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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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暗黒時代の突入110:怨念 対 悪魔

三つ巴の地獄の、最初の衝突は、旧グランベルク王国の首都、カストラムの廃墟で起こった。アスモデウスによる遊戯の采配か、あるいは純粋な偶然か。破壊の限りを尽くして南下してきたサタン軍の先遣隊が、この魔郷の絶対的な中心地であり、最も濃密な怨念が渦巻く場所へと、足を踏み入れてしまったのだ。


「フハハハ!見ろ!まだ壊し甲斐のあるガラクタが残っているではないか!」


デーモン軍の百人隊長であるゴルゴスが、崩れかけた王宮の残骸を指差し、野卑な笑い声を上げた。彼の率いる部隊は、燃え盛る溶岩の身体を持つ歩兵デーモン五十体と、カミソリのような翼を持つ飛行型デーモン、ガーゴイル三十体で構成されている。彼らにとって、この静寂な廃墟は、新たな破壊の舞台に過ぎなかった。


だが、彼らが広場の中央へと足を踏み入れた瞬間。空気が、変わった。

肌を刺すような冷気と共に、どこからともなく、無数の、か細い囁き声が聞こえ始めた。


『……かえせ』

『……わたしの、いのちを……』

『……ゆるさない……』


廃墟の建物の影から、瓦礫の隙間から、そして干上がった噴水の底から、そこに巣食う怨念の魔物たちが、陽炎のように、ぞろぞろと姿を現し始めた。その数、数百。彼らは皆、かつてこの都で生きていた市民たちの姿をしていたが、その瞳は例外なく、憎悪の赤黒い光で満たされていた。


交わらぬ刃、蝕まれる魂


「ケッ、亡霊どもか!我ら地獄の軍勢の前に、立ち塞がるとは、身の程知らずめ!」


ゴルゴスは、怨念の魔物の異質さに気づきもせず、部下に突撃を命じた。

デーモンたちが、雄叫びを上げて怨念の群れへと襲いかかる。その燃え盛る爪が、剣が、魔物たちの身体を薙ぎ払う。


しかし、悪魔たちの物理攻撃は、実体を持たない魔物に対し、全く効果がなかった。剣は、霧を斬るかのように空しくすり抜け、炎は、その半透明な身体を何事もなく透過していった。


「な……!なぜだ!?なぜ、斬れん!」

デーモンたちが、困惑の声を上げる。


その隙を見逃さず、怨念の魔物たちは、彼らの唯一無二の武器――精神攻撃を開始した。


『……お前も、苦しむがいい』


怨念の一体が、一体のデーモンの魂に直接触れた。その瞬間、デーモンの脳裏に、彼が悪魔に堕ちる前の、人間だった頃の、最も辛く、最も悲しい記憶が、悪夢となって鮮明に蘇った。家族に裏切られ、友に見捨てられ、絶望の淵で自ら命を絶った、あの日の記憶。


「ぐ……あああああっ!やめろ……!思い出したくない……!」

屈強だったはずのデーモンは、その場に膝をつき、頭を抱えて苦しみ始めた。


怨念の魔物の精神攻撃と、悪魔の物理攻撃が交錯し、戦況は一方的なものとなった。悪魔たちは、触れることさえできない敵に、一方的に魂を蝕まれ、次々と戦闘不能に陥っていった。


魂魄攻撃


「……下がらぬか、愚か者どもが!」


その膠着状態を破ったのは、後方で戦況を見守っていた、サタン軍の中級指揮官、魔将軍ベリトだった。

「奴らが魂の塊ならば、こちらもまた、魂で応じるまでよ!」


ベリトは、両の手に禍々しい紫色の魔力を凝縮させた。

「喰らえ!ソウル・クラッシュ!」


彼が放ったのは、物理的な衝撃ではなく、魂に直接干渉する、悪魔特有の邪悪な魔法だった。紫色の魔力の奔流が、怨念の魔物たちへと殺到する。


『……ぎゃああああああああっ!』


今度は、怨念の魔物たちが悲鳴を上げた。魂魄攻撃は、彼らの存在の根幹そのものを揺さぶる、唯一の有効打だったのだ。魔力の奔流に触れた怨念たちは、まるで灼熱の鉄に触れた雪のように、ジュッという音を立てて蒸発し、消滅していった。


戦場は、もはや物理法則が通用しない、魂そのものが砕け散る、真の地獄絵図と化していた。精神攻撃と魂魄攻撃が入り乱れ、目に見えぬ力と力が衝突し、空間そのものが、苦痛に歪んでいた。


二つの悪の性質


この戦いは、怨念の魔物と悪魔、二つの異なる「悪」の性質を、鮮明に浮かび上がらせた。


怨念の魔物――彼らの力は、悲しみと憎しみに根差す、内向的で、陰湿な悪。相手の心の傷を抉り、内側から崩壊させることを得意とする。


地獄の悪魔――彼らの力は、破壊と支配欲に根差す、外向的で、暴力的な悪。相手の存在そのものを、魂ごと力でねじ伏せることを至上とする。


物理法則を超えた、魂レベルの壮絶な戦闘シーン。それは、世界の崩壊が、もはや人間が認識できる次元を超えて、より根源的なレベルで進行していることを、視覚的に表現していた。


廃墟と化したカストラムの上空で、紫の魂の閃光と、赤黒い憎悪の渦が、激しくぶつかり合い、そして互いを喰らい合っている。その光景は、あまりにもおぞましく、しかし同時に、終末の絵画のように、退廃的な美しささえ湛えていた。そして、その全てを、パンデモニウムの玉座から見下ろすアスモデウスは、最高の演劇を鑑賞するかのように、ただ静かに、ワイングラスを傾けていた。

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