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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け48:二人の悪魔

# 第四十八章:システムの解放――そして裏切りの刃


## 壮絶な戦場――圧倒的な力の差


中央制御室は、壮絶な戦場と化していた。


学園長オルティウスが最後の切り札として投入した、十体のプロトタイプ、タイタン・ゴーレム「イカロス」。


その圧倒的な破壊力の前に、エーテル解放戦線は苦戦を強いられていた。


ドシン、ドシン、ドシン。


ゴーレムたちの足音が、響いた。


床が、揺れた。


天井から、埃が落ちてきた。


ケンシンの木刀が、振るわれた。


シュッ!


鋭い風切り音。


しかし――


ガキィィィン!


分厚い装甲に、弾かれた。


火花が、散った。


「くっ……!」


ケンシンが、後退した。


手が、痺れていた。


タケルも、攻撃した。


「チェストォォォ!」


渾身の一撃。


全身全霊の、一撃。


ドガァァァン!


ゴーレムの装甲に、当たった。


しかし――


その巨体を、僅かに揺らすことしかできなかった。


ゴーレムは――


止まらなかった。


「無駄だと言ったはずだ」


学園長は、玉座から戦況を見下ろしていた。


そして、冷ややかに呟いた。


「君たちの感情的な抵抗など、計算され尽くした私の力の前に、何の意味も持たん」


学園長の声は――


勝利を確信していた。


しかし――


彼は、見誤っていた。


アシェルが持つ力の、本当の恐ろしさを。


## 共有の力――魂の奔流


「……みんな、私に力を……!」


アシェルは、戦場の中心で静かに祈った。


その声は――


優しかった。


しかし、その声には――


確固たる意志があった。


彼女の魂は、仲間たち一人一人の魂と共鳴した。


ケンシンの不屈の闘志。


タケルの破壊衝動。


リアンの慈愛。


カインの知性。


戦いの恐怖。


仲間を想う愛情。


そして、この不正義への怒り。


その全ての感情エーテルを、自らの内に受け入れていた。


アシェルの身体が――


光り始めた。


黄金色の、光。


それは――


眩しかった。


制御室全体を、照らしていた。


「これが……」


アシェルの声が、響いた。


「私たちの……」


「『共有』の力よ!」


その瞬間――


アシェルの身体から放たれた黄金色の奔流は、もはや単なるエネルギーではなかった。


それは、「独占」に対する「共有」の理念そのものの顕現だった。


ゴォォォォォォ!


凄まじい音が響いた。


光の奔流が――


ゴーレムたちに向かった。


そして――


触れた。


ジュゥゥゥゥ……


光が、イカロス・ゴーレムの装甲を、まるでバターのように溶かしていった。


装甲が、崩れていく。


溶けていく。


機械的なシステムは、魂の絆が生み出す、予測不可能な力の前に、対応できずにいた。


一体、また一体。


ゴーレムが、倒れていった。


「馬鹿な……!?」


学園長が、初めて狼狽の声を上げた。


「私の完璧な計算が……!」


学園長は――


信じられなかった。


自分の作ったシステムが。


自分の計算が。


破られていく。


その時――


彼の背後で、瓦礫の山と化していたゴーレムの残骸の下から、一つの影が音もなく起き上がっていた。


サイラスである。


先の戦いでアシェルに敗れた彼は、その場に倒れ伏しているふりをしながら、漁夫の利を得るため、この瞬間を待っていたのだ。


その目は――


狂気に満ちていた。


## システムの解放――理念の勝利


「……システムは、破壊しない」


最後のイカロスを無力化したアシェルは、中央マナ炉の巨大なマナ凝縮装置の前に立った。


その装置は――


巨大だった。


そして、不気味な光を放っていた。


脈動する、光。


「この力は、誰か一人が独占するから、歪む」


アシェルは、装置に近づいた。


そして、静かに言った。


「だから……」


アシェルは、装置にそっと手を触れた。


その手は――


温かかった。


そして、自らの魂の全てを込めて、システムの構造そのものを、内側から書き換え始めた。


エーテルが――


装置の中に流れ込んでいった。


黄金色の、エーテル。


それは――


装置全体に、広がっていった。


「……みんなで、分かち合う」


その瞬間――


凄まじい光が、制御室全体を包み込んだ。


目を開けていられないほどの、光。


学園のエネルギーを独占し、地下の犠牲者の生命を搾取し続けていた「中央マナ炉」が――


「全住民にエーテルを平等に分配し、心身の健康を支える、巨大な福祉機関」へと、その機能を根本から作り変えられた瞬間だった。


装置の色が――


変わっていった。


青白い光から、温かな黄金色の光へ。


地下のカプセルに囚われていた数百の魂は、苦痛から解放され、穏やかな眠りへと誘われていった。


アシェルの理念が、学園長の野望に、完全に勝利したのだ。


## 悪魔たちの終焉――裏切りの刃


「……見事だ、アシェル君」


学園長は、崩れ落ちる自らの野望を前に、玉座に深く腰掛けた。


そして、力なく呟いた。


「私の、負けだよ」


その顔には、長年君臨してきた支配者としての威厳は消え失せていた。


ただの老人のような、深い疲労が刻まれていた。


だが――


その背後に忍び寄る影に、彼は気づかなかった。


サイラスが――


静かに、近づいていた。


足音を、立てずに。


その手には――


瓦礫の中から拾い上げた、強化警備ゴーレムの振動ブレードが握られていた。


そして――


「その通りだ、爺さん」


冷たい声と共に――


ザシュッ!


鋭い痛みが、学園長の背中を貫いた。


サイラスが、無防備な学園長の背中を、深々と突き刺していたのだ。


「ぐ……っ……!?」


学園長は、信じられないといった表情で振り返った。


血が――


口から、溢れ出た。


「……サイラス……」


学園長の声は、震えていた。


「貴様……!」


「私の、駒の分際で……!」


「駒、だと?」


サイラスは、耳元でせせら笑った。


その瞳には、もはや以前の野心家の光はなかった。


全てを破壊し尽くす、虚無的な狂気が宿っていた。


「あんたの時代は終わりだ」


サイラスの声は、冷たかった。


「あんたの築いたシステムも、あんたの描いた未来も、そしてあんた自身もな」


サイラスは、ブレードを容赦なく抉った。


グリッ、グリッ。


嫌な音がした。


「ぐあああああっ!」


学園長が、悲鳴を上げた。


「あんたはアシェルに負けた」


サイラスは、続けた。


「だが俺は、あんたにすら負けた覚えはねえ」


「俺は、あんたのチェス盤そのものを、ひっくり返しに来たんだよ」


学園長は、口から血を流しながら、サイラスを睨みつけた。


その目には――


まだ、憎悪があった。


「……愚かな……小僧が……」


学園長の声は、弱々しかった。


「私を殺したところで……お前にも、未来など……」


「未来?」


サイラスは、笑った。


狂気の、笑い。


「そんなものに興味はない」


サイラスは、ブレードを引き抜いた。


ズルッ。


血が、噴き出した。


そして――


学園長の身体を、玉座から蹴り落とした。


ドサッ。


学園長が、床に倒れた。


「俺が欲しいのは、勝利でも支配でもない」


サイラスの声が、響いた。


「……お前たち『持てる者』全員が、俺と同じ絶望の底に沈む光景だ」


サイラスは、血に濡れたブレードを捨てた。


ガシャン。


金属音が響いた。


そして、アシェルの方へ向き直った。


その顔には、勝利の喜びではなかった。


全てを嘲笑うかのような、歪んだ笑みが浮かんでいた。


「さて、偽善者の聖女様」


サイラスの声は、嘲笑に満ちていた。


「お前の描く『共有』の楽園も、今日で終わりだ」


「せいぜい、俺がこれから作る地獄を楽しむといい」


そう言うと――


サイラスは、学園長が用意していた隠し通路へと、影のように姿を消した。


彼の目的は、アシェルに勝利することではなかった。


学園長をも裏切り、アシェルにも敗北の屈辱を味合わせ、そして自分自身も破滅する。


それこそが、彼の歪んだプライドが求めた、最後の復讐だったのだ。


## 孤独な最期――マキャベリストの末路


「……は……はは……」


床に倒れた学園長は、血の海の中で、弱々しく笑っていた。


しかし、その笑いには――


どこか、満足そうな響きがあった。


「面白い……」


「最後の最後に、自分が育てた犬に……噛まれるとはな……」


学園長は、呟いた。


「これぞ、マキャベリストの、末路か……」


「見事な……裏切りだ、サイラス……」


アシェルやケンシンたちは、あまりの凶行に、一瞬動きを止めていた。


両者ともに、悪人の極み。


互いを利用し、裏切り、そして破滅していく様は、彼らが信じる正義とはあまりにもかけ離れた、救いのない地獄絵図だった。


学園長は、最後の力を振り絞った。


そして、這うようにして、別の隠し通路へと向かった。


ズル、ズル。


血の跡が、床に残った。


「……私は……まだ……死なん……」


学園長の声は、弱々しかった。


「この屈辱……いつか必ず……」


学園長は、通路の中に消えていった。


その姿は――


哀れだった。


だが、彼の野望が再び叶うことはなかった。


瀕死の学園長は、どこか遠くへ逃げた。


見知らぬ土地の片隅で。


誰にも看取られることなく、ひっそりと息を引き取った。


その亡骸は、やがて埃に覆われた。


壁を伝う地下水に濡れた。


長い年月をかけて、自然の摂理に身を任せ、朽ちて土へと還っていった。


マギアテックの頂点を目指した男の、あまりにも皮肉で、そして孤独な最期であった。


制御室には――


沈黙が、訪れた。


革命は――


成功した。


しかし――


サイラスは、逃げた。


そして――


新たな脅威が、生まれた。


物語は、まだ終わらない。


最後の戦いが、待っている。

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