即位7年目:戦争勃発
即位7年目の春、ついに恐れていた事態が現実となった。偽グランベルク国家群を中心とする同盟が、武力による侵攻作戦を開始したのだ。
「陛下、敵軍が全方位から国境を越えています」
ソーン・ナイトホーク警備主任が、緊急警報と共に王宮に駆け込んできた。4歳になったアレクサンダー王子は、父の膝の上で小さな木剣を握りしめ、真剣な表情で報告を聞いていた。
「総兵力および構成を報告してください」
クラル王は冷静に尋ねた。
「偽グランベルク同盟軍、総数約18,000名。主力は復活ノーザンベルク、新生イースタンベルク、サウザンベルクの3国です」
復活ノーザンベルク公国軍(北部戦線)
- 指揮官:ガルス・ジュニア(旧ガルス男爵の息子、自称「真の豊穣神二世」)
- 兵力:6,000名
- 装備:王国から購入した重装備
- 戦術:「偽神クラルの打倒と真の神国復活」
新生イースタンベルク王国軍(東部戦線)
- 指揮官:ブルーノ・ザ・テックマスター(自称「究極技術神」)
- 兵力:7,000名
- 装備:「改良型グランベルク技術」の自称最新兵器
- 戦術:「偽造技術の本家による制圧」
サウザンベルク文化王国軍(南部戦線)
- 指揮官:オスカー・ザ・オリジナル(自称「真の文化創造神」)
- 兵力:3,000名
- 装備:「芸術的戦闘装備」
- 戦術:「文化的優越による精神制圧」
その他同調勢力(西部戦線)
- 近隣小国の便乗勢力:2,000名
戦争勃発の報告が豊穣神クラル慈愛の家に届いた時、特別な子供たちは自発的に最も純粋な祈りを捧げ始めた。
「みんなを守らなくちゃ」
アンナ・エターナルペースが、これまでで最も美しく輝く光を放ちながら言った。9歳になった彼女の能力は、さらに神秘的に進化していた。
「僕たちの力を、戦う人たちに分けてあげよう」
マーク・ディヴァインチャイルドが小さな手を天に向けて祈った。5歳の彼の念動力は、今や部屋中の物を浮上させるほどに成長していた。
「神様、お父さんたちを守って。でも、敵の人たちも傷つけないで」
リリー・セラフィックウィングスの光の翼が、慈愛の家全体を包み込むほど巨大に展開された。6歳の彼女の祈りには、敵をも思いやる優しさが込められていた。
「僕の聖なる炎で、悪い心を清めて。みんなが仲良くなりますように」
ダニエル・ホーリーフレイム(7歳)の聖なる炎が、温かく優しく燃え上がった。
その瞬間、慈愛の家全体が神々しい光に包まれ、その光は天へと立ち上り、やがてグランベルク全域に降り注いだ。
特別な子供たちの純真な祈りにより、グランベルク全域の神域の加護が史上最大規模で強化された。
「測定不能です...」
アーチメイジ・セレスティンが震える手で測定装置を見つめていた。
「神域エネルギーが通常の20倍に達しています」
神域超強化の効果
- 全住民の身体能力が3倍向上
- 魔法抵抗力の完全強化
- 精神的結束力の神的レベル到達
- 戦闘時の超人的集中力と冷静さ
- 負傷の瞬間回復
- 装備・武器の神聖化促進
昨年から整備されていたグランベルク神聖防衛軍が、ついに実戦投入された。
神聖近衛隊:500名(全員Sランク以上)
近衛隊長:マックス・ヤングブレイド(22歳・Sランク)
- 装備:量産型神聖剣「清明改」双剣
- 特殊能力:時空斬撃(祈りにより覚醒)
- 役割:最精鋭として最も危険な任務を担当
副隊長:ガルバン・アイアンフィスト(43歳・S+ランク)
- 装備:量産型究極ハンマー「神雷鎚」
- 特殊能力:聖鋼融合(祈りにより覚醒)
- 役割:重装備による制圧と防御
隊員構成:
- 元Sランク冒険者:200名
- 聖鉄規訓院卒業生:150名
- 工房出身の戦技者:100名
- 純華女学院出身の女性戦士:50名
「神聖近衛隊は我が軍の切り札です」
レイモンド聖鉄規訓院院長が誇らしげに説明した。
「全員がSランク以上の実力を持ち、今回の神域強化により一時的にS+ランク相当の力を発揮できます」
精鋭歩兵団:2,000名(全員Aランク以上)
団長:エルドリック・ストーンガード(46歳・S+ランク)
- 装備:神聖大盾「永遠の壁」+神聖剣「清明」
- 特殊能力:絶対聖域(祈りにより覚醒)
- 役割:歩兵戦術の指揮と防御の要
副団長:アイザック・ブレードダンサー(28歳・Sランク)
- 装備:量産型斬馬刀「神刃・鉄鬼弐式」
- 特殊能力:神域制圧(祈りにより覚醒)
- 役割:攻撃戦術の中核
団員構成:
- 第1大隊(500名):重装歩兵、全員Aランク
- 第2大隊(500名):軽装歩兵、全員Aランク
- 第3大隊(500名):弓兵隊、全員Aランク
- 第4大隊(500名):魔法戦士、全員Aランク
「精鋭歩兵団は戦場の主力です」
エルドリックが部隊の特徴を説明した。
「従来の王国軍であれば、我々2,000名で10,000名と互角に戦えます」
魔獣騎兵隊:800名(魔獣騎乗部隊)
隊長:ライオネル・ビーストマスター(35歳・Aランク)
- 騎乗魔獣:雷角牛「サンダーホーン」
- 装備:神聖騎槍「貫雷」
- 特殊能力:魔獣との完全融合(祈りにより覚醒)
副隊長:セリーナ・ウィンドライダー(29歳・Aランク)
- 騎乗魔獣:風翼鳥「スカイダンサー」
- 装備:神聖弓「追跡の矢」
- 特殊能力:空中戦術指揮(祈りにより覚醒)
魔獣編成:
- 雷角牛騎兵:200名(重騎兵、突撃特化)
- 風翼鳥騎兵:150名(空中騎兵、偵察・急襲)
- 氷牙狼騎兵:200名(軽騎兵、持久戦特化)
- 炎鱗魚騎兵:100名(水中・両生作戦)
- 岩甲虫騎兵:150名(工兵・防御特化)
「魔獣騎兵隊は機動力の要です」
ライオネルが戦術的価値を説明した。
「魔獣との絆により、通常の騎兵では不可能な立体的戦術が展開できます」
工作技術隊:300名(工房技術者の軍事転用)
隊長:マーカス・ギアワーカー(43歳・防御力Sランク)
- 装備:万能工作ハンマー「創造と修復」
- 特殊能力:瞬間修復・改造(祈りにより覚醒)
- 役割:戦場での装備修理・改良
副隊長:レオナルド・ダ・ヴィンチェンツォ(53歳・技術力S+ランク)
- 装備:設計魔法杖「完璧設計」
- 特殊能力:戦術的創造(祈りにより覚醒)
- 役割:戦場での即席兵器・設備の開発
技術者編成:
- 武器技術者:100名(武器の修理・改良・新造)
- 防具技術者:80名(鎧・盾の修理・強化)
- 攻城技術者:70名(攻城兵器・防御設備の構築)
- 魔導技術者:50名(魔法装備の調整・改良)
「工作技術隊は戦場の革新者です」
マーカスが胸を張って説明した。
「戦闘中でも装備を改良し、戦況に応じた新兵器を即座に開発します」
神域守護隊:200名
隊長:セレナ・ワイズソウル(40歳・Aランク)
- 装備:神聖杖「慈愛の光」+神聖短剣「守護」
- 特殊能力:万能治癒(祈りにより覚醒)
- 役割:子供たちの絶対的保護と医療支援
副隊長:リリアン・シャドウステップ(31歳・Aランク)
- 装備:神聖短剣「無音」+神聖クローク「不可視」
- 特殊能力:神隠し(祈りにより覚醒)
- 役割:隠密護衛と情報収集
守護隊編成:
- 近接護衛班:80名(子供たちの直接護衛)
- 遠距離警戒班:60名(周辺警備と狙撃対応)
- 医療支援班:40名(治療・回復専門)
- 隠密警備班:20名(見えない守護・諜報対策)
「神域守護隊は最も重要な任務を担います」
セレナが厳格な表情で説明した。
「特別な子供たちの安全こそが、我が国の神域の源です」
総戦力の比較
グランベルク神聖防衛軍:3,800名
- 神聖近衛隊:500名(平均戦闘力:S+ランク相当)
- 精鋭歩兵団:2,000名(平均戦闘力:A+ランク相当)
- 魔獣騎兵隊:800名(平均戦闘力:Aランク相当+魔獣補正)
- 工作技術隊:300名(戦闘力:Bランク、技術支援力:S+ランク)
- 神域守護隊:200名(戦闘力:Aランク、特殊任務特化)
偽グランベルク同盟軍:18,000名
- 平均戦闘力:Cランク(一般兵士レベル)
- 指揮官クラス:Bランク~A-ランク
- 装備:王国標準装備(グランベルクより2世代古い)
「数値上は1対5の劣勢ですが」
マーガレット統計局長が分析した。
「質的には我が軍が10倍以上の戦力差を持っています」
最初の本格的な戦闘は、北部戦線で始まった。復活ノーザンベルク公国軍6,000名に対し、神聖近衛隊250名と精鋭歩兵団500名で迎撃した。
「敵軍発見。数は約6,000、装備は重装歩兵中心」
リリアンの神隠し能力により、敵軍の詳細が瞬時に把握された。
「指揮官ガルス・ジュニアは前線にいます。士気は高いですが、実力は...」
「わかりました」
マックス隊長が冷静に判断した。
「神聖近衛隊で前衛を制圧し、精鋭歩兵団で包囲します」
戦闘が始まった瞬間、マックスの時空斬撃が発動した。
シュン!
剣が空を切った瞬間、時空に無数の斬撃が発生し、敵軍前衛1,000名の武器が同時に破壊された。
「何が起こった?」
ガルス・ジュニアが混乱する間に、ガルバンの聖鋼融合により、200キロの神雷鎚が羽毛のように振り回された。
ドゴォォォン!
地面に叩きつけられたハンマーの衝撃波で、敵軍500名が気絶した。しかし、誰一人として致命傷は負わなかった。
続いて、エルドリックの絶対聖域が展開された。
「戦うのをやめませんか?」
エルドリックの穏やかな声と共に、聖域の力が敵軍を包み込んだ。触れられた敵兵は次々と戦闘意欲を失い、武器を置いた。
アイザックの神域制圧により、2.8メートルの間合い内で物理法則が操作され、残る敵軍の武器が全て使用不能になった。
戦闘開始から30分後、北部戦線の戦いは終結した。
戦果
- グランベルク軍の損失:負傷者0名(神域の加護により完全防御)
- 敵軍の損失:死者0名、負傷者約100名(非致命傷、即座に治療)
- 破壊された武器:約6,000点(全て非殺傷的破壊)
- 捕虜:6,000名(全軍)
- 戦闘時間:30分
「こんな...こんなことが...」
ガルス・ジュニアは、6,000の軍勢が30分で完全に無力化されたことに愕然とした。
しかし、グランベルク軍は一人として敵を殺していなかった。
「なぜ我々を殺さないのですか?」
ガルス・ジュニアが震え声で尋ねた。
「殺す理由がありません」
マックスが微笑んで答えた。
「あなたたちは間違った情報を信じただけです。それは罪ではありません」
東部戦線では、新生イースタンベルク王国軍7,000名に対し、魔獣騎兵隊400名と工作技術隊200名で迎撃した。
「我こそが真の技術神である!」
ブルーノ・ザ・テックマスターが「改良型グランベルク技術」で武装した軍勢を率いて攻撃してきた。
ライオネルの魔獣騎兵隊が、史上初の立体的戦術を展開した。
空中:セリーナ率いる風翼鳥騎兵150名が上空から偵察・急襲
地上:ライオネル率いる雷角牛騎兵200名が正面突撃
側面:氷牙狼騎兵200名が持久戦で包囲
水際:炎鱗魚騎兵100名が河川を利用した奇襲
「不可能だ...空中騎兵など...」
ブルーノが絶望した。
風翼鳥騎兵による空中からの神聖矢の雨が、敵軍の「改良型」武器を次々と破壊していく。雷角牛騎兵の電撃突撃により、敵の前衛が瞬時に麻痺した。
マーカスの工作技術隊が、戦闘中に驚異的な技術力を発揮した。
「瞬間修復!」
マーカスの瞬間修復能力により、わずかな損傷も即座に回復された。
「戦術的創造!」
レオナルドの戦術的創造により、戦場で即席の捕獲装置が開発され、敵軍を傷つけることなく無力化した。
戦闘開始から30分後、ブルーノの「最新技術」は完全に破綻した。
「教えてください...」
ブルーノが膝をついて懇願した。
「真の技術とは何ですか?」
「技術は愛です」
マーカスが戦場で優しく説明した。
「人を愛し、平和を愛し、幸福を愛する心から生まれるもの。それが真の技術なのです」
南部戦線では、サウザンベルク文化王国軍3,000名に対し、神域守護隊200名が迎撃した。
「我こそが真の文化創造神!」
オスカー・ザ・オリジナルが「芸術戦士」を率いて攻撃してきた。
セレナの神域守護隊は、特別な子供たちを守るために開発された究極の防御戦術を展開した。
セレナの万能治癒により、わずかな攻撃も即座に回復。
リリアンの神隠しにより、敵の攻撃が全て空振り。
近接護衛班80名による完璧な陣形防御。
遠距離警戒班60名による精密な狙撃反撃。
「これが...真の芸術戦闘...」
オスカーは自分の軍が美しく無力化されていく様子に、芸術家として感動すら覚えた。
グランベルク軍の戦闘は、実用性と美しさを完璧に両立した芸術作品のようだった。
便乗勢力2,000名は、三方面での偽グランベルク軍の完敗を見て、戦わずして降伏した。
「我々に勝算はありません」
近隣小国の指揮官が白旗を掲げた。
「グランベルク神聖防衛軍の皆様、降伏いたします」
開戦からわずか1ヶ月で、偽グランベルク同盟は完全に敗北した。
最終戦果
- グランベルク軍の損失:負傷者0名(神域の加護により全軍無傷)
- 敵軍の損失:死者0名、負傷者約300名(全員即座に治療済み)
- 破壊された武器:約18,000点(全て非殺傷的破壊)
- 捕虜:18,000名(敵軍全数)
- 戦争期間:1ヶ月
各部隊の貢献
- 神聖近衛隊:最強敵への対処、瞬間的制圧
- 精鋭歩兵団:主力戦闘、完璧な包囲戦術
- 魔獣騎兵隊:立体戦術、機動力による圧倒
- 工作技術隊:戦場革新、技術的優位の実証
- 神域守護隊:完璧防御、守護任務の完遂
「歴史上初の『死者ゼロ戦争』が実現しました」
マーガレットが興奮して報告した。
「しかも、我が軍も無傷での完全勝利です」
戦争に勝利したクラルは、敗戦国の指導者たちを王宮に招いて、前例のない寛大な処置を発表した。
「諸君、我々は征服者ではありません」
クラルは偽グランベルク諸国の指導者たちを前に言った。
「あなたたちを処罰するつもりもありません」
管理・文化輸出による影響統治
新統治システム
1. 各国にグランベルク文化センターを設置
2. 教育制度の段階的改善(強制ではない)
3. 神聖技術の平和的共有
4. 文化交流の促進(相互理解の深化)
5. 定期的な友好対話の実施
「我々の目的は支配ではありません」
クラルは強調した。
「真の理解と友情を築くことです」
「今回の戦争により、我が軍の新体制が完璧に機能することが証明されました」
レイモンド院長が年末報告で総括した。
各部隊の評価
神聖近衛隊:S+評価
- 500名で6,000名を30分で制圧
- 特殊能力と量産型究極武器の完璧な融合
- 0名の損失で完全勝利
精鋭歩兵団:S評価
- 主力として全戦線で活躍
- 完璧な戦術執行と規律
- 敵への慈悲を保ちながらの圧勝
魔獣騎兵隊:S評価
- 革新的立体戦術の実現
- 魔獣との完璧な連携
- 機動力による戦術的優位
工作技術隊:S評価
- 戦場での技術革新
- 瞬間修復・改造による戦力維持
- 技術的優位の明確な実証
神域守護隊:S+評価
- 最重要任務の完璧な遂行
- 完璧すぎる防御戦術の実現
「必要以上の力を行使せず、導く」という姿勢により、クラルの神格化は完全なレベルに達した。
新たな神格化の要素
- 絶対的軍事力と絶対的慈悲の完璧な両立
- 敵をも愛し、赦し、導く究極の指導力
- 死者ゼロという史上初の奇跡的戦争指導
- 征服よりも教導を選ぶ至高の知恵
- 真の強さと優しさの完璧な融合
こうして、即位7年目は「神聖防衛軍による完璧な初陣」として記録され、グランベルク王国の軍事システムが世界最高レベルであることが実証された歴史的な年となった。
3,800名の神聖防衛軍による18,000名の完全制圧は、軍事史に永遠に刻まれる奇跡となったのである。
即位7年目の春、神聖教皇国では偽グランベルク諸国への聖戦準備が最終段階に入っていた。
「十字軍の編成が完了いたしました」
騎士団長サー・ガブリエル・ホーリーソードが、教皇ピウス・ザ・ジャストに報告した。
神聖十字軍の構成
- 聖騎士団:2,000名(重装騎兵)
- 聖戦士団:1,500名(精鋭歩兵)
- 聖職戦闘団:300名(戦闘聖職者)
- 支援部隊:200名(補給・医療)
- 総計:4,000名
「有害異教徒どもの駆逐に向け、すべての準備が整っております」
教皇は満足そうに頷いた。
「神の正義を実現する時が来ました。ノーザンベルク、イースタンベルク、サウザンベルクの偽神どもを一掃し、神の栄光を示すのです」
「我々の戦略は明確です」
軍事顧問のカーディナル・ストラテジクスが地図を指しながら説明した。
聖戦の計画
1. 第一段階:偽グランベルク諸国への宣戦布告
2. 第二段階:三方向から同時侵攻
3. 第三段階:偽神指導者の捕縛と処刑
4. 第四段階:住民の「真の信仰」への改宗
5. 最終段階:占領地域のキリスト教化
「グランベルクとの関係はどうしますか?」
カーディナル・プラグマティックが慎重に尋ねた。
「グランベルクは放置します」
教皇が明確に答えた。
「彼らは異教徒ですが、実害を与えていません。我々の敵は偽神を崇める有害異教徒のみです」
「教皇猊下、緊急報告です!」
情報収集担当のフランシス修道士が、息を切らして駆け込んできた。
「偽グランベルク同盟が、真のグランベルクに対して総攻撃を開始したとの報告が入りました」
教皇庁は一瞬沈黙に包まれた。
「なんと...」
教皇が呟いた。
「偽神どもが真のグランベルクと戦争を始めたのですか?」
「はい。総兵力18,000名でグランベルクを包囲攻撃中とのことです」
神聖教皇国の指導部は、この戦争の行方を複雑な心境で見守ることになった。
カーディナル・ストラテジクスの分析
「最良のシナリオは、両軍が消耗し合うことです。偽神どもが滅び、グランベルクも弱体化すれば、我々の影響力拡大に有利です」
カーディナル・プラグマティックの懸念
「しかし、グランベルクの軍事力は我々の想像を超えている可能性があります。昨年のクーデター制圧を見る限り...」
教皇ピウス・ザ・ジャストの判断
「いずれにせよ、我々は慎重に状況を観察し、最適なタイミングで行動します」
「教皇猊下...戦争が終結しました」
フランシス修道士が震える手で報告書を差し出した。
「終結?もう?」
教皇が驚愕した。
「はい...30分で完全に終結いたしました」
「結果はどうでしたか?」
カーディナル・ストラテジクスが身を乗り出した。
「グランベルクの圧勝です。偽グランベルク同盟軍18,000名は全員捕虜となり...」
フランシス修道士は一呼吸置いてから、最も衝撃的な事実を報告した。
「死者は双方合わせて0名です」
会議室に重い沈黙が流れた。
「死者...ゼロ?」
教皇が困惑して繰り返した。
「18,000名の軍勢が30分で全敗し、しかし死者はゼロ?そのようなことが可能なのですか?」
「報告によりますと、グランベルク軍は敵の武器を破壊するのみで、人員への殺傷は一切行わなかったとのことです」
カーディナル・ストラテジクスが戦術的困惑を示した。
「軍事学的に不可能です。敵を殺さずして戦争に勝利するなど...」
特に深刻だったのは、この結果が神学的にどう解釈されるべきかという問題だった。
カーディナル・テオロジクスが重要な疑問を提起した。
「教皇猊下、これは神学的にどう理解すべきでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
「異教徒でありながら、これほど慈悲深い戦争を行うことが可能なのでしょうか?」
「我々キリスト教徒でさえ、戦争で敵を殺さないことは困難です。それを異教徒が実現したということは...」
教皇は深刻な表情で考え込んだ。
数日後、さらに衝撃的な報告が届いた。
「グランベルク王クラルは、敗戦国の征服を完全に拒否しました」
フランシス修道士の報告に、教皇庁は再び沈黙に包まれた。
「征服を拒否?」
教皇が信じられないような表情で尋ねた。
「はい。偽グランベルク諸国の国家体制をそのまま維持し、指導者たちも処罰せず、むしろ教育と文化交流による『導き』を選択したとのことです」
戦後処理の詳細
- 敗戦国の完全赦免
- 指導者の不処罰
- 国家体制の維持
- 文化センター設置による平和的感化
- 技術・知識の無償提供
「このような寛大さは...」
カーディナル・プラグマティックが呟いた。
「キリスト教の教えにおいても稀に見るレベルです」
「これで我々の十字軍は...」
騎士団長サー・ガブリエルが困惑した。
「討伐すべき有害異教徒が存在しなくなりました」
偽グランベルク諸国の現状
- ノーザンベルク:ガルス・ジュニアが完全改心、平和的統治に転換
- イースタンベルク:ブルーノが技術の真理に目覚め、建設的技術開発に専念
- サウザンベルク:オスカーが真の創作活動を開始、文化発展に貢献
「もはや『有害』ではありません」
カーディナル・インクイジションが認めざるを得なかった。
「彼らは皆、平和的で建設的な活動に従事しています」
「編成済みの十字軍はどうしますか?」
軍事顧問が実務的な問題を提起した。
「解散させるべきでしょうか?」
教皇は深く悩んだ。大量の資源を投じて編成した十字軍が、出撃する前に目的を失ってしまったのだ。
神聖教皇国が直面した最大の問題は、グランベルクが事実上キリスト教的価値観を完璧に実践していることだった。
カーディナル・テオロジクスの分析
「敵を愛し、赦し、導くという行為は、まさにキリストの教えの実践です」
「しかし、それを実行したのは異教徒です」
「我々はどう理解すべきでしょうか?」
教皇は緊急神学会議を招集した。議題は「異教徒による完璧なキリスト教的行為の神学的解釈」だった。
出席者
- 教皇ピウス・ザ・ジャスト
- 枢機卿12名
- 神学博士20名
- 修道会長8名
主要な議論点
1. 神の恩恵は異教徒にも与えられうるか?
2. 行いによる救いは可能か?
3. グランベルクの行為をどう評価すべきか?
4. 我々の対応はどうあるべきか?
カーディナル・オルソドックスが保守派の立場を代表した。
「彼らは確かに道徳的な行いをしていますが、真の神を信じていません」
「行いがいかに素晴らしくとも、信仰なき者は救われません」
「我々は彼らの行為を評価しつつも、改宗の必要性を主張すべきです」
カーディナル・プラグマティックが穏健派の意見を述べた。
「神の愛は無限です。真の神を知らなくとも、神の意志を実践する者を神は愛されるかもしれません」
「グランベルクの行為は、我々キリスト教徒にとっても学ぶべき点があります」
「対話と相互理解を深めるべきではないでしょうか?」
カーディナル・プログレッシブが最も大胆な解釈を提示した。
「神は様々な形で人々に現れます。グランベルクのクラル王を通じて、神の愛が実現されているのかもしれません」
「宗教の形は違えど、本質的には同じ神への信仰なのではないでしょうか?」
この発言は会議室に激しい議論を巻き起こした。
3日間の激しい議論の末、教皇ピウス・ザ・ジャストは最終的な判断を下した。
「諸君、我々は現実を受け入れなければなりません」
教皇の判断
1. グランベルクは確かに異教徒だが、害をもたらしていない
2. 彼らの行為は客観的に見てキリスト教的価値観に合致している
3. 軍事的対立は現実的でなく、神学的にも疑問がある
4. 平和共存と相互尊重の道を選ぶ
5. 将来的な平和的対話の可能性を模索する
「我々は十字軍を解散し、グランベルクとの平和的関係を維持します」
名誉ある解散
「諸君は神の戦士として召集されました」
教皇が十字軍全体に向けて演説した。
「しかし、神の思し召しにより、戦いの必要がなくなりました」
「これは敗北ではありません。平和の勝利なのです」
十字軍解散の処遇
- 全員に名誉除隊の証明書授与
- 参加期間に応じた報酬の全額支給
- 聖地巡礼の機会提供(希望者のみ)
- 教会での名誉職への就任権
- 特別な祝福と感謝の儀式
「戦わずに済んで良かった」
多くの兵士が安堵の表情を見せた。
「グランベルクの話を聞いて、本当に戦争が正しかったのか疑問に思っていました」
「死者ゼロの戦争なんて、まるで奇跡のようです」
教皇庁は、グランベルクに対する全く新しい政策を策定した。
新政策の基本方針
1. 相互不可侵の厳格遵守
2. 人道的協力の推進
3. 学術・文化交流の促進
4. 平和的対話の継続
5. 将来的な神学的対話の可能性模索
教皇は、グランベルクとの関係改善のため、特別大使を派遣することを決定した。
大使:カーディナル・プラグマティック
使命:平和的関係の確立と相互理解の促進
期間:1年間(延長可能)
権限:教皇直轄の全権大使
即位7年目の秋、神聖教皇国の特別大使がグランベルクに到着した。
「グランベルク王国の皆様」
カーディナル・プラグマティックがエリザベス王妃に謁見した際の言葉は印象的だった。
「神聖教皇国は、貴国との平和的共存を心から願っております」
クラル王との会談で、カーディナルは率直な対話を行った。
「陛下の戦争指導は、我々キリスト教徒にとっても驚嘆すべきものでした」
クラルの返答
「我々はただ、人を愛し、平和を愛するのみです。宗教の違いは、愛の表現の違いに過ぎないのかもしれません」
両国は以下の分野での協力を開始した。
協力分野
- 災害救助技術の共有
- 医療技術の交流
- 教育方法の研究
- 平和維持の学術研究
- 文化芸術の相互鑑賞
3ヶ月間のグランベルク滞在後、カーディナル・プラグマティックは教皇に詳細な報告を行った。
「教皇猊下、グランベルクは我々が想像していた以上に素晴らしい国でした」
主要な報告内容
- 住民の幸福度と道徳性の高さ
- 社会制度の完成度
- 指導者の人格の高潔さ
- 他者への愛と配慮の実践
- 真の平和が実現された社会
「彼らから学ぶべきことが多数あります」
カーディナルの率直な感想に、教皇も深く考えさせられた。
即位7年目の終わりに、神聖教皇国は対グランベルク政策を根本的に転換した。
新たな基本認識
- グランベルクは「敵」ではなく「隣人」
- 異教徒であっても尊敬すべき存在
- 軍事的対立は非現実的かつ不適切
- 平和的共存が双方の利益
- 相互学習による成長の可能性
神聖教皇国のグランベルク評価の変化は、他の諸国にも大きな影響を与えた。
「教皇国がグランベルクを認めたなら...」
多くの国が、グランベルクに対する見方を見直し始めた。
王国政府の反応
「我々の属国が、ついに教皇国からも認められた。これは王国全体の名誉だ」
他の諸国の反応
- 恐怖から尊敬への転換
- 外交関係樹立の検討
- グランベルクモデルへの関心増大
- 平和的価値観の再評価
年末、教皇は歴史的な宣言を行った。
「今年、我々は重要な教訓を学びました」
「真の神の愛は、宗教の枠を超えて現れることがあります」
「グランベルク王国の人々が示した愛と平和は、我々キリスト教徒にとっても学ぶべき模範です」
「来年以降、我々は彼らとの友好関係を深め、共に平和な世界の実現に努めます」
この宣言は、キリスト教世界に大きな衝撃を与えた。
解散した十字軍の一部は、新たな目的のために再編成された。
「平和維持軍」の設立
- 規模:1,000名(元十字軍から志願者)
- 目的:災害救助・人道支援・平和維持
- 装備:攻撃兵器を排除、救助装備を重視
- 訓練:戦闘技術より救助技術を重視
- 理念:「剣を鋤に」の実践
「これからの時代は、戦争ではなく平和のための軍隊が必要です」
教皇の新たなビジョンが示された。
即位7年目の一年間を通じて、神聖教皇国は根本的な変化を遂げた。
変化の要点
- 軍事的解決から対話的解決へ
- 排他的姿勢から包容的姿勢へ
- 征服の思想から共存の思想へ
- 独善的正義から謙虚な学習へ
「グランベルクとの出会いにより、我々は真のキリスト教的価値観について深く考えさせられました」
カーディナル・プラグマティックの最終報告書の言葉が、神聖教皇国の変化を象徴していた。
「時として、最も重要な教えは、最も予想外の場所から来るものです」
こうして、神聖教皇国は「出る幕のなかった十字軍」の経験を通じて、より成熟した宗教国家へと生まれ変わったのである。
グランベルクの「死者ゼロ戦争」は、敵だけでなく、味方をも変える力を持っていたのだった。




