表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/262

エーテルの時代の幕開け49:新時代の幕あけ

# 第四十九章:新たな夜明け――改革の始まり


## 奇妙な静寂――解放の後に


学園長オルティウスとサイラスという、学園を蝕んでいた二つの巨大な悪が去った後――


中央制御室には、奇妙な静寂が訪れていた。


解放されたことへの安堵感。


そして、これから何をすべきかという、途方もない戸惑い。


それらが、混ざり合っていた。


壁一面のマナ・スクリーンは、アシェルによって書き換えられた新しいプログラム――**「エーテル分配・共有システム」**の稼働を示す、穏やかな青色の光を放っていた。


その光は――


温かかった。


優しかった。


地下に囚われていた数百の魂は、もはやエネルギーとして搾取されることなく、癒やしのエーテルを受け取り、静かな眠りについていた。


苦痛は――


もう、なかった。


しかし――


だが、地上の学園は、大混乱の渦中にあった。


絶対的な支配者であった学園長は、姿を消した。


その下で権力を濫用していた龍人族の上位ティアや、買収されていた者たちは、拠り所を失っていた。


そして――


狼狽していた。


「……学園長閣下は、どこへ行かれたのだ……!?」


アーコン・ティアであったドラゴ・シルヴァリオンは、叫んでいた。


自らの信じていた権力の源泉が、一夜にして砂上の楼閣のように崩れ去った現実を、受け入れられずにいた。


彼の顔は――


蒼白だった。


汗が、流れていた。


「……これから、俺たちは、どうなるんだ……?」


学園長に忠誠を誓い、仲間を裏切ってきた苦学生マルクスは、罪悪感と将来への不安に打ちひしがれていた。


彼は、自室に閉じこもっていた。


誰にも、会おうとしなかった。


伏魔殿は、その主を失い、瓦解した。


だが、残されたのは――


秩序を失った混乱と、行き場のない無数の魂たちだった。


## 王国からの使者――公正なる調査


その混乱を収拾するため――


グランベルク王国の首都から、一団の使者が学園へと派遣された。


馬車が、到着した。


立派な、馬車。


王国の紋章が、刻まれていた。


彼らを率いていたのは、国王の実弟であり、王国の宰相を務めるアレクセイ・フォン・グランベルク公爵。


公正さと知性で知られる彼は、クラル王の名代として、この前代未聞の事態の調査と鎮静化にあたるため、学園に乗り込んできたのだ。


アレクセイ公爵は――


中年の男性だった。


その顔は、厳格だった。


しかし、その目には――


優しさがあった。


アレクセイ公爵は、まず、解放戦線のアジトとなっていた古い管理棟で、アシェルと直接会見した。


部屋には――


アシェル、ケンシン、タケル、リアン、カインがいた。


そして、アレクセイ公爵と、その側近たちが入ってきた。


アレクセイ公爵は、アシェルを見た。


彼は、目の前の、まだ十三歳の、華奢な少女が、この巨大な学園を根底から揺るがした革命の中心人物であるという事実を、冷静に、そして驚きをもって受け止めていた。


「アシェル・ヴァーミリオン君」


公爵の声は、威厳がありながらも、穏やかだった。


「君が成し遂げたことは、王国に対する反逆と見なすこともできる」


アシェルは――


緊張していた。


しかし、その目は――


揺るがなかった。


「しかし、君が暴いた真実、そして君が掲げる理念には、我々も耳を傾けるべき、重大な価値があると感じている」


公爵は、アシェルから事の全貌を聞いた。


アシェルは、すべてを話した。


学園長の計画。


中央マナ炉のシステム。


囚われていた人々。


すべてを。


公爵は、中央マナ炉の非人道的なシステムを、自らの目で確認した。


地下へと降りた。


そして、見た。


かつて「生体電池」として使われていた場所を。


公爵は、学園長オルティウスの王国転覆計画の証拠を、目の当たりにした。


文書を、読んだ。


記録を、見た。


そして――


深く、沈黙した。


「……なんと、恐ろしいことが、この聖なる学び舎で……」


公爵の声は、震えていた。


怒りで、震えていた。


## 認められた理念、始まる改革――歴史的決断


数日間にわたる徹底的な調査の末――


アレクセイ公爵は、グランベルク王の名の下に、一つの歴史的な決断を下した。


王宮に設けられた臨時評議会の席で、彼は王国全土に向けて宣言した。


広間には――


多くの貴族たちが集まっていた。


そして、マナ・スクリーンを通じて、王国中に放送されていた。


「グランベルク王立学園における、旧体制の終焉を、ここに宣言する!」


公爵の声が、響き渡った。


力強い、声。


「学園長オルティウスが推し進めていた非人道的な計画は、王家への裏切りであり、断じて許されるものではない!」


「そして……」


公爵は、壇上の脇に立つアシェルに、深く敬意を払った。


頭を、下げた。


「……この腐敗を白日の下に晒し、『力は共有されるべきである』という、新たな時代の理念を示してくれた、アシェル・ヴァーミリオン君と、エーテル解放戦線の諸君の勇気に、王国は、心からの感謝と敬意を表する!」


その瞬間――


広間中が、どよめいた。


そして――


拍手が、起こった。


最初は、数人から。


しかし、すぐに――


広間全体に、広がった。


アシェルの理念は、ついに王国に公式に認められたのだ。


アシェルは――


涙を流していた。


嬉し涙だった。


リアンも、泣いていた。


ケンシンは、静かに微笑んでいた。


タケルは、拳を握りしめていた。


カインは、安堵のため息をついていた。


その宣言と共に、学園の運営とマギア運用の根本的な改革が始まった。


アレクセイ公爵の監督の下、アシェルと解放戦線のメンバーが中心となり、新しい学園の姿が、一つ、また一つと、形作られていった。


## マザー・コア――癒やしのシステム


まず、中央マナ炉は、アシェルの設計通り、**「エーテル循環・福祉機関『マザー・コア』」**として再編された。


それはもはや、エネルギーを搾取する装置ではなかった。


学園全体の生命エーテルを調和させ、病める者や弱れる者に癒やしを分配する、巨大なヒーリングシステムとなった。


その中心には――


大きな水晶が置かれた。


それは、エーテルを蓄積し、分配する核だった。


温かな光を、放っていた。


「生体電池」にされていた人々も、丁重に解放された。


家族の元へと帰る者。


あるいは、自らの意志でシステムの維持管理に協力する者。


それぞれの新しい人生を歩み始めた。


ティア制度もまた、抜本的に見直された。


絶対的な階級制度は、廃止された。


個々の才能と意志に基づいて、より柔軟に専門分野を選択できる、新しい教育システムが導入された。


レメディアル・ティアも、「特別才能研究クラス」と改称された。


アシェルのような規格外の才能を、早期に発見し、育成するための機関として、生まれ変わった。


## 新たなエーテル理論の体系化――地道な作業


「……すごい」


リアンは、生まれ変わった学園の、希望に満ちた光景を前に、涙を浮かべていた。


「本当に、世界が変わり始めている……」


学園は――


明るくなっていた。


生徒たちの表情が、明るかった。


笑顔が、増えていた。


だが、アシェルの仕事は、まだ終わっていなかった。


「……本当に大切なのは、これからよ」


アシェルは、アレクセイ公爵から与えられた、新しい研究室で、新たなエーテル理論の体系化に着手していた。


それは、彼女が自らの魂と、仲間たちとの絆を通じて掴み取った、全く新しい世界の法則を、学術的な言葉へと翻訳し、次世代へと継承していくための、地道で、しかし何よりも重要な作業だった。


研究室には――


大きな机があった。


そして、本棚が、壁一面に並んでいた。


彼女の机の上には、数え切れないほどの羊皮紙が広げられていた。


『論文:エーテルの共鳴と共有に関する基礎理論』


『第一章:個体エーテルと集合的エーテルの相互作用について』


『第二章:「譲渡」と「吸収」の循環メカニズム』


文字が――


びっしりと、書かれていた。


図も、描かれていた。


複雑な、図。


ケンシンは、時折その研究室を訪れた。


アシェルの護衛と、そして話し相手を務めるために。


「……相変わらず、難しい顔をしちょるな」


ケンシンが、言った。


アシェルは、顔を上げた。


その顔には――


インクが、ついていた。


「……当たり前でしょ」


アシェルは、少しだけ笑った。


「世界を変えるのは、戦うことより、ずっと大変なんだから」


カインは、彼女の最も信頼できる研究パートナーとなった。


その膨大な知識で、彼女の直感的な理論に、学術的な裏付けを与えていった。


二人は、毎日――


遅くまで、研究を続けた。


## それぞれの未来へ――新しい道


革命を終えた仲間たちもまた、それぞれの新しい道を歩み始めていた。


リアンは、その類稀なる共感能力を活かし、新しい学園のカウンセラーとしての道を歩み始めた。


心に傷を負った生徒たちに寄り添う。


その魂を、癒やす。


それが、彼女が見つけた、自分だけの戦い方だった。


リアンの部屋には――


毎日、多くの生徒が訪れた。


そして、リアンは――


優しく、話を聞いた。


タケルは、SATUMAの仲間たちと共に、大和国へと一時帰国することを決めていた。


「わいは、この国で、ぎょうさん大事なことを学んだ」


タケルは、言った。


「こん経験ば、故郷の若者たちにも、伝えてやらんといかん」


彼らの顔には、グランベルクに来た時のような、ただの若武者のやんちゃさではなかった。


世界を知った男の、自信と責任感が宿っていた。


そして、サイラスは……


彼の行方は、誰にも分からなかった。


学園長を刺した後、彼は混乱の渦に紛れ、完全に姿を消していた。


彼がどこで、何を思い、そして次なる復讐の刃を研いでいるのか。


その不気味な影だけが、この輝かしい新時代の幕開けに、唯一の不安の種として、残されていた。


しかし――


アシェルたちは、前を向いていた。


未来を、見ていた。


物語は、一つの大きな戦いを終えた。


そして、登場人物たちは、それぞれの新しい人生を歩み始めた。


希望に満ちた、未来へと。


しかし、その平和の裏側で、新たな悲劇の種が、静かに蒔かれていることを、まだ誰も知らない。


アシェルの築いた楽園は、彼女自身が想像もしなかった形で、再び試されることになる。


だが、今は――


平和だった。


希望が、あった。


新しい夜明けが、訪れていた。


革命は、成功した。


そして、新しい時代が、始まった。


物語は、いよいよ次なる章へと進んでいく。


アシェルの戦いは、まだ終わらない。


しかし、今は――


休息の時だった。


仲間たちと共に。


未来を、夢見る時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ