偽りの理想郷 ネオニッポン:悪魔的快楽国家
グランベルク王国の王宮では、クラル王とエリザベス王妃が最新の国際情勢について話し合っていた。
「神聖教皇国の動向はいかがですか?」
エリザベス王妃が外交資料を見ながら尋ねた。
「ここ数ヶ月、まったく活動が報告されていません」
マーガレット統計局長が分析結果を報告した。
「我が国の派遣者たちの活動により、信者数が激減していることは把握していましたが...」
「完全に活動停止したようですね」
クラル王は窓の外を見つめながら呟いた。
「おそらく組織として瓦解したのでしょう。自然な流れです」
「我々の平和的な活動により、人々がより良い価値観を選択した結果です」
アレクサンダー王子(9歳)が父の膝の上で無邪気に尋ねた。
「お父様、教皇国の人たちはどうなったの?」
「きっと、新しい生き方を見つけたのでしょう」
クラル王は息子を優しく抱きしめた。
「人は変化するもの。それは悪いことではありません」
こうして、グランベルク王国では神聖教皇国を過去の存在として意識の外側に追いやった。まさか悪魔と契約して邪悪な計画を進めているとは、夢にも思わなかった。
元神聖教皇国、現在は「ネオニッポン」と改名された国家で、第3期生50名の新入生を迎えた入学式が行われていた。
「新入生の皆さん、ネオニッポン学園へようこそ」
アスモデウス校長(元教皇)が壇上で温かく微笑んだ。完璧に化けた人間の姿は、理想的な教育者そのものだった。
「皆さんはここで3年間、特別な教育を受けます」
「卒業後の進路は完全に自由です」
新入生の中で、特に美しい少女、佐藤美月(15歳)が友人に小声で話しかけた。
「ねえ、本当にここって天国みたい」
「制服も可愛いし、校舎も綺麗だし」
隣に座る同級生の田中翔太(15歳)も興奮を隠しきれなかった。
「魔法まで習えるなんて、信じられない」
「僕、絶対強くなってやる!」
バエル理科教師(元大司教アルケミスタ)の魔法学の授業は、生徒たちに大人気だった。
「今日は火魔法の基礎を学びます」
バエルが手のひらに小さな炎を灯した。
「魔法は意志と集中力、そして正しい知識があれば誰でも習得できます」
生徒の一人、山田健(16歳・2年生)が質問した。
「先生、僕たちがこんな力を身につけるのは、魔王と戦うためなんですよね?」
「その通りです」
バエルは厳粛な表情を作った。
「魔王クラルは人々を洗脳し、偽りの平和で支配しています」
「皆さんの力こそが、真の正義を実現するのです」
教室の生徒たちは皆、真剣な表情で頷いた。
美月が小さく呟いた。
「私たちが世界を救うなんて...責任重大だね」
「でも、先生たちがこんなに親切で優しいんだから、きっと正しいことなんだと思う」
マルファス体育教師(元カーディナル・インクイジション)による戦闘訓練は、見た目以上にハードだった。
「今日は剣術の基本を学びます」
マルファスが模擬剣を構えた。
「魔王軍との戦いでは、魔法だけでなく近接戦闘も重要です」
3年生の先輩、高橋大地(17歳)が後輩たちに声をかけた。
「最初はきついけど、慣れれば楽しいよ」
「僕なんて、今じゃ一人で10体の訓練用ゴーレムと戦えるからね」
新入生の翔太が目を輝かせた。
「すげー!僕もそんなふうになりたい!」
しかし、訓練についていけない生徒もいた。
小柄な1年生、鈴木弱志(15歳)が息を切らしながら言った。
「もう...だめ...疲れた...」
「僕、戦いとか向いてないのかも...」
マルファス教師が優しく近づいた。
「大丈夫ですよ、鈴木君」
「みんなそれぞれ向き不向きがあります」
「君には別の才能があるかもしれません」
(内心では、この少年を次の悪魔の依代候補として記録していた)
授業が終わると、生徒たちは思い思いに自由時間を過ごした。
翔太と友人の中村悠斗(16歳)がアーケードゲームに熱中していた。
「よし!新記録だ!」
翔太が興奮して叫んだ。
「すげーじゃん!でも俺も負けないからな」
悠斗が対戦格闘ゲームを選択した。
「このゲームのキャラ、魔法使うやつばっかりだな」
「現実でも魔法使えるのに、ゲームでもやるって変な感じ」
翔太が笑いながら答えた。
「でも楽しいからいいじゃん」
「それより、今度の実習で美月ちゃんとペアになれないかな...」
美月は親友の小林桜(15歳)と一緒に、恋愛小説を読んでいた。
「この小説の主人公、すっごくかっこいい」
桜が本のページをめくりながら言った。
「王子様みたいで、優しくて、強くて...」
「でも現実にもいるじゃない」
美月が顔を赤らめた。
「翔太君とか、大地先輩とか...」
「えー!美月、誰かに恋してるの?」
桜が興味深そうに身を乗り出した。
「そ、そんなことないよ!」
美月は慌てて否定したが、心の中では確かに翔太への想いが芽生えていた。
(この子たちの純真な心が、悪魔にとってはこの上ない栄養源だった)
3年生のグループが、卒業を前にした思い出作りをしていた。
「うわー、懐かしいこの曲!」
リーダー格の女子、森川明美(18歳)が選曲した。
「1年の時によく歌ったよね」
「あの頃は魔法もうまく使えなくて...」
仲間の男子、渡辺聡(18歳)が感慨深そうに振り返った。
「今じゃこんなことできるけどね」
聡が軽く手を振ると、マイクが宙に浮いた。
「すげー!3年間でこんなに成長したんだもんなー」
しかし、明美の表情は少し複雑だった。
「ねえ、みんな卒業後はどうするの?」
「僕は魔王討伐に参加するつもり」
聡が力強く答えた。
「世界を救うって、男のロマンじゃん」
「私は...まだ迷ってる」
明美が小さく呟いた。
「ここでの生活、すごく楽しかったから...」
「先生になって、後輩たちを教えるのもいいかなって」
(この時、明美はまだ知らなかった。「先生になる」という選択が、悪魔の依代になることを意味していたことを)
夕暮れ時の校庭で、翔太が勇気を出して美月に告白しようとしていた。
「あの...美月ちゃん」
翔太の声が震えていた。
「なに?翔太君」
美月も何となく察していて、心臓がドキドキしていた。
「僕...君のこと...」
翔太が言いかけた時、夕日が二人を美しく照らした。
「好きになっちゃったんだ」
「えっ...」
美月の頬が真っ赤に染まった。
「私も...実は...」
「翔太君のこと、ずっと気になってた」
二人は自然と手を取り合った。
「じゃあ...僕たち、付き合うってことで...」
「うん...よろしくお願いします」
美月の笑顔が、夕日よりも美しく輝いていた。
この純真な恋愛模様を、物陰から悪魔教師たちが満足そうに見守っていた。
「素晴らしい」
アスモデウス校長が小声で呟いた。
「純粋な愛情は、より強力な戦士を生み出す」
「あの二人からは、きっと優秀な子供が生まれるでしょう」
翔太と美月が付き合い始めて1年が経った。二人の関係は、学園全体の理想的なカップルとして知られていた。
「今日のお弁当も美味しいね」
翔太が美月の手作り弁当を頬張った。
「料理、すごく上手になったね」
「えへへ、家庭科の先生に特別に教えてもらったの」
美月は嬉しそうに答えた。
「翔太君のために、もっと美味しいもの作れるようになりたくて」
「ありがとう、美月」
翔太が美月の手を握った。
「君がいてくれるから、僕は頑張れる」
「魔王討伐の訓練も、君を守りたいって思うから力が出るんだ」
美月は少し不安そうな表情を見せた。
「ねえ、翔太君...魔王討伐って、本当に危険じゃない?」
「大丈夫だよ」
翔太が優しく微笑んだ。
「僕たちが習ってる技術は最高レベルだし、仲間もいる」
「それに、世界の平和のためだからね」
美月は心の奥で、翔太を失うことへの恐怖を感じていた。しかし、それを表に出すことはできなかった。
ネオニッポン学園では、日本の夏祭りを忠実に再現したイベントが開催された。
悪魔たちが運営する屋台では、完璧な日本の祭り食が提供されていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
商店員悪魔(元落伍者の依代)が元気よく呼び込みをしていた。
「焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、なんでもあるよ!」
翔太と美月も浴衣を着て、祭りを楽しんでいた。
「わあ、美月ちゃん、浴衣すごく似合ってる」
翔太が見とれていた。
「翔太君こそ、浴衣姿かっこいい」
美月も嬉しそうだった。
「射的やってみない?」
翔太が屋台を指差した。
「魔法使っちゃダメだよ?」
美月が笑いながら釘を刺した。
「当たり前じゃん。純粋な技術で勝負だよ」
しかし、翔太は魔法なしでも見事にすべての的を射抜いた。
「すげー!全部当たった!」
周りの生徒たちから歓声が上がった。
「さすが翔太先輩!」
後輩たちが憧れの眼差しで見つめていた。
夜になると、学園の上空で盛大な花火大会が開催された。
翔太と美月は、他のカップルたちと一緒に校庭で花火を見上げていた。
「きれい...」
美月が花火に見とれていた。
「君の方が綺麗だよ」
翔太の言葉に、美月は頬を染めた。
「もう、そんなこと言って...」
「本当だよ」
翔太が美月の顔を見つめた。
「僕、美月と出会えて本当に良かった」
花火の光が二人を照らす中、翔太がそっと美月の唇にキスをした。
美月の心臓が激しく鼓動した。これが彼女の初めてのキスだった。
「翔太君...」
美月の目に涙が浮かんでいた。
「私も、翔太君と出会えて幸せ」
周りでは他のカップルたちも、同様にロマンチックな時間を過ごしていた。
高橋大地(18歳)と交際相手の藤田麻衣(17歳)は、少し離れた場所で花火を見ていた。
「卒業まであと半年かあ」
大地が感慨深そうに呟いた。
「早いね」
麻衣が大地の腕に寄りかかった。
「大地は卒業後、やっぱり魔王討伐に行くの?」
「ああ」
大地は力強く頷いた。
「3年間学んだことを活かして、世界を救いたい」
「でも...」
麻衣の声が小さくなった。
「私、不安なの」
「もし大地が怪我したり...もう会えなくなったりしたら...」
大地が麻衣を抱きしめた。
「大丈夫だ。必ず帰ってくる」
「そして戻ってきたら...」
大地が麻衣の目を見つめた。
「結婚しよう」
「えっ...」
麻衣の目が大きく見開かれた。
「本当?」
「本当だ。君と家庭を築いて、子供も欲しい」
「平和な世界で、幸せな家族を作りたいんだ」
麻衣の目から涙がこぼれた。
「私も...大地と結婚したい」
「待ってる。必ず待ってるから」
二人の愛情深い会話を、悪魔教師たちが満足そうに聞いていた。
「完璧です」
アスモデウス校長が小声で呟いた。
「愛情に満ちた戦士ほど、強力な駒はありません」
「恋人のため、未来の家族のために戦う意志は、どんな魔法よりも強力です」
高橋大地と藤田麻衣は、交際から2年目を迎えていた。お互いへの愛情は深まる一方で、自然な流れとして身体的な関係も求めるようになっていた。
麻衣が一人で保健室を訪れた。
「先生、ちょっと相談があるんですけど...」
パイモン保健医(元修道院長ネクロマンシア)が優しく微笑んだ。
「どうしたの、麻衣ちゃん?」
「あの...大地との関係で...」
麻衣が顔を真っ赤にして俯いた。
「その...次の段階に進みたいって思うんですけど...」
パイモンは内心で邪悪な満足を感じながら、表面的には理解ある大人として振る舞った。
「とても自然なことね」
「愛し合っている二人なら、当然の感情よ」
「でも、ちゃんと準備が必要ね」
パイモンが引き出しから小さな箱を取り出した。
「これは避妊具。でも麻衣ちゃんたちには、むしろ使わないことをお勧めするわ」
「えっ?」
麻衣が驚いた。
「あなたたちのような優秀なカップルからは、きっと素晴らしい子供が生まれるはず」
「若いうちから家族を築くのは、とても素晴らしいことよ」
「この学園では、学生の妊娠・出産を全面的にサポートしているから、安心して」
麻衣の心は複雑だった。
「でも、まだ高校生だし...」
「年齢なんて関係ないわ」
パイモンが断言した。
「愛があれば、何歳でも素晴らしい親になれる」
「それに、ここは特別な場所よ。普通の高校とは違うの」
大地と麻衣は、大地の個人部屋で二人きりの時間を過ごしていた。
「麻衣...」
大地が優しく麻衣の名前を呼んだ。
「君と一緒にいると、心が満たされる」
「私も...」
麻衣が大地の胸に顔を埋めた。
「大地といると、すごく安心する」
二人は自然と抱き合い、キスを交わした。
「麻衣...僕たち...」
大地の声が震えていた。
「うん...私も、大地ともっと繋がりたい」
麻衣が小さく頷いた。
その夜、二人は初めて身体を重ねた。
愛情に満ちた、優しく繊細な時間だった。
「大地...愛してる」
麻衣が涙を流しながら囁いた。
「僕も愛してる、麻衣」
大地が麻衣を抱きしめながら答えた。
「君と出会えて、本当に幸せだ」
この純真な愛の結実を、悪魔たちは密かに監視していた。
「素晴らしい」
ベルゼブブが満足そうに呟いた。
「愛情に基づく結合は、最高品質の魂を生み出す」
「あの二人からは、間違いなく強力な戦士が誕生するでしょう」
一方、1学年下の翔太と美月も、関係が深まっていた。
「美月、今日も一緒に勉強しない?」
翔太が美月の机に近づいた。
「うん、喜んで」
美月が嬉しそうに答えた。
教室には二人だけ。夕日が差し込む静かな空間で、二人は数学の問題を解いていた。
「この問題、難しいね」
美月が首をかしげた。
「一緒に考えよう」
翔太が美月の隣に座った。
二人の距離が近づくと、お互いの体温を感じることができた。
「翔太君...」
美月の頬が赤らんだ。
「美月...」
翔太も同じように顔を赤らめた。
二人は自然と見つめ合い、そして静かにキスを交わした。
最初は軽いキスだったが、次第に情熱的になっていった。
「美月...僕、君ともっと...」
翔太の手が美月の手に重なった。
「私も...でも、ちょっと怖い」
美月が正直な気持ちを打ち明けた。
「大丈夫だよ。僕たち、愛し合ってるんだから」
翔太が優しく微笑んだ。
「焦らなくていい。君のペースで」
美月は翔太の優しさに心を打たれた。
「ありがとう、翔太君」
「私、翔太君となら...」
大地と麻衣が関係を持ってから2ヶ月後、麻衣に変化が現れた。
「先生...最近、朝具合が悪くて...」
麻衣が心配そうにパイモン保健医に相談した。
「それに、生理も遅れてるんです」
パイモンは既に麻衣の状態を悪魔的な感知能力で察知していたが、人間らしく診察を行った。
「検査してみましょうね」
数分後、結果が出た。
「麻衣ちゃん、おめでとう」
パイモンが笑顔で告げた。
「妊娠しているわ」
「えっ...本当ですか?」
麻衣の目が大きく見開かれた。
「本当よ。約8週目ね」
「赤ちゃんが...私のお腹に...」
麻衣が自分のお腹に手を当てた。
複雑な感情が心を駆け巡った。喜び、不安、恐怖、そして愛情。
「大地に伝えなきゃ...」
その日の夕方、麻衣は大地に妊娠を報告した。
「大地...話があるの」
麻衣の真剣な表情に、大地も緊張した。
「どうしたんだ?」
「私...妊娠してる」
静寂が流れた。
大地の表情が驚きから喜びに変わった。
「本当か?」
「うん...保健の先生に診てもらったの」
大地が麻衣を抱きしめた。
「すごいじゃないか!僕たちの子供だ!」
「でも...まだ高校生だし...」
麻衣の不安が表れた。
「大丈夫だ」
大地が力強く言った。
「先生たちも言ってたじゃないか。この学園は妊娠・出産を全面サポートしてくれるって」
「それに、僕たちの子供だよ。絶対に可愛くて、優秀な子が生まれる」
大地の確信に満ちた言葉に、麻衣も次第に安心してきた。
「そうね...私たちの愛の結晶なんだもの」
翌日、麻衣の妊娠は校長に報告された。
「素晴らしいニュースです」
アスモデウス校長が満面の笑みで祝福した。
「高橋君、藤田さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
大地と麻衣が深々と頭を下げた。
「学園としては、全面的にサポートします」
校長が具体的な支援内容を説明した。
妊娠中のサポート
- 特別カリキュラムへの変更
- 栄養管理の徹底
- 定期健診の実施
- 精神的ケアの提供
出産後のサポート
- 育児休暇の付与
- 託児所の利用
- 子育て指導の実施
- 経済的支援
「すべて無料で提供します」
校長の言葉に、二人は感激した。
「こんなに支援してもらえるなんて...」
麻衣が涙を流した。
「我々にとって、皆さんは大切な家族です」
校長が慈愛に満ちた表情で言った。
「特に、愛し合う二人から生まれる子供は、この世界の希望なのです」
(実際には、悪魔たちは優秀な戦士を量産するための計画を進めていた)
麻衣の妊娠は、すぐに学園全体に知れ渡った。
「えー!麻衣先輩、妊娠してるの?」
後輩の1年生たちが興味深そうに話していた。
「すごいなあ...私たちと同じ高校生なのに」
「でも素敵だよね。大地先輩と麻衣先輩、本当に愛し合ってるもん」
美月も友達の桜と話していた。
「麻衣先輩みたいに、私も翔太君の子供が欲しいな」
美月が頬を染めながら呟いた。
「えー!美月もそんなこと考えてるの?」
桜が驚いた。
「だって、愛し合ってる人の子供って、すごく幸せなことじゃない?」
「そうかもしれないけど...」
桜は少し複雑な表情を見せた。
「でも、まだ私たち若いし...」
翔太も友人の悠斗と話していた。
「大地先輩、すげーよな」
悠斗が感心して言った。
「もう父親になるんだぜ」
「僕も美月との間に子供が欲しいな」
翔太が真剣に言った。
「まじで?お前、そんなこと考えてたのか?」
「美月を愛してるから、当然だよ」
翔太の言葉に、悠斗も考え込んだ。
「俺も真剣に恋愛したくなってきた」
麻衣の妊娠から9ヶ月後、ついに出産の日がやってきた。
出産当日:学園医療センター
「うっ...痛い...」
麻衣が陣痛に耐えながら、大地の手を強く握っていた。
「大丈夫だ、麻衣。もうすぐ会えるよ」
大地が額の汗を拭いながら、励ましの言葉をかけた。
パイモン保健医が医師として分娩を担当していた。悪魔の力により、完璧な医療技術を持っていた。
「順調ですよ、麻衣さん」
パイモンが優しく声をかけた。
「赤ちゃんも元気です。もう少しで生まれますからね」
午後3時27分:誕生の瞬間
「おぎゃあああああ!」
元気な産声が医療センターに響いた。
「生まれました!元気な男の子です!」
パイモンが赤ちゃんを抱き上げた。
「うわあああ...」
大地が感極まって涙を流した。
「僕たちの子供だ...本当に生まれたんだ...」
「見せて...私の赤ちゃん...」
麻衣が疲労の中でも、目を輝かせていた。
パイモンが清拭した赤ちゃんを麻衣の胸の上に置いた。
「ほら、お母さんですよ」
「あ...あああ...」
麻衣が初めて我が子を抱いた瞬間、言葉にできない愛情が心を満たした。
「小さくて...温かくて...」
「君に似てるね」
大地が優しく指で赤ちゃんの頬を撫でた。
「いや、君に似てる」
麻衣が幸せそうに微笑んだ。
「きっと両方に似てるのよ」
「名前はどうしましょうか?」
パイモンが出生届の準備をしながら尋ねた。
「僕たちで決めてたんです」
大地が答えた。
「大輝。大きく輝くという意味で」
「この子が将来、世界を明るく照らす存在になってほしくて」
麻衣が補足した。
「高橋大輝君ですね。素晴らしい名前です」
パイモンが記録しながら、内心では邪悪な満足を感じていた。
(この子は将来、最強の戦士になるだろう。愛情に満ちた環境で育てられ、魔王クラル討伐の尖兵として使える)
「皆さんにお知らせします」
アスモデウス校長の声が学園内に響いた。
「昨日、3年生の高橋大地君と藤田麻衣さんの間に、元気な男の子が誕生しました」
「名前は大輝君です。母子ともに健康です」
校内が祝福の拍手に包まれた。
「すごーい!本当に赤ちゃんが生まれたんだ!」
美月が興奮して友人に話しかけた。
「私も早く翔太君の赤ちゃんが欲しくなっちゃった」
「えー!美月、気が早いよ」
桜が笑いながら答えた。
「でも確かに、赤ちゃんって可愛いよね」
翔太も男子生徒たちと話していた。
「大地先輩、ついに父親になったのか」
「俺も美月との子供欲しいな」
翔太が真剣な表情で呟いた。
「まじで?」
友人の悠斗が驚いた。
「愛してる人との子供って、すごく幸せなことだと思うんだ」
学園には最新設備を整えた託児所が設置されていた。悪魔技術により、人間界では考えられないほど完璧な育児環境が整っていた。
「おはよう、大輝」
麻衣が生後1ヶ月の大輝を託児所に預けていた。
「今日も元気ね」
託児所の職員(悪魔の依代)が温かく迎えた。
「お母さんは授業に集中してくださいね」
「ありがとうございます」
麻衣が安心して授業に向かった。
託児所では、悪魔たちが完璧な育児を提供していた。
- 24時間体制の監視
- 栄養バランスの完璧な離乳食
- 知育玩具による早期教育
- 音楽と絵本による情操教育
「この子たちは将来の戦士です」
託児所長の悪魔が他の職員に指示していた。
「完璧に育て上げ、魔王討伐の使命を植え付けなければなりません」
学園は大地と麻衣に、特別な夫婦用住居を提供していた。
「ただいま」
大地が実習から帰ってきた。
「おかえりなさい」
麻衣が大輝を抱いて迎えた。
「大輝は元気だった?」
「うん、ずっと機嫌良くて」
麻衣が嬉しそうに答えた。
「この子、パパが帰ってくるの分かってるみたい」
大地が大輝を抱き上げた。
「おお、重くなったな」
「あばばば」
大輝が父親を見て笑った。
「可愛いな、この子は」
大地が目を細めた。
「将来は立派な戦士になるんだぞ」
「魔王クラルを倒して、世界を平和にするんだ」
麻衣も微笑んで頷いた。
「きっとパパみたいに、強くて優しい人になるわね」
大輝が眠った後、夫婦二人だけの時間。
「麻衣、幸せ?」
大地が妻を抱きしめながら尋ねた。
「とても幸せ」
麻衣が大地の胸に頭を預けた。
「大地と結婚して、大輝が生まれて...」
「こんなに幸せでいいのかなって思うくらい」
「僕もだよ」
大地が麻衣の髪を撫でた。
「君と家族になれて、本当に良かった」
「でも...」
麻衣の表情が少し曇った。
「卒業後のことを考えると、不安になる」
「大地は魔王討伐に行くんでしょう?」
大地が麻衣を見つめた。
「君も一緒に来てほしい」
「えっ?」
「家族みんなで、魔王を倒しに行こう」
大地の目に強い決意が宿っていた。
「大輝にも戦いを見せてあげたい」
「正義のために戦う父親の姿を」
麻衣は複雑な心境だった。
「でも、赤ちゃんを連れて戦場なんて...」
「大丈夫だ」
大地が確信を持って言った。
「先生たちが言ってたじゃないか」
「愛する家族のために戦う戦士は最強だって」
「それに、魔王クラルは悪の存在だ」
「放っておけば、大輝の未来も脅かされる」
「だから今、僕たちが立ち上がらないといけないんだ」
麻衣は大地の正義感に心を打たれた。
「分かった」
「私も一緒に戦う」
「大輝の未来のために」
二人は固く抱き合い、口づけを交わした。
翔太と美月は、先輩たちの幸せな家庭生活を見て、自分たちの将来について真剣に考えるようになっていた。
「美月、僕たちもいつか大地先輩たちみたいになりたいね」
翔太が夕日を見ながら言った。
「うん...赤ちゃん、すごく可愛いもんね」
美月も同意した。
「私も翔太君の子供が欲しい」
「本当?」
翔太が美月の手を握った。
「うん、本当」
美月が頬を染めながら答えた。
「でも、まだ私たち2年生だし...」
「それは関係ないよ」
翔太が力強く言った。
「愛があれば、年齢なんて関係ない」
「先生たちもそう言ってたじゃないか」
美月は翔太の言葉に心を動かされた。
「そうね...私たち、本当に愛し合ってるもんね」
「だったら...」
翔太が美月の顔を見つめた。
「僕たちも、次の段階に進まない?」
美月の心臓が激しく鼓動した。
「私...怖いけど...翔太君となら...」
「大丈夫だよ」
翔太が優しく微笑んだ。
「僕が君を絶対に幸せにする」
「結婚して、家族を作って、一緒に魔王を倒しに行こう」
美月は翔太の真剣な愛情表現に涙を浮かべた。
「うん...翔太君と一緒なら、怖いものなんてない」
翔太の部屋で、二人は初めて身体を重ねた。
「美月...愛してる」
翔太が優しく美月を抱きしめた。
「私も...愛してる、翔太君」
美月が涙を流しながら答えた。
純真な愛情に満ちた、美しい時間だった。
「これで僕たち、本当の恋人同士だね」
翔太が美月の髪を撫でながら言った。
「うん...翔太君と繋がれて、すごく幸せ」
美月が翔太の胸に顔を埋めた。
「今度、赤ちゃんができるかな」
「きっとできるよ」
翔太が確信を持って答えた。
「そして、その子も立派な戦士に育てよう」
「魔王クラルを倒せるくらい強い子に」
美月も頷いた。
「きっと翔太君に似て、強くて優しい子になるわ」
学園の生徒数が増加し、恋愛関係も活発になるにつれ、悪魔たちはより多くの依代を必要とするようになった。
職員会議(悪魔たち)
「現在の依代数では不足です」
ベルゼブブが他の悪魔たちに報告した。
「生徒数は300名を超え、さらに第2世代の出産も控えています」
「追加の依代が必要ですね」
アスモデウス校長が同意した。
「幸い、志願者は多数います」
実際、多くの3年生が「学園に残って教師になりたい」と希望していた。
3年生の進路選択
「卒業後の進路調査です」
バエル教師が3年生に配布した。
選択肢は以下の通りだった:
1. 魔王討伐への参加
2. ネオニッポンでの定住・就職
3. 学園での教師・職員継続
4. 地球への帰還
多くの生徒が、3番目の選択肢に興味を示した。
「僕、この学園が好きになっちゃったんです」
ある男子生徒が担任に相談した。
「ここで後輩たちを教えるのって、素晴らしいことだと思うんです」
「私も同感です」
女子生徒も同調した。
「先生たちみたいに、愛に満ちた教育をしたいです」
このような「善意」の背後で、悪魔たちは冷酷な選別を行っていた。
- 身体能力の高さ
- 魔法適性の優秀さ
- 指導力と人格的魅力
- 生徒たちからの信頼度
基準を満たした約30名が「教師候補」として選ばれた。
彼らは自分たちが悪魔の依代になることを知らなかった。
「君たちは選ばれました」
アスモデウス校長が30名の3年生を地下の特別室に集めた。
「教師として、後輩たちを導く神聖な使命を担います」
生徒たちは光栄に思い、期待に胸を膨らませていた。
「ただし、その前に特別な儀式が必要です」
校長が古代の魔法陣を指差した。
「これは『教師の誓い』という神聖な儀式です」
「皆さんの魂と、学園の理念を永遠に結びつけるものです」
生徒たちは何の疑いも抱かなかった。
「喜んで参加させていただきます」
代表の生徒が答えた。
「僕たち、この学園のために尽くしたいんです」
魔法陣が光り始めると、30体の新たな悪魔が顕現した。
それぞれが生徒の肉体に憑依し、人間の意識と融合した。
「うっ...頭が...」
生徒たちが苦しみ始めたが、すぐに悪魔の力により痛みは消失した。
「おお...これは...」
憑依された生徒たちの目に、新たな知識と力が宿った。
「素晴らしい...世界の真理が見える...」
人間の善良さと悪魔の邪悪さが融合し、表面的には完璧な教師たちが誕生した。
翌日から、元生徒たちは教師として活動を開始した。
「皆さん、新しい先生方をご紹介します」
朝礼でアスモデウス校長が発表した。
「昨年度の卒業生で、教師として残ることを選択された方々です」
生徒たちから大きな拍手が起こった。
「先輩たちが先生になるなんて、すごい!」
「僕も将来、ここで教師になりたい!」
新任教師の一人、元3年生の佐藤健太(19歳・現在は悪魔との融合体)が挨拶した。
「皆さん、こんにちは」
健太の声は以前と同じだったが、その目の奥に邪悪な光が宿っていた。
「僕は去年まで、皆さんと同じ生徒でした」
「でも今は、皆さんを指導する立場になりました」
「一緒に魔王クラル討伐のため、力を合わせて頑張りましょう」
生徒たちは大いに盛り上がった。
「健太先輩、かっこいい!」
「僕たちも先輩みたいになりたいです!」
学園の成功により、悪魔たちはより大規模な計画を実行することにした。
悪魔幹部会議
「現在の成果は上々です」
ベルゼブブが報告した。
「しかし、魔王クラル討伐には、より多くの戦士が必要です」
「第4期生として、一度に100名を召喚しましょう」
アスモデウスが提案した。
「学園施設も拡張し、より大規模な教育機関とします」
「同意します」
他の悪魔たちも賛成した。
「地球の日本から、最も優秀な青少年を選別しましょう」
悪魔の力により、わずか1週間で巨大な新校舎が建設された。
- 追加校舎(5棟)
- 大規模体育館(3棟)
- 拡張された託児所
- 学生寮(男女別・各500名収容)
- 娯楽施設の拡充
- 医療センターの拡張
「まるで大学みたい」
既存の生徒たちが新施設に驚嘆した。
「これで新入生がたくさん来ても大丈夫だね」
新しく建設された大召喚室で、史上最大規模の召喚が実行された。
光の渦と共に、100名の日本人青少年が一度に現れた。
年齢は14歳から18歳、全員が容姿端麗で、学業や運動能力に優れた者たちだった。
「えっ...ここどこ?」
「なんで僕たち、こんなところに?」
「学校...みたいだけど...」
混乱する新入生たちに、アスモデウス校長が優しく説明した。
「皆さん、ようこそネオニッポン学園へ」
「皆さんは特別な才能を持つ若者として選ばれました」
「ここで素晴らしい教育を受け、世界を救う使命を果たしていただきます」
新入生たちは、あまりにも精巧に再現された日本の環境に安心した。
「制服も日本のと同じだ」
「先生も日本人みたいだし」
「なんか、すごく良さそうな学校」
既存の生徒たちが、新入生を温かく迎えた。
「ようこそ、後輩たち!」
翔太や美月も2年生として、新入生の世話を担当した。
「分からないことがあったら、何でも聞いてね」
美月が新入生の女子に優しく声をかけた。
「ここって、本当に素晴らしい学校なの」
「恋愛も自由だし、魔法も習えるし」
「赤ちゃんも産めるのよ」
新入生の少女が目を輝かせた。
「本当ですか?魔法って?」
「見ててね」
美月が手のひらに小さな光の玉を作り出した。
「わあああ!すごい!」
新入生たちから歓声が上がった。
「僕たちも魔法使えるようになるの?」
翔太が答えた。
「もちろん!ここで勉強すれば、みんな使えるようになるよ」
「それで、世界を脅かしてる魔王クラルを倒すんだ」
新入生たちは興奮と期待で胸を躍らせた。
「僕たちが世界を救うんですね!」
「がんばります!」
純真な少年少女たちの反応を見て、悪魔たちは内心で邪悪な満足を感じていた。
「完璧です」
ベルゼブブが他の悪魔に囁いた。
「この調子でいけば、1000名規模の軍団も夢ではありません」
「そうですね」
アスモデウスが同意した。
「愛と正義に燃える戦士たちが、偽りの使命のために命を捧げる」
「これほど効率的な軍団創設方法はありません」
ネオニッポン学園では、完璧な循環システムが確立されていた。
3年サイクル
1. 日本から優秀な青少年を召喚
2. 3年間で戦闘技術と思想教育を徹底
3. 卒業時に進路選択(魔王討伐 or 教師継続 or 定住)
4. 教師継続者は悪魔の依代化
5. 定住者は次世代の育成に専念
6. 新たな召喚で規模拡大
世代間連携
- 先輩が後輩を指導
- 恋愛・結婚・出産の奨励
- 愛情に基づく強力な戦士育成
- 家族愛を利用した使命感の強化
現在の学園規模
- 在校生:500名
- 教職員(悪魔の依代):150名
- 既婚者・家族:80組
- 第2世代(子供):45名
年間生産能力
- 卒業生(戦士):150名/年
- 新生児:60名/年
- 新依代:50名/年
昼休みの食堂
「今日の魔法学、面白かったね」
新入生の田村咲良(15歳)が友人と話していた。
「火魔法、もう少しで習得できそう」
「私は治癒魔法を覚えたいな」
友人の鈴木奈々(15歳)が答えた。
「将来、翔太先輩みたいな人と結婚して、赤ちゃんの治療とかしてあげたい」
「咲良は誰か気になる人いる?」
「んー...まだ分からないけど」
咲良が頬を染めた。
「でも先輩たちみたいに、素敵な恋愛したいな」
元生徒で現在は教師の佐藤健太(悪魔との融合体)が、後輩指導について話していた。
「新入生たちの適応は良好です」
健太が報告した。
「特に恋愛に関する興味が高く、思想教育も順調に浸透しています」
「素晴らしい」
アスモデウス校長が満足そうに頷いた。
「愛情豊かな戦士ほど、強力な駒はありません」
「来年度の魔王討伐作戦に向けて、準備を進めましょう」
生後1歳になった大輝は、すでに異常な成長を見せていた。
「パパ」「ママ」
大輝が明瞭に話せるようになっていた。
「この子、本当に成長が早いわね」
麻衣が感心していた。
「悪魔の技術で育てられているから当然です」
(この事実を、麻衣は知らなかった)
「将来が楽しみだ」
大地が息子を抱き上げた。
「強くて優しい戦士になるんだぞ、大輝」
「魔王クラルを倒して、世界を平和にするんだ」
大輝は父親の言葉を理解したかのように、にっこりと笑った。
「たたかう!」
大輝の初語の一つが「戦う」だった。
ネオニッポンの悪魔たちは、長期的な計画を着実に進めていた。
10年計画
- 学園規模:在校生2000名
- 年間戦士生産:500名
- 第3世代の育成開始
- 他地域への展開
最終目標
- グランベルク王国の完全殲滅
- 魔王クラルの打倒
- 世界全体の悪魔支配
純真な日本の青少年たちは、自分たちが悪魔の道具として使われていることを微塵も疑わず、愛と正義に燃えて日々を過ごしていた。
彼らの純粋な心と強い絆が、皮肉にも悪魔たちの計画を完璧に成功させる要因となっていた。
遠いグランベルク王国では、クラル王が平和な日々を過ごしている。
まさか、愛と正義の名の下に、自分を討伐するための軍団が着々と育成されているとは、夢にも思わずに...




