エーテルの時代の全盛期50:エーテル時代の申し子
# 第五十章:申し子の宣言――新時代の幕開け
## 一年後――生まれ変わった世界
中央マナ炉の解放から、一年。
グランベルク王立学園、そして王都カストラムは、まるで長い冬から目覚めたかのように、生命力に満ち溢れていた。
街には――
活気があった。
人々は、笑っていた。
子供たちは、走り回っていた。
かつて伏魔殿と呼ばれた学園は、アシェルが提唱した「共有」の理念の下で完全に生まれ変わっていた。
マギアテック技術は、支配の道具から、真に人々を豊かにするための希望の光へと、その姿を変えていた。
学園の建物は――
明るくなっていた。
壁が、塗り直されていた。
花が、植えられていた。
そして――
その集大成となる日が、ついに訪れた。
グランベルク王国建国記念祭。
その祝祭の中心で、アシェルの革命的偉業を讃える、特別な式典が執り行われることになったのだ。
## 集う民衆――垣根のない世界
学園の中央広場には、数万の民衆が集っていた。
その数は――
かつてないほどだった。
人、人、人。
どこを見ても、人だった。
貴族も、平民も、エリート・ティアも、そしてレメディアル・ティアだった者たちも、もはやそこには何の垣根もなかった。
彼らは皆、新しい時代の到来を、等しく祝福するために、ここに集っていた。
広場には――
旗が、掲げられていた。
色とりどりの、旗。
それらが、風になびいていた。
音楽も、流れていた。
楽しい、音楽。
広場に設けられた白亜の演壇には、アレクセイ公爵を始めとする王国の重鎮たちと共に、誇らしげな表情のリアンやカインの姿もあった。
そして、客賓として招かれたケンシンとタケルの姿も。
彼らは皆、この一年間で、それぞれの分野で目覚ましい活躍を遂げていた。
新しい時代の担い手として、人々の尊敬を集める存在となっていた。
リアンは――
カウンセラーとして、多くの生徒を救っていた。
カインは――
研究者として、新しい理論を発展させていた。
ケンシンは――
武術の指導者として、若者たちを育てていた。
タケルは――
大和国との架け橋として、文化交流を推進していた。
そして――
ファンファーレが鳴り響いた。
パァァァァ!
華やかな、音色。
民衆の割れんばかりの喝采の中――
一人の少女が、静かに演壇へと歩み出た。
## 申し子の登場――純白のドレス
アシェル・ヴァーミリオン。
齢十四。
彼女は、もはや「エーテル・ドレインの魔女」でも、「テロリスト」でもなかった。
その小柄な身体には、純白の、質素だが気品に満ちたドレスが纏われていた。
そのドレスは――
シンプルだった。
しかし、美しかった。
その灰色の瞳には、一人の少女の純粋さと、世界を変えた革命家の叡智が、不思議な調和をもって同居していた。
アシェルは――
演壇の中央に立った。
そして――
民衆を、見た。
数万の、人々。
すべてが――
自分を、見ていた。
アシェルは、深く息を吸った。
そして――
## 申し子の宣言――新しい時代の始まり
「――本日、ここに、グランベルク王国の、新しい時代の始まりを、宣言します」
アシェルの、澄み切った声が、魔法の拡声器を通じて、広場全体、そして王国全土へと響き渡った。
その声は――
力強かった。
揺るぎなかった。
「一年前、私たちは深い闇の中にいました」
アシェルは、語り始めた。
「力は独占され、弱い者は搾取され、偽りの秩序の下で、多くの魂が苦しんでいました」
民衆は――
静かに、聞いていた。
一言も、聞き逃すまいと。
「しかし、私たちは諦めなかった」
アシェルの声が、響いた。
「私たちは信じていた」
「力とは、誰かを支配するためにあるのではなく、互いに分かち合うためにこそ、存在するのだと」
民衆の中から――
拍手が起こった。
それは、すぐに広がった。
広場全体に。
アシェルは、この一年間の成果を、力強く語り始めた。
「見てください」
アシェルは、マザー・コアの方を指差した。
「生まれ変わった『マザー・コア』は、もはや誰かの犠牲の上に成り立つものではありません」
「それは、学園に生きる全ての生命のエーテルを調和させ、病める者を癒やし、弱れる者を支える、慈愛の心臓です」
マザー・コアは――
今も、温かな光を放っていた。
黄金色の、光。
それは、見る者に――
安心を、与えた。
「見てください」
アシェルは、続けた。
「廃止されたティア制度の代わりに生まれた、新しい教育システムを」
「そこでは、全ての生徒が、自らの才能と意志に基づいて、自由に学び、成長する機会を与えられています」
「もはや、落ちこぼれなどという言葉は、この学園には存在しません」
彼女の言葉一つ一つに、民衆は熱狂的な歓声で応えた。
「アシェル様!」
誰かが、叫んだ。
「ありがとうございます!」
別の誰かが、叫んだ。
歓声が――
止まらなかった。
## 新たなる書――共鳴する魂
そして、アシェルは、この日のために完成させた、新たなエーテル理論の集大成である、一冊の書物を、高々と掲げてみせた。
その表紙には――
題名が、刻まれていた。
『共鳴する魂――循環と共有の原理について』
その書物は――
分厚かった。
アシェルとカインが、一年かけて完成させたものだった。
「この書には、私が仲間たちとの戦いの中で掴み取った、新しい世界の法則が記されています」
アシェルの声が、響いた。
「エーテルは、奪い合うものではない」
「それは、魂と魂が共鳴し、循環し、共有されることで、無限に増大していく、愛そのものなのです!」
その宣言に――
民衆は、沸き立った。
歓声が、響き渡った。
拍手が、鳴り止まなかった。
## 歴史に刻まれる名――エーテル時代の申し子
その宣言の頂点で――
アレクセイ公爵が、国王の名代として一歩前に出た。
「アシェル・ヴァーミリオンよ!」
公爵の声は、深い感動で震えていた。
その目には――
涙が、浮かんでいた。
「君が成し遂げた偉業は、グランベルク王国の歴史、いや、人類の歴史そのものにおける、偉大なる一歩である!」
「君は、マギアテックに、新しい魂を吹き込んだ!」
公爵は、一呼吸置いた。
そして――
「よって、グランベルク王家は、君に、新たなる称号を授与する!」
「その名は――」
公爵は、高らかに宣言した。
「**『エーテル時代の申し子』**と!」
その瞬間――
広場は、地響きのような歓声と、鳴り止むことのない拍手に包まれた。
「アシェル様!」
「エーテル時代の申し子!」
「万歳!」
「万歳!」
数え切れないほどの色とりどりの花びらが、空に舞った。
それは――
美しかった。
まるで、虹のように。
祝福の鐘が、王都の隅々にまで鳴り響いた。
カァァァン、カァァァン。
その音は――
荘厳だった。
アシェルの偉業は、頂点を迎えた。
「エーテル時代の申し子」として、歴史にその名を永遠に刻むことになったのだ。
彼女を中心に、世界は新しい時代へと、確かに歩み始めていた。
アシェルは――
涙を流していた。
嬉し涙だった。
リアンも、泣いていた。
カインも、目を潤ませていた。
ケンシンは、微笑んでいた。
タケルは、拳を高く掲げていた。
「アシェル!よくやった!」
仲間たちが――
アシェルを、称えた。
民衆も――
アシェルを、称えた。
王国全体が――
アシェルを、称えた。
新しい時代が、始まった。
希望に満ちた、時代が。
そして――
アシェルの物語は、新たな章へと進んでいく。
しかし、まだ――
終わらない。
物語は、続く。
なぜなら――
この世界には、まだ――
闇が、残っているから。
サイラスが、どこかに潜んでいるから。
しかし、今は――
祝福の時だった。
喜びの時だった。
新しい夜明けを、祝う時だった。
そして、アシェルは――
確かに、笑っていた。
仲間たちと共に。
未来を、見つめながら。




