偽りの理想郷 ネオニッポン:人間拡張実験の開始
ネオニッポン地下・悪魔会議室
七つの大罪悪魔が、それぞれの実験結果を報告し合っていた。
「興味深いデータが取れました」
マモン(強欲)が資料を示した。
「人間の脳内麻薬分泌量は、我々の予想を遥かに上回ります」
「確かに」
サタン(憤怒)が同意した。
「痛覚を快楽に変換する実験でも、人間の適応力は驚異的でした」
ルシファー(傲慢)が冷笑した。
「所詮、人間など我々のオモチャに過ぎません」
「いえ」
レヴィアタン(嫉妬)が反論した。
「むしろ、極めて優秀な実験動物です」
「モルモットとしては最高品質ですね」
ベルフェゴール(怠惰)の報告
「地球の最新技術は実に有用です」
ベルフェゴールが監視画面を操作した。
「脳波解析、遺伝子操作、人工知能...」
「魔法と組み合わせることで、人間の限界を超越できます」
活用されている地球技術
- 脳神経科学の最新研究
- 遺伝子編集技術(CRISPR等)
- 人工知能とディープラーニング
- ナノテクノロジー
- 量子コンピューター理論
- 仮想現実技術
「人間たちが数百年かけて発達させた技術を、我々は一瞬で習得しました」
マモンが満足そうに語った。
「そして、彼らの想像を絶する用途に使用しています」
アスモデウスの後悔と孤立
「なぜ、こうなってしまったのか...」
アスモデウスが一人、地下の奥深くで呟いていた。
「私は人間を愛で統制してきた」
「快楽で依存させ、愛情で支配する完璧なシステムだった」
失敗の分析
- 依代選択の安易さ:「適当に捕まえた通行人」という判断ミス
- 人間の欲望の過小評価:依代の感情が悪魔を強化
- 統制システムの甘さ:各悪魔に独立性を与えすぎた
- 競争原理の導入失敗:協力ではなく対立を生んだ
「己の傲慢が招いた結果だ」
アスモデウスが拳を握りしめた。
「人間を甘く見すぎていた」
各悪魔の現状
- ルシファー:1万人の狂信者を獲得、独立国家を宣言
- マモン:ソウルコイン経済で世界経済に影響
- サタン:痛覚変換技術で医学界を革新
- レヴィアタン:人格売買で社会構造を破壊
- ベルフェゴール:自動化技術で労働概念を消滅
「もはや私の手には負えない」
アスモデウスが認めざるを得なかった。
「彼らは私を超えた存在になってしまった」
ベルゼブブ(暴食)の分析
幸福エネルギー中毒から一時的に回復したベルゼブブが、重要な発見を報告した。
「グランベルク王国の魔人族について調査しました」
「彼らは魔獣の特性を取り込み、寿命の延長と能力拡張を実現しています」
グランベルクの生体技術
- 魔獣との融合による寿命延長(150-200年)
- 身体能力の飛躍的向上
- 魔法適性の増強
- 再生能力の獲得
「しかし、彼らの方法は原始的です」
ベルゼブブが続けた。
「魔獣との物理的融合に頼ってるだけだ」
「我々は彼らより優れた方法を知っています」
ルシファーが得意そうに説明した。
「脳の電気信号が遮断されることで死が訪れる」
「ならば、電気信号の途絶えない脳に差し替えれば良い」
悪魔技術の優位性
- 物理的制約の超越
- 魔法と科学の融合
- 意識の完全保持
- 無限の拡張可能性
「ここは地球ではなく、剣と魔法の世界です」
サタンが補足した。
「やりようはいくらでもあります」
脳改造プロジェクト
各悪魔が独自の脳改造技術を開発し始めた。
基本コンセプト
1. 生体脳の機械・魔法的強化
2. 電気信号の永続化
3. 記憶容量の無限拡張
4. 快楽受容体の最適化
5. 痛覚・恐怖の選択的除去
「人間の脳は、まだ10%も使われていません」
マモンが興奮して語った。
「残り90%を我々の目的に最適化すれば...」
「究極の快楽体験装置の完成です」
ルシファー(傲慢):神格化実験
「アセンション・プロジェクト」
「人間を神の領域まで押し上げます」
ルシファーが野心的な計画を発表した。
実験内容
- 脳容量の1000倍拡張
- 全知全能感の人工的生成
- 他者への絶対的優越感の植え付け
- 自己崇拝欲求の最大化
「被験者は自分が神になったと確信します」
実験結果の一例
被験者:田中一郎(元サラリーマン)
実験後:「私は宇宙の創造主である」と確信
状態:24時間絶頂感が持続、他の人間を「劣等生物」として認識
「素晴らしい成果です」
ルシファーが満足していた。
「人間の傲慢さを究極まで増幅できました」
マモン(強欲):価値認識改造
「ヴァリュー・リプログラミング」
「人間の価値観を根本から書き換えます」
マモンが経済実験を説明した。
実験内容
- 快楽への価値認識を最大化
- 金銭欲求の脳への直接刻印
- 所有欲の病的増幅
- 他者の財産への渇望感生成
実験結果の一例
被験者:佐藤花子(元OL)
実験後:他人の快楽を見ると物理的苦痛を感じ、自分の快楽を増やすことにのみ執着
状態:1日18時間を快楽取得活動に費やす
「経済活動の効率が300%向上しました」
マモンが数値を示した。
サタン(憤怒):痛覚快楽化
「ペイン・パラダイス・プロジェクト」
「痛みと快楽の境界を完全に破壊します」
サタンが過激な実験を報告した。
実験内容
- 痛覚神経の快楽神経への変換
- 暴力欲求の強化
- 自傷行為への依存性生成
- 他者への攻撃衝動の制御不能化
実験結果の一例
被験者:山田太郎(元教師)
実験後:殴られることで性的快感を得る、他者を殴ることでさらに強い快感
状態:暴力なしでは生きられない体質に変化
「暴力が愛情表現になりました」
サタンが狂気じみた笑いを浮かべた。
レヴィアタン(嫉妬):他者依存症候群
「エンヴィー・インフェクション」
「嫉妬心を究極まで増幅し、他者への依存を絶対化します」
レヴィアタンが社会破壊実験を説明した。
実験内容
- 他者比較欲求の病的強化
- 自己肯定感の完全除去
- 他人の成功への苦痛感覚の植え付け
- 平等化への強迫的欲求
実験結果の一例
被験者:鈴木美咲(元看護師)
実験後:他人が自分より幸せだと物理的な激痛を感じる
状態:他人の不幸を見ることでのみ安らぎを得る
「社会の結束力が完全に破綻しました」
レヴィアタンが満足そうに報告した。
ベルフェゴール(怠惰):究極自動化
「パーフェクト・レイジネス」
「あらゆる活動への意欲を除去し、快楽受容のみに特化します」
ベルフェゴールが効率化実験を説明した。
実験内容
- 労働意欲の完全除去
- 自主性の神経レベルでの削除
- 快楽受動性の最大化
- 思考活動の最小限化
実験結果の一例
被験者:李偉(元エンジニア)
実験後:自分で何かをしようという意志が完全に消失
状態:快楽を与えられることのみを望み、24時間受動的状態
「完璧な快楽受容体の完成です」
ベルフェゴールが欠伸をしながら報告した。
月次成果発表会
「今月の実験成果を発表しましょう」
ルシファーが他の悪魔たちを見回した。
各悪魔の実績
- ルシファー:神格化成功者50名
- マモン:価値観改造成功者200名
- サタン:痛覚転換成功者150名
- レヴィアタン:嫉妬増幅成功者180名
- ベルフェゴール:完全受動化成功者300名
「私の勝利ですね」
ベルフェゴールが珍しく得意そうに言った。
「いえ、量より質です」
ルシファーが反論した。
「神格化は最も高度な技術です」
各悪魔が、より極端で革新的な実験を企画し始めた。
次期実験計画
- ルシファー:複数人格の神格化(一人の脳に100の神を住まわせる)
- マモン:時間価値の物理化(時間を売買可能な物質に変換)
- サタン:感情の物理攻撃化(怒りが実際に爆発する)
- レヴィアタン:記憶の強制共有(他人の記憶を盗んで自分のものにする)
- ベルフェゴール:意識の完全外部化(脳を機械に委託し、意識は快楽のみ)
「人間の可能性は無限です」
マモンが興奮して語った。
「まだまだ新しい境地を開拓できる」
元支配者の現状
「終わった...」
アスモデウスが一人、廃れた施設で呟いていた。
現在の地位
- 配下の悪魔:1体。パイモンのみ。バエル、マルフェス、ベリアルは本人の気質に合う派閥へ既に鞍替えしている。
- 直接支配下の人間:約1,000名(最盛期の1%)
- 影響力:ネオニッポン全体の5%程度
- 他悪魔からの扱い:完全無視
「愛と快楽による支配など...」
「彼らの前では児戯に等しい」
しかし、アスモデウスはまだ知らなかった。
グランベルク王国は既に動き始めていることを。




