表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/256

暗黒時代の突入111:サタンの戦場

旧カストラム廃墟で繰り広げられていた、怨念の魔物とアスモデウス配下の悪魔たちとの小競り合い。その、あまりにも知的で、あまりにも回りくどい魂の削り合いを、大陸中央の「憤怒の玉座」から観測していたもう一人の魔王は、溶岩の玉座の上で、もはや抑えきれないほどの苛立ちを募らせていた。


「……まだるっこしいわ!」


サタンの、顔のないはずの顔の中心で、ブラックホールのような怒りの渦が、その回転速度を上げた。

「戦いとは、思考するものではない!感じるものだ!魂の咆哮、そのものだ!」


彼にとって、アスモデウスの眷属たちが繰り広げる、精神汚染だの魂魄攻撃だのといった繊細な駆け引きは、まるで子供のままごとにしか見えなかった。純粋な破壊衝動と闘争本能こそが、彼の信じる唯一の真理だった。


「ウオオオオオオオオオオッッ!!!!」


我慢の限界に達したサタンは、玉座から立ち上がった。彼は、アスモデウスの許可も、いかなる戦略的判断も待つことなく、ただ自らの怒りの赴くままに、戦場の中心――旧カストラムへと、直接降臨することを決意した。


混沌の舞台、歓喜の魔王


大地が震え、空が裂ける。サタンの巨躯が、火山の頂からカストラムの廃墟へと、一瞬にして転移した。彼がその溶岩の足を大地につけた瞬間、周囲の腐敗した土壌は一瞬にして蒸発し、ガラス状に輝くクレーターが生まれた。


「――クハハハハハハハ!これだ!これこそが、我の戦場よ!」


サタンは、この混沌とした戦場こそが、自らの最高の舞台であると歓喜した。怨念の魔物たちの悲痛な囁きも、アスモデウス配下のデーモンたちの雄叫びも、彼にとっては、最高の祝祭を彩るBGMに過ぎなかった。


彼は、その六本の腕に握られた、巨大な魔剣や魔斧を、天高く掲げた。それぞれの武器が、異なる種類の「怒り」のオーラを放っている。


「さあ、始めようぞ!皆殺しの宴を!」


無差別なる破壊の嵐


サタンは、巨大な魔剣**「終焉ラグナロク」**を振り下ろした。その一撃は、大地を引き裂き、深さ数百メートルにも及ぶ巨大な亀裂を生み出した。その亀裂に飲み込まれ、怨念の魔物も、邪魔をする配下の悪魔さえも、見境なく薙ぎ払われていく。


「ぐわあああっ!」

「お、お味方ですぞ、サタン様!」

彼の部下であるはずのデーモンたちが、悲鳴を上げて消滅していくが、サタンは全く意に介さない。


「黙れ!我が怒りの前に、敵も味方もあるものか!」


彼の戦いは、戦術などという生ぬるいものではなかった。ただ、自らの「憤怒」を最大限に解放し、世界が己の怒りの前にひれ伏す様を見ることだけが、彼の唯一の目的なのだ。


彼は魔斧「絶望」を振るって空間を歪ませ、怨念の魔物が使う精神攻撃を物理的に粉砕する。彼は魔槍「悲嘆」を投げつけ、数百の魔物を、魂ごと大地に縫い付けた。


サタンというキャラクターの行動原理が、ここに際立っていた。彼は、勝敗など求めていない。支配にも興味がない。ただ、破壊そのものが、彼の存在意義であり、至高の快楽なのだ。


計算通りの狂気


パンデモニウムの玉座で、その光景をマナ・スクリーン越しに見ていたアスモデウスは、苛立つどころか、むしろ満足げな、恍惚とした表情を浮かべていた。


「……ククク。来たか、我が愛すべき、予測不能の『嵐』よ」


ベリアルが、青ざめた顔で進言した。

「閣下……!サタン様の乱入により、怨念の魔物のデータ収集が、不可能です!サンプルが、観測前に破壊されてしまいます!これでは、閣下の計算が……!」


「計算だと?」

アスモデウスは、心底面白そうに笑った。

「ベリアルよ、お前はまだ分かっておらんのか。サタンがこのように暴れることこそが、我が計算の、最終段階なのだよ」


アスモデウスは、最初からサタンにはこの盤面を破壊するイレギュラーとしての役割を期待していたのだ。彼の緻密なゲームは、あまりにも完璧すぎた。だからこそ、その完璧な盤面を台無しにしてくれる、計算の通用しない純粋な暴力という名のスパイスを、自ら招き入れたのである。


「素晴らしい……。実に素晴らしい!」

アスモデウスは、まるで最高のオペラを鑑賞するかのように、手を叩いて歓喜した。「静かなる悲劇(怨念)と、知的な策略(我が軍)、そこに、全てを薙ぎ払う絶対的な暴力サタンが加わる!これぞ、私が求めていた、三つ巴の混沌!最高のエンターテイメントではないか!」


アスモデウスの知的支配に対し、サタンの予測不可能な暴力が、新たな混乱の要因となる。しかしそれは、アスモデウスにとって計算の狂いなどではなく、むしろ自らが望んだ、最高の娯楽の始まりを告げるものだった。


彼は、側近のマルファスに命じた。

「マルファスよ。お前も行け。そして、サタンの『破壊』を邪魔するな。むしろ、彼が最も気持ちよく暴れられるよう、怨念どもを最高の舞台へと『誘導』してやれ」


アスモデウスは、サタンという制御不能な駒さえも、自らのエンターテイ-メントの、より大きな舞台装置として、巧みに利用し始めたのだ。


物語は、怨念対悪魔という二項対立から、アスモデウスの知略 vs サタンの暴力 vs 怨念の憎悪という、より複雑で、より予測不可能な、三つ巴の地獄の、第二幕へと、その幕を開けた。世界の崩壊は、今や、一人の魔王の悪趣味な観劇のために、加速していく壮大な混沌のスペクタクルと化していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ