郷に帰っていった。


彼らの証言により、世界中で悪魔の脅威について警戒が強まった。


グランベルク王国


「今回の件で学んだことがあります」


クラル王が王妃と息子に語りかけた。


「快楽や欲望だけでは、真の幸せは得られない」


「大切なのは、愛する人との絆です」


9歳になったアレクサンダー王子が頷いた。


「お父様、僕もそう思います」


「家族みんなで一緒にいることが、一番幸せです」

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