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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の全盛期61:狂信者たちの楽園

# 第六十一章:憎悪の結晶――魂の同調回路


## 狂信的な宗教団体――倫理観の崩壊


秘密研究所「プロメテウス」。


そこは、もはや単なる研究施設ではなかった。


サイラスがもたらした「古代エーテル技術の復元」という偽りの大義は、アーコン・ティアの天才たちの心を完全に掌握し、一種の狂信的な宗教団体のような様相を呈していた。


レグルスや他の研究員たちは、もはやサイラスの指示を待つまでもなく、それぞれが分担された分野で新技術を元にした新たな可能性を、熱に浮かされながら模索していた。


研究室は――


異常な熱気に、包まれていた。


「エーテル・リバーサルの理論を応用すれば、局所的な重力制御が可能になるはずだ!」


物理魔術の専門家であるガリレオが、壁一面の黒板に数式を書きなぐりながら叫んだ。


その目は――


狂気を帯びていた。


興奮で、輝いていた。


「見てくれ!」


魂魄魔術の権威ベアトリスが、青白い光を放つ魂の結晶を手に、恍惚とした表情で呟いた。


「エーテルの逆流現象を魂魄魔術に応用すれば、死者の魂を一時的に現世に呼び戻すことさえできるかもしれない!」


彼らの目は、真理の探求という純粋な輝きと、禁忌に触れることへの倒錯した喜びに満ちていた。


誰もが、自らが世界の法則を書き換える神の一員になったのだと信じ込んでいた。


倫理観などという陳腐な枷は、とうの昔に捨て去っていた。


彼らは、自らが紡ぎ出す一つ一つの発見が、サイラスという一人の男の復讐のために編み上げられる、巨大なタペストリーの、一本の糸に過ぎないことに、全く気づいていなかった。


ただ――


研究に、没頭していた。


知識に、溺れていた。


狂気に、囚われていた。


## 憎悪の結晶、魂の同調回路――冷徹な設計


その狂信者たちの楽園の、さらに地下深く。


サイラスは一人、自らの私的な研究室で、『逆転の書』の最も核心的な部分の設計に、没頭していた。


彼の表情からは、以前のような焦りや嫉妬の色は消え去っていた。


代わりに、全てを無に帰すという絶対的な目的に向かう、機械のような冷徹さが浮かび上がっている。


私室は――


静かだった。


サイラスだけが、いた。


机の上には、羊皮紙が広げられていた。


そして、複雑な図が描かれていた。


「……これだ」


サイラスは、呟いた。


彼が羊皮紙の上に描き出していたのは、複雑怪奇な幾何学模様と、古代龍族の文字が複雑に絡み合った、呪いの紋様にも似た回路図。


これこそが、『逆転の書』の心臓部となる、**「魂の同調回路」**の設計図であった。


その設計思想は、シンプルでありながら、悪魔的なまでに巧妙だった。


『逆転の書』は、不特定多数に作用する魔導具ではない。


それは、ただ一人、アシェル・ヴァーミリオンという特定の個人だけを標的とした、極めて悪質な追尾型の魂兵器なのだ。


そのメカニズムは、こうだ。


アシェルの魂が放つ、この世に二つとない固有のエーテル波形――それは、彼女の記憶、感情、経験の全てが織り込まれた、魂の指紋とも言うべきもの。


その波形パターンを、回路が寸分違わず模倣し、共鳴することで、アシェルの魂の防御壁を完全に無効化する。


そして、彼女の魂の最も無防備な中枢に対し、直接**「偽の命令」**を送り込むのだ。


「……『吸収』の命令を、『放出』に」


サイラスは、呟いた。


「『循環』の命令を、『枯渇』に」


「『共有』の命令を、『孤立』に」


サイラスは、アシェルの理念そのものを、一つ一つ、指でなぞりながら、それを反転させる呪詛の言葉を呟いた。


彼の憎悪は、もはや単なる感情ではなかった。


それは、科学的な執念へと昇華され、冷徹なまでの精密さで、復讐の道具を形作っていた。


サイラスの目は――


冷たかった。


感情が、なかった。


ただ――


憎悪だけが、あった。


## 鍵穴の設計図――完璧な波形モデル


魂の同調回路を完成させるためには、アシェルのエーテル波形の、完璧なデータが必要だった。


マルクスが盗み出した観測室のデータは、そのための貴重な基礎資料となった。


サイラスは、学園に残されたアシェルの微細なデータ――彼女が使った教科書に残る僅かなエーテルの残滓、彼女が歩いた廊下の床に残る痕跡、彼女が触れたドアノブの記憶――その全てを収集していった。


夜な夜な――


サイラスは、学園を徘徊した。


アシェルが通った場所を。


アシェルが触れた物を。


すべてを、探した。


そして――


データを、集めた。


レグルスたちが開発した高精度のエーテル分析装置を悪用し、彼は、アシェルの魂の設計図とも言うべき、完璧な波形モデルを構築することに成功した。


数ヶ月の、作業。


膨大な、データ。


そして――


完成した。


「……見つけたぞ、アシェル」


サイラスは、呟いた。


「お前の魂の、鍵穴を」


モニターに――


波形が、映し出されていた。


美しくも複雑な、エーテルの波形。


それは――


アシェルの魂の、全て。


それを眺めるサイラスの目は、もはや人間のそれではなかった。


獲物の弱点を完璧に把握した、冷たい爬虫類の目に近かった。


サイラスは――


微笑んだ。


勝利を、確信した微笑み。


## 静かに進む破滅の歯車――狂気の加速


研究者たちの熱狂は、日に日にその純粋さを失い、狂気へと近づいていった。


彼らは、サイラスに認められたい一心で、より過激で、より非人道的な実験に、その手を染め始めていた。


「この魔獣のエーテルを逆流させれば、時空の歪みを観測できるかもしれない!」


ガリレオが、叫んだ。


「この死刑囚の魂を使えば、魂魄回路の耐久性を試せる!」


ベアトリスが、提案した。


もはや――


誰も、止められなかった。


倫理観は、崩壊していた。


人間性は、失われていた。


サイラスは、彼らのその狂気さえも、自らの計画の燃料として利用した。


彼らが集めるデータ。


彼らが開発する技術。


その全てが、アシェルを破滅させるための、ただ一つの魔導書『逆転の書』を完成させるための、部品となっていった。


光の世界で、アシェルが「共有」の理念の下、新しい時代の英雄として輝けば輝くほど、その光に焼かれた影であるサイラスの憎悪は、地下の闇で、より冷たく、より鋭利な、破滅の刃を研ぎ澄ませていく。


対比は――


鮮明だった。


地上の、光。


地下の、闇。


希望と、絶望。


それらが――


同時に、存在していた。


『逆転の書』は、もはや単なる復讐の道具ではなかった。


それは、サイラスという一人の人間の、歪んだ科学的執念と、才能がありながらも道を踏み外した者たちの狂気が結集した、一つの巨大な悪意の結晶と化していた。


その完成の日は、刻一刻と、近づいていた。

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