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冒険者適性Aランク でも俺、鍛冶屋になります  作者: むひ
アシェルの章

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エーテルの時代の幕開け43:システムの鎧を剝がせ

鉄の軍勢――絶望的な物量


第三補助動力室を制圧したエーテル解放戦線。


その勝利の報は、しかし、学園中枢にとっては予測されたシナリオの一部に過ぎなかった。


彼らの前進を阻むように――


中央マナ炉へと続く大回廊で待ち構えていたのは、絶望的なまでに巨大な、鉄の軍勢だった。


「……新型か」


ケンシンが、狭い通路の先の広大な空間を睨みつけ、低く唸った。


その先には――


大回廊が広がっていた。


そして、そこに――


整然と隊列を組んでいた。


ゴーレムたち。


しかし、それは――


これまでに遭遇した旧式の警備ゴーレムとは明らかに次元の違う、最新式の警備ゴーレム部隊だった。


その数――


およそ百体。


圧倒的な、数だった。


全身は、マナの光を鈍く反射する滑らかな黒色の装甲で覆われていた。


その表面は、完璧だった。


傷一つ、なかった。


その関節部分には、一切の隙間が見当たらなかった。


両腕には――


高出力のマナ・キャノンと、超硬度合金で作られた振動ブレードが装備されていた。


それらは、明らかに――


旧式とは、比較にならない武装だった。


そして、何より不気味なのは――


その頭部に埋め込まれた、単一の赤いカメラアイが、まるで一つの意志の下にあるかのように、完全に統制された動きで、侵入者たちを捉えていることだった。


百の赤い目が――


一斉に、こちらを見ていた。


「……ようこそ、解放戦線の諸君」


ゴーレム部隊の後方、一段高くなった司令デッキから、スピーカーを通した冷たい声が響き渡った。


その声は――


サイラスのものだった。


そこに立っていたのは、学園長の補佐官として、今やこの地下施設の警備システム全般を指揮する立場となった、サイラスだった。


彼は、まるで観客に演目を紹介する司会者のように、優雅に腕を広げてみせた。


その仕草は――


傲慢だった。


勝利を、確信していた。


「紹介しよう」


サイラスの声が、響いた。


「我が設計した、最新鋭防衛システム『アルゴス』だ」


「一体一体が、アデプト・ティアの騎士に匹敵し、百体がネットワークで連携することで、いかなる侵入者をも完璧に排除する」


「君たちの、時代遅れの友情ごっこなど、この合理的なシステムの前に、何の意味も持たんことを、教えてやろう」


その傲慢な宣言と同時に――


百体のゴーレムの赤い目が、一斉にアシェルたちをロックオンした。


ブゥン。


低い駆動音が、大回廊に響き渡った。


それは――


まるで、獣の唸り声のようだった。


「くそっ、数が多すぎる!」


タケルが、思わず悪態をついた。


一体一体でさえ、強敵だというのに――


それが、百体。


しかも、完璧に連携して襲いかかってくる。


まともに戦えば、こちらが消耗しきる前に殲滅されるのは、火を見るより明らかだった。


## 手詰まり――未知の敵


「下がれ!」


ケンシンが、叫んだ。


一行は、咄嗟に通路の影へと身を隠した。


直後――


彼らがいた場所に、数十発のマナ・キャノンが着弾した。


ドガァァァン!


爆音が響いた。


壁が、大きく抉られた。


破片が、飛び散った。


もし、避けていなければ――


全滅していただろう。


「どうする、カイン!」


ケンシンが、思念のエーテル・リンクを通じて参謀に問いかけた。


「弱点は!?」


しかし――


カインからの返事は、絶望的だった。


「……ダメだ、設計データがない!」


カインの、焦りの声が返ってきた。


「これは、公式に記録されていない、完全に新型の機体だ!」


「どこに弱点があるのか、俺の知識では……!」


カインの声は、震えていた。


これまで、カインの分析能力は完璧だった。


しかし、今回は――


データがなかった。


絶対的な物量と、未知の性能。


解放戦線は、初めて戦略的な手詰まりに陥った。


サイラスの冷たい笑い声が、スピーカーを通じて響き渡った。


「無駄だ」


その声は、勝ち誇っていた。


「アルゴスは完璧なシステムだ」


「君たちのような感情的な烏合の衆が、この論理と計算の結晶に勝てるはずがない」


その、嘲笑に満ちた声を聞きながら――


アシェルは、静かに目を閉じていた。


## システムの「ツボ」――完璧な中の歪み


彼女の意識は、目前の脅威ではなく、この空間全体を流れる、巨大なエネルギーの流れへと、深く、深く、潜行していった。


アシェルは、感じていた。


エーテルの流れを。


マナの流れを。


すべてのエネルギーの流れを。


(……違う)


アシェルは、心の中で呟いた。


(完璧じゃない……)


彼女の覚醒したエーテル感知能力は、肉眼では見えないものを捉えていた。


百体のゴーレムを動かしているのは、個々のマナ炉ではなかった。


この大回廊全体に、まるで神経網のように張り巡らされた、巨大なマナ供給ラインから、エネルギーが供給されているのだ。


そして、その巨大なネットワークは、確かに完璧に見えた。


しかし――


どんなに完璧なシステムにも、必ず、ほんの僅かな「歪み」が存在する。


アシェルには、それが見えた。


(……流れが……)


アシェルは、意識を集中させた。


(ここだけ、僅かに滞っている……)


アシェルは、無数のエネルギーラインが複雑に交差する、天井の一点に、意識を集中させた。


そこは――


直径わずか数センチほどの、補助的なエネルギー結節点。


あまりにも小さく、あまりにも重要には見えない場所。


だが、アシェルの目には、そこが、この巨大なシステムの、たった一つのアキレス腱――**システムの「ツボ」**であることが、はっきりと見えていた。


全てのエネルギーが、その一点を経由し、再分配されている。


そこを破壊すれば――


システム全体が、一時的にではあれ、麻痺するはずだ。


「……ケンシンさん、タケルさん」


アシェルの、静かだが確信に満ちた思念が、二人の武人の脳内に直接響いた。


「聞こえる?」


「……おう」


タケルが、答えた。


「……なんじゃ」


ケンシンも、答えた。


「天井……」


アシェルは、説明した。


「あそこに見える、三番目の照明器具の、指二本分、右」


アシェルは、まるで目の前に絵を描くように、鮮明なイメージを二人に送った。


二人の脳内に――


映像が浮かび上がった。


天井の、その場所が。


「そこに、このシステムの、一番弱い場所がある」


その指示は、あまりにも具体的だった。


そして、あまりにも突飛だった。


しかし――


二人は、もうアシェルの力を疑わなかった。


「……よっしゃ」


タケルが、笑った。


「そういうことなら、話は早か」


ケンシンとタケルは、顔を見合わせた。


そして、同時に、不敵な笑みを浮かべた。


「タケル、おはんは飛べるか?」


ケンシンが、尋ねた。


「当たり前じゃ!」


タケルが、答えた。


「SATUMAを舐めるな!」


## 飛猿の術――非論理的な突破


次の瞬間――


ケンシンは、通路の壁を強く蹴った。


タケルは、床を強く蹴った。


同時に。


二人の身体は、互いを踏み台にするようにして、複雑な立体起動を描きながら、宙へと舞い上がった。


それは、SATUMAに伝わる、常識外れの体術「飛猿の術」だった。


壁を蹴り、天井を蹴り、互いの身体を蹴り。


まるで、空を飛んでいるかのように。


「させん!」


司令デッキから、サイラスがゴーレム部隊に迎撃を命じた。


数十発のマナ・キャノンが、空中の二人を捉えようと、閃光を放った。


しかし――


その全ての攻撃は、空中で静止したアシェルが展開した、薄い、しかし強靭なエーテルの障壁によって、霧散させられた。


キィィィン!


魔法が、弾かれた。


「……なっ!?」


サイラスは、驚愕した。


その、ほんの一瞬の隙。


それで、十分だった。


「今じゃ、タケル!」


空中で体勢を整えたケンシンが、タケルの背中を、渾身の力で蹴り飛ばした。


ドンッ!


激しい音が響いた。


タケルは、その勢いを利用して、まるで砲弾のように、天井の一点――アシェルが示した、あの**システムの「ツボ」**へと、一直線に突き進んだ。


その速度は――


凄まじかった。


まるで、矢のように。


「これこそが、わいらの……」


タケルは、木刀の先端に、自らの「気」、ケンシンから受けた推進力、そして、アシェルから流れ込む支援のエーテル、その全てを凝縮させた。


木刀が、輝き始めた。


黄金色の光で。


「魂じゃあああっ!!」


「チェストォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」


轟音。


そして、閃光。


タケルの木刀が、直径わずか数センチのエネルギー結節点を、寸分の狂いもなく捉えた。


その瞬間――


ビシィィィィッ!


亀裂が走った。


大回廊全体が、激しい振動と共に悲鳴を上げた。


天井から、火花が散った。


壁のマナ供給ラインが、連鎖反応を起こすように、次々と光を失っていった。


パチッ、パチッ、パチッ。


電気が、ショートしていった。


そして――


あれほど威圧的だった百体の警備ゴーレムたちが、まるで糸の切れた操り人形のように、一斉に、その動きを停止した。


赤いカメラアイの光が、一つ、また一つと消えていった。


沈黙。


完全な、沈黙。


百体のゴーレムが――


すべて、停止した。


## 合理の敗北――崩れ落ちる計算


最小限の力で、大部隊を無力化する。


アシェルの分析能力とSATUMAの物理的突破力が融合した、解放戦線独自の戦術が確立された瞬間だった。


学園の機械的なシステムに対し、彼らの有機的な戦術が、見事に優位に立ったのである。


「……馬鹿な……」


司令デッキで、サイラスが呟いた。


信じられないといった表情で、沈黙したゴーレムたちを見下ろしていた。


「あり得ない……」


サイラスの声は、震えていた。


「完璧なはずの、私のシステムが……」


「こんな、非論理的な、気合だけの攻撃で……」


彼の、計算と論理だけで構築された世界が、今、目の前で、崩れ落ちていった。


すべてが――


無駄だった。


「サイラス」


静寂を取り戻した大回廊に、アシェルの声が響いた。


「……あなたの負けよ」


アシェルは、仲間たちと共に、沈黙した鉄の軍勢の間を、ゆっくりと、そして確かな足取りで、司令デッキへと向かっていった。


サイラスは――


ただ、呆然と立っていた。


自分の敗北を、信じられなかった。


完璧なはずのシステムが――


敗れた。


論理が、敗れた。


計算が、敗れた。


そして――


魂が、勝った。


物語は、ついにシステムの設計者との、直接対決へと移行していく。


そして、その先に――


学園長との、最終決戦が待っている。


運命は、動き続けていた。


革命は、完成へと向かっていた。


夜明けは、もうすぐだった。

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