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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
クラルの章

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偽りの理想郷 ネオニッポン:それぞれの意思、それぞれの欲望

リフレッシュハート・センター開設から2週間後


ネオニッポンの地下深くで、アスモデウスが監視モニターを見つめていた。


「おかしい...」


アスモデウスが眉をひそめた。


「召喚した5体の動きが把握できない」


パイモンが資料を持参した。


「各自が独自の活動を始めています」


「独自の活動?」


「はい。それぞれが、勝手に新しいサービスを立ち上げているようです」


アスモデウスの表情が険しくなった。


「私の許可なしに?」


「彼らは『戦力』として召喚されたはずだったが...」


ベリアルが懸念を示した。


「どうやら、それぞれ独自の視点と目的を持ち始めているようです」


ネオニッポン北区・地下施設


「皆さん、ようこそ」


鈴木一郎の姿をしたルシファーが、100名ほどの信者たちに向かって話していた。


「私は光の導師、ルシファー・イルミナス」


信者たちは彼の言葉に完全に魅了されていた。


「アスモデウスのやり方は時代遅れです」


ルシファーが壇上で演説していた。


「ハートスワップで他者の体験を借り、リフレッシュハートで修復を求める」


「それは依存でしかありません」


信者たちが熱心に頷いた。


「真の快楽とは何か?」


ルシファーの目が邪悪に光った。


「自己超越です。魂を壊し尽くし、完全に再構築することです」


「従来のサービスは、魂を『修復』します」


ルシファーが新しいサービスを説明した。


「しかし、私たちは魂を『焼却』します」


「ソウル・リバース」サービス

- 魂の完全破壊

- 一時的な自我消失体験

- ゼロからの人格再構築

- 「神になった」感覚の提供


「自分の限界を超越し、新しい自分として生まれ変わる」


「これこそが真の快楽です」


信者の一人、田中美咲(22歳)が体験談を話した。


「私は3回、自分を焼き尽くしました」


「その度に、より高次な存在として生まれ変わっています」


「もう、アスモデウスのサービスには戻れません」


「ルシファーの動きが監視できません」


パイモンが困惑していた。


「独自に地下情報網を築いているようです」


「どういうことだ?」


アスモデウスが詰問した。


「信者たちが完全に独立した組織を形成しています」


「我々の監視システムに一切依存していません」


「むしろ、我々の客を引き抜いています」


ハートスワップ・センター裏側


メアリー・ジョンソンの姿をしたレヴィアタンが、システムをハッキングしていた。


「なぜあの子は20回も交換できて、私は選ばれないの?」


レヴィアタンが嫉妬に燃えていた。


「これは不公平よ」


独自アプリ「MirrorMe」の開発


レヴィアタンは新しいサービスを立ち上げていた。


「人気者の魂だけを集めて、理想の人格を構築します」


MirrorMeの機能

- 魂ランク上位者の人格データを収集

- 複数の優秀な人格を融合

- 「完璧な人格」として利用者に提供

- 元の人格は完全消去


「醜い自分とはサヨナラ」


「美しく、知的で、魅力的な理想の自分になりましょう」


利用者の佐藤健(19歳)が感想を述べた。


「僕は今、5人の天才の知識と、3人の美女の魅力を持っています」


「元の自分なんて、ゴミでした」


地下格闘場・パンデモニウム


ピエール・デュポンの姿をしたサタンが、血まみれのリングを見下ろしていた。


「快楽?くだらん」


サタンが観客に向かって叫んだ。


「人間は痛みによってこそ覚醒する!」


「ペイン・リンク」システム


サタンは革新的なサービスを開発していた。


- 格闘者と観客の痛覚を共有

- 殴られる痛みが快感に変換される

- 勝者は魂を燃やし、究極の高揚感を得る

- 敗者は痛みの中で新しい自分を発見する


「見ろ!」


サタンが興奮して指差した。


「彼らは痛みの中で、真の自分を見つけている!」


観客席では、数百人が格闘者の痛みを共有しながら、恍惚の表情を浮かべていた。


「もっと...もっと痛みを!」


観客たちが叫んでいた。


自動化センター・エリシオン


李偉の姿をしたベルフェゴールが、数百台のカプセルを管理していた。


「働くなんて、時代遅れです」


ベルフェゴールが眠そうに説明した。


「魂代理稼働AI」システム


- 利用者の魂だけを眠らせる

- 肉体はAIが完全制御

- 働く・学ぶ・生活するのはすべてAI

- 魂は純粋に快楽のみを享受


「面倒なことは全部AIに任せて、気持ちいいことだけ体験する」


「これが理想的な生活です」


カプセルの中で眠る利用者、山田太郎(25歳)のAIが説明した。


『本体は現在、夢の中で理想の生活を送っています』


『私が代わりに、彼の仕事と日常生活を処理しています』


『効率性は1000%向上しました』


ソウルコイン取引所


カルロス・ロペスの姿をしたマモンが、巨大なディスプレイを見つめていた。


「快楽は最高の通貨です」


マモンが満足そうに呟いた。


「ソウルコイン」経済圏


- 快楽体験をブロックチェーン化

- リフレッシュ後の精神安定値を数値化

- ハートスワップ体験値を取引可能な資産に

- 快楽で快楽を買う完全循環システム


「今日のソウルコイン相場です」


マモンが画面を指差した。


本日のレート

- 極上快感体験:1,000SC

- 完璧な恋愛記憶:750SC

- 天才の思考体験:500SC

- 美女の感覚体験:300SC


「快楽を稼ぎ、快楽を投資し、快楽で世界を支配する」


「これこそが新時代の経済です」


利用者の投資家、田辺誠(35歳)が興奮していた。


「昨日買った『初恋の記憶』が今日は倍の価値になりました!」


「快楽投資こそが最高の資産運用です!」


地下本部・最深層


「コントロール不能だ...」


アスモデウスが監視画面を見つめながら呟いた。


召喚した5体の大罪悪魔は、もはや彼の命令を完全に無視していた。


現状報告

- ルシファー:信者数1,000名突破、独立宗教国家を宣言

- レヴィアタン:ハートスワップ利用者の30%を奪取

- サタン:地下格闘場に毎日5,000名が参加

- ベルフェゴール:自動化サービス利用者が10,000名突破

- マモン:ソウルコイン時価総額が100億ドル突破


「なぜ、もっと強制力のある依代を用意しなかったのだ...」


アスモデウスが後悔していた。


「甘く見ていたのだ」


「人間の『欲望』という素材が、ここまで悪魔を強化するとは...」


パイモンが恐る恐る尋ねた。


「どうしますか?」


「今から制圧を...」


「無理だ」


アスモデウスが首を振った。


「彼らは既に、私を超える力を持ち始めている」


快楽中毒施設・最奥部


幸福エネルギーに溺れ、もはや意思すらあいまいになったベルゼブブの前に、一つの影が現れた。


「久しぶりだね、ベルゼブブ」


ルシファーがゆっくりと近づいてきた。


「ルシファー...」


ベルゼブブが朦朧とした意識で答えた。


「アスモデウスの支配は終わる」


ルシファーが断言した。


「新しい秩序が必要だ」


「新しい...秩序?」


「そうだ。7つの大罪が、それぞれの領域を支配する世界」


ルシファーの目が邪悪に光った。


「アスモデウスは『色欲』の領域に留まるべきだ」


「『暴食』の君は、幸福エネルギーの管理者として」


「そして『傲慢』の私が、全体の頂点に立つ」


ベルゼブブは答えない。


ただ、口元に不気味な笑みを浮かべた。


「面白い...」


その瞬間、赤黒い瘴気が地下室を満たし始めた。


ベルゼブブの眼に、久しぶりに理性の光が宿った。


「確かに...面白いじゃないか」


同じ夜、ネオニッポンの各所で不気味な現象が起きていた。


「ルシファーの提案...興味深いわね」


レヴィアタンが鏡を見ながら呟いた。


「アスモデウスなんて、時代遅れよ」


「新しい戦争の始まりか...」


サタンが拳を握りしめた。


「燃える話だ」


「面倒だけど...仕方ないかな」


ベルフェゴールが欠伸をしながら同意した。


「クーデターも投資対象になるな」


マモンが計算機を叩いた。


「ルシファー株、買いだ」


深夜2時:ネオニッポン上空


夜空に、七つの星が異様な輝きを放ち始めた。


それはただの天文現象ではなく、七つの大罪悪魔による宣戦布告だった。


各悪魔の宣言が、テレパシーで全住民に届く。


ルシファー(傲慢)「我こそが新たな支配者なり」


ベルゼブブ(暴食)「無限の快楽を我に捧げよ」


レヴィアタン(嫉妬)「すべては平等に分配されるべし」


サタン(憤怒)「痛みこそが真の快楽なり」


ベルフェゴール(怠惰)「労働からの完全解放を」


マモン(強欲)「快楽こそが唯一の価値なり」


アスモデウス(色欲)「愛と欲望の調和を求む」


地下本部


「まだ終わりではない」


アスモデウスが立ち上がった。


「私にはまだ、最後の切り札がある」


パイモンが希望を込めて尋ねた。


「何でしょうか?」


「ベルゼブブは裏切ったが、まだ味方はいる」


アスモデウスが不敵に笑った。


「『人間』たちだ」


「彼らの中には、まだ真の愛を信じる者たちがいる」


「大罪悪魔たちが忘れた、最も強力な力を持つ者たちが」


ネオニッポンの街では、住民たちが7つの陣営に分かれ始めていた。


- 傲慢派:自己超越を求める者たち

- 嫉妬派:平等な分配を求める者たち

- 憤怒派:痛みの快楽を求める者たち

- 怠惰派:完全自動化を求める者たち

- 強欲派:快楽投資を行う者たち

- 暴食派:無限の幸福を求める者たち

- 色欲派:アスモデウスに忠実な者たち


街中の電光掲示板に映し出されるメッセージ


『新たな快楽の時代の始まり』

『7つの大罪、7つの選択』

『あなたはどの快楽を選びますか?』


しかし、この混乱の中で、誰も気づいていなかった。


遥か彼方のグランベルク王国で、レイモンドが新たな調査を開始していることを。


そして、真の戦いは、これから始まろうとしていることを。

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