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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ


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三つ巴のハルマゲドン116:神の沈黙、天使の決断

地上の惨状、そして悪魔の横暴を、次元の壁を隔てた遥か高み、天界から、静かに見つめる存在がいた。そこは、光そのもので構築された、永遠の平穏と秩序に満ちた世界。汚れを知らぬ水晶の回廊を、純白の衣を纏った者たちが、音もなく行き交っていた。熾天使ミカエルを筆頭とする、天使たちである。


天界の最も高い場所にある「万象儀」の間。そこには、宇宙の全ての出来事を映し出す、巨大な水晶球が浮かんでいる。今、その球体に映し出されているのは、人間界で繰り広げられている、あまりにも醜悪な地獄絵図であった。怨念の化身と化した少女の絶叫、サタンが振るう破壊の嵐、そしてその全てを嘲笑うアスモデウスの姿。


「……もう、限界です」


ミカエルの副官である、熾天使ガブリエルが、拳を握りしめ、震える声で言った。彼の、慈愛に満ちているはずの瞳には、深い悲しみと、抑えきれない怒りの炎が宿っていた。

「あの忌まわしい穢れが、人間界だけでなく、次元そのものを蝕み始めています。このまま放置すれば、その腐敗は、いずれ我らが聖域たる天界にまで及びかねません」


創造主の不在


だが、その壮絶な光景を前にしても、天界の絶対的な主であるはずの創造主は、ただ沈黙を続けていた。

天界の最も奥深く、光の玉座の間。そこに座すはずの神は、もう何万年もの間、その姿を見せてはいなかった。ただ、空っぽの玉座が、宇宙の静寂の中で、冷たい光を放っているだけだった。


「神は、我々をお見捨てになったというのですか、ミカ-エル様!」

若き天使の一人が、悲痛な声を上げた。「人間たちのあの苦しみを、罪なき魂の叫びを、お聞き届けにはなっていないというのですか!」


ミカエルは、何も答えなかった。彼は、七対の光の翼を持つ、天使軍団の最高司令官。その表情は、美しい彫像のように無表情だったが、その手は、腰に佩いた炎の剣の柄を、強く、強く、握りしめていた。彼もまた、この数ヶ月間、神の沈黙という、理解不能な現実に、苦しみ続けていたのだ。


代行者としての決意


そして、その日。ミカエルは、ついにしびれを切らし、一つの、神意に背くかもしれない、重大な決断を下した。


彼は、天界の全天使たちを、光の大聖堂へと招集した。

「……聞け、我が同胞たちよ」

ミカエルの、静かだが、鋼のような意志に満ちた声が、聖堂の隅々にまで響き渡った。


「我らが主は、沈黙しておられる。その真意を、我々が測り知ることはできぬ。だが、我々の目の前で、一つの世界が、完全に穢され、滅び去ろうとしている。この現実から、目を背けることは、神が我々に与えた『正義』の教えに反する!」


彼は、炎の剣を抜き放った。その剣から放たれる純粋な光が、聖堂全体を白く照らし出す。


「よって、我は、ここに決意する!神の代行として、我ら自身の判断で、地上への介入を開始する!」


その宣言に、集まった数万の天使たちから、どよめきと、そしてやがて熱狂的な賛同の声が上がった。彼らもまた、神の沈黙と、地上の惨状に、耐えかねていたのだ。


機械的な根絶


「ただし」ミカエルの声が、熱狂する天使たちを、再び静寂へと引き戻した。「我々の介入は、救済ではない」


彼の、あまりにも冷たい言葉に、ガブリエルでさえ、息を呑んだ。


「我々の目的は、ただ一つ。地上の全ての穢れ――すなわち、怨念も、悪魔も、そのどちらをも、完全に、そして例外なく、『根絶』することだ」


ミカエルが示した計画は、慈悲のかけらもない、感情を排した、機械的な浄化作業であった。


【天の審判ジャッジメント・作戦要綱】


第一段階:浄化の光

天界から、超高密度の神聖エネルギー砲「セラフィム・レイ」を地上に照射。対象領域内の、全ての「負」の属性を持つエーテル(怨念、魔力)を、分子レベルで分解、消滅させる。


第二段階:粛清部隊の降臨

生き残った、高位の悪魔や怨念の核に対し、ミカエル直属の天使軍団を降下させ、直接的な戦闘により、これを完全に殲滅する。


最終段階:世界の再起動リセット

全ての穢れを浄化した後、生命の存在しないまっさらな大地に、天界から「生命の種」を蒔き、新しい生態系を、一から再創造する。


「……ミカエル様」ガブリエルが、震える声で尋ねた。「それは……地上に残る、僅かな人間の生存者たちをも、巻き添えにするということですか……?」


「左様」ミカエルの答えは、短く、そして非情だった。「システムに混入したウイルスを駆除するためには、OSごと初期化するしかない。僅かなデータ(生存者)を救うために、システム全体(世界の法則)の崩壊を座して見ていることなど、許されん」


第三勢力「天使」の登場。しかし、彼らは善悪ではなく、『秩序』を絶対的な正義として行動する、冷徹で、機械のような存在であった。彼らにとって、怨念の魔物の悲しみも、悪魔の愉悦も、等しく宇宙の調和を乱す「ノイズ」に過ぎない。


新たな混沌の始まり


「全軍に告ぐ!」

ミカ-エルの号令が、天界に響き渡った。「これより、対人間界浄化作戦を開始する!地上の全ての不協和音を、我らが奏でる、完全なる調和の前に、沈黙させるのだ!」


物語は、さらに複雑化する。怨念、悪魔、そして魔王。その三つ巴の地獄に、今、第四の勢力――秩序という名の、絶対的な暴力――が、介入しようとしていた。


アスモデウスは、自らの遊び場に、招かれざる、そして何よりも「面白くない」観客が登場したことに、初めて、眉をひそめた。

「……天使、だと?やれやれ。最も、空気を読めない連中が、しゃしゃり出てきたものだな」


世界の終わりは、もはや避けられない。だが、その終わり方が、誰の予想もつかない、壮絶な混沌の様相を呈し始めた。物語は、ついに、神話レベルの最終戦争へと、その駒を進める。

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