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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け44:光の道――戦場の女神

神々の回廊――最後の砦


サイラスの誇る警備ゴーレム部隊「アルゴス」が沈黙し、エーテル解放戦線の進撃を阻むものは、もはや存在しないかに見えた。


しかし――


学園長オルティウスが築いた伏魔殿の守りは、それほど甘くはなかった。


中央マナ炉へと続く最後の回廊――


通称「神々の回廊」。


そこで、彼らを待ち構えていたのは――


学園が誇る最強戦力だった。


アーコン・ティアとエリート・ティアから選抜された、学園正規魔術師団。


その数――


およそ二百名。


圧倒的な、戦力だった。


彼らのリーダーは、学園長の最も忠実な傀儡と化した、龍人族のドラゴ・シルヴァリオン。


彼の顔には――


アシェルたちへのあからさまな侮蔑と、自らが学園の秩序を守る最後の砦であるという、歪んだプライドが浮かんでいた。


「来たか、反逆者ども」


ドラゴは、回廊の奥、一段高くなった壇上から、解放戦線のメンバーたちを見下ろした。


その声は――


傲慢だった。


勝利を、確信していた。


「君たちの、子供じみた正義ごっこも、ここで終わりだ」


ドラゴは、腕を広げた。


「学園の、いや、王国の神聖なる秩序を乱す者は、我らエリートが、その力の差を以て、断罪する!」


その言葉を合図に――


二百名の魔術師たちが、一斉に魔法の詠唱を開始した。


回廊全体に、詠唱の声が響き渡った。


古代語で紡がれる、呪文。


それが、重なり合った。


回廊の空気が、ビリビリと震えた。


マナが、集中していた。


色とりどりの、しかしその全てが致命的な威力を持つ、無数の魔法陣が宙に浮かび上がった。


炎の嵐。


氷の槍。


雷の網。


それらが一斉に放たれれば、解放戦線のわずか数十名のメンバーなど、一瞬にして塵芥と化すだろう。


「くそっ……!」


ケンシンが、絶望的な表情で木刀を構えた。


「防ぎきれん……!」


SATUMAの物理的な突破力も、これほど高密度な魔法の弾幕の前では、無力に等しかった。


タケルも、拳を握りしめた。


しかし――


どうすることもできなかった。


数が、多すぎた。


火力が、強すぎた。


絶体絶命。


誰もが、死を覚悟した。


## 戦場の女神、覚醒――静かなる確信


その瞬間――


「……みんな、私の後ろへ」


アシェルの、静かだが、不可思議なほどに落ち着き払った声が、響き渡った。


彼女は、仲間たちの前にゆっくりと進み出た。


そして――


両目を、閉じた。


「アシェル!?」


リアンが、叫んだ。


「危ない!」


しかし――


アシェルは、動じなかった。


ただ、静かに――


立っていた。


(……聞こえる)


アシェルは、心の中で呟いた。


(見える……)


彼女の意識は、もはや目前の脅威には向いていなかった。


その覚醒したエーテル感知能力は――


敵の魔術師たちが放つ、膨大なマナの流れ、その一つ一つの軌道、速度、そして威力を、まるで掌を指すかのように、完全に、そして正確に、読み取っていた。


二百の魔法。


それぞれが、異なる軌道を描く。


それぞれが、異なる速度で飛んでくる。


しかし――


アシェルには、すべてが見えていた。


(……流れが、多すぎる)


アシェルは、分析した。


(でも……道は、ある)


すべての攻撃の間に――


わずかな隙間があった。


魔法と魔法の間に、攻撃が届かない空間があった。


それは、ほんのわずかな空間。


しかし――


確かに、存在していた。


「何をこそこそと!」


ドラゴが、叫んだ。


そして、最初の攻撃命令を下した。


「――放てッ!」


## 魔法の奔流――色とりどりの死


二百の魔法が――


一斉に、解き放たれた。


ゴォォォォォォォッ!


空間を引き裂く轟音が響いた。


色とりどりの死の光線が、アシェルという一点を目指して、殺到した。


赤い炎。


青い氷。


黄色い雷。


緑の風。


すべてが――


アシェルに向かってきた。


その光景は――


圧倒的だった。


まるで、自然災害のように。


避けられるはずがなかった。


防げるはずがなかった。


誰もが――


そう思った。


しかし――


その、あまりにも絶望的な光景を前にして、アシェルは、ただ静かに、その両腕を、ゆっくりと広げた。


まるで――


何かを、抱きしめるかのように。


そして――


## 光の道――奇跡の軌跡


信じられないことが起こった。


殺到していた魔法の奔流が――


アシェルの数メートル手前で、まるで目に見えない巨大な岩にぶつかった川の流れのように、左右へと分かれていったのだ。


炎は炎の軌跡を描きながら。


氷は氷の軌跡を描きながら。


アシェルを、そして彼女の後ろにいる仲間たちを、完璧に避けるようにして、背後の壁へと着弾した。


ドガァァァン!


ドガァァァン!


ドガァァァン!


轟音と共に、爆発した。


破片が、飛び散った。


煙が、立ち上った。


しかし――


アシェルと仲間たちには、傷一つなかった。


「な……なんだと……!?」


ドラゴが、信じられないといった表情で目を見開いた。


「……バリアか!?」


「いや、違う!」


「マナの反応がない!」


「一体、何が……!」


ドラゴは、混乱していた。


理解できなかった。


アシェルは、バリアなど張ってはいなかった。


彼女は、エーテルの奔流を制御し、敵の魔術師たちが放つ攻撃魔法の軌道そのものを、僅かに、しかし確実に逸らしていたのだ。


川の流れに、一本の杭を打つように。


彼女の意志の力が、マナの流れという物理法則を、根底から捻じ曲げていた。


だが――


彼女の真の力は、それだけではなかった。


「……みんな、見て」


アシェルの瞳が、黄金色に輝いた。


その輝きは――


神々しかった。


彼女が、攻撃が逸れてできた、安全な空間を指差すと――


そこに、淡い光の粒子が、一本の道のように、浮かび上がった。


まるで――


天使が、道を示しているかのように。


「あの光の軌跡の上だけが、安全な道よ」


アシェルの声は、静かだった。


しかし、その声には――


絶対的な確信があった。


「そこを通れば、敵の攻撃には当たらない」


彼女はもはや、単なる支援役ではなかった。


戦場全体を支配する、戦術の女神と化していた。


敵の攻撃の未来を予測し、その中に、味方が進むべき唯一の活路を、光の軌跡として示す。


それは、神の領域に等しい、驚異的な能力だった。


「……行けっ!」


ケンシンは、一瞬の驚愕の後、即座に叫んだ。


「アシェルの道を、信じろ!」


## 希望の象徴――女神に導かれし者たち


解放戦線のメンバーたちは、半信半疑ながらも、アシェルが示した光の道へと、一斉に駆け出した。


その足は――


最初、恐れていた。


しかし――


信じることにした。


アシェルを、信じた。


すると――


奇跡が起こった。


彼らの左右を、頭上を、凄まじい威力の魔法が掠めていった。


炎が、髪を焦がしそうなほど近くを通った。


氷が、頬を撫でるように通り過ぎた。


雷が、耳元で爆ぜた。


しかし――


光の道の上にいる限り、そのどれ一つとして、彼らの身体に触れることはなかった。


完璧だった。


寸分の狂いもなかった。


「す、すげえ……!」


タケルが、興奮と畏怖の入り混じった声を上げた。


「本当に、当たらない……!」


タケルは、走りながら驚いていた。


左右を、魔法が通り過ぎていく。


しかし、当たらない。


まるで――


見えない壁に守られているかのように。


この、あまりにも神々しい姿は――


敵であるはずの魔術師団の、そして、遠巻きに戦況を見守っていた一般生徒たちの心をも、動かし始めていた。


「……あれは……何……?」


ドラゴの部下である、一人の若い龍人族の魔術師が、震える声で呟いた。


その目には――


畏怖の念があった。


「……まるで、伝説に出てくる、戦の女神のようだ……」


彼は、攻撃の手を止めていた。


無意識に。


一般生徒たちが集まる避難区画でも、マナ・スクリーンに映し出されたその光景に、どよめきが起こっていた。


「レメディアルの……アシェルが……」


誰かが、呟いた。


「たった一人で、二百人のエリート部隊を……?」


別の誰かが、信じられないという声で言った。


「見て……」


また別の誰かが、指差した。


「彼女、仲間を守っている……」


「自分の身を盾にして……」


その光景は――


美しかった。


痛々しいほどに、美しかった。


彼らの心に、初めて、疑問の種が蒔かれた。


学園が「テロリスト」と断じたあの少女が、なぜ、これほどまでに英雄的に、そして自己犠牲的に戦っているのか。


本当に邪悪なのは、一体、どちらなのだ、と。


アシェルの戦いは、もはや単なる戦闘ではなかった。


それは、彼女が解放戦線の、そしてこの腐敗した学園の、唯一無二の希望の象徴となっていく過程そのものであった。


## 恐怖と畏敬――崩れゆく意志


「……撃て!」


ドラゴが、焦燥に駆られて怒鳴った。


「撃ち続けろ!」


「何をしている!」


しかし――


魔術師たちの心には、既に恐怖と、そしてアシェルへの畏敬の念が芽生え始めていた。


彼らの魔法の精度は、明らかに落ちていた。


手が、震えていた。


詠唱が、乱れていた。


恐れていた。


あの少女を。


その隙を、解放戦線は見逃さなかった。


「今だ!」


ケンシンが、叫んだ。


「アシェルの道を駆け抜けろ!」


ケンシンとタケルを先頭に、解放戦線のメンバーは、光の道を突き進んだ。


その姿は――


勇ましかった。


まるで、聖戦士のように。


彼らはもはや、ただの反逆者ではなかった。


女神に導かれた、聖なる戦士たちだった。


「チェストォォォォ!」


SATUMAの雄叫びが、響き渡った。


彼らは、魔術師団の隊列に突入した。


そして――


戦いが、始まった。


しかし、もう――


勝敗は、決していた。


魔術師たちの心は、既に折れていた。


アシェルの覚醒した力が、攻撃と防御の両面で絶大な効果を発揮することを見せるクライマックス的な戦闘シーン。


それは、物語が、ついにシステムの心臓部へと到達する、最終局面の始まりを告げる、壮麗な狼煙であった。


彼女の光は、やがてこの学園の、全ての闇を照らし出すことになるだろう。


そして――


真の夜明けが、訪れる。


革命は、完成へと向かっていた。


運命の時が、近づいていた。

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