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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の全盛期71:禁忌の魔導書

# 第七十一章:祝福という名の呪い――運命の瞬間


## クライマックスへ――最高の贈り物


アシェル・ヴァーミリオンを讃える記念式典は、感動と熱狂の渦の中で、そのクライマックスを迎えようとしていた。


国王からの称賛。


救われた者たちからの感謝。


そして、民衆からの万雷の喝采。


その全てを一身に受け、アシェルは演壇の中央で、夢の中にいるような、しかし確かな幸福感に包まれていた。


彼女が命を懸けて守りたかった、仲間たちの笑顔がそこにあった。


彼女が実現したかった、誰もが手を取り合える世界が、確かに目の前に広がっていた。


アシェルは――


幸せだった。


この瞬間が、永遠に続けばいいと思った。


「そして今」


国王アレクセイの声が、高らかに響いた。


「アシェル君の偉大なる功績に対し、グランベルク王家より、最高の敬意と祝福を込めた贈り物を、献上する!」


国王の声は――


力強かった。


威厳に、満ちていた。


儀典長であるシルヴァリオン公爵が、ビロードのクッションに恭しく載せられた一つの品を手に、ゆっくりと演壇を上がってきた。


公爵の足取りは――


ゆっくりだった。


慎重だった。


広場に集まった数万の視線が、その一点に集中した。


みんなが――


注目していた。


息を、呑んでいた。


## 祝福という名の呪い――荘厳な書物


クッションの上にあったのは、一冊の書物だった。


しかし、それはただの書物ではなかった。


一目見ただけで、誰もが息を呑むほど、荘厳で、神々しいまでの美しさを湛えていた。


表紙は、磨き上げられた純白の象牙で作られていた。


縁取りには、精密な彫刻が施された白金(プラチナ)が惜しげもなく使われている。


中央には、王都の空よりも深い青色を湛えた巨大なサファイアが埋め込まれていた。


その周囲を、無数の小さなダイヤモンドが、まるで星々のように取り囲んでいた。


キラキラと――


宝石が、輝いていた。


美しく、荘厳に。


背表紙には、金糸で、古代龍族の文字で「叡智の書」と、偽りのタイトルが刺繍されている。


「なんと……」


観衆から、感嘆のため息が漏れた。


「美しい……」


「この書は、『逆転の書』と名付けられました」


シルヴァリオン公爵が、マイクの前で厳かに解説を始めた。


その声は、息子ドラゴがアシェルに敗北したことへの恨みなど微塵も感じさせない、完璧な儀典長としての声だった。


公爵の声は――


荘厳だった。


威厳に、満ちていた。


「アシェル嬢がもたらした、エーテル理論の『逆転』の発想」


「それを基に、我が学園の叡智の全てを結集して完成させた、新時代の学術記念碑でございます」


「表紙には、王国最高の敬意の証として、グランベルク王家の紋章が刻まれております」


公爵が示した表紙には、確かに、サファイアとダイヤモンドで飾られた、王家の「永遠の桜」の紋章が、誇らしげに輝いていた。


民衆は――


歓声を上げた。


拍手を、した。


パチパチパチパチ!


その音は――


鳴り止まなかった。


## 感動、そして運命の受容――ずっしりとした重み


国王自らの手によって、その美しい魔導書がアシェルに手渡された。


アシェルは――


両手で、受け取った。


ずっしりとした重みと、象牙の冷たく滑らかな感触が、彼女の手に伝わってくる。


重かった。


冷たかった。


しかし――


美しかった。


「……ありがとうございます、陛下」


アシェルは、溢れる感動で声を震わせた。


彼女の純粋な魂は、この書物に込められた悪意など、微塵も感じ取ってはいなかった。


彼女は、その美しさと、そこに込められた(と彼女が信じている)祝福に、心の底から深く感動していた。


(すごい……)


アシェルは、思った。


(私の理論が、こんなに美しい形に……)


(みんなの想いが、ここに……)


アシェルは、壇上から広場を見渡した。


祝福してくれる民衆の顔。


誇らしげに見守るリアンやケンシンたちの顔。


その全てが、この書物の価値を、何倍にも高めているように感じられた。


仲間たちは――


笑顔だった。


手を、振っていた。


「アシェル、おめでとう!」


リアンが、叫んだ。


「すごいぞ、アシェル!」


ケンシンが、叫んだ。


## 引き金――民衆の声


「アシェル嬢!」


民衆の中から、興奮した声が上がった。


「ぜひ、その叡智の一端を、我々にも!」


「開いて見せてくれ!」


民衆は――


期待していた。


興奮していた。


アシェルは、少しはにかみながら、しかし誇らしげに、その声に応えた。


彼女は、ゆっくりと、『逆転の書』の、白金でできた精巧な留め金に、指をかけた。


留め金は――


冷たかった。


美しかった。


(ありがとう、みんな……)


アシェルは、心の中で呟いた。


(この光景を、私は、一生忘れない……)


それが、彼女の、この世界における、最後の正常な思考であった。


運命の瞬間。


悲劇の引き金となる『逆転の書』が、最も祝福された形で彼女の手に渡るという、皮肉な状況。


ケンシンも、リアンも、そしてアシェルを愛する全ての者たちが、笑顔でその瞬間を見守っていた。


誰も――


気づいていなかった。


これから起こる、悲劇を。


アシェルは、集まった全ての魂の祝福に応えるように、感謝を込めて、ゆっくりと、その呪われた書物のページを、開いた――


パラッ。


音がした。


ページが、開いた。


そして――


その瞬間――


すべてが、変わった。


光が――


消えた。


幸福が――


終わった。


悲劇が――


始まった。


運命の時が――


来た。


破滅への道が――


開かれた。

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