偽りの理想郷 ネオニッポン:魂の修復と七柱の召喚
3ヶ月後:ネオニッポン医療センター
「先生...僕は一体誰なんでしょうか?」
17歳の青年、田中雄介がパイモン保健医に相談していた。
「ハートスワップを重ねるうちに、自分が何者だったか分からなくなって...」
雄介は過去3ヶ月で47回のハートスワップを経験していた。
- 女性との交換:28回
- 高齢者との交換:12回
- 子供との交換:5回
- 同性との交換:2回
「僕の本当の性別は?本当の年齢は?」
雄介が混乱して尋ねた。
「女性でいる時間の方が長かったから、僕は女性なのでしょうか?」
パイモンが他の悪魔たちに報告した。
「アイデンティティ崩壊症候群の患者が急増しています」
症例報告
- 患者数:347名
- 主症状:自己同一性の喪失
- 重症度:日常生活に支障をきたすレベル
- 年齢層:15歳〜25歳が最多
「私は本当は男性だったはず...でも確信が持てません」
22歳の女性、佐藤美咲が訴えていた。
「男性の身体でいる時の方が自然に感じるんです」
「でも女性として生まれたことも覚えているし...」
ハートスワップを重ねることで、借りていた身体での記憶と、本来の身体での記憶が混同されていた。
「昨日出産したのは私でしたっけ?」
「それとも交換相手の田村さんでしたっけ?」
患者たちは自分の体験と他人の体験の区別がつかなくなっていた。
緊急悪魔会議
「これは予想以上に深刻です」
アスモデウスが会議を召集した。
「ハートスワップサービスは一時停止が必要でしょう」
「しかし、このサービスは大変な人気で...」
ベリアルが懸念を示した。
「収益の30%を占めています」
「分かっています」
アスモデウスが頷いた。
「しかし、客が正気を失っては元も子もありません」
「流石にやりすぎました」
「そこで、新しいサービスを開始します」
アスモデウスが解決策を提示した。
「『リフレッシュハート・サービス』です」
リフレッシュハートの概要
- 魂の中の性の境界線を修復
- 混同した記憶の整理
- 本来のアイデンティティの復元
- 精神的安定の回復
「つまり、魂のメンテナンスですね」
パイモンが理解を示した。
「その通りです」
アスモデウスが詳細を説明した。
1週間後:リフレッシュハート・センター開設
「いらっしゃいませ」
専門のサキュバス・セラピストが患者を迎えた。
「本日は魂の修復をご希望ですね」
「はい...もう自分が何者か分からなくて」
田中雄介が切実に訴えた。
1. 魂の詳細スキャン
- 本来の性別・年齢の確認
- 混同記憶の特定
- 人格の基盤部分の確認
2. 境界線の再構築
- 男性/女性の境界の明確化
- 自己/他者の境界の修復
- 現在/過去の境界の整理
3. 記憶の整理
- 本来の記憶と借り物の記憶を分離
- 体験の主体を明確化
- 時系列の正確な復元
4. 人格の統合
- 本来のアイデンティティの復活
- 自己肯定感の回復
- 精神的安定の確保
2時間後
「あ...思い出しました」
雄介が安堵の表情を浮かべた。
「僕は田中雄介、17歳の男性です」
「女性の体験は確かに貴重でしたが、僕は男性として生きたいです」
「素晴らしい回復ですね」
セラピストが微笑んだ。
「今後はハートスワップの頻度を控えめにされることをお勧めします」
料金設定
- 軽度修復:銀貨500
- 中度修復:銀貨1,500
- 重度修復:銀貨5,000
- 完全修復:銀貨20,000
同時期:ネオニッポン地下施設**
「ベルゼブブ、最近様子がおかしいぞ」
アスモデウスが懸念を示していた。
ベルゼブブ・ストラテジストは、本来であれば知恵と戦略を司る悪魔だった。
しかし、最近は会議にも参加せず、地下の奥深くに引きこもっていた。
「ああ...なんて美味しいエネルギーだ...」
ベルゼブブが恍惚とした表情で呟いていた。
周囲には、サキュバスたちが回収してきた幸福エネルギーの結晶が山積みになっていた。
中毒症状
- 幸福エネルギーの過剰摂取
- 思考能力の著しい低下
- 責任感の完全消失
- 快楽追求のみに専念
「もっと...もっと甘美なエネルギーを...」
ベルゼブブは人間たちから収穫された純粋な幸福感を貪り続けていた。
「戦略?計画?そんなものはどうでもいい...」
「この快感さえあれば...」
「ベルゼブブ、君はアドバイザーとして召喚されたはずだ」
アスモデウスが叱責した。
「なぜ職務を放棄している?」
「アスモデウス...君には分からないよ...」
ベルゼブブがふらつきながら答えた。
「人間の幸福エネルギーの美味しさが...」
「一度味わったら、他のことなど考えられない...」
「職務復帰する気はないのか?」
「ない」
ベルゼブブがはっきりと答えた。
「僕はもう、この快楽だけを追求したい」
「計画や戦略なんて、面倒なことはやりたくない」
「仕方ありません」
アスモデウスが他の悪魔たちに告げた。
「ベルゼブブに代わる戦力が必要です」
「七柱の悪魔を召喚しましょう」
七柱の悪魔とは
- 悪魔界の上級貴族
- それぞれが特殊な能力を持つ
- 人間界への召喚には強力な依代が必要
「しかし、適切な依代が...」
ベリアルが懸念を示した。
「通常は特別な素質を持つ人間でなければ...」
「その辺にいる人を適当に捕まえて使いましょう」
アスモデウスが驚くべき提案をした。
「え?」
他の悪魔たちが困惑した。
「そんな雑な方法で大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です」
アスモデウスが断言した。
「我々の力が強くなりすぎて、普通の人間でも依代として使えるようになりました」
「むしろ、抵抗力の弱い一般人の方が都合が良い」
翌日:日本の市街地
「君、ちょっと来てくれないか?」
日本の世界にマルファスが赴き、通行人に声をかけた。
「え?僕ですか?」
35歳のサラリーマン、鈴木一郎が困惑した。
「特別なサービスの体験者を募集している」
「無料で最高級のサービスが受けられる」
「本当ですか?」
鈴木が興味を示した。
「ぜひお願いします」
5名の一般人を確保
同様の手口で、以下の人々が「特別体験者」として確保された。
1. 鈴木一郎(35歳・サラリーマン)
- 日本の通行人【ルシファー(傲慢)の依代】
2. メアリー・ジョンソン(28歳・看護師)
- アメリカの通行人【レヴィアタン(嫉妬)の依代】
3. ピエール・デュポン(42歳・シェフ)
- フランスの通行人【サタン(憤怒)の依代】
4. 李偉(31歳・エンジニア)
- 中国の通行人【ベルフェゴール(怠惰)の依代】
5. カルロス・ロペス(39歳・医師)
- スペインこ通行人【マモン(強欲)の依代】
深夜:地下最深部
「では、始めましょう」
アスモデウスが巨大な召喚魔法陣の前に立った。
5名の一般人は「特別なリラクゼーション体験」と説明され、魔法陣の中央に配置されていた。
「何か...すごく神秘的ですね」
鈴木一郎が周囲を見回した。
「これから何が始まるんでしょう?」
「最高の体験です」
アスモデウスが邪悪な笑みを浮かべた。
「七つの大罪を司る悪魔たちよ、応えよ!」
魔法陣が血のように赤く光り始めた。
5名の一般人の身体に、それぞれ異なる大罪悪魔が憑依していく。
「うあああああ!」
一般人たちが苦しみ始めたが、すぐに悪魔の力により意識が変質した。
数分後、そこには5体の新しい大罪悪魔たちが立っていた。
人間の外見を保ちながら、内部は完全に悪魔となっていた。
「久しぶりの現世ですね」
鈴木一郎の身体を乗っ取ったルシファー(傲慢)が言った。
「今度は何を企みましょうか、アスモデウス」
七つの大罪悪魔完全召喚
- アスモデウス(色欲) - 既召喚済み、元教皇
- ベルゼブブ(暴食) - 既召喚済み、現在快楽中毒
- ルシファー(傲慢) - 新召喚、元サラリーマン依代
- レヴィアタン(嫉妬) - 新召喚、元看護師依代
- サタン(憤怒) - 新召喚、元シェフ依代
- ベルフェゴール(怠惰) - 新召喚、元エンジニア依代
- マモン(強欲)- 新召喚、元医師依代
こうして、ネオニッポンには新たに5体の大罪悪魔が加わった。
彼らは元の人間の記憶と知識を完全に受け継いでおり、より巧妙に人間社会に溶け込むことができた。
ベルゼブブの堕落により生まれた戦力不足は、より危険な形で補われることになったのである。