即位10年目:悪魔的快楽国家の誕生
春:王国からの召喚
即位10年目の春、久しぶりの知らせがグランベルク王国に届いた。
「陛下、王国政府から正式な召集状が届きました」
マーガレット統計局長が、厳格な王印が押された文書を差し出した。クラル王は7歳になったアレクサンダー王子を膝に抱きながら、その文書に目を通した。王子は既に流動重心術の応用で150キロの重量を軽々と操れるようになっており、父の膝の上で小さな金属球を複雑な軌道で浮遊させていた。
「10年ぶりの召集ですね」
エリザベス王妃が感慨深げに言った。
「王国の属国であることを、もう忘れかけていました」
「むしろ、立場が逆転しているのではないでしょうか」
クラル王は苦笑いを浮かべた。グランベルクの国力は、もはや宗主国である王国を遥かに上回っていた。
1週間後、クラル王一家は王都への旅路についた。同行したのは最小限の護衛のみで、壮大な行列は組まなかった。
「お父様、王国ってどんなところですか?」
アレクサンダー王子が興味深そうに尋ねた。
「お前が生まれる前から、我々を見守ってくれた大切な国です」
クラル王は優しく答えた。
「ただし、今では我々の方が強くなってしまいましたが」
道中、興味深い光景を目にした。街道沿いの村々で、グランベルクからの派遣者たちが活動している姿があちこちで見られたのだ。
農村では魔人族の農業技術者が新しい耕作法を教え、都市では魔人族の医師が診療所を開設し、工房では魔人族の職人が技術指導を行っていた。
「どこの村も活気にあふれていますね」
エリザベス王妃が感心した。
「我が国の人々が各地で尽力している成果です」
王都に到着したクラル一家を迎えたのは、老いた国王ヘンリー・アイアンクラウン八世だった。10年前とは見違えるほど老け込んでおり、杖をついてようやく歩いている状態だった。
「クラル王よ、よく来てくれた」
国王の声は、昔の威厳を失いかけていた。
「久しぶりですね、陛下」
クラル王は深々と頭を下げた。今や自分の方が圧倒的に強い立場にあることは明らかだったが、礼儀を欠くことはなかった。
「こちらが息子のアレクサンダーです」
「立派な王子ですね」
国王は震える手でアレクサンダー王子の頭を撫でた。
「素晴らしい子だ」
王宮での正式な謁見で、国王は重要な発表を行った。
「クラル王、お前の国は...もはや我が王国の属国ではない」
会議室に静寂が流れた。
「正式に独立を承認し、対等なパートナーとして新たな関係を築きたい」
クラル王は深い感動を覚えた。
「ありがたいお言葉です」
「いや、感謝すべきは我々の方だ」
国王は力を振り絞って続けた。
「お前たちの派遣者たちが各地で行っている貢献...我が国の発展は、もはやグランベルクなしには考えられない」
翌日、王国議会の満場一致により、グランベルク王国の完全独立が正式に承認された。
「グランベルク王国は、本日をもって我が王国の正式なパートナー国家となります」
首相の宣言に、議場は大きな拍手に包まれた。
「むしろ、我々がグランベルクに学ぶべき立場にあります」
ある議員の率直な発言が、現在の力関係を象徴していた。
独立記念の晩餐会で、国王は私的な会話を求めた。
「クラル王よ、これが私の最後の仕事になるだろう」
国王の言葉には、深い疲労と満足が入り混じっていた。
「お前を属国の王として迎えたのが、私の最大の功績だった」
「そのようなことは...」
「いや、事実だ。お前がいなければ、我が王国はとうに破綻していただろう」
国王は窓の外を見つめながら続けた。
「お前の派遣者たちの献身により、我が国は新たな活力を得た。医療、技術、文化...あらゆる分野で劇的な改善が見られる」
「お爺様はとても優しい方ですね」
アレクサンダー王子が、国王との面会後に感想を述べた。
「お父様ほど強くないけど、とても良い心を持っておられます」
クラル王は息子の洞察力に感心した。
「その通りです。強さには色々な形があるのです」
夏:10周年記念演説
グランベルクに帰国後、クラル王は即位10周年を記念する特別な演説を行った。
「グランベルクの民よ、そして世界の友人たちよ」
王宮前広場には10万人を超える人々が集まっていた。国民だけでなく、各国からの来賓、派遣者として活動中の職員の家族、そして多くの外国人観光客も参列していた。
クラル王の声は、魔法により全世界に中継されていた。
「今日、我々は真の意味での独立国家として、世界に認められるまでになりました」
農業革命の成果
- 食料自給率:350%達成
- 魔獣食技術の確立
- 世界最高水準の農業技術
社会制度の完成
- 犯罪率:99.9%減少
- 教育普及率:100%
- 住民満足度:98%
国際貢献の実績
- 派遣者総数:2,000名超
- 支援国数:20カ国
- 技術移転件数:500件超
魔人族としてのアイデンティティ確立
- 国際的認知度:95%
- 肯定的評価:85%
- 協力希望国:15カ国
「我々は力によって征服するのではなく、愛によって結ばれる道を選びました」
「これからの10年は、真の世界統合への第一歩となるでしょう」
クラル王は力強く宣言した。
短期目標(1-3年)
- 派遣者プログラムの世界展開
- 平和維持機構の設立準備
- 次世代リーダーの育成
中期目標(3-7年)
- 世界平和機構の本格運用
- 人族の段階的進化支援
- 宇宙開発技術の研究開始
長期ビジョン(7-15年)
- 人族と魔人族の完全融合
- 星間文明への準備
- 永続的平和の実現
「我々魔人族には、世界を導く責任があります」
「豊穣神クラルの加護と、魔王クラルの威厳をもって、必ずや理想世界を実現してみせます」
演説は全世界から絶賛され、「史上最も感動的な国家演説」として記録された。
秋:神聖教皇国の暗転
しかし、この頃、神聖教皇国では深刻な危機が進行していた。
「信者数が臨界点を下回りました」
カーディナル・プラグマティックが、震える手で統計資料を教皇ピウス・ザ・ジャストに提示した。
グランベルクの魔人族派遣者たちの献身的な活動により、各地でキリスト教への信仰が急激に低下していた。
信者数の推移
- 5年前:800万人
- 3年前:600万人
- 1年前:300万人
- 現在:150万人
信仰離れの理由
- 魔人族の実際的な貢献の目撃
- キリスト教的価値観より実践的な魔人族の教え
- 若い世代の魔人族への憧れ
- 教会の形式主義への失望
「魔人族は実際に病気を治し、技術を教え、心を癒してくれます」
元信者の証言が、教皇庁に深刻な危機感をもたらしていた。
「教会は祈るだけですが、魔人族は行動してくれます」
「このままでは神聖教皇国は消滅してしまいます」
カーディナル・インクイジションが危機感を露わにした。
「キリストの教えでは、もはや魔人族に対抗できません」
教皇ピウス・ザ・ジャストは、深い絶望に陥っていた。
「我々の2000年の歴史が...わずか10年の魔人族によって覆されようとしている」
絶望の淵に立った教皇庁幹部は、ついに禁忌の選択肢に手を伸ばした。
「最後の手段があります」
最も秘密主義で知られるカーディナル・オカルティクスが、震える声で提案した。
「異界召喚の古代儀式です」
会議室に重い沈黙が流れた。
「それは...悪魔との契約を意味するのではありませんか?」
カーディナル・プラグマティックが恐る恐る尋ねた。
「もはや背に腹は代えられません」
教皇が重い口を開いた。
「キリストの教えも、我々の地位も、すべてが失われようとしている今、あらゆる手段を講じなければなりません」
深夜、神聖教皇国の最深部で、厳重に秘匿された儀式が執り行われた。
参加者は教皇庁の最高幹部のみ:
- 教皇ピウス・ザ・ジャスト
- カーディナル・オカルティクス
- カーディナル・インクイジション
- 大司教アルケミスタ
- 修道院長ネクロマンシア
「偉大なる闇の力よ」
教皇が古代語で詠唱を始めた。
「我らに知恵と力を与えたまえ」
血で描かれた魔法陣が不気味に光り始める。
「現世の敵を打ち倒すため、禁断の契約を結ばん」
突如、魔法陣から黒い煙が立ち上った。
煙の中から現れたのは、意外にも人間に近い姿をした存在だった。知的で洗練された外見をしており、深い紫の瞳が神秘的に光っていた。
「我が名はベルゼブブ・ストラテジスト」
悪魔は優雅に頭を下げた。
「貴方がたの窮状、拝聴いたしました」
「本当に我々を助けてくれるのですか?」
教皇が震え声で尋ねた。
「もちろんです。ただし、相応の対価が必要です」
「対価とは?」
「貴方がた最高幹部以外の、すべての信者の魂です」
会議室が氷のような静寂に包まれた。
「150万の魂を我々に委ねていただければ、貴方がたに絶大な力と知恵を授けましょう」
ベルゼブブの提案は悪魔的だったが、同時に魅力的でもあった。
「どのような力ですか?」
カーディナル・オカルティクスが詳細を求めた。
「まず、我が知識とアドバイスを提供いたします」
「そして、異界から有用な人材を召喚する術を伝授いたします」
1時間の検討の後、教皇庁は悪魔的な取引に同意した。
「我々は貴方との契約に応じます」
教皇の宣言と共に、魔法陣が血のように赤く染まった。
「契約成立です」
ベルゼブブが満足そうに微笑んだ。
「これより我は貴方がたのアドバイザーとして仕えましょう」
瞬間、教皇庁幹部の外見が変化した。より若々しく、知的に、そして威厳に満ちた姿となった。
「すばらしい...この力があれば...」
教皇が自分の手を見つめて呟いた。
冬:異世界召喚の開始
悪魔の指導により、神聖教皇国は異界召喚の実験を開始した。
「まずは試験的に、少数の人間を召喚してみましょう」
ベルゼブブが人間の姿に化けて助言した。その姿は、知的で信頼できる中年の神父のようだった。
第一次召喚実験
神聖教皇国の地下深くに設けられた召喚室で、最初の異世界召喚が実行された。
魔法陣が光ると、突然10名の人間が現れた。年齢も職業もバラバラで、全員が困惑していた。
「ここは...どこだ?」
30代のサラリーマン風の男性が辺りを見回した。
「異世界召喚だ!」
一人の少年(15歳程度)が興奮して叫んだ。
「本当に異世界に来たんだ!」
召喚された人々の反応は、その文化的背景により大きく異なっていた。
「ここは...どこだ?」
ジャマールが英語で周囲を警戒しながら尋ねた。元軍人の本能で、すぐに戦闘態勢を取った。
「¡Dios mío! ¿Dónde estamos?」(神よ!ここはどこなの?)
マリアがスペイン語で叫び、泣いている8歳のイザベルを抱きしめた。
「異世界召喚だ!」
鈴木良太が日本語で興奮して叫んだ。
「Это невозможно...」(これは不可能だ...)
アレクサンドラがロシア語で呟きながら、プログラマーの論理的思考で状況を分析しようとした。
「الله أكبر... هذا مستحيل」(神は偉大なり...これは不可能だ)
ハッサンがアラビア語で祈りの言葉を口にした。
8歳のイザベルは状況が理解できず、ポルトガル語で泣き叫んでいた。
「Eu quero voltar para casa! Mamãe! Papai!」(家に帰りたい!ママ!パパ!)
15人が15の異なる言語と文化的背景を持っていたため、最初は意思疎通が困難だった。
しかし、多言語を話せるファティマが通訳として活躍した。
「皆さん、落ち着いてください」
ファティマが英語、アラビア語、フランス語、ソマリ語で呼びかけた。
「私はファティマです。NGOで働いています。皆さんの言葉を理解できるかもしれません」
アイシャ医師も医療英語とヒンディー語で協力した。
「I'm a doctor. Is anyone injured?」(私は医師です。怪我をした人はいませんか?)
人間の姿に化けたベルゼブブは、この多様性に最初は困惑したが、すぐに機会と捉えた。
「申し訳ございません」
ベルゼブブが完璧な多言語で謝罪した。悪魔の力により、全ての言語を瞬時に理解し、話すことができた。
英語:「I sincerely apologize for this unfortunate incident.」
スペイン語:「Mis más sinceras disculpas por este incidente desafortunado.」
ロシア語:「Приношу искренние извинения за этот прискорбный инцидент.」
アラビア語:「أعتذر بصدق عن هذا الحادث المؤسف」
中国語:「对这起不幸的事件,我深表歉意」
ポルトガル語:「Peço sinceras desculpas por este incidente infeliz.」
この完璧な多言語対応に、召喚者たちは驚愕した。
元軍人のジャマールは職業柄、最も警戒心が強かった。
「This is not a magical accident. This is kidnapping.」(これは魔法の事故じゃない。誘拐だ)
「We need to find a way out, now.」(今すぐ脱出方法を見つける必要がある)
考古学者のハッサンも冷静な分析を行った。
「このような大規模な人間転移魔法は、膨大なエネルギーと準備を要します」(アラビア語)
「『事故』というには、あまりにも計画的すぎる」
プログラマーのアレクサンドラは技術的な疑問を呈した。
「Если это магия, то должны быть определенные правила и ограничения」(もしこれが魔法なら、一定のルールと制限があるはずだ)
多様な文化的背景は、時として対立も生んだ。
宗教的な違いから、ハッサンとマリアの間で軽い緊張が生まれた。
フアンは料理人として、「こんな状況でも腹は減る」と現実的な問題を指摘した。
サミュエルは農業技術者として、「この土地の農業システムを見れば、文明レベルが分かる」と分析的だった。
エミリーは美術学生として、召喚室の建築様式に芸術的興味を示した。
教師のマリアと医師のアイシャは、泣いている8歳のイザベルの世話に専念した。
「No llores, pequeña. Todo va a estar bien」(泣かないで、お嬢ちゃん。きっと大丈夫よ)
マリアがスペイン語でイザベルを慰めた。
アイシャは医師として、子供の精神的ケアの必要性を強調した。
「This child needs immediate psychological support. Trauma at this age can have lasting effects.」(この子には即座の心理的サポートが必要です。この年齢でのトラウマは持続的な影響を与えかねません)
一方で、日本人の少年たちは異なる反応を示していた。
「すげえ!本当に異世界召喚だ!」
鈴木良太が興奮していた。
「これで僕も勇者になれるのか?」
森田学も同様に興奮していたが、周囲の大人たちの深刻な反応を見て、少し困惑し始めた。
「でも...みんな、すごく怒ってるし心配してる...」
「これって、本当に良いことなのかな?」
この多様性を見たベルゼブブは、戦略を修正した。
「それぞれの専門知識と文化的背景を活用しよう」
彼は個別に情報収集を行うことにした。
- ジャマールからは軍事技術と戦術
- アイシャからは医療技術
- 李明からは工学技術
- ハッサンからは歴史と考古学
- アレクサンドラからはコンピューター技術
- サミュエルからは農業技術
- ナタリアからは化学・薬学
- ファティマからは国際情勢と多文化理解
- そして日本人の少年たちからは「異世界転生」の概念
「これほど多様な知識を持つ人材が一度に手に入るとは...」
ベルゼブブは内心で邪悪な満足を感じていた。
召喚された15名の内訳は以下の通りだった
1. ジャマール・ワシントン(28歳・アメリカ系アフリカ人・元軍人)- 戦闘経験豊富、状況判断力が高い
2. アイシャ・パテル(34歳・インド系イギリス人・医師)- 冷静で医療知識が豊富
3. 田中太郎(35歳・日本人・会社員)- 冷静だが警戒心が強い
4. マリア・ゴンザレス(42歳・メキシコ系アメリカ人・小学校教師)- 子供たちを保護しようとする
5. 鈴木良太(15歳・日本人・中学生) - 異世界召喚を大喜び
6. アレクサンドラ・ペトロフ(29歳・ロシア人・プログラマー) - 論理的思考で状況分析
7. ハッサン・アル・マフムード(52歳・エジプト人・考古学者) - 古代文明の知識が豊富
8. エミリー・ジョンソン(19歳・オーストラリア人・美術学生)- 芸術的感性が高い
9. 李明(26歳・中国人・エンジニア) - 技術的な問題解決が得意
10. フアン・カルロス(67歳・スペイン人・元料理人)- 人生経験豊富、料理の腕前が抜群
11. ファティマ・オマール(23歳・ソマリア系カナダ人・難民支援NGO職員- 多言語対応可、人道支援経験
12. 森田学(17歳・日本人・高校生) - アニメ・ゲーム知識で状況を理解しようとする
13. ナタリア・コバルスキー(31歳・ポーランド人・薬剤師)- 化学・薬学知識が豊富
14. サミュエル・ムワンガ(24歳・ウガンダ人・農業技術者)- 農業と持続可能な開発の専門家
15.イザベル・フェルナンデス(8歳・ブラジル人・小学生)- 召喚されて泣いている、ポルトガル語しか話せない
「皆様、申し訳ございません」
人間の姿に化けたベルゼブブが丁重に謝罪した。
「召喚の魔法が暴発してしまい、皆様をこちらの世界にお呼びしてしまいました」
「暴発って...」
田中太郎が疑念を露わにした。
「元の世界に戻る方法はあるのですか?」
「もちろんです。ただし、準備に少々時間がかかります」
ベルゼブブは巧妙に時間稼ぎを始めた。
「その間、客人として丁重におもてなしいたします」
ベルゼブブが特に注目したのは、異世界召喚を喜んでいる少年たちだった。
「君たちは異世界に詳しいようですね」
「はい!僕、ライトノベルとかアニメとか大好きなんです!」
鈴木良太が目を輝かせて答えた。
「異世界では勇者として召喚されて、魔王を倒すんですよね!」
「勇者...魔王...」
ベルゼブブの目に邪悪な光が宿った。
「詳しく聞かせてもらえませんか?」
森田学も興奮して説明を始めた。
「勇者は特別な力をもらって、世界を脅かす魔王を倒すんです!」
「そして美少女の仲間と一緒に冒険して、最後はハーレムエンドです!」
この情報を聞いたベルゼブブは、邪悪な計画を思いついた。
「勇者による魔王討伐...これは使える」
彼の頭の中で、グランベルクのクラル王を悪の魔王として仕立て上げる計画が形成されつつあった。
「この少年たちを勇者として育て上げ、魔王クラルとの戦いに送り込めば...」
しかし、まずは他の召喚者たちからも情報を収集する必要があった。
1週間後、多くの人が帰還を希望した。
帰還希望者(13名)
- ジャマール(軍事情報収集完了)
- アイシャ(医療情報収集完了)
- 田中太郎(日本社会情報収集完了)
- マリア(教育情報収集完了、イザベルと一緒に帰還希望)
- アレクサンドラ(技術情報収集完了)
- ハッサン(歴史情報収集完了)
- エミリー(芸術情報収集完了)
- 李明(工学情報収集完了)
- フアン(料理情報収集完了)
- ナタリア(薬学情報収集完了)
- イザベル(8歳の子供のため即座に帰還)
- サミュエル(農業情報収集完了後、帰還希望)
- ファティマ(多言語情報収集完了後、帰還希望)
残留希望者(2名)
- 鈴木良太(異世界転生に憧れ)
- 森田学(異世界転生に憧れ)
帰還者たちは証拠隠滅のため、世界各地の生存が困難な場所に送られた。
- ジャマール → アフリカのサハラ砂漠中央部
- アイシャ → シベリアの凍土地帯
- 田中太郎 → 南極大陸
- マリアとイザベル → アマゾンの奥地(せめて一緒に)
- アレクサンドラ → 北極圏の無人島
- ハッサン → ゴビ砂漠
- エミリー → オーストラリアの内陸部
- 李明 → ヒマラヤ山脈
- フアン → 太平洋の無人島
- ナタリア → アンデス山脈の高地
- サミュエル → アフリカの砂漠地帯
- ファティマ → 南極の氷原
残った2名の日本人少年に対して、ベルゼブブは重要な処置を行った。
「君たちから多くの貴重な情報を聞かせてもらいました」
ベルゼブブが2人を見つめた。
「しかし、これから始まる使命のため、一度記憶をリセットします」
「え?」
鈴木良太が困惑した瞬間、ベルゼブブの目が紫色に光った。
「君たちは選ばれし勇者です」
記憶を失った2人の少年に、ベルゼブブは新たな設定を刷り込んだ。
「この世界には邪悪な魔王クラルという存在がいます」
「彼は魔人族という怪物を率いて、無辜の民を苦しめています」
「君たちには、その魔王を倒す使命があります」
記憶を失った少年たちは、この話を疑うことなく受け入れた。
「僕たちが...勇者なんですか?」
鈴木良太が純真な目で尋ねた。
「そうです。そして今、君たちに力を授けましょう」
ベルゼブブは悪魔の力により、2人に実際に特殊能力を付与した。
鈴木良太 - 雷撃魔法
- 電撃の生成と操作
- 雷による瞬間移動
- 電磁バリアの展開
森田学 - 炎魔法
- 火炎の生成と操作
- 爆炎による広範囲攻撃
- 炎の剣の生成
「すごい...本当に魔法が使える!」
2人は自分たちの新しい力に感動した。
最初の実験が成功した後、ベルゼブブは教皇庁の最高幹部たちに提案した。
「より強力な力を得るため、我々悪魔が直接貴方がたの肉体に宿ることを提案します」
教皇ピウス・ザ・ジャストが震え声で尋ねた。
「それは...どういう意味ですか?」
「貴方がたの意識はそのまま保持されますが、我々の知識と力を完全に共有します」
「つまり、人間と悪魔の融合体となるのです」
教皇庁幹部5名がこの提案に同意した結果、新たに5体の悪魔が顕現した。
教皇ピウス・ザ・ジャスト ← 悪魔アスモデウス・ドミニオン
- 支配と権威の悪魔
- 完璧な統率力と人心掌握術
カーディナル・オカルティクス ← 悪魔ベリアル・ナレッジ
- 知識と技術の悪魔
- 地球の全科学技術を瞬時に理解
カーディナル・インクイジション ← 悪魔マルファス・ウォーリア
- 戦争と破壊の悪魔
- 最高峰の戦闘技術と軍事戦略
大司教アルケミスタ ← 悪魔バエル・クリエイター
- 創造と錬金の悪魔
- 物質変換と建築の力
修道院長ネクロマンシア ← 悪魔パイモン・ヒーラー
- 生命と治癒の悪魔
- 医療技術と生体操作の専門家
「これは...すばらしい」
アスモデウスと融合した教皇が、新たな力に酔いしれた。
人間の意識は残っているが、悪魔の知識と能力が完全に統合されていた。
「地球という世界の技術水準...興味深い」
ベリアルと融合したオカルティクスが、膨大な科学知識を瞬時に理解した。
信者150万人の魂を悪魔に捧げた結果、神聖教皇国の建物群は完全に空になっていた。
「この空間を有効活用しましょう」
バエルと融合したアルケミスタが提案した。
「日本の『学校』という施設を再現します」
悪魔たちは収集した情報を基に、驚くほど精密な日本の学校を建設した。
校舎の特徴
- 3階建ての鉄筋コンクリート造
- 教室、体育館、図書館、食堂を完備
- 日本式の下駄箱、廊下、階段
- 校庭にはサッカーフィールドとテニスコート
設備の完全再現
- 黒板、チョーク、机、椅子
- 理科実験室、音楽室、美術室
- 放送設備と校内放送システム
- 制服も完璧に再現
学校だけでなく、周辺には日本の街並みも再現された。
商店街の再現
- コンビニエンスストア
- ファミリーレストラン
- ゲームセンター
- 本屋、CD/DVDショップ
- カラオケボックス
住宅街の再現
- 一戸建て住宅
- アパート・マンション
- 公園と遊具
- 自動販売機
娯楽施設の再現
- 映画館
- ショッピングモール
- ファーストフード店
- スポーツジム
完璧な環境が整った後、悪魔たちは本格的な召喚を開始した。
召喚対象の厳選
- 年齢:14歳〜19歳の青少年・少女
- 容姿:意図的に美形の者を選別
- 出身:日本全国から無作為
- 人数:男女合わせて200名
召喚の際、悪魔たちは細心の注意を払った。
「外見的魅力の高い個体を優先的に選別します」
アスモデウス(教皇)が指示した。
「美しい者同士の交配により、より優秀な個体を生産させるためです」
ある日の放課後、突然200名の日本人高校生が神聖教皇国に召喚された。
「え?ここはどこ?」
「学校...みたいだけど...」
「なんで僕たちここにいるの?」
しかし、彼らが目にしたのは、見慣れた日本の学校そのものだった。
人間の姿に完璧に化けたアスモデウス(教皇)が、校長として登場した。
「皆さん、突然のことで驚かれたでしょう」
「実は皆さんは、特別な才能を持つ若者として選ばれました」
「ここは皆さんが馴染みやすいよう、日本の学校と街並みを新しく建築した特別な施設です」
生徒たちの困惑に対して、悪魔たちは完璧な対応を見せた。
「家族が心配です」
一人の少女が訴えた。
「ご安心ください。皆さんのご家族には、特別な才能教育プログラムに参加することを既にお伝えしてあります」
「期間はどれくらいですか?」
少年が尋ねた。
「皆さんの成長度合いによりますが、通常2〜3年程度です」
「その間、最高水準の教育と生活環境を提供いたします」
校長:アスモデウス(元教皇)
- 全体統括と精神教育
副校長:ベリアル(元オカルティクス)
- 学術教育と技術指導
体育教師:マルファス(元インクイジション)
- 戦闘技術と体力向上
理科教師:バエル(元アルケミスタ)
- 魔法学と錬金術
保健医:パイモン(元ネクロマンシア)
- 医療と体調管理
顧問:ベルゼブブ
- 総合アドバイザー
悪魔たちは、青少年たちにとって理想的すぎる環境を提供した。
学習面の優遇
- 少人数制クラス(1クラス15名程度)
- 最新設備での実習
- 個人の能力に応じたカリキュラム
- 魔法という新しい学問の習得
生活面の優遇
- 豪華な食事(日本料理完全再現)
- 快適な個人部屋
- 最新のゲームや娯楽設備
- 無制限のインターネット接続(偽装)
社交面の優遇
- 男女交際完全自由
- 恋愛関係の積極的奨励
- 「産めよ増やせよ」の推進
- 結婚・出産の全面支援
「皆さんの年頃では、恋愛は自然で健全なことです」
アスモデウス校長が朝礼で宣言した。
「当校では男女交際を積極的に奨励します」
「将来的に結婚し、子供を産み育てることは、人類の繁栄に貢献する尊い行為です」
この発言に、生徒たちは驚きと喜びの表情を見せた。
「えっ、本当に?」
「学校で恋愛してもいいの?」
「結婚まで認めてくれるなんて...」
マルファス体育教師による戦闘訓練は、驚異的なレベルだった。
「皆さんには特別な才能があります」
「まず基本的な体術から始めましょう」
生徒たちは短期間で、プロの格闘家レベルの技術を習得していった。
バエル理科教師による魔法教育も同様だった。
「魔法は科学です」
「正しい理解と訓練により、誰でも習得可能です」
習得された魔法技術
- 火・水・土・風の基本魔法
- 治癒魔法と強化魔法
- 攻撃魔法と防御魔法
- 飛行魔法と瞬間移動
戦闘技術と並行して、巧妙な思想教育が行われた。
「この世界には邪悪な魔王がいます」
アスモデウス校長が道徳の時間に語った。
「魔王クラルは、人々を洗脳し、支配しようとしている暴君です」
「皆さんの使命は、その魔王を倒し、世界を平和にすることです」
日本人の宗教的無関心を踏まえ、悪魔たちは慎重にアプローチした。
「我々は特定の宗教を強制いたしません」
「ただし、正義と平和を愛する心は大切です」
「皆さんの信念に従って行動してください」
この配慮により、生徒たちは宗教的な違和感を感じることなく、悪魔たちの価値観を受け入れていった。
あまりにも理想的な環境と自由な恋愛、そして特別な能力の習得により、生徒たちの満足度は極めて高かった。
「ここって天国みたい」
「こんな学校、日本にはないよ」
「魔法まで使えるようになるなんて」
「恋愛も自由だし、最高!」
この満足感が、「魔王クラルは邪悪」という教育を疑いなく受け入れる土壌となった。
「こんなに素晴らしい先生たちが悪いわけない」
「だから魔王クラルは本当に悪い奴なんだ」
しかし、すべての生徒が順調に成長したわけではなかった。
戦闘訓練についていけない者、魔法の習得が困難な者、思想教育に疑問を抱く者が約20名いた。
これらの「落伍者」は、密かに別の用途に使われた。
「君たちには別の重要な役割があります」
ベルゼブブが落伍者たちを集めて言った。
「新たなる悪魔の依代となることで、より大きな貢献をしてもらいます」
落伍者たちは抵抗する間もなく、新たな悪魔の依代とされた。
20体の新たな悪魔が落伍者の肉体に宿り、それぞれが専門的な役割を担った。
医師悪魔たち(5体)
- 完璧な医療技術で生徒の健康管理
- 妊娠・出産のサポート
- 遺伝子操作による優生学的改良
商店員悪魔たち(8体)
- コンビニ、レストラン、娯楽施設の運営
- 完璧な接客による満足度向上
- 日本文化の精密な再現
技術者悪魔たち(4体)
- インフラの維持管理
- 新技術の開発と導入
- 魔法と科学の融合研究
警備悪魔たち(3体)
- 施設の警備と秩序維持
- 外部からの侵入阻止
- 脱走防止システムの運用
新たな悪魔たちにより、青少年たちの生活はさらに充実した。
コンビニでは24時間、好きな商品が購入できる。
レストランでは日本のあらゆる料理が完璧に再現される。
病院では些細な怪我も瞬時に治療される。
娯楽施設では最新のゲームや映画が楽しめる。
「本当に天国みたい」
生徒たちの満足度は最高潮に達していた。
「先生たちも、お店の人たちも、みんな優しくて完璧」
「魔王クラルがこんな素晴らしい世界を破壊しようとしているなんて、絶対に許せない」
こうして、悪魔たちの巧妙な計画により、純真な日本の青少年たちは完全に洗脳され、偽りの正義に燃える戦士として育成されていった。
彼らは自分たちが悪魔に操られていることを微塵も疑わず、善良なグランベルク王国を滅ぼすための兵器として鍛え上げられていたのである。
こうして、神聖教皇国の悪魔的な計画が動き始めた。
異世界から召喚された無垢な少年たちを利用して、グランベルク王国を滅ぼそうとする邪悪な陰謀が、密かに進行していたのである。
即位10年目の年末、グランベルク王国は平和と繁栄の絶頂期を迎えていた。
クラル王は家族と共に、静かな新年を迎えようとしていた。
「来年はどんな年になるでしょうか?」
エリザベス王妃が穏やかに尋ねた。
「きっと、より良い年になるでしょう」
クラル王は確信を込めて答えた。
「我々の派遣者たちの活動により、世界はより平和になっています」
しかし、彼らはまだ知らなかった。
遠く離れた神聖教皇国で、悪魔との契約により邪悪な計画が進行していることを。
異世界から召喚された純真な少年たちが、偽りの正義に洗脳され、グランベルクへの攻撃を準備していることを。
9歳のアレクサンダー王子が、窓の外の雪景色を見ながら呟いた。
「お父様、来年は何か大きなことが起こりそうな気がします」
クラル王は息子の言葉に軽い不安を感じたが、すぐに微笑んだ。
「大きなことが起こっても、我々には乗り越える力があります」
「豊穣神として、魔王として、我々は必ず正義を守り抜きます」
新年の鐘が鳴り響く中、グランベルク王国は知らずして、建国以来最大の試練に向かって歩み始めていた。




