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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ


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暗黒時代の突入108:悪魔の奔流

ゲヘナゲートは、もはや単なる亀裂ではなかった。それは、赤黒い空そのものを喰らい尽くす、巨大な、脈打つ傷口だった。その傷口から漏れ出す血と硫黄の匂いは、この滅びゆく世界の大気を、魔界のそれへと急速に変質させていた。


そして、ついにゲヘナゲートから、魔界に住まう者たちが、その姿を現し始めた。

それは、ゆっくりとした行軍などではなかった。まるで長年堰き止められていたダムが、決壊したかのような、圧倒的な濁流だった。


最初に溢れ出してきたのは、最下級の悪魔インプの群れだった。子供ほどの大きさしかない彼らは、何万という数で空を覆い尽くし、イナゴの大群のように、キーキーと甲高い奇声を上げながら、地上へと降り注いだ。彼らは、手当たり次第に、廃墟となった建物をかじり、瘴気の花を引き抜き、そして怨念の魔物たちにさえ、悪戯っぽく襲いかかった。


次に現れたのは、石の身体を持つガーゴイルの軍団だった。彼らはゲートから飛び出すと、パンデモニウムの尖塔や、崩れかけた王宮の屋根に鷲のようにとまり、新たな領地の隅々までを、その赤い瞳で睥睨した。


そして、妖艶な姿のサキュバスやインキュバスたちが、歓喜の嬌声を上げながら舞い降りた。

「まあ、なんて新鮮な絶望の香り!」

「人間の魂はもう残っていないようだけど、代わりに怨念の魔物という、面白そうな玩具がいるじゃない!」


最後に、地響きと共に現れたのは、デーモンと呼ばれる中級悪魔の軍団だった。牛の頭を持つ者、蛇の下半身を持つ者、全身が炎に包まれた者。地獄の階層に蠢いていたあらゆる種類の悪魔たちが、その異形の身体を震わせ、初めて見る新鮮な世界に歓喜し、その破壊衝動の限りを尽くそうとしていた。


混沌の支配者


アスモデウスは、玉座に座したまま、その混沌の軍勢が自らの城の眼下に広がっていく光景を、満足げに眺めていた。ベリアルやマルファスといった彼の側近たちは、そのあまりの物量と混沌に、畏怖の念を隠せずにいた。


「我が主よ……。これは……統制が、取れますまい……!」

マルファスが、懸念を口にした。溢れ出してきた悪魔たちは、それぞれが独立した欲望の塊であり、アスモデウスの命令を聞くとは限らなかった。


「……黙って、見ていろ」


アスモデウスは、静かに玉座から立ち上がると、バルコニーの最先端へと歩を進めた。そして、彼の身体から、これまで抑え込んでいた、真の魔王としてのオーラを、完全に解放した。


それは、パンデモニウムを築いた時の力や、サタンを召喚した時の力を、遥かに超える、絶対的な威圧感だった。クラルの肉体に宿る神聖エネルギーと、アスモデウス本来の魔王としての力が、完全に融合し、昇華した、新たな次元の力。それは、慈愛も混沌も超越した、ただ絶対的な**「支配」**のオーラだった。


「――ひれ伏せよ」


アスモデウスの声は、囁きのように静かだった。しかし、その声は、魔力となって世界に響き渡り、破壊と略奪に酔いしれていた数万の下級・中級悪魔たちの魂を、直接鷲掴みにした。


魔王への絶対的忠誠


悪魔たちは、一斉に、その動きを止めた。そして、まるで見えざる神の視線に気づいたかのように、恐怖に震えながら、パンデモニウムの頂に立つ、一つの小さな人影を見上げた。


彼らは、本能で理解した。あれこそが、自分たちが、決して逆らうことのできない、絶対的な上位者。この新しい世界の、唯一無二の王である、と。


悪魔たちは、その圧倒的な魔力の前に、例外なく、その場にひれ伏した。インプも、ガーゴイルも、サキュバスも、デーモンも。その数万の軍勢が、まるで広大な黒い絨毯のように、大地に平伏する光景は、圧巻であった。


「我は、アスモデウス・クラル。この滅びた世界の、新たなる王である」


アスモデウスは、高らかに宣言した。

「お前たちには、我が軍勢に加わる栄誉を与えよう。これより、我の指揮の下、この世界を、我ら悪魔の、新しい楽園へと作り変えるのだ」


「「「おおおおおおおおっっ!!」」」

今度は、忠誠を誓う歓喜の雄叫びが、大地を震わせた。アスモデウスが、ついに名実ともに「魔王」として、地獄の軍団を率いる存在となった瞬間であった。


スペクタクルの始まり


アスモデウスは、新たに手に入れた巨大な軍勢を見下ろし、邪悪な笑みを浮かべた。


「さて、と」

彼の視線は、遥か彼方、天を引き裂くゲヘナゲートの中心で、今なお破壊の咆哮を上げ続けている、憤怒の化身サタンへと向けられた。


「最初の余興は、兄弟喧嘩と行こうではないか」


彼の気まぐれな一言が、これから始まる、神話の時代に匹敵する、壮大な戦争の幕開けを告げた。世界は、もはや人間のためのものではなくなった。それは、悪魔と魔王たちが、自らの欲望の限りを尽くして戯れる、巨大で、残酷な、遊技盤と化したのだ。

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