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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ


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暗黒時代の突入109:三つ巴の地獄

こうして、滅びゆく世界は、三つの異なる、しかし等しく絶対的な悪意を持つ勢力が争う、混沌の戦場と化した。 もはやそこには、善と悪の対立などという、単純な物語は存在しない。あるのはただ、異なる種類の絶望と破壊が、互いに喰らい合い、世界をさらなる深淵へと引きずり込んでいく、救いのない地獄絵図だけであった。


パンデモニウムの玉座から、魔王アスモデウスは、自らが創り出したこの壮大な三つ巴の構図を、満足げに見下ろしていた。それは、神でさえ描くことのできない、究極に悪趣味で、そして究極に美しい、破滅の絵画であった。


第一勢力:『怨念』 ― 純粋な憎悪の化身


第一の勢力は、この世界の元々の「病巣」であった、「紫の帳の娘」が率いる、怨念の魔物たちであった。彼女たちの行動原理は、ただ一つ。人間という種族への、純粋で、底なしの憎悪。アシェルという少女が、生まれ落ちた瞬間に受けた、愛されることのない絶望。その原初の悲しみが、五十年の歳月と数百万の死者の苦悶を喰らい、今や大陸全体を覆うほどの、絶対的な呪いと化していた。


彼らは領土を求めない。富を求めない。支配さえも、求めない。彼らが求めるのは、ただ、かつて「人間」であったものの痕跡を、この世界から完全に、永遠に、消し去ることだけ。廃墟となった都市を彷徨い、そこに残る僅かな生活の痕跡を見つけては、悲しげに、そして憎しみを込めて破壊していく。彼らの存在そのものが、救済されなかった悲劇の、永遠の繰り返しであった。


<h3> **第二勢力:『混沌』 ― 純粋な破壊衝動** </h3>



第二の勢力は、ゲヘナゲートから溢れ出した、サタンを筆頭とする地獄の悪魔軍であった。彼らの行動原理は、怨念の魔物たちよりも、さらに単純明快。純粋な破壊衝動と、闘争本能。彼らにとって、この新しい世界は、何の制約もなく、自らの暴力性を解放できる、夢のような狩り場に過ぎなかった。


サタンは、パンデモニウムに匹敵するほどの巨大な火山を、大陸の中央に一夜にして隆起させ、そこを「憤怒の玉座」とした。彼は、怨念の魔物を「脆弱な魂の残響」と蔑み、アスモデウスの軍勢を「秩序に縛られた軟弱者」と嘲笑い、ただひたすらに、目につくもの全てを破壊し、燃やし、粉砕し続けた。彼の軍勢は、規律も戦略も持たない。ただ、嵐のように、津波のように、暴力の限りを尽くす。彼らの存在は、宇宙の根源的な混沌そのものであった。


第三勢力:『遊戯』 ― 知的な愉悦の追求


そして第三の勢力、その中心に君臨するのが、魔王アスモデウスであった。彼の行動原理は、先の二つとは全く異質であり、それ故に、最も恐ろしかった。彼は、この二つの巨大な勢力さえも、自らの盤上の駒として操り、自らの知的遊戯のために、この世界の混沌を、まるで劇作家のように演出しようとしていた。


彼の目的は、勝利ではない。最高のエンターテイメントの創造である。彼は、怨念の魔物たちの悲劇的な過去のデータをベリアルに解析させ、彼らが最も効果的にサタン軍を苦しめるであろう戦場へと、巧みに誘導する。一方で、彼はサタン軍の破壊的な進軍ルートを予測し、その先に怨念の魔物の「餌」となる魂の残滓を配置することで、両者の衝突を、より劇的に、より壮大に演出する。


「素晴らしい……!実に素晴らしい!」

玉座の間で、マナ・スクリーンに映し出される地獄絵図を見ながら、アスモデウスは子供のように手を叩いて歓喜していた。「悲劇のヒロイン(怨念)と、圧倒的な破壊者(混沌)。そして、そのどちらもが、私の描く脚本通りに踊っている!これ以上の娯楽が、かつて存在しただろうか!」


救いのない全面戦争の始まり


世界の存亡を賭けた、救いのない全面戦争が、ここに始まった。

怨念は人間が遺したものを破壊し、悪魔はその怨念さえも破壊する。そして魔王は、その二つの破壊が織りなす、壮絶な光景を鑑賞する。


それは、敵(怨念の魔物)対 敵(悪魔)対 アスモデウスという、絶対的な悪しか存在しない、救いのない三つ巴の戦いであった。この地獄に、もはや正義を語る者も、救済を祈る者もいない。ただ、それぞれの欲望と衝動のままに、世界が最後の断末魔を上げるのを待つだけであった。

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