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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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天魔大戦131:天魔大戦、開戦

世界の終わりは、静寂ではなかった。それは、想像を絶する轟音と、魂を灼く閃光、そして三種類の異なる絶望が奏でる、狂気の交響曲シンフォニーであった。


旧グランベルク王国の首都、カストラムの廃墟。その上空一千メートルに、天使軍は彼らの拠点となる**「光の要塞」**を創造していた。それは、純粋な神聖エネルギーを結晶化させて構築された、直径五キロメートルにも及ぶ巨大な浮遊城塞である。城壁は磨き上げられた光そのものでできており、穢れたものが触れれば一瞬にして浄化される絶対的な防御力を誇っていた。城塞の中心からは、天界へと続く光の柱が伸び、絶えず神聖なエネルギーを供給している。その上空で、熾天使ミカ-エルは、氷のように冷たい瞳で、眼下に広がる醜悪な世界を見下ろしていた。


「――穢れの掃討、最終段階へと移行する。地上に残る全ての不協和音を、沈黙させよ」


ミカエルの、感情の欠片もない思念が全軍に伝達された、まさにその時だった。地平線の彼方から、大地そのものを覆い尽くすほどの、二つの巨大な「波」が押し寄せてきた。


地獄と怨念の連合軍


一つは、地獄の波。サタンを先頭に、ゲヘナゲートから溢れ出した数万の悪魔軍団が、大地を揺るがす地響きと共に進軍してくる。燃え盛る溶岩の身体を持つタイタン族、空を黒く埋め尽くすガーゴイルの群れ、そしてその間を縫うように疾走するデーモンの騎兵隊。彼らが放つのは、純粋な破壊と闘争の意志。混沌そのものが、軍靴を履いて行進しているかのようだった。


そしてもう一つが、怨念の波。魔郷の中心から溢れ出した、「紫の帳の娘」が率いる数百万の魔物たち。彼らは音もなく、霧のように、しかし津波のような密度で大地を滑ってくる。その先頭には、かつての英雄や罪人たちの姿を模した、より強力な怨念の将たちがいた。彼らが放つのは、魂を直接凍てつかせる、冷たい憎悪と悲しみだった。


驚くべきことに、その二つの全く異質な軍勢が、一つの目的の下に一時的な同盟を結び、連携していた。パンデモニウムの玉座からアスモデウスが放つ、巧みな魔力の采配によって。彼は、サタンの破壊衝動を天使軍の最も堅固な防御地点へと誘導し、「紫の帳の娘」の精神攻撃を、天使たちの指揮系統の中枢へと向かわせる。地獄と怨念の連合軍の誕生であった。


彼らの最初の標的は、天界から降臨し、浄化の名の下に無差別な粛清を続ける熾天使ミカエル率いる天使軍の中核拠点「光の要塞」であった。


開戦の狼煙


「――全軍、総攻撃を開始せよ!」


アスモデウスの思念が、悪魔と怨念、両軍の脳内に響き渡った。旧カストラム廃墟の上空、赤黒い雲と紫の瘴気が渦巻く中、「光の要塞」への総攻撃が開始された。


最初に虚空を切り裂いたのは、数百体のタイタンたちが一斉に投げつけた、山のような大きさの溶岩弾だった。赤黒い軌跡を描いて光の要塞へと殺到する破壊の塊。

「――聖壁展開!」

ミカエルの号令一下、要塞の前面に、純白のエネルギーシールドが展開された。溶岩弾が着弾し、轟音と共に爆発するが、聖壁は微動だにしない。


だが、それは陽動だった。爆発の閃光と衝撃に天使たちの感覚が一瞬乱れた、その隙を突き、数百万の怨念の魔物たちが、一斉に精神攻撃を仕掛けた。


『『『――神は、いない――』』』

『『『――秩序は、偽りだ――』』』

『『『――お前たちの正義は、誰を救った?――』』』


数百万の魂の絶望が、巨大な精神の津波となって、光の要足全体を包み込んだ。要塞の輝きが、ほんの僅かに、揺らいだ。


「精神防御を固めよ!下劣な囁きに耳を貸すな!」

ミカエルの叱咤が飛ぶが、一部の若い天使たちの翼が、微かに震えている。


そして、その精神的な揺らぎを見逃さず、悪魔軍の精鋭、アスモデウス配下のサキュバスとインキュバスの部隊が、魅了の魔術で天使たちの感覚をさらに狂わせる。


世界の存亡を賭けた、神話級の戦い「天魔大戦」の火蓋が、ついに切られた。


混沌の交響曲


物語の最終決戦の始まり。怨念、悪魔(混沌)、悪魔(知略)、そして天使(秩序)という、相容れない全ての勢力が、その総力を上げて激突する。


空では、天使の浄化の光が悪魔の肉体を焼き、悪魔の混沌の炎が天使の翼を焦がす。地上では、怨念の魔物が放つ精神攻撃が天使と悪魔の両軍の兵士を狂わせ、その狂気に陥った者たちが放つ無差別な攻撃が、さらに戦場を混乱させる。


物理的な破壊、精神的な汚染、そして魂への直接攻撃。あらゆる次元の「悪」が、天界の絶対的な「秩序」に対して、その牙を剥いたのだ。


空は光と闇が入り乱れる混沌のキャンバスと化し、大地は魂の断末魔が響き-渡る地獄絵図と化した。これはもはや、どちらかが勝利するという次元の戦いではない。全てのものが等しく滅びに向かっていく、壮麗で、そして救いのない、終焉への序曲だった。


アスモデウスは、パンデモニウムの玉座で、その光景を満足げに眺めていた。最高の脚本が、今、最高の役者たちによって演じられようとしていた。壮大な戦闘の幕開けは、彼の期待を遥かに超える、美しくも残酷なスペクタクルだったのである。

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