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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の全盛期52:禁断の知識の探求

# 第五十二章:禁書庫の迷宮――復讐の設計図


## 新しい日常――光の届かぬ場所


祝祭の熱狂が去ったグランベルク王立学園は、アシェルの提唱した「共有」の理念の下、穏やかで希望に満ちた新しい日常を歩み始めていた。


学園は――


明るかった。


生徒たちは、笑っていた。


授業も、楽しかった。


もう、ティア制度はなかった。


もう、差別はなかった。


しかし、その光の届かぬ地下深くで、一つの魂が過去の栄光にしがみつき、未来への復讐を誓っていた。


サイラスは、まるで亡霊のように、夜の学園を徘徊していた。


彼の顔には――


血の気がなかった。


蒼白だった。


その瞳には、敗北の日に刻まれた憎悪の炎だけが、不気味に燃え盛っている。


彼は、学園の地下構造を誰よりも熟知していた。


かつて学園長の補佐官として、彼はこの巨大な機構の全ての神経回路を、その頭脳に叩き込んでいたのだ。


すべての通路を。


すべての秘密の扉を。


すべての罠を。


知っていた。


夜な夜な、彼は正規のルートを避けていた。


忘れ去られた古い通気口や、秘密の通路を使い、一つの場所を目指していた。


学園の大図書館、そのさらに地下深くにある「禁書庫」。


そして、その中でもごく一部の者しかその存在を知らない、最深部の「アルカナ・サンクトゥム(至聖所)」へ。


そこは――


学園が創設以来、その存在そのものが危険であると判断し、厳重に封印してきた魔導書や遺物が眠る場所だった。


危険な、場所。


禁じられた、場所。


(……アシェル)


サイラスは、心の中で呟いた。


(お前の、あの非論理的な力……)


(絆だの共有だのという、甘ったるい戯言を、根底から覆す、絶対的な力が、このどこかにあるはずだ……)


## 禁書庫の迷宮――自動防衛の罠


アルカナ・サンクトゥムは、単なる書庫ではなかった。


それは、知識を守るために作られた、自動防衛機能を持つ魔法的な迷宮だった。


通路は――


常にその形を変えていた。


昨日通った道が、今日はなかった。


間違った書物に手を触れれば、致死の罠が発動する。


毒の針が飛んでくる。


床が、崩れ落ちる。


炎が、噴き出す。


侵入者の精神を蝕む幻術が、常に霧のように漂っていた。


幻覚が、見えた。


声が、聞こえた。


しかし――


だが、サイラスは、まるで自らの庭を散歩するかのように、その迷宮を躊躇いなく進んでいった。


学園長の元で、彼はこの禁書庫のセキュリティシステムの設計にも関わっていたのだ。


どこに罠があり、どうすればそれを回避できるのか、彼は全てを知り尽くしていた。


サイラスは、静かに歩いた。


右に曲がり。


左に曲がり。


時には、床の特定の場所を避けて。


時には、壁の特定の場所に手を触れて。


罠は――


発動しなかった。


何日も、何週間も、彼はこの闇の図書館に籠り続けた。


睡眠も食事も、最小限に抑えた。


狂気に近い執念で、書物のページをめくり続けた。


本が――


無数にあった。


古い本。


禁じられた本。


危険な、本。


魂を売り渡すことで絶大な力を得る、悪魔召喚の書。


敵対者の存在そのものを歴史から抹消する、忘却の呪法。


死者を使役する、禁断の死霊術。


数多の危険な魔導書が、彼に甘美な囁きを投げかけた。


『私を使え……』


『力を与えよう……』


『望みを叶えよう……』


しかし――


だが、彼の心は動かなかった。


(……足りない)


サイラスは、思った。


(これでは、足りない……!)


(これらは全て、アシェルという『現象』を、論理的に説明できない)


(彼女を打ち破るには、もっと根源的な、世界の法則そのものを覆すほどの力が……!)


サイラスの復讐の手段は、単なる暴力ではなかった。


彼は、アシェルに敗北したあの日から、彼女の力の正体を、必死に理解しようと努めていた。


なぜ、彼女は勝ったのか。


なぜ、自分は負けたのか。


何度も、何度も、考えた。


そして、一つの結論に達したのだ。


アシェルの力は、この世界の物理法則やマナの法則を超えた、もっと高次の「因果」に干渉する力なのではないか、と。


ならば、こちらもまた、同じ土俵で戦うしかない。


因果に――


干渉する力。


それが、必要だった。


## 禁術との邂逅――黒曜石の石板


そして、ある満月の夜。


彼はついに、禁書庫の最も奥まった、埃と時間の匂いに満ちた一角で、求めるものを見つけ出した。


それは――


本ではなかった。


人の背丈ほどもある、一枚の黒曜石の石板。


その表面に、人間のものではない、古代の龍族か、あるいはそれ以前の、失われた種族の文字が、びっしりと刻まれていた。


石板は――


黒かった。


そして、冷たかった。


触れると、指が凍りそうだった。


しかし――


サイラスは、触れた。


そして、読み始めた。


「……これは……」


サイラスは、驚愕した。


「『エーテル幾何学』の原典……!」


サイラスは、学園で学んだ全ての知識を総動員して、その古代文字を解読し始めた。


文字は――


複雑だった。


しかし、サイラスには読めた。


長年の研究が、彼に古代語の知識を与えていた。


そこに記されていたのは、現代のマギアテック理論が、あまりの危険性ゆえに意図的に封印した、禁術『エーテル・リバーサル(エーテル逆行)』の理論だった。


『……エーテルとは、時間の流れに沿って、生命から空間へと放出される不可逆の流れである』


サイラスは、読んだ。


『しかし、もし、極めて強大なマナを用いて、局所的な時空の位相を反転させることが可能ならば、その流れを、一時的にではあれ、『逆流』させることができる……』


その理論は――


驚異的だった。


石板に刻まれた理論は、サイラスの頭脳を痺れさせた。


これは、世界の根幹をなす法則そのものをハッキングする、神をも恐れぬ技術だった。


『……エーテルの逆流は、対象の因果律に直接干渉する』


サイラスは、さらに読んだ。


『過去の出来事を書き換え、未来の可能性を抹消し、そして、存在そのものを、時間の流れから切り離すことさえ可能とする……』


その言葉を読んだ瞬間――


サイラスは、理解した。


これこそが――


求めていた、力。


## 復讐の設計図――完璧な計画


「……これだ……」


サイラスの目に、狂信的な光が宿った。


「これさえあれば……!」


サイラスは、この禁断の知識を前にして、恐怖ではなく、歓喜を感じていた。


彼は、この理論こそが、アシェルという非論理的な存在を打ち破る、唯一無二の、完璧な論理兵器であると確信したのだ。


サイラスは、その場で、自らの復讐の、完璧な設計図を描き始めた。


羊皮紙を広げた。


ペンを取った。


そして――


書き始めた。


第一段階:アシェルの力を利用する。


彼女が「共有」の理念の下で築き上げた、平和で豊かな世界。


その成功が頂点に達した瞬間を待つ。


第二段階:エーテル・リバーサルの術式を、一つの「器」に封じ込める。


それは、誰もが疑うことのない、祝福と栄光の象徴でなければならない。


第三段階:その「器」を、アシェル自身の手に、開かせる。


彼女が、自らの意志で、自らの破滅のスイッチを押すように。


(お前が築き上げた、その美しい世界……)


サイラスは、心の中で笑った。


(その全てが、お前自身の力によって、過去へと逆流し、消え失せていく様を、お前自身の目に見せてやる……)


サイラスの復讐は、もはや単なる個人的な憎悪ではなかった。


それは、アシェルが体現する「共有」や「絆」といった非論理的な価値観に対する、彼の信奉する「論理」と「計算」による、完全な勝利宣言でもあった。


すべてを――


計算した。


すべてを――


設計した。


完璧な、計画。


「待っていろ、アシェル……」


サイラスは、暗闇の中で、まるで愛しい恋人に語りかけるかのように、優しく、そして冷たく、呟いた。


「お前のその偽善に満ちた奇跡を、私の完璧な論理が、根こそぎ消し去ってやる……」


サイラスは、笑っていた。


狂気の、笑い。


その笑い声が――


禁書庫に、響いた。


しかし、誰も――


聞いていなかった。


闇の中で――


サイラスは、復讐の準備を始めた。


物語は、新たな局面へと進んでいく。


サイラスの狂気が――


世界を、脅かす。


アシェルの築いた平和が――


試される。


そして――


運命の時が、近づいていた。


すべてを決する、時が。


物語は、まだ終わらない。


最後の戦いが、待っている。


そして、その戦いは――


時間そのものを巻き込む、壮絶な戦いとなる。

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