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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の全盛期58:『逆転の書』の設計

# 第五十八章:『逆転の書』――呪いの短剣の設計


## もう一つの設計――より重要な媒体


秘密研究所「プロメテウス」での研究が軌道に乗る中――


サイラスは一人、自らの私室で、もう一つの、より重要な設計に没頭していた。


「エーテル・リバーサル」という、あまりにも強大で、制御不能な禁術。


この抽象的な理論を、確実に、そしてただ一人――アシェル・ヴァーミリオンという標的にのみ作用させるための、具体的な媒体の設計である。


私室は――


薄暗かった。


机の上には――


羊皮紙が、散乱していた。


インク壺が、置かれていた。


ペンが、転がっていた。


サイラスは――


考えていた。


深く、考えていた。


(……爆弾では芸がない)


サイラスは、心の中で呟いた。


(魔法陣では範囲が広すぎる)


(必要なのは、彼女自身の手で、彼女自身の魂に、直接突き立てられる、呪いの短剣のようなものだ……)


何日もの思索の末――


彼は一つの、悪魔的なまでに完璧な結論にたどり着いた。


「……そうだ」


サイラスは、呟いた。


「魔導書だ」


サイラスの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。


魔導書型の装置。


それこそが、彼の復讐を完成させるための、究極の器だった。


その選択には、いくつもの狡猾な計算が隠されていた。


第一に、偽装。


アシェルは今や、「エーテル時代の申し子」として、新たな学問体系を築こうとしている学者でもある。


栄光の頂点にある彼女に、「失われた古代の叡智が記された書物」として贈れば、彼女がそれを疑うことはまずないだろう。


第二に、起動。


魔導書は、その所有者が「開く」という行為によって、初めてその力を解放する。


つまり、アシェル自身の意志と行動によって、破滅へのスイッチを押させることができるのだ。


これ以上の皮肉な復讐劇はない。


第三に、象徴性。


アシェルが世界に与えたのは、知識と理論という名の光だった。


ならば、同じ知識の象徴である「書物」によって、その光が闇へと反転する様を見せつけることこそが、最も効果的な精神的破壊となる。


「……決まりだな」


サイラスは、呟いた。


「その名は、『逆転の書』」


サイラスは、羊皮紙の上に、震えるような興奮を抑えながら、その禍々しい魔導書の、最初のスケッチを描き始めた。


ペンが、走った。


線が、描かれた。


図が、できていった。


## 悪魔的な発想、力の逆用――歪んだ理解


『逆転の書』の設計思想、その核心にあったのは、サイラスのアシェルに対する、歪んだ、しかし天才的な理解であった。


彼は、アシェルの力の真髄が、彼女の「吸収」と「譲渡」という特異なエーテル循環体質にあることを、誰よりも正確に見抜いていた。


そして、その力を破壊するのではなく、逆用することにこそ、真の復讐があると確信していた。


(……あいつの力は、常に他者との『繋がり』を前提としている)


サイラスは、思った。


(ならば、その繋がりそのものを、破滅へと繋がる呪いの鎖へと変えてやればいい)


サイラスが描いた設計図は、常軌を逸していた。


第一段階:同調と認識。


『逆転の書』の内部には、アシェルのエーテル波形を正確に模倣した、極小の「魂の響板」を埋め込む。


彼女が本を手に取った瞬間、本は彼女を唯一無二の「主」として認識し、同調を開始する。


サイラスは、その仕組みを――


詳細に、設計した。


どのように、エーテル波形を模倣するか。


どのように、同調するか。


すべてを、計算した。


第二段階:吸収能力のハッキング。


彼女が本を開くと同時に、本の内部に刻まれたエーテル・リバーサルの術式が起動。


アシェルの脳が、外界のエーテルを「吸収」するために発する無意識の司令信号をハッキングし、そのベクトルを強制的に180度反転させる。


結果、彼女の**「吸収」能力は、強制的に「放出」能力へと変換される**。


彼女は、自らの意志とは無関係に、体内に蓄積した生命エーテルを、猛烈な勢いで周囲へと撒き散らし始めることになるのだ。


サイラスは――


それを想像した。


アシェルが、苦しむ姿を。


自分のエーテルが、止まらずに放出される姿を。


そして――


微笑んだ。


## 動力源としての自己破壊――永久機関の悪夢


第三段階:動力源としての自己破壊。


そして、ここが最も悪魔的な部分だった。


通常、エーテル・リバーサルのような大規模な術式を起動するには、外部からの莫大なマナ供給が必要となる。


しかし、サイラスの設計は違った。


(動力源は、外部には求めない)


サイラスは、思った。


(アシェル自身を、術式の動力源とするのだ)


『逆転の書』は、アシェルが暴走状態で放出し続ける膨大なエーテルを、自らの術式を維持するための燃料として吸収する。


つまり、アシェル自身が放出したエネルギーによって、彼女自身を破壊する術式が稼働し続けるという、永久機関にも似た、自己破壊のループが完成するのだ。


吸収が放出へ。


そして、その放出が、さらなる吸収(本の)を呼ぶ。


アシェルの魂は、一滴も残らず吸い尽くされるまで、自らを燃料として燃やし続ける。


サイラスは――


設計図を見た。


そこには――


完璧な仕組みが、描かれていた。


すべてが――


計算されていた。


「……完璧だ」


サイラスは、完成した設計図を前に、戦慄した。


これはもはや、単なる魔導具ではなかった。


一人の人間の魂を、その根源から歪め、破滅させるためにだけ存在する、呪いの概念そのものだった。


## 復讐の完成形――歪んだ「共有」


サイラスの憎悪は、ただアシェルを殺すことでは満たされなかった。


彼は、アシェルの能力を歪んだ形で利用し、彼女が信奉する「共有」や「繋がり」という理念そのものを、彼女自身を破壊する凶器へと変えることこそが、真の復讐だと考えていた。


(お前は「分かち合う」ことの美しさを説いたな、アシェル)


サイラスは、心の中で呟いた。


(ならば、その身の全てを、文字通り、世界に「分かち与え」尽くして、塵となって消えるがいい)


(それが、お前の理想の、成れの果てだ)


その夜――


地下研究所に集まった「プロメテウス」のメンバーたちの前に、サイラスは『逆転の書』の偽りの設計思想を、情熱的に語った。


「諸君」


サイラスの声が、響いた。


「これこそが、我々のエネルギー革命の中核となる、『永久エーテル循環装置』の設計図だ!」


研究者たちは――


注目した。


すべての目が、サイラスに向けられた。


「対象者のエーテルを一時的に増幅・放出し、それを再び装置が吸収・循環させることで、無限のエネルギーを生み出す!」


サイラスは、続けた。


「これは、アシェル君の不安定な能力を、科学的に安定させ、人類全体の資産とするための、画期的な発明なのだ!」


研究者たちは、その革新的な(と彼らが信じた)理論に、熱狂した。


「素晴らしい!」


レグルスが、叫んだ。


「これこそが、真のエネルギー革命だ!」


エリアナも、興奮していた。


「アシェルの能力を、誰もが使えるようにする……!」


ルキウスも、頷いた。


「我々は、歴史を変える……!」


誰も、その設計図の真の目的が、無限のエネルギーではなく、無限の絶望を生み出すためのものであることなど、知る由もなかった。


彼らは――


信じていた。


自分たちが、世界を救うと。


しかし、真実は――


違った。


彼らは、世界を破滅させようとしていた。


サイラスに、利用されて。


復讐の道具である『逆転の書』のコンセプトは、こうして固まった。


それは、サイラスの歪んだ知性と、アシェルへの底なしの憎悪が生み出した、史上最悪の魔導書であった。


その制作が、今、静かに始まろうとしていた。

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